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ep135.いざ後半戦へ

目標:冒険者試験に合格しろ

 しかし。

 残っていた土巨人の腕が、自分の身を守るように庇って矢を受け止める。

 瞬間、カッと閃光が走る。鏃に込められた火属性の魔法が鏃に加わった強い衝突によって一気に解放され、轟音を立てて炸裂する。

 もうもうと立ち込める土煙に、胴体とはいかずとも腕くらいは吹き飛ばしただろうと誰もが思った。

 だが煙が晴れた先にあったのは、一切損傷を受けていない土人形の白化した腕だった。


「な、なにッ……?!」


 ゼレルモが驚愕する傍らで、サラがその異変に気付いた。


「皆様見てください! あの土人形、腕が……!」


 今までは地面とそう違わない土色をしていた土人形の腕が白く色を変えていて、それは爆発を受け止めたためかと思った。その腕の白がびきびきと全身に広がっていくのを見て、今度はスーヤが奔る。

 嫌な予感がする。その白が全身に及ぶ前にどうにかしてケリをつけるべく、せめて糸口が探れればと膝を突いている足目掛けて剣を振るう。


 しかしそれも、がきん、と弾かれてしまう。先程までの土を切り裂くざっくりとした感触はとうになく、岩か鋼にでも剣を打ちつけたようだった。

 振るった勢いが手をびりびりと痺れさせて、やっぱりか、と舌打ちをしつつ再び距離を取るスーヤは、確信を持って口にする。


「全身固めてきたな……もう剣も通らないようです」

「おいおい、マジかよ……」


 ぼこぼこと頭を再生させて、ずるりと地中から腕を引き上げる土人形を止める術はなかった。全身を完全に白っぽく染めた土人形は、先程より頭部や胴体が幾らか角ばった様子でのっそりと立ち上がる。

 硬化したことでもはや足元への攻撃を警戒しなくてよいと判断したのだろう、見た目は限りなく無機質なくせにどこまでも戦い方が人間っぽいなと思った。


「おい、やる気満々みてえだぞ……どうするよ」

「どうしましょうね……ゼレルモさん、さっきの矢は?」

「残念だが、残り一本だ。あの外装をしてる以上、無暗には打てねえな」


 それには同意だった。今この三人の中であの矢の火力は貴重なものである。

 牽制に使ってしまうよりは使い所を見極めて放つためにも抱えておいたほうがいいだろうということは、スーヤにもわかった。

 すると、それまで黙っていたサラが確信を持った様子で告げる。


「……お待ちください、もしやあれは……方魔石の一種では?」

「方魔石?」


 聞き返したスーヤに、サラが続ける。


「えぇ。硝子状に角ばった結晶を持つ鉱石でしてよ。靭性が高く、衝撃にも強いので石材としても優秀ですの」

「だとしたら何だって言うんだ?」

「方魔石の多くは熱に弱く、長時間熱されることでどろどろと溶けてしまいますの。あの体がもし方魔石に置き換えられたのなら、わたくしの炎で熱し続ければ再生不可能なくらい溶かしつくせるはず……」


 確かに、それなら再生も見込めないだろう。無限に再生される敵を相手にした時は、ちまちまと削るより高火力で一気に畳みかけるというのはバトル漫画でも定石だった。

 しかし、サラの言葉に噛みつくようにゼレルモが問う。


「おい、そんなことがお前にできるってのか? 大体、そのホウなんとか石ってのも確かなんだろうな」

「あら、貴族に二言はなくってよ! グレアデン領では頻繁に採れる石ですもの、見間違えませんわ! それに……だからこそ、それを溶かすのも我が生家の炎であれば造作もないこと。お任せあれですわ!」


 グレアデン家は炭鉱業、そして溶鉱炉の火入れを担う泥臭い職人仕事とその火付けの技術でベルン国内の製造業の発展に大きく寄与してきた旧い貴族である。

 ろくに家業に関われない自分にできることを探すべく、領地で採れる鉱石や代々続く家業の歴史を勉強してきたサラにそれが務まらないわけはなかった。


 ただしそんなことを知る由もないゼレルモは依然として疑わしい目を向けていたが、サラは気にしない様子で「ですが」と早口で続ける。


「それには問題が二つ。一つは、あの巨体を溶かすまで熱するにはそれなりの時間を要するということですわ」

「どれくらいかかります?」

「一……いえ、二分は、満足に動けないようにしていただきたいところですわね」


 土巨人はこちらの出方を窺っているようだが、近づけば苛烈に攻撃を開始するだろうことは目に見えていた。

 それをこのメンバーで一、二分ほど拘束すると言うのはあまり現実的ではないと、嘲笑うようにゼレルモが声を上げた。


「足止めだぁ? あんな巨体をどうしろってんだよ」

「だからそれが問題と言ってましてよ! そうですわ、あの人形が再生する時を狙ってみては? 先程のようにぐったりと停止した状態なら、一分と言わず数分くらいそのままのはずですわ!」

「おい、だからその再生させるために何をどう損傷させればいいんだって話だろうが!」

「……それでいきましょう」


 えっ、とゼレルモとサラが昔からの知り合いのようなタイミングの良さでスーヤに振り返る。

 剣を握った青年は、黒髪を風に靡かせながらまっすぐに敵を見据えていた。


「あの土巨人を斬ります、その隙にサラさんに燃やしていただくってことでいいですね?」

「え、ええ……もちろんですが、その……大丈夫なのですか?」


 サラは突然無茶なことを言い出したこの異国の男に疑いの目を向ける。先ほどあれだけ硬質な音を立てて剣を弾かれていたのに、今更になって斬るなんて言われても無理なものは無理ではないか。

 しかしそんな目を受けて、スーヤはにこりと微笑む。


「大丈夫です。俺もまだ……奥の手は残ってますから」


 もちろん、手は貸してもらいますがとゼレルモを見て言うスーヤからは有無を言わせぬ圧が感じられた。

 ハイエナはこの異国人が何をするのかというのは定かではなかったが、他に手がない以上賭けてみるかと思った。どのみち駄目そうなら自分だけでも逃げればいいのだ、わざわざ危険な役を買って出てくれるならそれなりの援護はしてやろう。

 驚くほど素直に肯首したハイエナとは反対に、まだ少し戸惑っているサラは了承しつつもまだ心残りがあるようで、「ですが」と続ける。


「もう一つ問題が……実は、先ほどの衝撃でわたくしの触媒が壊れてしまいまして……」


 優れた銀の魔術師だが、全ての魔術師の例に漏れずサラは無から炎を成すことができない。

 魔術師は己の操る魔法の属性に依った触媒を用いる。炎を操るサラにとっては、手巻き式の引き紐に連動した歯車が摩擦で火花を立てる内燃機関を持った魔筒がその役目を担っていた。

 それを失ったサラに、悲しいができることはなかった。火のないところへ煙を立たせるように、触媒のない所に魔術は立たない。

 何か代わりのものはないかと聞かれたネズミとスーヤは渋い顔をする。


「おいおい、んなこと言われてもな……普通の矢の一本くらいなら貸してやれるが」

「俺もですね……ナイフくらいならありますけど、他に燃えそうなものはあんまり……」

「ううん……何かありませんの? その……この際燃えなくても、火花が立つようなものならなんでも構いませんのよ」


 苦し紛れにサラが言うが、ゼレルモは当然渋い顔のまま首を振る。

 このまま炎を起こせないんじゃ作戦の立て直しでは、と危ういところでサラの言葉にピンと来たのは、もちろんスーヤだった。

本日はここまでとなります。次回更新は3/25です。

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