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ep154.オーパーツ

目標:冒険者試験に合格しろ

「す、スーヤくんは、ガオリア語が読めるんだっけ?」

「……勉強中です」

「じゃあ、もしかしたら……読めないのに、読める、みたいな感じで気持ち悪いかも、ね」


 それには素直に同意する。アルファベットがひっくり返って崩したような文字を並べたそれは、まだ日常会話レベルの単語しか習ってないはずの俺にもはっきりと『筋力』や『敏捷性』なんて書いてあることが理解できたからだ。


「ま、まだわかってないことも多いんだけど……一説によると、この光そのものに認識を助ける魔法が込められているんじゃないかって、言われててね。スーヤくんの……耳のその、翻訳石とおんなじで、音に意味を乗せるように、光そのものに情報を乗せて発しているんじゃないか、って言われてるんだ」


 どきりとしたのは、翻訳石のことを気づかれていたからだ。しかしビエーゼは、穏やかに首を振って笑う。


「あ、あぁ……大丈夫、僕が知ってるのも……ユールラクスさんから聞いただけ、だから……」

「あっ……知り合いなんですね」


 まあね、と軽く流したビエーゼは、画面に目を向けてから「もう読めるだろうけど」と前置きしてから語り続ける。


「い、一応、認識が異なってないか確認で、読み合わせだけ一緒にさせてもらっても……いいかな? 項目とか、内容の説明もする、から」

「は、はい。お願いします」


 説明義務を果たしてくれるのはありがたいが、一体どうしてこんなものがあるのかという核心には触れられていないのが気になった。安心した様子で、ビエーゼは表示されている行に目を向ける。


「ま、まず……この画面は、行ごとにキミという存在の特性を表しているんだ。う、上から順に、生命力、集中力、筋力、敏捷性、知性、巧緻性、そして運を、それぞれ五つの星の数で表しているんだよ」


 それを聞いて、改めて星の数に目を向ける。図にするとこのようになっていた。


 生命力……☆☆☆

 集中力……☆

 筋 力……☆

 敏捷性……☆☆

 知 性……☆☆

 巧緻性……☆☆

 運 気……☆


「そ、それぞれの項目は……おそらくその名前通りなんだろうけど、厳密に、何をどう表しているのか、というのはわかってなくてね……ただ、星の数が二つで人並み、三つで優秀、四つで傑物……とかって言われているんだ。でも、そもそもこの遺物が……どうしてこんなものを表示できるのかっていうのも、今の僕たちの技術じゃ解明できていなくてね」


 当然だ。限りなく人為的な表示にもかかわらず、自動で出力されるこれらはどう見ても精密機械のそれだ。

 それをこの時代の、この技術レベルの人たちがどうこうできるはずもない。加えて言うと、単なる機械というだけでは済まない何かがそこにはあるように思える。

 電子機器と未知の魔法技術を融合させた何かのような。それだけでこの物体が十分奇妙極まりないものに思えて、未だに素直に目の前の事態を呑み込めてない俺にビエーゼは気の毒そうに続ける。


「こ、荒唐無稽だとは思うし、この数字も……あ、あくまで指標程度に、見て欲しいかなって……ここに出てる内容で、気を落としたりはしないでほしいんだ」


 その声が慰めるようなものだったので、もしやと思ったがどうやら俺の数値はそんなに良いものではないらしい。

 はぁ、と気のない返事をする俺に、ビエーゼは少しだけ困ったように言う。


「……お、驚いた、よね。こんなの、見たことないだろうし……読めないのに、読めるっていうのが気持ち悪いって人も、多いんだ。でも、害のあるものではないし、的外れな内容を出してるわけじゃないと思うから……その、あんまり重く考えずに、ね」

「あ、いえ……」


 ビエーゼの気遣いはありがたいが、残念なことに俺が言葉を失っているのはまったく逆の理由で、むしろ見覚えがあるからこその絶句だった。


 これを表示させたときのキーワードの通り、これはつまりステータス、俺の体やスペックを数値化したものに相違ないのだろう。

 肉体の性能を可視化する、というだけならこの時代の人間でもその概念自体には思い至るかもしれない。

 だが、明らかに英語でステータスという言葉を用いていることや、どう見ても液晶タブレットの端末に表示させていることから、ここにある技術は間違いなくこの世界の外からのものに違いないと確信を抱いていた。


