ep104.しばらくこんな感じで旅が続きます
目標:錫食い鉱を王都に納品しろ
ぶっつけ本番でもなんとかなった自分を誇らしく思うものの、思ったより水を使ってしまったことは否めない。
ひたすら平坦な道を歩く以上どこかで補給は望めないだろうし、道中で川を渡ると言っていたのでそこで何とかするしかないかと思いつつ匙を虎の口に運ぶ俺は、未だにだらんとしている腕を見てふと思いついて聞いてみる。
「腕、どんな感じ? まだ動かせそうにないか?」
「あー……無理そうだな」
水を吸った豆を意外にもそう鋭くない歯列で噛みながら、虎が言う。
肉の繊維が歯の隙間に挟まってうざったそうに口を動かしているのを見て、歯磨きの介助も必要だろうかと危ぶんだ。
「肩から先にかけて、まるで感覚がねェ。手首から先、指なんかは辛うじて動くことは動くが……いずれにしろ、まだまだ重石をぶら下げてるようなもんだな」
「手の先から治るようなもんなのか?」
「俺の場合はな」
器の底に溜まっていた豆や具をまとめて掬った匙を口の中に突っ込まれて、むぐむぐと咀嚼するオルドが続ける。
「手で魔法を扱うイメージが濃い分、体のどの部分より魔力が流れ慣れているってことだ。多少過剰に出力したところで修復も早いンだろうよ」
その反面、普段から魔力を手に流しているものの、全身の魔力をあの一瞬で受け渡しした腕はその容量に耐え切れず破壊されてしまったと語るので、俺は配管と蛇口みたいなものかと思って理解した。
魔力がそこを流れる水だとすると、蛇口の破損は修理や交換こそ容易だがそこに水を供給する水道管の修理は難しいというイメージが持てそうで、俺は納得したように頷きつつ続ける。
「今更だけどよ、そんな状態で魔法使っていいのか?」
「あァ。多少出力にムラはあるが、腕の経絡が完全に断たれたワケじゃねェしな。むしろ修復している今だからこそ、魔力の通り道が閉ざされんよう流しておく必要があンだよ」
「そういうリハビリってことか」
「そうだな、復帰治療には違いねェな」
リハビリという単語はそのように訳されるんだと感心しつつ、続けて問う。
「腕が動かなくなるほど魔力の通り道が破壊されてるんだろ? それでも魔法って使えるもんなんだな」
「あー……それもな、厳密には違ェんだ」
オルドが言うには腕が動かないのは魔力の経絡というより、そこを通過した過剰な魔力が腕のエーテルを乱したことが原因らしく、魔力の通り道が徐々に修復されるとともにそれも整ってくるとのことだった。
だから問題なく魔力も通ってるし魔法も使えるがエーテル由来の腕の運動機能だけは失われている、ということらしく、早い話が腕が動かないことと魔力の通り道が傷ついたことは同じようで異なる問題のようだった。
「エーテルも、魔力の回路もそうだが……生き物の体っつぅのは元々の形に戻ろうとする機能が備わってンだと。だからほっとけば治るってことらしくてな」
いくつかのゲームの影響で、魔力とエーテルを混同しそうになるが、この世界でエーテルっていうと目に見えない魂とか思考の力を言うはず。
それが腕にもあるということか、だがそれは一体魔力とどう違うというのか。腕の神経みたいなものだろうか、といまいち想像がつかない俺が釈然としていないのを見てオルドは腕を動かさず肩を竦める。
「詳しいことは俺も知らん。興味があンなら向こうに着いたときにでも聞いてみるといい」
それがユールラクスのことを指しているのは俺にもわかった。
頷くと「つっても、その時にアイツに意識があればの話だが」とオルドが悪い笑いを漏らすので、ハメられたことを根に持っているんだなと思いつつも俺にそれを止める気はなく。
せめて穏便に済んでくれるといいなと願いつつ、曖昧に笑うのだった。
本日はここまでとなります。次回更新は2/2です。




