カラオケボックスにて
遅くなりましたが、今週の更新です。
夏葉にカラオケボックスへと半ば強引に連れ込まれた優太。席に着くとボーッと夏葉の様子を眺める。
「あー。あー。あー。」
夏葉はカラオケの操作パネルに取り付き、メイン音量やマイク音量にエコー等の設定を自分好みにカスタマイズしていく。
カスタマイズが完了すると、ドリンクバーのグラスを2つ手にして優太の隣にそっと座る。
「先輩はドリンク何にします?」
「うおっ!」
突然、視界いっぱいに広がる愛らしく整った顔。僅か数センチ先から覗き込む彼女に気付き、優太は驚き、そしてのけ反った。
そんな彼の様子に夏葉はジト目を向け、
「先輩。その反応は可愛い後輩。それも女の子にするものじゃないですよ。
そのリアクションはまるで、化け物を見た時の反応。流石にショックだよ」
頬をぷくーっと膨らませて詰め寄る夏葉。ピンク色に染まる彼女の頬を何故かつつきたくなるつつきたくなる衝動をグッとこらえる優太。
夏葉は更にその距離を……
「って。近い近い夏葉ちゃん!」
慌てふためき距離を取る優太。そんな彼の様子にニヤリと笑い、離れた分プラスα距離を詰める。部屋の中央付近に陣取っていたとは言え、この流れを繰り返していけば……
当然、壁際に追い込まれる。
この半年間。人との交流自体を最低限に抑えていた優太にとっておこちゃま体型ではあるが容姿の整った夏葉の一連の行動は落ち込んでいた彼の心をざわつかせるには十分なパワーを持っていた。
「だから近いって。
……そもそも夏葉ちゃんってこんな性格だったっけ?」
「そうですよ。先輩達が恋人同士の時は……お二人を応援してましたけど」
夏葉はその先の言葉を少しためらった後。
「わっわた……しだって、年頃の女の子。好きな人との……チャンスがあるのならアプローチくらいしますわっ!」
頬をピンク色から真っ赤に染めて夏葉は宣言する。その台詞にのけ反ったままの格好で完全に硬直する優太。
真っ赤な顔で優太を見つめる夏葉。突然の告白に脳のキャパが限界を超えてしまい呆然と夏葉を見つめ返す優太。それぞれ理由は異なるが、見つめ合う二人。
そのまま十数秒の時が流れて。
「……ぷっ。
どうでした。緊張しました?」
そう言って夏葉は笑う。
「夏葉ちゃん!」
一連の夏葉の不可解な言動や仕草の全てが自分をからかう為のモノだったと理解した優太が抗議の声を上げる。
そんな優太の表情を見つめて、もう一度だけ微笑むと夏葉はどこか嬉しそうに言った。
「でも。元気出たでしょ。私。先輩の辛そうな顔なんて見たく無いから……」
夏葉は立ち上がり、個室の出口を向く。
「私。ドリンク用意してきますね。先輩は何がいいですか?」
「ん? オレンジジュース」
反射的に答える。
「オレンジジュースですね。了解です隊長!」
「やっぱ。俺も一緒にいくよ」
「ダメ。ここは私に任せて……先輩は私と何を歌うか考えておいて下さい!」
カラオケに来てから、らしくないというか、キャラが崩壊している感じがする夏葉が心配になり、一緒に付いて行こうとする優太。
夏葉は慌てた様子で彼を制止すると答えも聞かずに個室から飛び出して行ってしまった。
個室から飛び出し、そこで優太が追いかけて来ないことを確認すると夏葉は一息つく。緊張で足がふらつく。
「やばぁ。絶対私の顔真っ赤だよ。」
個室から持ち出したグラス2つをドリンクコーナーの台に置いて、両手で顔を隠すと一人悶える。
「言っちゃった。伝えちゃたよ。私の気持ち」
最終的には恥ずかしすぎて誤魔化してしまったが……確かにあの場所で伝えた。
あの時からずっと隠していた好意を……
「でも」
不意に夏葉の表情が曇る。
「どんなに私が先輩の事が好きでも、醜い私は先輩と……」
そっと左胸に触れながらつぶやいた。
「結ばれることは……無い」
【カラオケボックスにて】いかがだったでしょうか?
今週は設定をつくり直して、執筆済みの話を前後させたりと調整に時間がかかりすぎました。
今週は平日(水曜か木曜のどちらか)と土日のどちらかで1話づつ更新の予定で頑張ります。
なれないジャンルなのでご感想やアドバイス等を頂けたら嬉しいです。
追伸
ホラー小説の連載開始:【録音。未来から聞こえる終わりの声】
夏のホラー2022エントリー目指して執筆中です。まだプロローグのみですがこちらもよろしければ。