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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

連載候補短編

攻撃は効かない……霧だから! ~強くなった俺たちに逃げる専用の【霧隠れ】なんて不要とパーティーを解雇された私ですが、二年間の修行で体を霧に変化できるようになったので実質無敵です~

作者: 日之影ソラ
掲載日:2021/06/24

 冒険者というお仕事は、とても危険だ。

 凶暴な魔物と戦わなくちゃいけないし、危険な場所へも踏み込まないといけない。

 他人のお願いに命をかける。

 普通に考えると頭のおかしな話だ。

 それでもやる人が絶えないのは、きっと夢があるからだと思う。

 例えば、何の役に立たないような力が、日の目を見ることがあるから。


 私のスキル『霧隠れ』も、一般的には役に立たない。

 だって霧が発生するだけだし。

 私以外のみんなが見えなくなって困るだけだ。

 ただ、このスキルも役に立つ場面があったりするのが冒険者の良い所で――


「チッ、このままじゃ囲まれるな……ミスティア!」

「はい!」


 魔物との交戦中、別の魔物と遭遇してしまった時。

 足が速い魔物相手には逃げられない。

 交戦しながらだと、誰かを犠牲にしないといけない。

 そんな場面で、私のスキルが活躍する。


「霧を出します! 皆さんは私の後ろに!」


 スキル『霧隠れ』。

 言葉通り霧を生成するだけのスキル。

 発生する量は調整できるけど、方向や性質は変えられない。

 スキルを発動した本人を除き、霧に囲まれれば近くにいる人以外は見えなくなる。

 単体では邪魔になるだけのスキルでも、不利な状況から逃げる手段としては有効だ。


 霧が森に充満していく。

 私には霧の中でもハッキリ見えるから、パーティーの仲間たちを出口に誘導する。


「こっちです!」


 戦いでは役に立たない。

 でも、最悪の事態を防ぐことは出来る。

 きっと『霧隠れ』なんてスキルが輝くのは、冒険者という仕事だけだろう。

 私にとって冒険者は天職だった。

 他人に感謝される喜びも知って、これからも頑張っていこうと思っていた。

 そんな矢先に――


「ミスティアお前、明日から来なくていいぞ」

「え……」


 私は二年以上入っていたパーティーから、追放勧告を受けてしまった。

 高難易度の依頼を終えて、パーティーのランクがAに昇格した日の打ち上げで。 

 突然のこと過ぎて頭が真っ白になる。

 めでたい席だから、余計にショックも大きかった。

 唖然とする私に、リーダーのダリルが言う。


「もしかして聞こえなかった? お前は今日でクビだって話をしてるんだよ」

「……な、何で、どうしてですか!」


 私はひどく動揺して、打ち上げで貸し切った酒場に響く大声を出した。

 他の仲間たちの視線も集中する。


「おいおい何だ? 逃走担当が叫んだぞ」

「みたいね~ というか今さらよね~ ホントならもっと前に言い出す予定だったのにぃ」

「だな~ リーダーも甘いぜぇ」


 酒が入った状態で呂律が回っていないけど、誰一人驚いていない。

 話の内容は聞こえていたはずだ。

 それなのに一切驚いていないということは、つまりみんな知っていたということで。

 

「……知らなかったのって」

「お前だけだよ」

「っ……」


 ダリルは冷たい言葉を当然のように吐き捨てた。

 一度は反応を示したみんなも、飽きたように飲み食いを再開している。

 仲間の一人が辞めさせられる。

 そんな状況で、さも自分たちには無関係みたいに。

 この時点で私は、パーティーの中で自分が浮いた存在だということを自覚した。


「……いつから決めていたんですか?」

「半年くらい前からだよ。ちょうどBランクに上がりそうって時だ」

「半年……」


 そんなにも前から、私はいらない存在だったのか。

 確かに役に立つ場面は少ない。

 剣術の訓練はしているけど、ダリルに比べたら全然戦えない。

 スキルは『霧隠れ』だし、逃げる以外では使えない。

 ならせめて他のことで役に立てるように、積極的に雑用を引き受けたり、冒険に役立つ知識を集めたりしてきた。

 みんなに比べたら弱くても、ちゃんとパーティーに貢献していた自負はある。

 だけど、そう思っていたのは結局、私だけだったみたいだ。


「理由を……聞いてもいいですか?」

「今さら必要か? お前だった薄々は気づいてんだろ?」

「……私のスキルが、逃走にしか使えないから」

「そうだよ。まぁ他にもあるけど、一番はそれだな。俺たちも今はAランク、次に目指すは最上位のSランクだ! 逃げるしか出来ない奴なんて必要ない。そんな奴を入れておくなら、もっと有能なスキル持ちを囲むぜ」


