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ep138.サバンナで同じことを

目標:冒険者試験に合格しろ

 ざん、と。

 硬化していない土の体は問題なく刃が通る。しかしその手ごたえはやけに重たく、妙に生々しかった。

 横へ一閃されて上半身をほぼ両断された土人形が膝をついて倒れ伏す。次いで並ぶように出現していたもう片方へ、返す刃で斜めに斬りつけた。


「しつ、こいなッ!」


 スーヤを目掛けて両手を伸ばしよろよろと接近していた土人形を袈裟に斬りつけると、ぷっつりと糸が切れたようにその場に倒れ伏す。

 あの巨人のことがあるので、どこをどうすれば動かなくなるのかわからなかったが一応その頭を念入りに剣で貫いておくことにした。

 ぞふ、と公園の砂場にスコップを立てたような感触。果たしてこれで再生しないのかどうかというのは自信がなかったが、無力化はできたはずだった。


「あ、あら……助かりました、感謝いたしますわ」

「いいえ、これくらいは……」


 礼を言うサラを余所に、何者かの気配を覚えたスーヤは適当な返事だけを口にして振り返る。

 サラもそれに倣い、土の巨人を焼却する炎を背後にその光景を目の当たりにして……揃って身を強張らせた。


「まあ……」

「……マジかよ、そんなにニョキニョキ増えるものかよ」


 雨後の筍の如し勢いで、土人形たちが次々に地面から生えてきていた。早いものだと既に人の形を作って完成されていて、よろよろとスーヤに向かってきていた。


 二、四、六、まだまだ増える。

 倒すのは簡単だろうが、自分の体力だって無限にあるわけではない。

 それどころか、あの巨人を倒せばいいと思って魔力を大盤振る舞いした後だ。生命力に通ずる魔力を大量に消費したスーヤの体は、長い時間鍛え続けたと言えど全力疾走を終えた後のように倦怠感が積もっていて、鉛と化した重たい四肢で剣を構える。


「……サラさん、この数をもう一回燃やすことは……?」

「一気に、というのは……不甲斐ないのですが、難しいですわね」


 ちら、とサラが背後の炎を見る。炎の中で土巨人はとっくに炭化していたが、それでもまだ動きが見られていて、もぞもぞと地面の上で蠢いていた。

 まだ再生する体力があるのかもしれない、と思うとこの炎を止める気になれなくて、それを抑え込むためにも出力を緩めさせるわけにもいかなかった。


 そのことがわかっているからこそ、スーヤは目の前まで来た土人形をばっさりと切りつけつつ、ゼレルモを探した。

 射手であるあのハイエナは今はフリーのはず。どこに行った、と首を巡らせたのは、助力を期待してのことだった。


 しかしゼレルモは、遠巻きに燃え盛る大炎とまるでゾンビのような土人形達に取り囲まれるサラとスーヤを見守っていた。

 まさかサボる気か、とスーヤが驚愕しながらサラに向かって飛びつく土人形を蹴飛ばすのと同じくして、ゼレルモが呟く。


「……おいおい、そういうことかよ」


 確信を抱いたような独り言は誰の耳に届くこともなく、ハイエナはふさふさとした耳をピクつかせて矢筒から乱雑に矢を取る。

 指の間にストックしながら、一本ずつ番えて弦を引き絞って放つ。ドッ、とまるで床を殴ったような音が小さく響いて、頭から矢を生やした土人形がその勢いのまま仰向けに倒れた。

 続けざまにもう一本。腰に手を回してもう数本手に取り、矢継ぎ早に繰り出していく。


 躊躇なく的確に人型の頭部を狙って土人形を倒していくゼレルモの助力が得られたことにスーヤが安心したのも束の間、ハイエナは自分の目当ての進行方向の土人形を無力化し終わると突然弓矢をその場に放り捨てた。


 ダガーに武器を持ち替えたゼレルモがそのまま駆け出す。前腕ほどの大きさの刃物を手に、自分が倒した土人形達の屍を踏み越えて、一直線に倒れているビエーゼとバルゴの下へ向かう。

 途端に、ぐるりと土人形達がハイエナを見た。目の前で剣を振りかぶるスーヤから、あるいは火花を立てて小さな火球を繰り出すサラからも目を離して、一斉に余所見をする様子にはスーヤも違和感を覚えた。


 それを証すように、ゼレルモはサバンナに生きる獣らしくするすると土人形の波の間をすり抜ける。

 寝転がっている男を視界に捉えるとさらに加速して、その体を飛び越えると同時にその服を引っ掴んで転身した。

 ハイエナは低く伏せながらまるで人質でも取るように倒れ伏している男の首筋にダガーを当てて獰猛に唸る。


「三秒やる。こいつらを止めろ。さん、にー、いち」


 肩を上下させながらハイエナが言うと……フードを被ったまま失神していたはずのビエーゼがぱちりと目を開けて、慌てたように言う。


「わ、わかった! 言うとおりにするッ」


 どことなく印象の違う口調でビエーゼがそれに応じると、ゼレルモに向いていた土人形達がぴたりとその動きを止める。

 途端に、ぐしゃりと自壊し、その場には歪に盛られた土の山だけが残った。


 何が何だかわからないという様子のスーヤとサラには、同じ受験者のビエーゼが倒すべき敵、という答えにたどり着くまでいくらか時間を要した。

 気づけば炎の中の巨人ももはや人の形を留めていなかったが、それも仕掛け人らしいビエーゼの仕業かそれともサラの火力で燃やし尽くしてしまったのかというのもはっきりとはわからなかった。


 視界を遮る土人形達がいなくなって、首筋にダガーを当てられたまま立ち上がったビエーゼが両手を挙げる。


「こ、こんなに早くバレるとはな……お、おめでとう。試験終了だ」

本日はここまでとなります、次回は4/2更新です!

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