第80話 自己矛盾の存在
冒険者ギルドでギルドマスターにラリアットを喰らわせたら場が湧いた。
==========
応接室にて、ギルドマスターとサブマスターセットでお話の時間となった。
一応サブマスのエティフォールさんには仕事は大丈夫なのか聞いてみたけど、どうやら職員がちゃんと動けばトップ達が動かなくてもいい感じにはなっている様子。ダクアの労働環境が劣悪だってことがよく分かるよね。
「それで、冒険者大会に出場ぞさせた目的は?」
私がふんぞり返って見下ろす。
多分だけど、冒険者大会も終わり利用されたと私が気づいた段階でこの2人は目的を達成しているとみていいと思う。
だから探るよりは直球勝負。なんの誤魔化しもなく聞くに限った。あと第2王子の件がある以上余計なことに時間使ってられない。
「あぁ、それなら簡単だ。実力確認」
ゼウスさんがなんてことない顔をして言った。
「ま、想像以上にやれるみたいだけど。どこのギルドでも気になるもんだぜ」
「要注意人物って忠告が出された以上、書類では書ききれない情報を独自で入手する必要がありますし、ギルドとして共有出来ない情報は絶対にありますから」
エティフォールさんは私を見て、例えば、と口を開いた。彼の片手にはギルドに登録する時に書いた書類が。なんで王都にあるの……?
「攻撃魔法の地水火風と書いてますけど、実際防御魔法と空間魔法も使えますよね」
ギルドとして共有出来ない情報って、そういうことか。
予めギルドで攻撃魔法だけにしといた方がいいって忠告されていたもの。
というか、ギルドが実力確認する為って言う理由にすごく納得した。
グリーン領でも、コマース領でも、なんだかんだ確認されていた気がする。いい具合に誤魔化されながらね。
「大会の2戦目、あの時は確信が持てませんでしたが。テレポーテーション使いましたね?」
てれぽーてーしょん。
古代語……えぇと……確か意味は。というか使った魔法は。
「瞬間移動魔法なれば使うました」
「あぁ、瞬間移動魔法。ま、内容は同じですけど。私の言い方は古臭かったですね」
古臭いかもしれないけど、瞬間移動魔法って言い方は絶妙にダサいと思う。
あ、脳内のお友達に言っとくけど、この世界、外国語って言う文化はなくて外国語みたいなニュアンスで使っているのが古代語なの。昔使ってた言葉ね。
冒険者ギルドのギルドって言い方も古代語で、今の言い方に直すと同業者組合とかって意味になる。日常的に浸透しているのよね古代語が。
……だっっっっから私はこの世界の言語が苦手なんだよ。
「そういえば、お2人が自らやってきてくれてとてもありがたいです」
エティフォールさんがそんなことを言い放った。
ストレス発散……もとい、モヤモヤしたままだと気持ち悪いし真意を確かめにやってきたけど。もしかして来ない方が良かっただろうか。
「実は商会の方があなた達に、特にリィンさんに会いたいと来ているんですよ」
思わずうげっと顔を歪めるとギルドの2人が笑った。
「お前らなぁ……毎年恒例なら宿の前に色々屯ってんの知ってるだろ」
「冒険者パーティーに勧誘のお誘いか? それとも信仰団体の勧誘か? はたまた寄付って話もあったか」
冒険者大会を出禁になったというゼウスさんが面白がるように笑みを深める。ライアーはため息を吐いた。モテモテってそっちを求めてるわけじゃないんだよ、と言いたげなため息だ。
「それだけじゃなきです。貴族の使者ぞ、うじゃうじょ」
「うじゃうじょってなんだよ。新しい言葉を作るな」
「貴族が……? 珍しいな。そりゃ歴代活躍冒険者の勧誘には居たけど」
「あぁなるほど。貴族当主ですか」
首を傾げた魔族と納得したエルフ。
どうやら私とライアー……いやどちらかと言えば使者達が向けていた視線が私だった。私が貴族に目をつけられる理由をエティフォールさんはご存知のようだ。
「何故?」
「だってリィンさん、親が居ないでしょう?」
「えっ、あ、うん。うん?」
いるけど。
貴族としての親はいるけど、冒険者としての親は微妙かもしれない。母親はどっちにしろ亡くなっているし、パパ上は父親と言えないような気がする。
「年頃の可愛らしい顔つきの優秀な魔法職。貴族が養子に、と考えないわけが無いでしょう」
しれっとした顔でそう言った。
目立たないタイプとは言え美形の多い(と聞く)エルフに言われると嬉しいような、微妙のような。
「(それにリィンさん金髪ですからね……。養子に取り、金の血と言われる家系のどこかに嫁に出せば簡単に上位貴族と繋がりが持てることになりますし、国家に恩も売れるでしょう)」
エティフォールさんはスンと表情を消した。
「(人間のこだわりに興味はありませんが、王族の血をどこかで引いているリィンさんなら、もし、本当に運が良ければ王族に嫁ぐ事ができる可能性を秘めているし。金髪が金と血になると分かっている貴族は金の卵を逃したくないでしょうね)」
考え込んでいらっしゃるようだ。手を振ってみても見えなかっみたい。
「こいつ集中力すごいんだよ」
「わかるです」
んで、とライアーが口を開いた。