 饒舌に語るダリルに、私は何も言い返せずにいた。

 彼の言う通り、最近は特に感じていた。

 私のスキルが必要な場面が減っていることに。

 みんな着実に成長していて、戦績も上がってきている。

 このパーティーに今必要なのは逃げる力じゃなくて、勝つための力だ。


 それは……私じゃない。


「わかったよな? 逃げるための保険としては役に立つけど、それ以外には使えない。パーティー人数にギルドが制限なんて定めてるからな~ 恨むならギルドを恨めよ」

「……私は」

「まぁでも? どうしても残りたいって言うなら考えなくもないぜ」

「え?」


 そう言って彼は、私の隣まで歩み寄ってくる。

 嫌な雰囲気にはすぐ気づいた。

 彼の視線が厭らしくて、表情も普段と違う。

 後ずさる私の手を、彼は強引につかんで引き寄せる。

 そのまま耳元で囁くように言う。


「冒険者としてじゃなくて、俺の夜の相手としてなら残してやるよ」

「――ぅ」


 寒気がした。

 気持ち悪さに身体が震える。

 私は咄嗟に手を振りほどこうとする。


「逃げるなよ。悪い話じゃないと思うぜ? どうせお前みたいなゴミスキル持ち、今さらどこも雇ってくれねーだろ?」

「そんなこと!」


 ない、とは否定できない。

 それでも……


「い、嫌!」

「っ、暴れるな!」

 

 私は必死で抵抗した。

 どんな理由があろうと、好きでもない人となんて嫌だ。

 何より私のことを見下すような人のために、身体を捧げるなんてありえない。


「は、離して!」

「こいつ……」


 筋力の差は歴然。

 力任せにしても振りほどけない。

 抵抗する私に、ダリルが起こって手をあげようとした。

 その時、私は恐怖からスキルを全力で発動する。


「なっ!」

「うおっ! 急に霧が」

「えぇ~ 何も見えないんですけどぉ~」


 一瞬で建物内が霧で覆われた。

 驚いた隙をつき、私はダリルの手を振りほどく。


「くそっ! ミスティア!」


 彼が私の名を叫んでいる。

 振り返らず、全力で出入り口に走った。


「わかってるのか! どうせお前一人じゃ何もできないんだぞ!」


 そんなこと、言われなくてもわかっている。

 私に出来ることなんて、逃げることくらいだって。

 今もそうだ。

 力がないから、全力で逃げるしかない。


「一人になってどうする? 冒険者をやめるか? 今さら他の仕事なんて出来るわけねーだろ!」


 そうだ。

 私が冒険者になったのは、自分の才能が役立つ場所がここしかないと思ったから。

 他なんて考えられない。

 一生、このパーティーで頑張っていくつもりだった。

 ついさっきまで。


「俺の所にいた方が、お前は幸せになれるってわからねーのか!」

「――ふざけないでよ!」


 私は走る。

 彼の声が聞こえなくなるまで遠く。

 どこへ行くかも決まらず、ただがむしゃらに。

 

