ご褒美をねだる
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『じゃみる』の答えは後書きで発表します。
「あっつ」
9月も下旬とも思えぬこの暑さに思わず優太の口をつく言葉。
学校を出てすぐに土からアスファルトに変わり、陽の照り返しによる熱が肌を焼く。今年は残暑が長いらしい。
「大丈夫か?」
優太は隣を歩く夏葉に声をかける。
この暑さにこたえているのだろう。学校を出てから彼女の口数が減っている。
見るからに辛そうであった。
「だいじょうぶ……でも、ちょっと暑いですか……ね?」
ハンカチで汗を拭うと優太に笑いかける。
「辛いなら荷物持とうか?」
夏葉の様子に優太は右手を差し出して言った。
優太の差し出した右手をじっと見つめ、
「いいの?」
「ああ」
頷いてみせる優太。
夏葉は自身のカバンを数秒見つめてからすまなさそうにカバンを優太に手渡した。
「お願いします」
「今日は特にだけど夏場に冬服はキツイだろ?」
隣を歩く夏葉に尋ねる。
自身を見下ろすと夏葉は苦笑いを浮かべて。
「もう。だいぶなれましたね。
それに、最近は服に熱がこもらない素材も出てきて居ますし……
昔と比べたら全然ですよ」
「その格好は……6歳の頃からなんだっけ?」
夏葉の冬服を見つめて優太は言った。
「服のこと?」
「そう。服装のこと」
聞き返す夏葉に頷く優太。
「……はい。その頃から私。
肌に問題があって、素肌を露出したくない……出来ないの」
「ごめん」
辛そうに話す夏葉の様子に失言だったと優太は慌てて謝る。
「え?」
突然、謝る優太に今度は夏葉が慌てて口を開いた。
「急にどうしたのですか……先輩?」
「いや。どうも夏葉ちゃんにとって嫌な事を聞いてしまったみたいだったから……」
申し訳なさそうに答える優太に夏葉は昔を懐かしむ様に穏やかな表情を浮かべると。
「ふふ。その頃の私にとって、実は嫌なことだけじゃないのですよ。
私にとって大切な出会いも沢山ありましたわ。静との出会いもこの頃ですし……それに……」
そこで言葉を区切ると、夏葉はじーっと熱のこもった視線を優太に向けたのだった。
「涼しい」
「生きかえるわ」
2人が図書館に足を踏み入れた際の第一声である。
ほっと一息ついてから30秒。夏葉はインナーを着替える為に優太からカバンを受け取り、化粧室へと駆け込む。
涼しいと思ったのは最初だけで、汗で濡れたインナーが想像以上に体温を奪うのだ。
「お待たせしました」
着替え終えて、夏葉はパタパタと走り寄る。香水か何かを付けているのだろう爽やかな甘い匂いが鼻をつく。
優太は周囲を見渡し、空いたテーブルにカバンを置き、椅子に座る。
「じゃ、じゃあはじめようか……」
「はいっ!」
肩と肩が触れ合うような位置を陣取り、夏葉は元気に返事をしたのだった。
密着するような夏葉のスキンシップに、ドキドキしながら優太は勉強を教えていく。
夏葉の現状は本人が絶望するだけはある。そんな散々なレベルであった。
それから数日が経過したある日のこと。
「先輩。テストでいい成績を残せましたら何かご褒美ください!」
夏葉はご褒美をねだってきたのであった。
【ご褒美をねだる】を最後までお読みいただきありがとうございます。
次の話は別視点を入れる予定です。
さて。
『じゃみる』についてですが、答えは『にじむ』の方言でした。
習字で墨汁を筆につけ過ぎて書いてしまった時等によく使ってました。
短編の恋愛小説:『俺がパン咥えて走っていると幼馴染みが……って、逆だよそれはっ!』についてもよろしくお願いします。
引き続き、評価/いいね/ブックマーク等面白かったと思われた方はよろしくお願いいたします。