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ep7.DIEジェスト

目標:軍神を認めさせろ

 ムチャクチャだった、いや本当に。

 そんな予感はしていたが、当然その一回で俺の地獄が終わることはなかった。

 次から次へと突き付けられる暴力は理不尽の塊というべきもので、これがゲームだったら俺はとっととリサイクルショップに売りに行っていたことだろう。ゲーマー的に言うとゲオっていただろう。行ったことないけど。


 ともかくそれくらい獅子の課す試練というのは熾烈を極め、常軌を逸していた。かいつまんで、ダイジェストで俺が死んだ様子を教えよう。


「先程までの威勢はどうした、息が上がっているぞ!」

「うる……っせぇ!!」


 まずは俺と同じように剣を使って戦い、ちょっと剣を振るえるようになってきた程度の俺を正面から切り傷だらけにして。


「重量武器を正面から受け止めるな!! 武器ごと潰されて死にたいか!」

「マジで……殺す、こいつ……」


 かと思えば戦斧を構えて襲いかかり、まるで飴細工のように俺の腕をぐしゃぐしゃにひしゃげさせて。


「そんなんズルだろ、おい!」

「さあ、鎧を着た我に対してどう戦う! 貴様の武を示してみせよ!!」


 次に蘇ったときはそれこそゲームみたいな甲冑を着込んでいて、とてもじゃないが刃が通らず苦戦した。


「相手が無手であろうと油断大敵だ!! 貴様ごときを殺す武器なぞ釘一本あれば事足りるのだぞ!!」

「いっでぇええええ!! て、てめぇ、卑怯だぞっ……!」

「卑怯? ハッ! 覚えておけ、生き残った者こそが勇敢なのだ!」


 かと思えば次は軽装のまま隠し持った凶器で殺しにかかってきて、多種多様な暗器をこの身で思い知った。


 他にも素手のみで俺を圧倒して来たり、吸い込むと意識がもうろうとする毒煙をまき散らしてくるなど、よくもそんなに思いつくものだと感心するくらい戦闘のバリエーションが格段に増した。


 そして、それぞれのシチュエーションごとに獅子が満足するまで俺は死に続け、戦い続けた。

 その基準は不明で、剣が掠めただけで次に行ったかと思えば、お互いに決定打に欠けるまま何合も打ち合っていたら突如として次を持ち出されたりと、白獅子の気まぐれで試練とやらが決まっているとしか思えなかった。


 それどころか、挑む回数を重ねるごとにその武器や戦法の特徴が見えてきて、攻略法を探る俺がもう少しで満足いく一太刀を浴びせられる、というところで獅子はがらりと戦闘法を変えてくるのでますます俺はフラストレーションを溜め込んでいった。

 もしかしてこれは異世界で俺が十分に戦えるようにという戦闘訓練なのではと思い至ったが、実際に殺される訓練なんてクソ以外の何物でもなかったし、それはそれは楽しそうに俺を殺害し続ける軍神様に対するヘイトが積もりに積もって爆発寸前だったので訓練でもなんでもいいからぶっ殺してやりたいと思う気持ちでいっぱいだった。


 死んだ回数は未だに刻んではいるものの、厳密な回数に関しては一万を超えてからもう数えてない。

 どうにかしてあのライオン野郎に一泡吹かせたいという思いが蘇った俺を突き動かして、筋トレして気持ちを落ち着ける暇もなく戦いに行くからそのうち何回目かも忘れてしまった。

 こうして死に戻り続けていると、まさしくデータをロードしてボス戦をやり直しさせられている気持ちになる。


 そうだ、ゲームと同じだ。

 俺の頭はいつしか、入院していたころに遊んでいた理不尽なくらい敵が強く、安定行動なんてない高難易度のアクションゲームを思い出していた。

 それから、来る日も来る日も続く血生臭い現実に耐えかねた俺の頭は、本格的にこれをゲームか何かのように考えて現実逃避を図り出す。


 相手をロックオンして目を離さないこと。しかし正面からは向き合わず、絶えず側面を取るように動き続けること。

 相手の攻撃をどの程度距離があれば安定して避けられるかを測ること。

 相手が何を狙い、どう武器を振るおうとしているか正確に見極めること。

 怪しいモーションは見逃さず、指先に至るまで対面する相手をよく観察すること。

 回避行動は最小限に、余計なスタミナを消耗せず攻撃のための踏み込みと乖離させすぎないこと。


 そして時に、相手を怯ませて先手を潰す勢いで飛び込む勇気を持つこと。

 攻撃を行う時は、容易く反撃に転じられる一手は打たないこと。

 体格で勝る相手が十分にその膂力を振るえない懐、インファイトこそが一番安全であると信じること。


 絶対に一発ぶち込んでやると頭に血が上っているはずなのに、いざライオン頭を前にすると相手はどのように動くか、どのように攻略するかを冷静に思考する自分がいることに驚いた。

 武術も剣術も全く経験がないし、完全に独学だがそれでもまあ一万回以上も殺されてりゃこれくらい学ぶだろうなと思った。


 とはいえ、健康な一般人ならこの試練とやらに挑んでも死ぬ回数は俺より少なかっただろうというのは疑いようもない。

 我ながらあの病弱な体から、よくもまあここまで動けるようになったものだと自分でも感動するくらいだからだ。もともとちょっと運動していた人間なら、早々にこのくらいは動けるようになっていただろう。


 重たい剣を持ったまま走ったり跳んだりしても簡単には息切れしなくなった体で戦う俺は、最近では剣だけに頼らず拳や蹴りも使うようになった。

 それほどまでにこのライオン野郎に一発ぶち込んであの余裕顔を何とかして崩してやりたいという思いは大きく、もはや定番となった蘇り地点の石柱から踵を返して獅子のいるだろう場所に向かう。


 いつもならこの辺りに見えるはずだが……と思ったところで、地響きのような音に慌てる。


 地震か?! 死後の世界なのに!? と身構えた俺は、遠くから土煙を挙げて迫ってくる影に気がついた。

 見上げるほどでかく、ちょっとした子象くらいに大きな軍馬に跨った獅子頭の男が、俺めがけてまっすぐ駆けてきていた。


「はッ……はぁぁあああああ!?」


 どう避けるか、なんて考えを巡らせる間もなく、驚いている間に俺は電柱ほどもある軍馬の足に蹴られ跳ね飛ばされる。

 もはや慣れてきた激痛に息が止まる。

 べきべきと肋が砕け肺が潰れる音を聞きながら、そんなんありかよ、と思いながら宙を舞った。


「ふはははは!! 良いぞ、昔を思い出す! 神代の頃は我に刃を向ける愚かな人の子をこやつとともに存ッ分に鏖殺したものよ!」


 馬に乗り野を駆ける獅子の哄笑を聞きながら、薄れ行く意識の中でこいつもしかして邪神とかそっちの類じゃねえのかと思ったのだった。

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