 ふざけるな。

 最後に言い放った言葉が、腹の底から出た本心だ。

 仲間だと思っていた。

 信頼していたのに、その全てが偽りだった。

 もう誰も信じない。

 私は、私の力だけで生きていく。

 本当なんて思いつかないし、無理な未来だという自覚もある。

 それでも――


「こんな惨めな思いのまま……終わってなんかたまるか!」


 逃げるしか出来ない。

 何の役にも立たない私でも、やれることがあると証明しよう。

 今はまだ、逃げることで精いっぱいだけど。

 必ずここへ戻ってくる。

 その時には絶対、私を見下していた人たちを見返せるくらいになってやる。

 心に強く誓った私はひた走る。

 先の見えない道は、まるで霧にかかっているようだった。


  ◇◇◇


 クラリカ王国、王都レザリック。

 王族、貴族、騎士、商人、平民など。

 様々な立場の人たちが暮らす大都市には、冒険者ギルドの支部も当然ある。

 騎士団が統治する王都は、冒険者にとってあまり居心地の良い場所とは言えないものの。

 依頼の量や質は、他の都市に比べても群を抜いて良い。

 だから、より高ランクの冒険者たちが最終的な活動拠点に選びやすかった。 

 その王都に……私は戻ってきた。


「二年か……」


 私がこの街から出て、だいたい二年弱くらい経ったと思う。

 あの日のことは、今になっても鮮明に覚えていた。

 それほど鮮烈で、ショックな出来事だったから。

 片時も忘れたことなんてない。

 全てはこの場所に、もう一度戻ってくるためだったのだから。


「さて」


 さっそき、彼らの所へ行くとしよう。

 私はまっすぐ、王都の冒険者ギルドに向った。

 道行く人の量には圧倒される。

 この二年、私は王都から遠く離れた北の都市で生活していた。

 その街も栄えてはいたけど、さすがに王都は規模が違う。

 人混みに流されないように踏ん張ったり、何だか少し懐かしい気分だ。


 到着した場所も、二年前と変わらない。

 冒険者ギルドの建物は、石製や鉄製が多い中では珍しい木製だ。

 白い外観の建物が多いせいか、茶色い木製はよく目立つ。

 近くを行き交う人々も、冒険者らしい格好の人ばかりで、ここだけ少し異質な空間だ。


 事前に集めた情報があっていれば、早朝のこの時間。

 彼らはギルドに一度集まっているはず。

 私は身を隠すため、改めてフードを深くかぶり直した。

 全身をローブで覆っているし、直接顔を見られない限りはバレないだろう。

 特に、銀色の髪の色は目立つから、フードでしっかり隠す。


「……よし」


 多少なりとも気合いを入れて、私はギルド内に足を運んだ。

 ギルド内部も特に依然と変わらない。

 入ってすぐに受付カウンターがあって、右手に情報交換や食事をする空間がある。

 私はカウンターをスルーして、右手の奥にある席へ腰を下ろした。

 見渡す限り、知った顔ぶれがチラホラ見える。

 ただ、どうやら目当ての人たちは不在のようだ。

 少し時間が速かったかもしれない。

 そう思った時、扉が開く。


「ちわーっす!」


 軽いノリ、聞き覚えのある声に振り向く。

 そこには彼らがいた。

 私がかつて所属し、不必要だからと追放した元仲間たち。

 リーダーのダリルと、仲間の魔法使いと槍使い。

 うち二人は知らないけど、間違いなく彼らのパーティーだった。


「おはようございます。ダリルさん」

「ああ。今日も良い依頼ある?」

「ええもちろん、皆さんにピッタリな依頼がありますよ」


 ダリルが受付嬢と楽しそうに話している。

 他のパーティーの知り合いが通りかかると、気草に挨拶を交わしていた。

 私がいなくなった後、彼は順調に出世したらしい。

 半年前に無事、冒険者の中で最上位のSランクに昇格したと聞いた。

 ギルドからの信頼は厚く、王都での評判も確か。

 清々しいほどに真っすぐな出世街道をひた走っている。

 願わくば勝手に落ちぶれてくれたらよかったけど、生憎そうはならなかった。

 性格に問題こそあれ、実力は確かな面々だ。

 逃げ役の一人がいなくなった所で、さしてパーティーには影響がなかったのだろう。

 正直かなり悔しいけど、それは仕方がない。

 その悔しさをバネにして、この二年間を過ごしてきた。

 私は強く拳を握りしめる。

 すると、受付で話を終えた彼らがこちらに歩いてきた。

 私はバレない様にそっと顔を隠し、気配を殺す。

 

