別れることにした前提条件が……【すず視点】
2話にわけるか迷いましたが、ストーリー的に1話にしました。
この話で色々と物語が動きはじめます。
土曜日。駅前の広場。
今日はれんとのデート。広場で彼の到着を待つ私。
広場にはどこがいいのか一般人には理解できない前衛アートの像が一つ鎮座していた。
私はれんが到着する迄の間、時間潰しも兼ねてアートを360°ぐるりと周り鑑賞する。
「……ピンクと白のゼブラ柄の格好つけたとうもろこしにしか見えない……格好つけたって何よ!」
理解できない芸術作品を鑑賞して口をついて出た意味不明な言葉に思わず私はノリツッコミをしていた。
この訳のわからない作品を制作した作者。なんと現代アートの巨匠と呼ばれ、どんな作品でもオリジナルならは一つ数十万はするという。本人が失敗作と言う作品でさえ。
ちなみにこのカラフルとうもろこしは、信じられないことに一千万の価値があるといわれている……
「そんなに価値があるとは思えないわ……」
「よおっ!」
前衛アートの価値に首を傾げているとれんが広場に到着した。
彼は黒を中心にまとめたカジュアルな出で立ち。胸元にはシルバーのアクセサリーが3つ。歩を進める度に胸元のアクセサリー同士がすれてシャリシャリと音をたてている。
今日も見惚れる程に似合っているわね。
私はれんの元へと走り寄り、彼の手を取り、しがみつく様に体をあずける。
「今日のデートすごく楽しみだわ」
言って私はれんを見つめて微笑む。
私達はイチャイチャしながら歩きだした。
すると歩きはじめて直ぐに私達の背後から、
「どういうことなのかしら……れんさん?」
怒気を孕んだ声をかけられた。
私達は慌てて振り返り声の主を確認する。
「なっ……何故、ここに彩香が?」
そこにはスーツを着こなす一人の女の姿。彼女には見覚えがあった。先週のライブの際にれんの隣にいた人物であった。
青くなるれんに対して彩香は目が笑っていない微笑みを浮かべて。
「私は貴方が夢だと言って私に頼み込んだバンドの営業活動よ。
やるからには必ず成功させる。
我が社のリソースの大部分をさいて営業活動……根回しをしていたのに、貴方はここで何をしていたのかしら?」
コテンと首を傾げて問う彩香の声はゾッとするほど冷たかった。
れんと彩香の二人を見つめ、『蛇に睨まれた蛙』そんな言葉が頭に浮かぶ。
目の前に突然現れた彩香に、れんはガクガクと何かにおびえた様に震え、その目は落ち着きなくキョロキョロと辺りをさ迷い動く。
普段の自信に満ちた彼からは想像出来ない姿に違和感を感じる。
「れん?」
私は思わず彼の顔を覗き込んでいた。目が泳いでいたれんと目が合う。いや、合ってしまった。
「違うんだ彩香!!」
「きゃあっ!」
れんは叫ぶと私の腕を乱暴に振りほどいた。
私はバランスを崩し、その場にしりもちをつく。
「痛い……」
れんは余裕が無いのか私に声はおろか視線さえ向けてくれなかった。倒れているのに……だ。
彩香は座り込む私に憐れみの視線を向けるとれんに語りかけた。
「違うって、何が違うのかしら?」
首を傾げて、再び話を再開する。
「彼女さんを突き飛ばしてまでして」
「えっと……」
れんは言葉を詰まらせること数秒。私を指差して言い放つ。
「そうだっ!
彼女は俺のストーカーで付きまとわられて困っていたんだ!」
「何を……言っているのれん?」
れんのセリフに私は唖然とする。
「…………」
彩香は十数秒程れんを見つめた後、その表情を険しいものに変える。
「ふざけるなっ!」
広場に響く彩香の怒声。
「ライブハウスのオーナーから話を聞いた時はまさかと思ったけれど……調べる必要も無かったわね。
何故、こんな人を好きになっていたのかしら……」
「そ。そんな。もう一度。もう一度だけ俺にチャンスを……」
情けない表情を浮かべて彩香にれんはしがみつく。
彩香はれんに冷めた視線を送り、
「触らないでくれるかしら?」
冷たい言葉を返したのだった。
「なんなのよ。貴女は。
私の彼をイジメて……これは事務所側のパワハラよ!」
事態の展開について行けずに蚊帳の外だった私はこれまでの話の流れから、メジャーデビュー直前に事務所が禁止していた彼女をつくった事を怒っていると認識して横暴な事務所代表の彩香に文句を言った。
すると彩香は私に顔を向け、何が面白いのか笑みを浮かべる。
「フフフ。事務所側のパワハラですって……フフフフフ」
「何よっ!」
爆笑する彩香に私は思わずうしろに一歩さがる。
「色々と勘違いしているわよ。泥棒猫ちゃん」
彩香は私に語りはじめた。彼女とれん二人の関係を……
「そんな……うそよ……」
「彼から何を言われていたかは知らないけれどそれが事実よ」
彩香の語った事実。それが本当ならば、私がれんと付き合う事にした決め手が全て幻だった事になってしまう!
まさか、彩香とれんの二人の関係が婚約者同士だったなんて……
そして、彼女が言った『もう何もかも終わり』とは、婚約者解消と【HIT DOG】のメジャーデビュー白紙についてだった。
【HIT DOG】のメジャーデビューはれんが婚約者の彩香に頼み込んだ事がきっかけとなった。
彼に惚れ込んでいた彩香にはマーケティング調査等を綿密に行い、辛うじて採算がとれると判断。事業としては旨味がほとんど無いが、婚約者であるれんの箔をつけるために……というのが彩香から聞いた経緯であった。
【HIT DOG】のメジャーデビューは無くなったのだ。
そして。
つまり。
私は。
れんの恋人ではなく。
れんの浮気相手であった。
ユウ君と別れる事にした前提条件が全て崩れさってしまった瞬間であった。
〖別れることにした前提条件が……【すず視点】〗を最後までお読みいただきありがとうございます。
書き上げてから気付きました。
浮気……初期タイトル回収している!
れんがリハーサルにすずを連れてきた時にバンドメンバーが、驚いていたり本番に来ないで……と言っていた理由。女社長とれんの関係を知っていたからで。
腫れ物に触れるようにすずを扱うバンドメンバーをイメージして執筆しましたが、うまく表現できなかったです。
ネタバレになるのでこのタイミングで書きました。
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