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ep16.ようこそ始まりの村へ

目標更新:森を抜けろ→虎についていけ

 陽が完全に傾いて、空を彩るオレンジもかげり始めて薄暗くなってきたころ。

 今日はこのまま野宿でもするつもりかと思いながら黙って虎の後を歩いてきた俺は、ようやく森の終わりを見た。


 喉の渇きも限界で、鉄の味がする粘ついた唾液を無理やり飲み込んでいた俺は木々を抜けた先の文化の灯りにようやく安住の地へ辿り着いたのだと一安心した。

 それから俺が泣きそうになったのは、何も安堵のためばかりではなかった。


 虎男や女の子の服装から、文明の発達度合いはある程度予想がついた。

 それでもこうして実際に、ファンタジーな創作作品で散見し得る限りののどかな村を前にして、憧れの存在を目の当たりにした子供のように感激してしまったからだ。

 やっと着いた、助かった、と思うと同時に異世界ファンタジーらしさの溢れる村の様子にこれまでの苦労を思い返して涙すらしそうになる。


 害獣避けだろう高めの柵に囲まれた村のうち、森に面した出入り口に立つ門番らしき男が、木々の隙間から現れた虎男の巨大な人影を見て手に持っている槍を掲げる。

 それから振り返って村の中に俺達の帰宅を伝えるように叫ぶと、木を組み上げた家の扉が次々と開いて村人達が出迎えに現れた。


 村人の姿はどれも俺の知るヒト科の見た目で、もしかしてこの世界の住人は獣人ばかりなのではという俺の懸念をありがたくも吹き飛ばしてくれた。

 足の速い子供が、続いて驚きながらも安心したような大人が俺の前を歩く虎を出迎える。

 おぶられていた女の子は屈んだ虎男の背中から降りてしっかりとした足取りで地面を踏みしめると、小走りで村の衆に飛び込んで行った。


 そんな中で、気の弱そうな歳若い女性が人ごみをかき分けて、子供達と笑顔で話す女の子の姿を認めてよろよろと近寄る。

 なんとなく、母親だろうなというのがわかった。


 無事な女の子に、母親はその場に膝を突いて両腕で抱きしめる。

 女の子も、反省したような表情で、しかしすぐに目にいっぱいの涙を溜めて二人でわんわんと泣き出した。


 一件落着かと思った俺と、女の子とその母親を中心とした村人達を他所に、恭しく頭を下げる初老の男性と虎頭が何やら言葉を交わしているのが見えた。

 その二人がちらりと俺のことを見て、そうだよな、と思った。

 人のことばかりじゃなくて、自分のこともしっかりしないと、だよな。


 俺はその集団の中で、浮きまくっている漆黒の詰襟姿でわけもなく背筋を正す。

 とりあえず、何でもいいからまずは水が飲みたいと伝えるところから努力してみよう。


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