「さーて! 今日はどうすっかな~」

「さっきの依頼はどうする?」

「別に急ぎじゃないんだし~ お昼からでいいんじゃない?」

「だな。昼まではのんびり行こうぜ」


 ダラダラと席に座り、朝からお酒を注文するダリル。

 Sランクに上がって忙しくしているのかと思ったら、意外とそうでもないらしい。

 むしろやる気が感じられない。

 理由は……何となく予想できるけど。


「なーかあれだよな~ せっかくSランクになったのに、あんまやる気出ないというかさ~」

「そうだよな~ 依頼の数は増えたし、羽振りも良くなったんだけど」

「ねぇ~ 簡単にお金も入るし、前より楽すぎてむしろ暇よね~」


 やっぱりそうかと、私は小さくため息をこぼす。

 ランクが低い頃は、明日を生きるために毎日を必死に生きていた。

 それが今、金銭的に余裕が出来てしまったから、真剣に取り組む必要がなくなったのだろう。

 割とよく聞く話だ。

 ただし彼らの場合は、他にも理由があるみたいだけど。


「そう言えば聞いた? あの噂」

「噂って何だよ」

「新しいSランク冒険者のこと! なんか北の方でソロの冒険者が認定されたんでしょ? しかもそいつ、霧使いらしいわよ」

「霧使い? なーんかそれ、あの女を思い出すな~」


 私は思わず反応しそうになってしまう。

 彼らも思わないだろう。

 話題に出した人物が、今ここにいるなんて。


「あいつも馬鹿だよな~ 俺の女になっときゃ今頃楽できたのによ~」

「あの時のリーダー、わりと本気だったよな?」

「馬鹿言うな。あんな地味な女、身体以外で目を引く所なんてねーよ」


 私がぐぐっと服の裾を握りしめる。

 我慢だ。

 今はまだ我慢の時。

 必死にこらえながらも、彼らの話に耳を傾ける。


「案外そのSランクって、あの子だったりして~」

「はっ! ありえねーだろ」

「それもそうね~ そういえばリーダー、試合ってもうすぐでしょ? 大丈夫なの?」

「すぐじぇねーよ。まだ五日もある」


 試合?

 何かの大会にでも出場するのかな?


「おう問題ねーよ。ぶっちゃけ大きな声じゃ言えねーけど、俺が勝つことは決まってるからな」

「まっ、そうよね~ でも王族も見に来るんでしょ?」

「貴族主催だからな。注目選手だぜ~」


 ダリルは自慢げに語る。

 どうやら明後日、何かしらの催しがあるらしい。

 話からしてダリルが出場するみたいだけど……何か裏がありそうな雰囲気だ。


「……試合か」


 ギリギリなりそうだけど、動くならここかもしれない。

 そう思った私は席を立ち、ギルドを後にした。


  ◇◇◇


 最強武芸者決定戦。

 何とも安易なネーミングの大会が、王都で開催されることになった。

 主催は王都でも名のある大貴族。

 参加者は王都だけでなく、国中から集められた猛者たちだ。

 優秀な人材を欲する王国騎士団や、王家の血筋をひく者たちも注目している。

 開催場所は、主催の貴族が建造した巨大闘技場。

 大会はトーナメント形式で行われ、最後まで勝ち残った者の勝利となる。


「今日は頼みますよ、ダリル」

「ああ、もちろんだぜヒューゲルの旦那。そっちこそ大丈夫なんだろうな?」

「ええ、すでに手筈は終えていますので、問題なく勝ち上がれるでしょう」

「はははっ、旦那は悪い人だな~」


 試合開始前、ダリルは髭が特徴的な貴族と話をしていた。

 彼はこの大会の主催者ヒューゲル・メイソン。

 王国屈指の名家であり、王族に次ぐ権力を持つ重鎮でもあった。

 彼らは内密に、確かに手を結んでいる。


「全ては国のためです」

「はっ、自分のものになる国のため……だろ?」

「ふっ、そうとも言いますね。出場者の根回しは終わっております。後は頼みましたよ?」

「おうよ。任せてくれ」


 二人はニヤリを笑みを浮かべる。

 見据えているのは互いの利益。

 ダリルは金、ヒューゲルは地位を手に入れる。

 そのためなら不正も厭わない。

 不正もバレさえしなければ、誰からも咎められはしないのだから。


 そう。

 バレさえしなければ問題ない。

 逆にバレてしまえば、彼らが求める物は一切手に入らず、代わりに不名誉な称号を得るだろう。

 犯罪者という。


  ◇◇◇


 会場には王都中から多くの観戦客が集まった。

 中には名のある貴族の姿も見える。

 ダリルが参加するとあって、冒険者たちも観戦席に座っていた。

 多くの人たちが注目している。

 王族の眼もあるし、私の力を示すなら絶好の機会。

 

 そして始まる第一回戦。

 パフォーマンスの意味もあり、一回戦目からダリルが登場した。

 

