第90話 身分詐称
突然のペイン達一行に驚きながらも、「げっ」と漏らしたのはライアーでもなく予想外にもクロロスだった。
「なんっ、なんでここにお前が」
「おわーーーーーーー!!!!」
シュバッ、とペインを連れてクロロスは一気に距離を取った。
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「おいおいおいおいエルドラードお前、お前エルドラードだろおいなんでリィンと一緒に……」
「んぎゃっ、か、勘弁してくださいってヴォルペール様。しー! しー! 俺身分隠してるんですって!」
「それは俺もだっての!」
ペインが驚愕の色を色濃く見せながらクロロスに物陰へと連れてこられる。あまりに驚き過ぎたが名前を叫ばなかっただけお互いセーフだろう。正体がバレてしまうのはちょっと色々避けたい。
リィンに聞かれないようにと小声で話し始める2人。
クロロス・エルドラード。
リィンが王宮の牢屋の中で出会った大臣の、約10番目くらいの子だ。ちなみにどれだけ兄弟がいるのかぶっちゃけ本人でも理解していない。多分理解しているのは当主のみだ。
代々エルドラードは王家に仕えている。そして金の血の管理を徹底的にしている。そのため色々な年齢層に合わせる必要があり同担もとい手駒が多いのだ。
覚えて欲しいのは金の血あるところにエルドラードあり。
たとえ髪色が違おうと瞳の色が違おうとそばにいるし、特に国王の子とは確実に同い年になるように仕込まれている。何をって、ナニをである。
「いやー。俺はヴォルペール様の従者ですけど、まさか……」
「まさか」
「おっと、なんでも……。(まさか王家の血を確実に引く金髪に出逢えるとは)」
──金髪が王家の血を引くことの証明。
第4王子ヴォルペール君には内緒のことである。
というか金の血ガチ勢なことも内緒なのだ。国王には知られているがエルドラード家は推しに認知されてもオタクと思われたくない人種なのだ。多分種族が違う。
青い目と緑の目が混ざりあった。
同じ黒髪なことを見るとまるで双子の様だ。
「わざわざ俺の髪使って目立たないようにしてるし」
「仕方ないでしょ!? 俺の髪目立つんですから!」
クロロスの地毛は父に似て青に近い銀髪。黒い髪はペインの切った髪を使って作ったカツラである。
黒い髪は変装するのに便利で無難な色なのだ。
ちなみに昔髪の毛を伸ばしていたヴォルペールのことを女の子だと思っていたし、なんだったら初恋も捧げ終わった。金髪は性癖だが碧眼も性癖なのだ。
「本当になんでお前がリィンと一緒にいるんだ? グロリアスの指示?」
「も、黙秘し……」
「主人命令」
「あぎゃあーーー! うっ、うっ、細かくはエルドラード家の使命に関わるので言えませんけど父上の指示でリィン嬢を惚れさせてこいって言われました……」
「えっ、無理だろ」
「多分無理だろうから仲良くはなっとけとも言われました……」
主人の即答にちょっと泣いた。
おかしいな。俺結構イケメンって言われる部類なんだけどな。
まぁ実際会って分かったが。色恋を手段として考えてうつつを抜かすことは絶対無いだろうな、って。
「お前さ、貴族っぽさを誤魔化せないんだから庶民に化けるのだけはやめろって俺何回も言ったよな」
「無論それは承知です」
クロロスの首に回ったペインの手が首を締め上げる。ぐぇー、とカエルの潰れたような声を発しながら頑張って言い訳を重ねた。
「俺が貴族である事はバレる前提です。その上で俺をどう使うか見たかったんです〜〜っっ」
ひんこら言いながらも伝えた言葉に、ペインはなるほどなと納得する。
女狐だとリークしたのは自分だ。
大臣が魔法ではなく社会を生き抜く力として女狐の実力を図りたがっているのかもしれない。
……実際は王家の血を引く金髪の実力を確かめたいだけだが。
大臣であるグロリアスの考えているリィンの処理はこうだ。
パターン1、クロロスをエルドラード家から追放しリィンと結婚させその子供を金の血を引く四家に養子に出す。
パターン2、リィンをどこかの貴族の養子に迎え、四家と婚約させる。
パターン3、一切結婚しないよう、子供を産まない様に見張る。
パターン4、殺す
以上だ。
なんとしてでも、血を無闇矢鱈に広げたくない。あとエルドラード家に嫁がせるのは論外だ。中立にならない。
まぁそんなことを当主でもない王子に言えるわけがないのでスススと視線を逸らした。
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
深く深くため息を吐く。
「いいか、お前がどこまで知ってるのか知らねぇけど。──ぜっっっっったい嫁には出さねぇからな」
「要らない要らない絶対要らな」
「誰が要らぬって?」
少女の声に男2人はギギ……と錆び付いたブリキのおもちゃのように振り向いた。
そこには話題にしていた金髪の少女が。
「ど、どこから聞いてた?」
「ぐぇー、って唸るところぞ」
「ヒェッ……」
それってつまり俺が貴族だということ確定させちゃったわけですね。
クロロスは顔色を青白くした。
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やっぱりクロロスは貴族だったか。
というかわざとだったのね。
『俺が貴族であることはバレる前提です』ってとこら辺から聞いていたけど、貴族のクロロスとペインが知り合いってことは。
──もしかして、ペインも貴族とか……?
