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ep57.クエストリタイア

目標更新:目的の鉱石を確保しろ→目的の鉱石を確保しろ?

 オルドの話によれば、今回のように一度の調査や依頼で冒険者が複数亡くなったりして危険度が高いと判断された魔物が現れた際に、それ以上の死者を出さないためギルドが依頼に制限をかけることは珍しくないことらしい。

 その話自体は俺にも馴染みがあって、納得のいくものだった。力量に見合わぬ依頼を請け負うことができないようにクエストに受注制限がかけられている、というのはゲームでもよくある話だからだ。

 ただしそれはゲーム上のシステム的なものでゲーム開発者のそういう都合程度にしか考えていなかったので、実際に誰かの合理的な判断に基づくものなんだなと俺はちょっとだけ考えを改めた。


 しかし、合理的とはいえ逆に言えばそれは問題の先送りでしかない。

 そもそも正式に資格を得ている下位冒険者というのは十人に一人という程度なのに、中位冒険者はさらにその中の五百人に一人、という割合でしか存在しないからだ。


 まして治安もよく、定期的に王国軍が巡回して魔物を征伐している王国直轄領となれば、人口が多いとはいえ数百人程度のこの町にそうそう都合よく中位冒険者が現れるはずもなかった。

 今、この瞬間までは。


「そのような事情だったのですね、私はてっきりオルド様が遣わされたものとばかり……ですが、そうなると魔術顧問様は……」


 鉱石が確認されたのは一か月ほど前で、魔力に反応しそうだと報告したのも同時期。

 更に魔物が現れたのは二週間ほど前で、依頼に制限がかかるのと同じタイミングでもう一度連絡をしたという。

 それから数日間魔物が巣食っている鉱山に誰も立ち入れていない、というイレイネの言が確かならほんの五日ほど前に顔を合わせたユールラクスがその事情を知らないはずがない。


 中位冒険者であるオルドは猪の換金に行きがてら管理組合にいたイレイネにざっくりと事情を話していたらしいが、魔物のことは聞かされず王国魔術顧問の個人的な頼みで錫食い鉱とやらを引き取りに来た、と今一度説明するのを聞いてイレイネは複雑そうな顔で頷く。

 最初こそオルドが討伐のためにやってきた中位冒険者だと思ったものの、運搬する仕事としか聞いていない様子からどこかからか噂を聞きつけてきたものと思っていたようだった。


 実際はその張本人から俺達が魔物の事情を抜きに遣わされたのだと知ると、女性の青い瞳に同情的な色が浮かぶ。

 オルドはそれを受けて、据わった目つきで唸るように低く吐き捨てる。


「……あのジジィ、間違いなく俺らをハメやがったな」


 エルフってやっぱり老人扱いされるんだ、と空気を読まずにちょっとだけ感動したのは内緒にしておく。


 魔物を退治しない限り目当てのものが手に入らないと聞いたオルドは、これ以上は酒がないとまともに聞けないと思ったのか店内を回る男に頼んで水のような酒を持ってこさせていた。

 なにそれ、と興味を示した俺が一口もらうと口の中を滑る冷たい液体は火が出そうなほどに熱く口と喉を焼くので、飲み込んだ後も思わず噎せてしまった。

 苦しむ俺の様子を見て溜飲が下がったのか、オルドは気を取り直したようにイレイネに向き直る。このネコ野郎。


「……悪いが、そういう話ならパスだ。こんな仕事に命まで賭ける気はねェんでな、この話はなかったことにしてくれ」

「そうでしたか……」


 イレイネの呟きは力がなく、店内の喧騒に飲まれて消えていった。拘泥するでもない様子で、グラスの中のエールを一口呷ってから肩を落とす。


「スーヤ、お前もそれでいいな? こんなのは契約にねェ話だからな、こんなもん無効だ。王国に戻ってヤツに言って仕事を破棄、それで俺達も解散だ」


 オルドが言って、まあ確かに鉱石の運搬としか聞いてないしな、と頷こうとして……何かが引っ掛かった。


 この虎があっさりと別れを見越しているのが意外だったわけではない。では何が、と考えてもすぐには出てこなくて記憶を辿る。

 テーブルに視線を落として考え込むように顎に手を当てた俺に、オルドが訝しんだ様子で眉根を寄せる。「スーヤ様?」とイレイネが言うのも無視して、俺はあの村での会話を思い出していた。


『幻とまでは言ってませんが……まあ、そうですね。何があろうとも、ちゃんと僕のところまで持ってきていただく、というお仕事です』


『あればあるほどいいですが、最低でも一つは欲しいですね。もちろん持てる範囲で大丈夫です。頼めますね?』


『何があってもしっかり持ってきてくださいねぇ。頼みましたよ』


 それで、アッと声が出そうになった。

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