「ギルドがわざわざ口出す商会、なんてのだ。普通の商会じゃねぇだろ」
「シャルマン商会だ。知ってるか?」
「…………シャルマン商会?」
どっかで聞いた事あったような……なかったような……。
「実は冒険者大会の第1戦目の後にすぐギルドに訪問してくれたんだよ、そこの商会長がよ。今伺っても邪魔になるだろうし、Fランクだから指名依頼も使えないだろうからって」
おおう、よくご存知で。
ライアーも聞き覚えがあるのか頭をひねっている。
「ちょうどその御仁が来てんだ。くれぐれも、と言われてたんだが。お前らが嫌がるようなら無理矢理来させるなって」
「そりゃ、こちらに都合良すぎて逆に怪しすぎるな」
「なんでも謝罪と感謝をしたいんだとよ。王国でも数少ない巨大商会にお前ら何したんだ?」
その商会長、結構いい人なんじゃないかな。そして頭が切れる。
第1戦目から目をつけていたってことは優勝とか成績とかの結果に興味が無いってアピールすることと同じ意味になるし、ギルドに協力を頼んだのも冒険者であれば必ずギルドを利用するからだろう。わざわざ重役に知らせたってことは私達がギルドマスターレベルの人間(魔族)と関わりあいがあると知っている事になるし。
「あ、思い出した」
私より先にライアーが言葉を零す。
「ほら、あいつだよ。ダクアで子爵に嵌められた時に時間稼ぎしてた」
「前戯商会長さん!」
スパーーーンッッ! これはライアーが私の頭をひっぱたいた音。
==========
「商会長さんどうも!」
別の応接室に現れた私に商会長さんは席を立ち嬉しそうに笑顔で頭を下げる。
私もマントをドレスに見立ててカーテシーをした。めっちゃくちゃ下手くそな拙いカーテシーを。
「カーテシーは頭を下げるものじゃないですよ」
「えっ、そうなのですか!?」
そうなのです。
他の国はちょっと違うらしいがこの国のカーテシーは片足を引いて背筋を伸ばしたままするもの。
カーテシーをしながら頭を思いっきり下げるのは主のみ。つまりこの国では王様に向けてだけだ。
驚いたフリをしながらソファに座る。
もちろん私が下座。
「お久しぶりですリィンさん、ライアーさん」
「お元気そうで何よりぞ、です」
「どうも」
ダクアの外で盗賊騒ぎが起こり、盗賊を討伐した。その取得物の中にあったのは香辛料。それがこの商会長さんの香辛料で、私達というか主に私が彼と交渉をした。
一応勝ったけど、その後に仕込まれていた子爵の登場という時間稼ぎには負けたよね。えぇ、別に引き摺ってませんよ。別に。悔しくもなんともないし。別に。
「あの時はまともにお礼も言えずにすいません、この大会の為にも王都に急がなければならなかったもので」
「気にしてませぬよ」
マジで。
その後に色々問題が起こりすぎて。
「嵌めるような真似についても謝罪をしなければと思っていたのです」
「あれ、悪きは子爵です」
「……ただの冒険者が子爵と繋がりなんて持つか普通」
普通じゃないから持っているんですよ。
「まずは準優勝おめでとうございます。いやー、素晴らしかった。本当に。貴女を養子に迎え入れることが出来ないのが本当に悔しいくらいには。でも、私なんて言う小さな看板で鳥籠のように閉じ込めてしまわなくて本当に良かった。とても素晴らしい戦いでした」
コマース領に商会長さんが拍手と共に褒めてくれる。これで顔見知りだからと欲を出して『養子に迎えたいです』とか言い始めたら私は縁を切っていた。
利益に利用されるのを嫌だとは言わないけど、1度キッパリ断ったことを繰り返す無能に興味は無い。
「商会長さん、コマース領が拠点なのでは? 王都に居るすてよろしきですか?」
「私の商会はクアドラード国内どこにでも香辛料の流通をしておりますが、やはり王城に納品する商品は商会長の私がいなければ、信用問題でしょう」
「王室御用達!??!???」
「お前なんでそんな庶民の一般会話に関わらねぇ単語を知ってんの? 一般会話すら未熟な癖に?」
ライアー、お黙りなさい。
「まぁ王室御用達ですね。ですから、たとえファルシュ領に納品する物でも盗賊に奪われました、が拙い事だったのですよ。ですから改めてお礼を」
はっはーん。気づいちゃった。
もしかして:実家で食べてた香辛料はこの人の商品
王室御用達の香辛料商会が辺境伯なんて貴族に商品を出さないわけが無い。ありがとうございます、おかげでご飯は美味しかったです。
「注目も集まり困り事も増えますでしょう。もし困り事がございましたら是非私の所へ。しばらく王都にいますので」
「それは……」
非常に助かる。ただでさえ困り事に直面しているというのに。
伝手が出来るのは嬉しい。
「頼るですねー」
「商会でどうにかなるような問題じゃねぇけど」
「アッハッハッハッハッ☆」
現実だけは逃避したい。
「──商会長さん、本音は?」
「準優勝冒険者と繋がりがある商会なんて、箔が付くでしょう?」
「私そういう裏ぞ理解させてくれる人好きです」
上っ面取り繕ってるよりは誠実に来てくれる人の方が信用出来るよね。まあ私の脳内辞書に誠実という文字は置いてないんだけど。