「あ、言っとくが俺は貴族じゃねぇからな」
そんな疑惑を払拭する様にペインがしれっと答えた。
嘘は吐いてなさそうだけど。
「別におっさんと違って貴族が嫌いなわけじゃないからコイツと絡んでるけど、貴族ならもっとお上品だろ」
……。
私は脳内でペインを思い返した。
どう考えてもマナーを知らず、劣悪な環境を知って、それでお下品なペイン。他人に喧嘩売るし、初対面で魔法をぶちかまし、リーヴルさんに思いっきり蹴られたペイン。
「うん、そうですぞね」
「(それはそれで普通に癪だな)」※王子
私の頷きに一拍置いて「だろー?」と言いながらケロケロ笑う。
「それよりどうしてペインがカジノに? 依頼は?」
「それ俺の方が聞きたいんだけど……。ほら、お前一応色々巻き込まれてんだろ? それで、依頼とカッコつけて何か手伝えないか、貴族街の依頼主中心に依頼をこなしてたんだ」
照れが勝るのか何かを誤魔化しているのか分からないがペインは視線を逸らしながら理由を答えた。
「なぁリィン、お前ギャンブルやったことあんの? イメージはあるけど」
「運ゲーは嫌いです」
「お、おう……?」
ライアー達のところに戻ろうと歩き始めたら追いかけるようにペインが横に並んだ。
「ポーカーとかですと得意です」
「「分かる」」
「声ぞ揃えるな」
「オレギャンブルとかあんまやったことねーから楽しみ! あ、ちなみにこの服な、魔の森でジャイアントスパイダー討伐した報酬なんだよなー!」
うちの双子の兄の方が賭け事好きだったんだよね。
通用するかはさておきルールはひとまず頭に入っている。
まぁ、大金賭けて目をつけられることを目標にしているけど、1番優先すべきは地形の把握かな。
色んなゲームを無邪気に回って建物の構造とかサイズ感とか調べるとしよう。
「なーおっさんー!」
「誰がおっさんだクソガキ」
「おっさん何が得意? オレねースロット!」
見るからに分かりやすい猫を被りながらペインが聞く。
「運要素の強いゲーム……だな」
「お前らコンビ対極過ぎて笑える」
「「笑うな」」
「声を揃えるな」
私、本当に運が無いんだよね……。
今まで清く正しく美しく生きてきたから悪運がどうなのかは知らないけど。
間違いなく丁半系はハズレを引くから、運のいい人がいるなら私の反対に大金かけさせるけど。
「私はもちろんこういうの初めてよ、ふふ、楽しみ」
バブフがぽやぽやと噛み殺されそうな雰囲気で笑っている。呑気な。
「クロロスお願い」
「ねぇリィン嬢、俺を(貴族だと)理解してるのになんで命令する度胸あるんですか? やるけど」
「やるのかよ」
その上で俺をどう使うか見たかったんですよね?
それが貴族様のお望み通りなら使ってあげるよ。
「まぁ勝負は私たちがする故に、そっちはそっちで楽しむすて」
「は? 俺も楽しみたいんだが? キレイどころの姉ちゃんいっぱいいるからナンパしたいんだが?」
「アイボー様のその冤罪ぞある中で遊ぶ度胸is何?」
度胸があるのかないのかはっきりして欲しい。