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ep12.ありがちな戦闘開始

目標更新:???→森を抜けろ

 黒い丸耳を生やした、黄色い毛並みに縞々の走る後頭部。はためく衣服の陰から除く、ロープのような太い尻尾。

 僅かに見えた顔は紛れもないネコ科のそれで、ライオンに次いで今度は虎かよ、と毒づいた。


 とことんネコ科と縁があるなちくしょう。

 おかげさまで獣頭をした外見に動揺することはなかったが獣人、それもネコ科には関わりたくないと文字通り体に刻まれた記憶が必死に俺に訴えた。


 反射的に筋違いの怒りと嫌悪感が湧いてくるのを落ち着かせるように息を吐きながら、その背中を眺めた。

 全身を覆って首だけを出すような茶色いローブの下にはなんともファンタジックな革のブーツに地味な綿服を着ていて、剣を振る腕は黒い縞模様を伴う黄色い毛皮で覆われていた。


 よく見ると虎の背後には、取り囲んでいるゴブリンと似たような大きさの人影がつかず離れずの位置で肩を震わせているのに気づく。

 しかしそれは肌も緑色でなければ不格好に腹も出ていない、むしろ少し痩せた小さな人間の女の子のようだった。


 ゴブリンと見間違えた自分を戒めながら、あの虎はどうやらモンスターから女の子を庇っているのだと理解して、俺の中でネコ科の株が少し上がった。

 それから今度はその戦いぶりに注目した。


 背後の女の子をいつでも守れるように不即不離の距離で剣を振る虎は、しかし体格の小さなゴブリンに対して闇雲に剣を振るだけでなくその足でゴブリンを蹴飛ばしたりして対処していて、その身のこなしだけでも素人ではないことが俺にもわかった。


 それどころか、飛びかかってきたゴブリンを一太刀で切り払って緑の血をまき散らしながら、剣を振る隙に女の子に襲いかかろうとした別のゴブリンに強烈な後ろ蹴りを繰り出して頭を潰すまでは実に流麗の一言で、かなりできるな、とバトル漫画の登場人物のような感想を抱いてしまうくらい見事な体捌きだった。


 ゴブリンの実力がどれほどのものかはわからなかったが、こうしてちょっと観察しただけでもあの虎にまとめてかかっても歯が立たないだろうということは確かだった。

 中途半端に知能があるらしいゴブリン連中もそれがわかったのか、虎の間合いに飛び込むことなく、背中に庇っている女の子を狙うように包囲してじりじりと距離を詰める動きに切り替えた。


 虎が近寄らせないよう牽制に剣を振ってゴブリンを遠ざけるが、こうなると一人で三百六十度をカバーすることは難しい。

 隙を突いて迫るゴブリンを慌てて対処して、今度はまた別の方向、とやりづらそうにする虎は徐々に消耗しているようだった。

 実力で勝る虎の方がジリ貧になっているのを見ながら、俺はこの期に及んで助けに入るべきかを逡巡していた。


 ゴブリンに勝って欲しいわけではないし、女の子を庇う虎の方が正しいことをしているのは間違いない。

 ただそれでも体と魂に染み付いたトラウマのせいで、ネコ科の獣人を助けることに対して一瞬だけ思考に躊躇が挟まった。


 いや、あの虎は傍若無人の獅子とは関係ない別人である。

 頭では理解しているが、でも実はそうではないのかもしれないと俺の中の悪魔が囁く。

 あの女の子だってさらってきただけで、これから持ち帰って食用にするのかもしれない。

 あるいは俺の想像もつかないようなとんでもない悪人なのかもしれない。

 そうだ、そうに違いないという声が頭の中で跳ね返って大きくなっていく。


 足がその場に根を張ったように重い。

 俺が行っても余計なお世話なだけだ。

 いやこの森を抜けるためにもあの虎を助けた方がいい。

 でもこんなところにいるってことは人里が近い証かもしれない。


 それなら別にあの女の子ごと、助けなくても。

 わざわざ俺が戦う必要なんて、ないじゃないか。


 そう思った瞬間だった。

 虎頭の警戒外から、伏せて隠れていたゴブリンが上り坂の木陰でそっと顔を上げるのが見えた。

 脇を抜ける別のゴブリンを剣で叩き潰そうとする虎の隙を狙うように、一匹離れたそいつは構えた弓に矢をつがえている。


 魔物のくせに弓も使えるのか、と驚くのと同時に、傍から見ていた俺にはそれがよくわかった。

 矢を取り出すゴブリンに虎は気づいていない、出し抜かれる決定的な瞬間を目撃してしまう。


 あのまま弦を引き絞って矢を放てば、間違いなく虎に傷を負わせることができるだろう。

 ここまで無傷だからこそこの数相手にもうまく立ち回っていたが、ひとたび傷を負ってしまえばそれもどうなるかはわからない。

 ましてや脇を抜け女の子を狙おうとするゴブリンどもに加え、弓の射線まで警戒しなくてはならないとなるとさらに難易度が上がるはずだった。


 それはそうと、弓を構える姿は限りなく無防備なものだった。

 開けた草原の向かいに潜む俺に気づくわけもない。


 隙だらけのその体を目の当たりにして、反射的に体が動いていた。

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