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ep38.歓談と晩餐

目標:旅支度を整えろ

 魔法という超能力じみた力がある世界なのだ、それが良いことばかりに使われないだろうというのは簡単に想像がつくはずだ。

 それでも、俺が見てきたフィクションでは悪用するような話はなく、どれも夢のある話ばかりだったのであれらは性善説でできていたんだなと漠然と理解する。

 悪いことを考える輩はどこにでもいるんだな、と暗くなった気持ちを吹き飛ばそうと思って、さらに聞いてみた。


「そ、そうだ。じゃあ転移魔法はどうなんだ? ユールラクスさんの巻物とか、結構定番の魔法なのか?」

「あれか……一応、エーテル魔法の分野って言われてるな」

「一応?」


 曰く、転移魔法は誰かが発明したものでなく、各地に眠るダンジョンや遺跡で数多く確認される転移魔法を解読したものが始まりだという。

 魔術師たちは転移魔法の仕組みや独自の言語が多く使われている術式を比較、解析し、ついに独自に行き先を指定し使用者を定める転移魔法の理論を構築したという。


 だが、そこで困ったことには誰一人としてこの魔法が何の元素を用いているのか、どうしてこの術式に魔力を注げば作動するのかがわからないままだったという。


「ダンジョンからは時折、今の技術じゃどうやっても作れねえような時代錯誤の宝が見つかるって言われてるんだが、転移魔法がその類だったっつぅことだ。まあ、今でこそ魂の情報を別の座標に送り込むからエーテル魔法だ、なんて言われちゃいるが……正確にはわかってねえらしい。詳しいことは俺にも知らん」

「へぇ……オーパーツみたいなものか」

「よく知ってるなそんな言葉、だが、そうだな。その通りオーパーツってわけだ」


 なんとなく口にしてしまったが、果たして向こうの言葉で今の俺の単語はどう変換されたのかというのは少し気になるところだった。

 虎はどことなく機嫌よさそうにそう語ると、ダンジョンってどういうものなんだろうと思っている俺にじろりと目を向けてくる。


「にしても、だな……スーヤ、お前ほんとになにも知らねえンだな」

「えっ?」

「師匠がいたンだろ、そいつは教えてくれなかったのか? というか、お前の国は魔法とかなかったのか?」


 虎は新たに運ばれてきた木のジョッキを手に、肉の串をつまんで齧りつきながら俺をいぶかしむ。

 うっ、と俺が言葉を詰まらせたのは、どう誤魔化すべきか悩んだためである。


「え、えーと……あるにはあったと思うんだけど、全然興味なかったし師匠も教えてくれなくて……」

「それで剣ばっかり振らされてた、ってか」

「そう、そうなんだよ。これがまた、ひっでぇヤツでさッ。もう無理だっつってんのに、四六時中、飽きるまで戦わせられたりしてさぁ!」

「あぁ……アレだな、人にものを教えるヤツの多くは自分にできることは相手もできて当然って思ってたりするンだよな……わかるぜ」

「ほんっとにそれ、こっちがやっとの思いで一本取ってこれで終わりだーって思ったら当然のように次持って来たりしてさぁ! 何度ぶっ殺してやろうかと思ったことか! しかもさ……」


 虎が意外にも同情するような口調を取ったことで、思わぬ形だがどんな苦労をしてきたかを語る俺の声にも熱が入る。

 俺のコップにはアセロラを思わせる赤い果実酒を水で薄めた飲み物が注がれており、甘酸っぱい味の飲み物は口当たりが良くてとてもじゃないが酒精を感じられなかった。


 いつの間にか宿屋の娘であるアメリヤが食堂で給仕に参加していて、通りがかった際に聞いてみると赤スグリの果実酒だという。

 そういえばこっちの世界に来てから生前ろくに食べられなかった固形物は久しぶりに摂ったが、甘味は久しぶりだった。

 自然由来らしい穏やかな甘さを堪能しつつ、コップを呷りながらついつい話し込んでしまう。


 虎は軽く相槌を打ちつつ、時折口周りの黒縞を歪めるように笑って俺の苦労話を聞いていたが、何杯目かわからないが手元のエールを呷ると指についた脂をべろりと舐めてから意地の悪い笑みを浮かべて嘯く。


「なるほどな、そンだけ毎日打ち込まれりゃあその年で俺と渡り合えてもおかしくはねェな」

「まあ……俺はそこまでやりたくはなかったんだけどな」

「そう言うなって。送り出したお前が無事でやっていけるように心を鬼にして鍛えてくれたンだろ」

「いや! あれは元々鬼だな、もう人としての性格が破綻してる、とんでもない乱暴者なんだよ! 実際何度殺され……かけたことか!」


 危うく口を滑らせかけたが、虎は「そんなに言うかよ」と愉快そうに笑っていて気づいた様子はなかった。

 本当に殺されていたなんて語ったらせっかく身分を隠している意味がなくなってしまう気がして、ヒートアップしすぎた、と反省する俺に虎が尋ねる。


「しかしそんな指南役を抱えてたってことは……お前のウチはそれなりに裕福だったンだな?」


 それで、虎の目が獲物を見る目になっていることに気が付いた。眇む目は殺気こそ伴っていないものの、明らかに値踏みするような打算的な目つきだった。


 虎はきっと俺との付き合いの先にある報酬や利益について考えているのだろう。

 それを見て取った俺は、ここが思案のしどころだと理解した。



今回の更新はここまでとなります。


当分は旅とおつかい編が続きます!

愁也くんはこの世界に馴染めるのか、何か事件は起きるのか、今後ともお楽しみに……!

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