「本大会一番の注目選手! 若くしてSランク冒険者パーティーとなった天才!」

「どうもー」


 大々的な宣伝を受けながら登場したダリルに、会場から歓声が飛び交う。

 対照的に相手は、特に宣伝もない。

 あくまでヒューゲルが用意した選手に過ぎず、ダリルが格好良く倒すだけの相手。

 有名選手でもなかったお陰で、私も動きやすかった。

 私は変わらずフードにローブだから、向こうも正体はわかっていないだろう。

 

「それでは第一試合開始!」


 戦闘開始の鐘が鳴り響く。

 

 さぁ、まずは確認だ。

 この二年でダリルがどれだけ強くなったのか。

 私の努力が、どこまで彼に届くのかを。


「確かめるんだ」


 私は腰から剣を抜く。

 細く長いサーベルの切っ先をダリルに向け、すぐさま全力で駆けだす。


「うおっ!」


 ダリルは一瞬だけ驚いて、腰の剣を抜く。

 私の斬撃に合わせて剣を構え、いなし受け流す。

 そのまま流れるように身体を回転させ、攻撃に転じる。


「へぇ、中々やるな。ちょっと驚いた」

「っ……」

「まぁ第一試合だしな。俺の強さを際立たせるためにも、多少骨のある奴が相手じゃないと――なっ!」


 つばぜり合いから、ダリルは力任せに私を吹き飛ばす。

 単純な力比べではこちらに分がない。

 ならば速度で翻弄しようと、私は右へ左へステップを踏み、正面からではなく左右から攻撃を仕掛ける。

 が、これも難なく止められてしまう。


「チッ」

「動きは悪くない。でも俺には遅く見えるぜ」


 今度はダリルが攻めに転じる。

 絡めてではなく真正面から、剣速と力技で攻めてくる。

 一時的に距離を取ろうとした私だけど、ダリルがそれを許さない。

 すぐに間合いを詰められて、怒涛の攻撃を繰り出す。

 

「くっ……」


 私は受けるので精一杯になった。

 予想は出来ていない。

 認めたくないけど、ダリルの剣士としての才能は本物だ。

 彼の性格を考えても、さして努力したとは思えない。

 それでも尚、二年の月日で別人と思えるほどの成長を遂げている。

 まさに天才だ。

 私が二年間積み上げてきた努力も、彼の才能の前ではお漏れてしまう。


「悔しいな……」

「あん?」


 私は剣と剣を弾き合わせ、一時的に距離を取る。

 あえて戦う姿勢を崩すことで、ダリルもそれを察し剣を緩めた。

 私たちは向かい合い、剣を構えたまま言葉を交わす。


「この二年……少しでも強くなりたくて、剣術も特訓したのに」

「何の話か知らねーけど、悪くはなかったぜ。一回戦の引き立て役としては十分な強さだ」


 彼にとってはその程度か。

 息も上がっていないし、大して疲れてはいないだろう。

 剣術だけじゃ、彼には敵わなかった。


「つーかさ、声聞く限り女だろ? せっかくの舞台なんだ! そんなフードなんて被らず顔を出せよ」

「……そうですね」


 もう十分に確かめられた。

 確かに頃合いだ。

 私はフードに手をかけ、ゆっくりと顔を見せる。

 

「へぇ~ 中々良いか……お、お前……ミスティア?」

「良かった。声は忘れても、顔は覚えていてくれたんですね」


 私の顔を見たダリルは、ひどく驚いたように目を丸くしていた。

 まるで生霊でも見たような顔だ。

 あり得ないと、言葉に出さなくても表情で伝わる。


「何でお前がここにいる?」

「普通に参加したんですよ? あの貴族の人、用件さえ満たせば誰でも良かったみたいなので、私が立候補しました」


 ダリルは表情を険しくする。

 会場のみんなにはきっと伝わらないだろう。

 私のことを知っている人なんて、王都には数えるほどしかいない。

 二年も経過しているし、精々元メンバーの数名くらいか。

 主催者であるヒューゲルも当然知らない。

 私たちの関係を。


「……どういうつもりだ?」

「私は、ずっと待っていたんです。この街に戻ってくる日を……貴方と再会できる瞬間を」

「くくっ、そうかそうか。復讐って奴かよ?」

「……」


 答えない私に苛立ったダリルが言い放つ。


「だが残念だったな! それなりに頑張ったらしいが、お前の剣じゃ俺には到底及ばない!」

「……そうですね」

「復讐は失敗だ! 逆にお前はこれから、大衆の面前で大恥かくことになるぜ! どうする? 今ならまだ、泣いて謝れば許してやってもいいんだぜ?」

「お断りです。私の答えは、あの日から変わりませんから」


 私は即答した。

 出来るだけ笑顔で、清々しく。

 それが気に入らなかったのか、ダリルは大きく舌打ちをして。


「そうかよ! だったら思い知らせてやるよ!」


 本気の顔になって、剣を振りかざす。

 私は動かない。


「お前じゃ反応すらできねーだろ!」


 彼は私が反応できないと思っているらしい。

 違う。

 動く必要ながないだけだ。

 

