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ep34.旅支度と冒険者志望……っス

目標:村人に話を聞け

「オルドのアニキについて知りたいんスか?! あの人はすごいんスよ!」


 門番らしく錆び気味の金属製の兜と胸当てを身に着けた茶髪の男が、興奮したように槍の柄で地面を突きながら宣った。

 おおすごい、ゲームのNPCそのものみたいな台詞だ、と俺が勝手に感動していると、兜で目元の見えない門番は一人で話し始める。


「アニキはたった一人で大陸中のあちこちを旅して、古代の宝や遺跡、ダンジョンなんかを攻略して回ってる孤高の冒険者なんスよ!! 階級こそ中位冒険者っスけど実力じゃあ上位にも食い込むって言われてるっスね!」


 どうやら俺が予想した通り、それなりに実績のある冒険者らしかった。少し疑問に思って、俺は尋ねてみた。


「中位冒険者とか上位冒険者って、何が違うんです?」

「えーっと……そうっスね、オレが冒険者試験を受けたときは確か……活躍……や、違うか。貢献度? って言ってたっスね」

「貢献度?」


 オウム返しする俺に、茶髪の兵士然とした門番が誰かの真似をするようにびしっと姿勢を正す。

 それで、記憶を思い出すように中空を見つめながら続けた。


「確か……『中位冒険者に属する冒険者のうち、特に大きくギルドの発展に寄与した者、および目覚ましい功績を上げた者を対象に、その実力があると認められたものだけが上位の資格を得る』、とかなんとか言ってた気がするっス!」


 俺の知らないどこかの誰かの受け売りらしいフレーズを、丁寧に低く押し殺したような声真似とセットで披露した門番に俺は苦笑いで返す。


「オルドのアニキは目的があって旅から旅への冒険者生活をしてるらしいんスけど、ちゃんと拠点を持ってパーティー組んで戦えば上位入りなんてすぐだと思ってるんスよね! あの目にも止まらぬ剣さばき! わかっていても避けられない体術! そして代名詞でもある風の鎧!」


 パーティーを組んでともなるといよいよもってゲームそのものだな、なんて思って話を聞いていた俺が、ぴくりと反応したのはその最後の単語だった。

 思い当たるフシがあって、俺は重ねて質問する。


「風の鎧って、魔法で作ったやつか?」

「そうっスね! 魔法が使えるだけでもすげぇのに、アニキはそれを相手の攻撃を防ぐ風の鎧として身にまとってるんスよ! 魔法の修行って大の大人でも音を上げるっつぅのに、ちゃんと戦闘用の技術として扱えるなんて憧れちゃうっスよね~! 俺もこんなダッセェ鎧じゃなくてそういうのが欲しいっスよ!」

「へぇ……やっぱ強いんだな」


 門番の話はいくつか言及する余地に溢れていたが、それよりも俺は素直に感心してしまった。

 俺との手合わせの時は咄嗟に使ってしまったと言っていたが、そんなものがあるなら実質こちらからの手の打ちようがないのではないか。


 単純な剣と肉体での殴り合いなら負けないと思っていたが、そんな隠し玉があるとすると考えを改めないといけない。

 しかし魔法というのはそんな便利なものなのか。いや、俺の知ってるフィクションでは確かに万能であるかのように描かれているものばかりだったが、実際に目の当たりにすると改めてとんでもない力だなと実感する。

 魔法、魔法か。俺も使ってみたいな。なんか修行がきついらしいけど、俺でも使えるのかな。


「それを、アンタは……! 強いんだな、じゃないんスよ! アンタもアンタっスよ、なんなんスかあの動きは!」

「へっ」


 そんなことを考えていたので、わなわなと震えながらまるで責めるような語気で語る門番に少し尻ごんでしまう。

 門番は興奮したように続ける。


「傍から見てるだけでも何度も死んだなーって思ったのに! 避ける避ける避ける、終いにはあのアニキを防戦一方に追い込む! アンタなんなんスか、確実にカタギじゃねえっスよね?!」


 カタギって言葉、こっちにもあるんだと思ったけどこれも翻訳石とやらが俺がわかるように変換してくれた結果なのだろうか。元はどういう意味の単語だったのか気にならないといえば噓だった。


 門番が先ほどの組手について話しているのだということはすぐにわかった。どうやら、それほど評価の高い虎とそれなりに渡り合ったことで、俺もある程度の実力者として見られるようだ。

 別に嬉しくはないが、あれだけこっぴどくやられ続けたのだ。そこらの人間よりは戦えるようになっていてもらわないと、死に続けた意味がない。

 ただ、なんとなく。別に誇るわけではないけど、少しだけ照れ臭かった。


「えーと……まあ、慣れてるので」

「慣れ!? あんな勢いの剣を慣れてる!? 異国人怖ァい!」


 余裕ぶって言ってみたが、実際には殺され慣れているという意味である。


 苦しい鍛錬の末に身に着けたとか、家に伝わる秘伝の修練を経て身に着けたとか。そういうかっこいい要素は一つもなく、見えるようになるまで、避けれるようになるまで、打ち込めるようになるまで何万回と死に続けたというだけなのだが……門番は十分騙されてくれたようだった。

 驚きの色を見せる門番に苦笑いしつつ、そのうち「そういえばアンタなんで言葉が……」と飛び火しそうになったので適当な理由をつけて俺はその場を離れた。


 結局魔法のことについては聞きそびれたが、まあそれは実際に使っている虎に教えてもらおう。


 しかし……なるほど、冒険者、か。

 厳密にその職業がこの世界でどういう仕事を請け負うのかは聞いてみないとわからないが、口振りから察するに一般市民でも応募して試験を受けることができるらしい。


 その情報は、今後俺が自分の身の振り方を考える上で重要な意味を持つように思えた。

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