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ep52.鉱山の町宿と聞き慣れない名前

目標更新:鉱山の町へ向かえ→目的の鉱石を確保しろ

 町に入るときの通行料はオルドが肩代わりしてくれた。

 滞在目的や職業なんかも聞かれたりしたので、ただの町にしては税関並みの意立派な検閲をしているなと思った。


 返事に窮していたところを、中位冒険者の証を出したオルドが俺のことを見習い冒険者と紹介して、自分の仕事の手伝いをしていると説明してくれた。

 どうやらしっかりとギルドに登録のある冒険者だけでなく、それを目指す見習いというのもありふれた存在であるようだった。


 もっとも、素性の知れない者やごろつきどもがその場しのぎに名乗ったりする職業でもあるのでいいイメージはないとのことだったが、さておき。


 町に入った俺は、猪を担いで換金に向かった虎に言われた通り大通りを上って三つ目の角を曲がった先を目指す。

 そこの宿を取るように言われた俺は、鉄器を売り歩く商人やガラス細工を扱う露天商なんかに目を奪われつつ目的地を目指した。

 外から見たときはわからなかったが、こうして町の中を歩くと木造と石造の家が半々という町並みで、主要な通りは石畳で舗装されていて歩きやすい上に人通りも多い活気のある町という印象を受ける。


 しかし、荷馬車に乗る商人やつるはしを持った鉱山夫と同じくらい武器を持った男達を見かける。

 冒険者について詳しいわけではないが、そんなもんなのだろうかと思いつつ俺は通りを曲がって、T字路の突き当りの建物のうち、俺に読めない文字で看板が掛かった建物の木扉に手をかけた。


 鉄の蝶番がぎぃぃ、と音を立てる。来客を知らせる鐘が、ごろごろと石を鉢の中で回すような響きの悪い低音で鳴った。

 これが話に聞いていたやつか、と俺は身構えつつ、店内に目を向けた。


「いらっしゃい」


 入り口を抜けるとすぐに、受付らしいカウンターの奥で目つきの悪い宿屋のおやじが俺を出迎えた。

 俺はオルドの言葉を思い出しつつ、取り澄ました顔でコホンと咳払いしてから用件を告げる。


「どうも、見習い冒険者のスーヤだ。店主、連れがいるんだが……二人で泊まれますか?」


 冒険者然とした態度を取ろうとした俺の試みは、しかし敬語を併用してしまったせいで失敗した。

 じろりと俺を見た禿頭のおやじが、髭を蓄えた口元を僅かに動かす。


「食事は」

「いらないです」

「それなら一室ケーニッテ銀貨八枚。二室で十五枚だ」


 進路変更して敬語で応じることにした俺に、おやじは変わらぬ調子で応対する。あの時習った銀貨の名前だ、と人知れず勉強した問題がテストに出た学生のような気分になる俺は、カウンターに手を突いて口を開く。

 モイリの村で泊まった時は、三泊で九枚だと言っていた。一泊三枚の村の宿と比べると、幾らか割高のように感じてしまうのは仕方のないことだろうか、さておき。


 虎は確か、一泊六枚で交渉しろと言っていた。間髪入れずに値切ろうとする俺を見るおやじの目が険しくなる。


「一室を一泊、四枚でどうですか」

「八枚だ」

「六枚は……」

「……七枚」


 それ以上は下げないとでも言うように繰り返すおやじに気圧されてしまいそうになる俺は、どうやってこのあと値下げ交渉を進めればいいのかわからなくなって、早くも奥の手を使わざるを得なくなった。


「……店主、ここの鐘はどちらで?」


 それを耳にしたおやじが、おやと片眉を上げる。

 それから幾分威圧感の薄らいだ声音で答えてくれた。


「……おれが作ったものだ、それが何か?」

「そうでしたか、特徴的な音色だったので……その、自分もこういうものが欲しくなってしまうなと思ってしまうほど」


 ちらりと振り返って、ドアの上部にぶら下がる錆びた塊に目を向ける。

 磨かれた様子もなければ見た目も悪い、奏でる音色も来客を知らせる高音のベルというよりかは低音の打楽器という具合のそれを俺は咄嗟に用意した台詞で褒める。


 皮肉に思われないかという俺の懸念は、しかし宿屋のおやじの「そいつは嬉しいね」という幾らか弾んだ声色の返事で杞憂に終わった。

 予め聞いていた符丁を口にし終わった俺は、それ以上何を言えばいいかわからずまごついてしまう。


「……ええと、ところで」

「……ふぅ。一泊六枚だ、それでいいか」


 というところで、宿屋のおやじは肩を竦めると急に譲歩した様子でそう言った。

 おぉ、と俺は顔に出さないようにしつつ、「それでお願いします」と返しながらも胸中では驚いていた。


 虎の言った通り、この符丁を口にすると値切れるというのは本当だった。

 しかしどうしてだろう、半信半疑で理由までは聞いてなかった俺は不思議に思いながらも差し出された鍵を受け取る。

 それから店のおやじは、土やら草の染みやらで汚れた俺の体を青い瞳で一瞥してから色の薄い唇を動かした。


「通路の奥、一号室だ。必要なら湯を用意しておくが、要るか?」

「はい。……あー、ツレはその、大柄な獣人なので……大きめのをいただけますか?」

「あぁ、馬でも入れる盥がある。もっとも、裏手の厩の前で流してもらうことになるが」

「えぇと……はい、構いません。それで頼みます」


 一瞬躊躇したが、この時代の宿に浴室なんて概念があるとは思えない。そうなると部屋を水浸しにするわけにもいかないので、通りならともかく裏手なら妥当なとこだろう。

 それよりも、こうしてなるべく毅然とした態度で振る舞っているとまるで自分がいっぱしの冒険者のような気がしてちょっと気分がいい。ついこの間まで理不尽に殺されまくっていただけの自分とは思えないほどだった。

 上機嫌に木札のぶら下がった鍵を受け取って、通路の奥に向かおうとする俺を店主が呼び止める。


「坊主、連れがいるんだろう。名前はなんて言うんだ?」


 聞かれた俺は、宿帳か何かに記録するのかと思って特に疑いを持たずに答えた。


「あぁ、オルドと言います。虎の獣人で、俺と同じ冒険者です」


 足を止めて振り返りつつそう返すと、それを聞いたおやじはタコ坊主のように一瞬目を丸くして、それから口端を僅かに吊り上げた。

 笑った? と俺が思うよりも前に、店主が口を開く。


「そうか……あのオルドリウスに連れができたか。わかった、呼び止めてすまんな」


 まるで既知の仲であるかのような物言いをして、カウンターの宿帳をぱたんと閉じると店主は奥へと引っ込んでいった。俺がどういうことなのかを聞く暇もなかった。


 聞き間違いでなければ、宿屋のおやじはオルドリウスと言っていた。

 オルドとオルドリウス。人違いにしては、似通っている名前だ。

 それに種族の特徴なんかも伝えたから、誰かと勘違いしている、なんてこともなさそうだった。

 どういうことだ、オルドはここに泊まった時偽名でも使ったのか? それにあの符丁は一体なんなのか。


 疑問は尽きなかったが、ひとまずはベッドが二つ並ぶ部屋に入って荷物を下ろしつつ、虎の帰りを待つのだった。

本日はここまでとなります、次回更新は12/4の土曜です。

鉱山編開始、無事おつかいを果たすことができるのか乞うご期待……。


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