「……あの、これって、いつからあるんですか?」

「う、うぅん……やっぱり、気になるよね……記録によれば、百年は昔からあるみたいだけど……それ以前の記録は、あまり残ってないらしいんだ」

「ひゃく……?! そ、そうですか……」


 もしかして俺と同じようにこの世界に渡ってきた神の遣いが作ったのかと思ったが、そうではないらしい。

 明らかに現代の地球にあるものを模して造られたデザイン、そして手触りはこの時代に自然発生したものとは思えない。

 そしてそれが百年も前にこの地にあるとはどういうことなのか。

 これを作った者は何を考えて作ったのか、そしてそれがどうして冒険者ギルドにあるのか。

 過去、この世界には俺のような神の遣い以外に現代日本人がいたというのか。アパシガイアという世界は、なんなのか?


 見慣れたはずの液晶画面が今はこの上なく不気味に思える。謎が謎を呼んで、どういうことなんだ、と声なく唇がわななく。

 考えてもわからない、自分が誰かの手の上で操られているような不安を覚えて、急に心細さを感じてしまう俺に、ビエーゼは続ける。


「そ、それから……その下部に、注釈みたいな、星のついていない行があるだろう?」


 呆然としながら、反射的に目を向けた。


「そ、そこにさっき僕が言った、冒険者が修めた特技なんかが表示されるんだけど……そ、それ以外にも性質とか、具体的には、生まれや職業なんかも、出ることがあるらしいんだ」

「生まれ……?」

「そ、そう。たとえば、さっきのサラくんだと、はっきりと『貴族』って出たり……とかね。……そういえば彼女、グレアデン家の生まれなんだから当然なんだろうけど、やたら喜んでたなぁ……」


 思い出すようにひとりごちるビエーゼを他所に、俺はさっと血の気が引くのを感じていた。

 生まれが出るって、もしかしたら俺が異世界人であることがバレてしまう可能性もあるのではないか?

 異世界人であるだけならまだしも、ここに来ることになった理由を考えれば、『神の遣い』などと表示されることもあり得る。

 この液晶タブレットもどきがどの程度その表示に対応しているのかはわからないが、得体の知れない道具に自らの素性を赤裸々に暴かれるかもしれないと危惧するのはいい気分ではなかった。


「あっ、い、今はサラくんを例に出したけど……個人の問題に関わることだから、僕たちもあまり詮索はしないよ。あ、安心してね」


俺の顔色が悪いのを見て、ビエーゼが言うが仮にそうだったとしても神の遣いなどとでかでかと表示されるのを見られるのはあまりいい気分はしなかった。


「そそれで、えぇと……スーヤくんのは……」


 最悪の場合、オルドにまでその内容が伝わってしまったら……などと考える俺を他所に、ビエーゼが液晶タブレットへ目を向ける。心臓が早鐘を打って、咄嗟に隠すべきかと逡巡した俺は、表示されている文字列を認めて目を丸くした。

 同じタイミングで、ビエーゼがさらさらとペンを動かしながら読み上げる。


「え、ええと……『病人』、『剣術』、『土魔法、銅』、『平和主義』……ってところ、かな……どう? 間違ってたり、しない?」

「えっ」


 並べられたその言葉は……俺が視認したものと、一言一句違わなかった。

 ビエーゼが嘘を吐くとは思えない。であればここに表示されている文言は、見間違いや認識違いなどではないのだろう。

 確かにどれも間違ってはいない。ただ、当たらずとも遠からずというところで、その言葉が的確に今の俺を表現しているかと言われれば少し悩ましいところだった。


「……そ、そうっすね。まあ合ってると思います」

「そ、そっか。じゃあこれで……登録、しておくね。な、何度も言うようだけど、ここに表示されてる内容は、あくまで目安だから……あまり気にしすぎないように、ね」


 励ましてくれているのか、あるいは釘を差しているのかははっきりとはわからなかったが、とりあえず頷いておく。

 ビエーゼは俺が落ち着いたように見えて、安心した笑みを浮かべたのだった。


今週はここまでとなります、次回更新は5/14です!

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