第69話 我慢の限界チャレンジ
「お、今日の喧嘩見てたよリィンちゃん」
「応援してるぜー。相棒に勝てよー!」
「嫌ですっ、コンビ解散するっ…!」
試合が終わってしばらく街をフラフラしてたら早速大会を見ていた市民から声がかかった。
えぇーい! ライアーとは方向性の違いで解散間際なんだ! そんな『うふふ喧嘩は子供の仕事だものね』みたいな視線を向けるな!
大体っ! 私は子供だよ!?
結局ライアー1人も潰してなかったし、普通子供の意見に合わせようとか思わないの!? 14歳相手にムキになって同じ土俵で言い争うの馬鹿みたい馬鹿だったわごめんあそばせ!
……と言うか、私の特大ファイアボール、人3人まとめて即死判定出るくらいには威力あるんだ。
それよりさらに威力を上げた魔法を防ぎきったリーベさんと、軽くしてたとはいえ易々と打ち消(物理)したバックスさんが化け物だな。
いやまぁね、大火傷を負えば冒険者活動には致命的だし、魔導具が判断する『致命傷』のラインが私の想像より低いかもしれないから、素直に威力測るのには向かないな。わかんないよ。
「……ッ、じゃなくて!」
ぷんすこ大きく足を踏み鳴らしながらトストス町中を行く。宿とは反対方面だ。
開幕だったので時間が余りまくっている。ペイン達はまだ終わんないし、ムカ着火ファイヤーだし!
あーあー、大人げない人と何でコンビ組んだんだろ! いいや知ってるね! 女狐チート(ただの力技)の目撃者だったからだ!
「リィンー!」
後ろから声がかかる。
ライアーの声とは違うことを確認して振り返ると、幼馴染がいた。
「お兄ちゃん」
「やっほ、リィン。はぁ……走ったぁ……」
膝に手を付き切らした息を整えて、幼馴染は顔をあげた。
「久しぶり」
「久方ぶりぞ」
お互い笑いあった。
「立ち話もなんだし、どっかでお茶でもしない?」
「んぐぅ」
月組のナンバー2(実際トップ)のグレンさんと同じような一昔前のナンパみたいな手法でナンパされた。
「え、だめ?」
「人ぞ多いと、……見るすた観客に笑うされる」
「あー」
彼はふむ、と顎に手を当てて考えた後、上を指さした。
「時計塔、とかどう?」
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今更だが王都の地形を説明しようと思う。
王都の周辺は平地だ。王都の外壁の外には堀がある。
どこから水を引っ張っているのか分からないが、恐らく魔法だろう。普通に水が流れている。毒でも仕込めばいいのに。
王都内。
外壁の内側には庶民の生活の場が広がっている。東西南北、4つの門から入れるようで、それに合わせて大通りが設置されてある。
冒険者ギルドは東。つまり、魔の森(ダクアで言う西の森で、王都で言う東の森)に向かいやすい位置取りだ。
ちなみに東の門がメイン、1番大きな門だ。北と南はきちんと整備された街道に繋がっているため何台も荷馬車を使う商人達がメインになるのだろう。実際北と南は商業地帯であるし。
さらに土地は続く。内壁があるのだ。
恐らくこちらも魔法で作ったのだろう、一段高くなった土地がある。土地自体が二階建てのギルドより高いので10mくらいだろう。さらに内壁も5mあるということなので見晴らしは悪い。
内壁の内側は、当然貴族の住む街。
毎日決まった時間にそれぞれの方角から上下する地面……要するに魔法式のエレベーターが動くらしい。使用には関税がかかるらしいが、庶民が行けないということは無い。一応庶民の私には分からない。
そしてその貴族街の中心に王城が存在する。高く高く、内壁を飛び出して見える城は綺麗だ。ぶっちゃけ、防衛的に大丈夫なのかなって思う感じのきらびやかで見た目にこだわった城。
ま、貴族街ならともかく王城は行くことは無いだろう。
「ここ俺のお気に入りなんだよね」
幼馴染は東にある貴族街すら覗けてしまう時計塔で笑っていた。
まさか、この時計塔登れるとは。
時計を持っていない庶民でも時間を確認出来る時計塔。
裏にある扉は鍵が閉まっているんだろうと思いきや普通に開いていたし、めちゃくちゃ階段登ったけど私はサイコキネシス箒で誤魔化したので疲れてはなかった。
「まぁ、ここ、デートスポットの穴場って言うか……タイミング間違えるとリア充と鉢合わせる危険があるんだけど……」
21歳彼女無しが遠い目をして呟いた。
落ち込むなよ、多分お兄ちゃんにもいい人できるよ。
まぁ、私の目が黒い内は(勝ち逃げされないよう)結婚させないけど。
「それにしても久しぶりだな」
外が見える綺麗な場所を選んで座り込んだ彼がポンポン、と横の床を叩く。
私は大人しく座った。
時刻は昼。朝っぱらからの大会だったのでぶっちゃけ私もライアーも低血圧寝不足だったと思うんだ。
あんっっなやつ知らないけど。
「まさか、月組入るすてたとは思いませんですた」
「丁度リィンがダクア来たタイミングは遠征……まぁミッテル領で長期依頼受けてたんだよ」
ミッテル領は確かファルシュ領とコマース領と三角形の地理関係だったはず。
「通称薬学領だよ。魔法薬が栄えている街だ」
あまり興味が持てなかった分野だ。ほら、私バリバリ文系(言語不自由)だし……。
「……それに、あのライアーとまさか、コンビを組んでるとは」
その言葉に思わずムッとする。
都合はいいけどコンビネーションが全く取れないやつなんかコンビじゃないもん。
「あのおっさん、ソロです故に」
「今はコンビだろ」
いーやーだー。
もうコンビ解散するー!
「はは、お前さ」
「ん?」
ムニッとほほを引っ張られた。
「変わったな」
「みょ!?」
え、うそ。生まれてこの方精神安定&成熟してるから変わる要素もないと思うんだけど。
「メーディオにいた時はほら。今みたいに無邪気ではあったけどどっか遠慮してたって言うか。人見知りで探り探りいい子のフリしてたって言うか」
「ううーん?」
そう、だっただろうか。
庶民の生活という常識を知らないからボロが出ないようにはしてたけど。
「良かったよ。家庭内暴力振るう父親から逃げられて」
「アハハ〜」
……ケガしてる理由として挙げた嘘(ある意味真実)が未だに後引きづってる。
「でもね、本当に変わったよ。楽しそう」
「……。」
「多分ライアーといるからなんだろうな。あー。邪魔だなぁあいつ」
背中から倒れ込んで天井を見上げている。
うーん、そんなに楽しそうに見えるかな。
冒険者生活は確かに楽しいけど、それがライアーのおかげとは考えられない。
「いいことを教えてやるよ」
「なぁに」
「──この大会、出場は取り消せない」
それは悪い知らせだね!!!!!