本契約を結ぶ
「ここよね?」
「メールの住所を見る限りは間違い無いだろう……」
優太と夏葉の両名はオファーの話を聞くために指定されていた住所へとやって来たのだ。
戸惑う2人の目の前には、会員制の高級なカフェレストラン。
「ここ。会員制って書いてあるよね?」
入り口に設置された看板を見て夏葉はつぶやいた。
「どうしようか? 入ってしまっていいのかな?」
「…………」
会員制。それも高級店ということで優太も何と答えていいものかわからず、尻込んでいると、
「どうかしましたか?」
店から制服を着た女性が姿を現し、2人に声をかけたのだった。
店員の女性は話を聞き終えるや心当りがあったのだろう頷くと営業スマイルを浮かべ、
「彩香社長より伺っております。どうぞこちらへ」
2人を中へと誘う。
店内へ足を踏み入れ、ドラマのセットの様にオシャレだが管理が大変そうな調度品を物珍し気に見回しながら彼女の後を追う。
やがて、最奥の個室の前で足を止めると彼女はドアノッカーを、叩き、1秒程の間を空けてから言う。
「彩香社長。ご到着されました」
「お通しして」
「こうして会うのは初めてだね。私は姫河彩香。ひめかわコーポレーションの代表よ。そして、彼女は私の秘書」
彩香の言葉にペコリと一礼する秘書の女性。
「私はYouTubeでKOYOーって名前で活動していましゅ……ます。夏葉です」
「俺……私は鈴音優太」
自己紹介を行い彩香と握手をかわす。
彩香は2人を見つめて微笑むと。
「普段通りの話し方で構わないよ」
「さて。立ち話もアレだから先ずは座ろうか……」
彩香は優太と夏葉が席に着くと。
「実は昼を食べそこねていてね。悪いが食べながら進めさせてもらっていいかしら?
もちろん2人も好きなものを頼んで構わないわよ」
メニュー表を2人に差し出し彩香は申し訳なさそうに言った。
「ここうちの系列店だから本当に遠慮しないでいいからね」
メニュー表を受け取る二人にウインク一つ。
『はい』
優太と夏葉は互いに顔を見合わせて頷きあいメニューを眺める。
時計は16時をまわっていた。お昼というよりも夕飯に近い時間であった。いくら空腹でも1人だけでは食べ難いだろうから適当に何かをたのむことにしたのだ。
「社長って大変なんですね」
「ん。ああ。普段はそうでもないのだけど……今はちょっとごたごたしているのよ。まあ、そのごたごたのおかげでこうして貴女達にあえたのだけどね」
言って彩香は疲れた顔で天井を見上げるのだった。
料理に舌鼓を打ちながら和やかな雰囲気で所属する為の条件をお互いに話し合いは進んでいった。
「では。この内容で契約書を自宅に発送するので着きましたら必要事項の記入とご両親のサインをお願いします。
あさひ。契約書の準備と発送よろしくね」
彩香は隣でメモをとる秘書のあさひさんに言った。
「お任せ下さい。社長」
「今日はありがとう」
彩香は2人に笑いかけ、
「最後に何か質問はあるかな?」
「1つだけ」
優太は手を上げる。
「何かな?」
「いただいたメールと先程の書類には企業名がグローリアスとなってたが、彩香さんはグローリアスではなくひめかわコーポレーションの社長ですよね?
この場にグローリアスの関係者は居ないようですが……契約進めて大丈夫なのですか?」
「えっ。ああ。言って無かったわね。グローリアスはひめかわコーポレーションの子会社で社長は私が兼任しているのよ。だから大丈夫よ」
翌日。ひめかわコーポレーションから契約書が二人の自宅に届いた。
優太の両親はその内容に驚愕。約3時間の緊急家族会議を経て両親に契約書に同意のサインをもらい。書類の返送にまでこぎつけたのだった。
夏葉は、揉めに揉めた優太とは異なり根回しが完了していた為、内容を確認してサインとなった。
こうして2人は芸能事務所に所属すると同時に仕事用のスマホ等のツールが支給されたのだった。
【本契約を結ぶ】を最後までお読みいただきありがとうございます。
次の話で夏葉がピンチになる予定です。
そのピンチを脱する為にこの話は必要でした。
尚、次の話は本格的にアウトな事が起こります。
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追記
前話の後書きで宣伝しました【幼馴染みの結婚】をお読みいただきありがとうございました。