「一つ、勘違いを正しておきましょう」

「なっ……」

「今の私は剣士じゃない。霧の魔術師です」


 思いっきり振りかざしたダリルの剣は、私の身体を両断した。

 肩から胸にかけて斜めに斬り下ろした。

 ダリルは青ざめる。

 斬った感触がなかったこと、血が流れていないこと。

 それを含めて、斬り伏せた場所が霧状に変化していたことに、彼は気づいてしまった。


「な、なんだこれ……」

「東北のとあるダンジョンには、太古昔の魔導具が眠っていました」


 目の前の現象を理解できないダリルに、私は親切心から語る。

 

 今から一年ほど前。

 東北のダンジョンに潜った私は、一つの魔導具を手に入れた。

 その魔導具の効果は、力の変換。

 ある種類の力を、別の種類の力へ変換できる。

 

「その魔導具によって、私の『霧隠れ』スキルは術式に変化した」

「何の話をして――」

「まだわからないですか? 魔術の術式になったことで、このスキルは完全に別の力へ進化したんです。霧を自在に操り、自身の身体すら霧に変えられる」

「身体を霧にだと?」


 彼の剣は私の身体をすり抜ける。

 霧状と化した私の身体には、どんな攻撃を通じない。


「『幻幻葬霧(げんげんそうむ)』――これが、私の魔術です」


 ダリルは咄嗟に距離をとる。

 すり抜けた剣を確認して、霧から戻った私の身体を凝視する。


「先に言っておきますけど、幻術じゃありませんよ? それは別です」

「うるさいぞ。そんなことは直接見た俺がよくわかってる。幻の感覚じゃなかった……」

「さすがですね? もう理解できましたか?」

「……ああ、よくわかったよ!」


 ダリルが豪快に剣を振るう。

 あきらかに剣が届かない距離だ。

 しかし彼が振るった剣が炎を纏い、火炎と熱が私を襲う。


「これは!」

「はっは! 驚いたかよ? 魔術が使えるようになったのはお前だけじゃねーんだよ!」


 驚いた。

 これはさすがに予想外だった。

 剣士としてだけでなく、魔術師としての才能もあったなんて。


「つくづく腹立たしいですね」

「どうだミスティア! 霧に変えるか知らねーが、所詮霧なんてただの水だろ! だったら熱で全部蒸発させてやるよ!」


 勝ち誇ったように叫ぶダリル。

 しかしすぐ違和感に気付き、表情を曇らせる。


「どういうことだ……何で熱が届かない?」

「ただの霧じゃありませんから。私の操る霧は、高密度に圧縮された魔力の塊なんです。つまり、霧であって霧ではないもの……その程度の炎じゃ、私を枯らすことなんて出来ませんよ?」

「て、てめぇ!」

「それでも霧は霧です。霧は人を迷わせ、騙し、欺くもの。例えばこんな風に、幻を見せることもできるんです」


 一粒一粒が高密度の魔力。

 それを霧状に変化させ捜査することで、偽りの姿を構築することも出来る。

 私は天に右手をかざす。

 大量に放出された霧が集まって、一つの映像を形作る。


「こ、これは……」

「見覚えがありますよね? このやりとりに」


 映し出されたのは、ヒューゲルとダリルの密会。

 厭らしい笑みを浮かべる二人と、多額の金が積まれたケースがある。

 霧で構築された映像は、観客席にも届いている。

 

