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ep66.着地を任せて戦闘開始

目標:大百足を討伐しろ

「うッ、ぶわぁ!」

「口閉じてろ、舌噛むぞ」


 しかし、間一髪で俺達は足場から飛び降りて、空中に逃れていた。


 オルドは手早く松明を放り捨てて俺の首を絞めるように後ろから腕を回すと、そのまま崖下の下層目掛けて俺の体もろとも身を投げる。

 虎に引かれて背中から落ちる俺は、一瞬自分の体がどうして浮いているのか理解ができずにひどく困惑した。


 着地のことを考えて足を動かそうとした頃にはもうオルドが空中で姿勢を制御し終わっているところだった。

 後ろから羽交い絞めされるように落下する俺は下手にパニックになって暴れるよりはそのまま着地を任せたほうがいいと思って、虎の腕の中で大人しくしておきつつせっかくなので言っておく。


「ちゃ、着地任せた!」

「黙ってろって」


 しかし、いかに丸太のように鍛え上げた足をしているとは言えあの高さから二人分の重量を受け止めて無事なのだろうか。

 そんな俺の懸念ごと吹き飛ばして、ぼふっと柔らかいクッションに飛び込んだような音が俺にも聞こえた。

 見れば背中から着地したオルドの体は僅かに浮いていて、落下する勢いが失われると見えないベッドから降りるようにごつごつとした地面に降り立った。


 空気を固めて落下の衝撃を和らげたのだと察した俺は、腕が放れると同時に後に続きながら鞘から剣を抜き放って、オルドに言う。


「っとと……ありがと、助かった」


 まだちょっと鼓動がうるさい心臓を宥めるように深呼吸する俺を見ることもなく、虎は頭上を見上げたままフンと鼻を鳴らす。

 肩に大剣を担いだまま、わずかに背中を曲げて腰を落とすその姿からは物々しい雰囲気に溢れていて、これは遊びでもなんでもないのだと実感させられるようだった。


 ずずん、と底にいる俺達にまで響くような地響きに続いて、がしゃんと何かが倒れる音が聞こえて火をつけたばかりの灯火台が倒れたのだと理解した。

 音に引かれて見上げると、大型トレーラーを思わせる頭部が自らの体液に濡れた地面に降り立ち、下に降りた俺達を見据えるように小さく頭を揺らしていた。


 その足元でしゅうしゅうと音を立てているのは、聞いた話が正しければ大百足の消化液だろう。

 夢に出そうな黄緑色の粘液は俺達が立っていた足場の表面を粗方を溶解しきったのか焦げたような色合いになっている。

 だらだらと上から垂れてくる体液はアイスクリームを削るスプーンのように岩肌を削り取っていくが、溶かせる質量には限度があるらしく底までたどり着くころには何の音も立てない墨汁そっくりの黒水になっているのがわかった。


 放り投げた松明と散らばりながらもまだ燃えている薪はどうやら消化液の被害を免れたようで、虫らしくおぞましいシルエットを浮かび上がらせている。


 大百足はその巨大な顎と頭部が下から見えるくらい身を乗り出したまま、長大な胴体を壁にべっとりと張り付かせていた。

 すり鉢状の採掘場の底にいる俺達を見下ろすように頭を覗かせると、鋏に見えなくもない左右対称の顎角をぎちぎちと動かして頭部を揺らす。


 這いつくばるようなその身幅は横向きのベッドくらい大きいというのに、高さも俺の身長くらいあって頭だけでも相当な存在感があった。

 その全長はわからないが、そんなサイズの体がずらっと一列に連なっているかと思うと恐怖を通り越して本当にいたんだと感動すら覚えるようだった。


 錆びそのもののような赤茶色い体表や、何本もある脚が若干輝いて見えるのは光源の炎が近いせいだろうか。

 ともかく、百足らしいシルエットの巨大な魔物の登場に俺は率直な感想を口にする。


「……ほんとに、虫そのものって感じだ。結構気持ち悪いな」

「同感だな」


 虎は俺の隣で剣を構えたまま小さく同調する。

 大百足のシルエットは、見た目こそ連ねた岩塊に脚を無数に生やしたものに見えるが天井や壁にべっとりと張り付いていたり、節足がわさわさと小刻みに動く様子などは生理的な嫌悪を催すようで、ぞわぞわと総毛立つ寒気が止まらなかった。


 しかし、いっそ嫌悪感をかき立てる見た目のために容赦せず斬り殺してやろうと剣を握ることに躊躇いはなかった。

 そればかりか隣で本気の臨戦態勢を取る虎の姿に、そして回避しなければ間違いなく即死していた大百足の先手に俺の心も熱を持ち騒ぎ出す。


 たかだか数年殺され続けただけの自分がこんな大きな魔物を相手取れるなんて思いあがったことを考えるわけではない。

 ただ、それでもむざむざ餌になってやるつもりもない。


 死んでたまるか。

 俺がそう思うのと、壁に張り付いている長い体の尻尾に相当する後ろ側がゆらりと動くのは同時だった。


「下手打ってくたばンじゃねェぞ、お前を担いで帰るなんてごめんだからな」

「わかってるさ。そっちこそやられるなよ、オルドの重量を担ぐのは無理だからな!」


 軽口を返された虎が、愉快そうににやりと笑いながら大剣の柄を力強く握りしめた。

 鉱山中を揺らすような轟音を立てて、大百足が崖の上から駆け下りてくる。


 広間に積まれている鉱石の山をなぎ倒し、明らかな敵意で俺達めがけて突進してくるので、俺とオルドは事前に示し合わせたようにそれぞれ左右反対方向に跳んで避けたのだった。


本日はここまでとなります、次回更新は12/15です。


ボス戦開始という感じです、活動報告の方で没ネタとかも書いてますのでそちらもよかったらどうぞ!そして来週もお楽しみに!

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