「調べるのは簡単でしたよ? 貴方が貴族に金で雇われていることも。この大会の全てが計画的なもので、最終的には貴方が優勝するように仕組まれていることも」


 ダリルの顔色が変わる。

 額からは汗が流れ落ちている。


 彼らは最初から裏で繋がっていた。

 ヒューゲルという貴族は、今の地位に満足せず、王族にとって代わろうと考えていたらしい。

 すでに相当な権力者である彼は、王族により取り入ることで、内部から国を操ろうと画策していた。

 この大会も目的はそれだ。

 ダリルを目立たせ優勝させることで、王族に注目させる。

 彼は王都でも名の知れた冒険者で、屈指の実力者でもある。

 そんな彼を味方につける自分は、この国にとっても有力な存在だとアピールする。

 その足がかりが大会の開催だった。

 

「随分と回りくどいことを考えますよね。正直最初は意味がわかりませんでした」

「お前……どうやってそれを」

「だから言ったでしょう? 調べるのは簡単だったって」


 私の術式は霧を操り、幻を生み出せる。

 欺き騙すのはお手のものだ。


「もし次があるなら、見ている者全てが嘘かもしれないって思ったほうがいいよ」

「……くくくっ、次か。じゃあそうさせてもらおう」


 直前まで冷や汗をかいていたダリルが、突然ニヤニヤと笑い始める。

 私は眉を顰める。


「馬鹿だなお前。俺を追い詰めたつもりかもしれねーが、詰んでるのはそっちだぜ?」

「……どうして?」

「わからねーか! こんなもん全部幻じゃねーか! 証拠も何もない。仮にあったとしても握り潰せる。それが貴族なんだよ。捕まるのは俺を嵌めようと嘘を吐いたお前だ!」

「……そう。じゃあ言い逃れできなくしてあげる」


 にやけて歪んだ顔を、もっと歪ませよう。

 私は霧を操り、懐から取り出した大量の紙をまき散らす。

 これらの紙は、とある契約書の複製だ。

 内容はもちろん、どこかの冒険者と貴族の欲にまみれた計画。

 

「なっ、こ、これは!」

「契約書くらいちゃんと管理しなきゃだめですよ?」


 彼の家からこっそり拝借させてもらった。

 原本は観覧している王族の手元に、複製は会場の人たちが見えるように。

 ついでに貴族の人は他にも悪さをしていたみたいだから、まとめて証拠になる物を集めておいた。

 サービスで一緒に王族の元へ送ってある。

 今頃きっと、あの貴族は青ざめて、王族は顔を真っ赤にして怒っているだろう。

 とは言えそれは、私にはあまり関係ない。


「さぁ、仕上げましょう」


 ずっとこの日を待っていた。

 私を見下し、捨てた彼を見返すために。


「私はここまで来ましたよ?」

「く、来るな!」


 ダリルは大雑把に剣を振るう。

 残念ながら剣で霧は斬れない。

 彼は後ずさりながら剣を振るい。

 その表情は徐々に恐怖で満ちていく。


「あの時、貴方はいいましたよね? 私には逃げるくらいしか出来ないって。今はもう違いますよ」


 濃く白い霧に覆われれば、人は自分以外を見失う。 

 私の霧に包まれると、周囲の気配はまったく感じられなくなる。

 

「な、何だ?」


 そして霧を吸い込み続けると、徐々に脳への影響が現れる。

 見えてもいない霧が、ずっと頭の中にかかっているような感覚に苛まれる。


「ど、どこだここは! おいミスティア! どこにいるんだ!」

「私はいますよ。貴方の傍に」

「ふ、ふざけるな! どこにいやがる!」


 もはや彼には霧は見えない。

 脳を支配され、視界は霧で覆われたまま。

 

「さようなら、ダリル」


 一度で私の霧に呑まれてしまえば、二度と晴れることはない。

 それこそ『幻幻葬霧』の力。

 怯えるダリルに私は言い残す。


「そのまま永遠に……霧に迷えばいいよ」


 私は立ち去る。

 後のことは、王族や騎士団に任せよう。

 騒ぎが大きくなる前に、霧で会場を覆ってから抜け出す。

 あの時とは違って優雅に、ゆっくりと去る。


「終わったんだ……ううん、違うよね」


 終わったんじゃなくて、始まるんだ。

 ここが私にとってのスタートライン。

 過去に対するけじめをつけて、今度こそ私は……私の幸せを掴むために生きよう。

 それが出来るくらい、強くなれたんだ。


連載候補の短編になります。

明日も別の短編を投稿しますので、そちらもお願いします!


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【面白くなりそう】と思っった方も、期待を込めて評価してもらえるとやる気がチャージされます!

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