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第57話 嫌いな食べ物はトマトだったりする



 魔物が現れた。


 どうやら魔物が極端に少ないグリーン領から抜け、コマース領内に入ったみたいだ。随分速い。


「……リィン、いけそうか?」

「むりみがアッパー……」

「なんて?」


 ダメです。

 乗り物酔いの私は無理です。


 ライアーの運転荒いよぉ……。スピードガンガン上げるんだもん……馬が可哀想だと思わないのか……。


 ぐでんぐでんに倒れ伏し、魔法のために集中する集中力も無い。これでは例えファイアボールだけだとしても満足に使えないだろう。致命的がすぎる。


 ダメだ、私はもうダメだ。私はいいから先に行け。魔物という名の死地に。

 ライアーには1人でやってもらおう。


「ライアー孤独ぞすて」

「不名誉な言い方をするな」


 スパンと後頭部に張り手が。

 うええええ気持ち悪いいいいい。


「……──ま、冒険者の先輩方がどうやらやってくれるようだな」


 ライアーは私を抱えると、馬車の外が見える位置に移動した。


「エレキアリゲーターが張ってたってことは。……ここを通る獲物は久しぶりだ、って感じで興奮してんな」


 人間が7人もいる集団の中に躊躇も警戒も何も無く襲いかかってくる魔物だ。飢えているのかもしれない。

 可哀想に。お腹が空くのは辛いよね。

 安心して。


 すぐに苦痛なんて感じないようにしてくれるから。ペイン達が。


「……お前もしかして今外道みたいなこと考えた?」


 なんの事やら。




 現れた魔物は血を浴びた様な毛色をしたボアが5匹。

 前衛にラウトさん、ペイン。中衛にネジ飛び野郎。後衛にリーヴルさん、サーチさん。


 あ、ペイン前衛職だったか。忘れてた。


「ラウトが大盾。ペインが片手剣。ふぅん、前衛職は見た目通りだな」


 ライアーの膝に乗っかりながら外を眺める。

 乗った瞬間ため息がした。


「お前……警戒心ってものはないのかよ」

「警戒って、どれの?」

「全部だよ。俺がここでお前を殺したらどうする。殺しはせずとも性的な意味で襲ったら?」

「はっ、冗談」


 私はその忠告に鼻で笑った。

 普通の人にならこんな無防備に距離を詰めないけど。ライアーは別だ。この人は計算高い。効率が良くて器用で要領が良い。


 だからここまで築いた信用を台無しにすることはないだろう。ここに至るまでの全ての時間が無駄になる。


「……。」

「何か?」

「いーや。お前って呆れるほど馬鹿だなぁって」

「あ??? 今喧嘩売る???」


──ゴッ!


 外で発した音にギョッと振り向く。


 ラウトさんが大盾でボアの突進を受け止めると、ペインが斬りかかった。ゆらゆら左右に揺れて何かを狙っているフードマンと、詠唱をしているリーヴルさん。


「なんか、王道って感じのパーティー」

「だな」


 そうやって観察している。

 サーチさんは手持ち無沙汰なのかナイフを片手に待機している。戦闘出来ないって言ってたし解体まで待機してい──。


「──プレゼントフォーミィー!」


「「…………は?」」



 イカレ男様が何か叫んだ後、目にも止まらぬ速さでボア5匹の足に紐が巻かれた。その紐で体勢を崩したボアは、慌てたように体を跳ねさせ、抵抗を見せる。が。

 恐らくリーヴルさんの魔法だろう。抵抗をやめる。そしてサーチさんが肉薄した。

 プシュりと頸動脈が斬られ、血がドバドバ流れていく。全てのボアの足首に紐が巻かれてあるから、きっと吊りあげればそのまま血抜きも出来るのだろうけど……。


「な、何が起こった?」

「見るは可能、ですたけど」


 思わずといった様子でライアーが立ち上がる。


 ボアの足首に巻かれていた紐は、フリルのついたどう考えても拘束には向かない様なラッピングリボン。


 どうしよう、理解が出来ない。


 なにが起こったのか分かるのに理解が出来ない。全く分からない。


 なんでリボン?


「リーヴルさんも何をやった……?」

「生活魔法というするより補助魔法の様な気ぞ……。ライアー、リーヴルさんの魔法理解可能?」

「お前が分からないのに分かるわけがねぇだろ」


 ラウトさんとペインの2人が戦闘であまりにも普通だったから油断したけど、リーヴルさんも中々にやばい気がする。

 分からない、理解できない、って。恐怖だ。


「……むしろラウトさんとペインが異常?」

「──それはひじょーーーーに心外だな」


 顎に手を当てて考えていると戻ってきたペインがツッコミを入れた。残念ながら何度考えても普通が異常にしか思えなかった。


「あの男の武器、何?」


 ギャーギャー騒ぎながら血抜きの準備をする3人。前衛の2人が戻ってきたのは邪魔になる盾を置きに来たらしい。

 ついでとばかりに質問すれば、遠い目をして答えられた。


「趣味」

「しゅみ」


 趣味か。趣味なら仕方ないね。


 いや仕方なくねーーんだわ。


「なんつーか。アイツおかしい奴なんだよ」

「「それは知ってる」」


 思わず標準語が出てくるくらいには知ってる。たった1日なのに驚くほど知ってる。


「曰く、死をプレゼント。なんだって。だからラッピングするんだと」

「全く分からぬ」

「微塵も理解できねぇな」

「あれ普通のラッピングリボンなんだぜ……? 雑貨屋に売ってるやつ。未だに疑問なんだけど、ラッピングリボンってあんな頑丈か……?」


 イノシシ5匹吊るしても大丈夫なリボンってなんだろうね。鋼でも入ってんの?


「……今日は機嫌がいいな」

「ずっと喋らせてなかったからな。テンションが、上がっているんだろうし、リィンとおっさんが思ってたより面白いから上機嫌なんだろうな」


 機嫌が悪い時を考えたくはない。


 短眉野郎がこちらにペインがいるのを見て、嬉しそうにニッコニコ笑い走ってきた。


「ごっ主人〜!」

「うわっ!」


 向こうで『後処理もやらんかクライシスーーーー!』って叫んでるサーチさんがいるけど、多分こいつの耳には入ってないな。(確信)


「ヒサカタブリの戦闘は腰に来ますな〜。よる年波には敵わぬでござる」

「あーはいはい。安心しろ、お前がじじいになってボケる前に殺してやるから」

「エッ何それプロポーズ?」

「俺は綺麗な嫁さん貰うからごめんな」

「なんかオラがフラれてる感じになってんの不服ぅ。おネイサン、アタクシ、き、れ、い?」


 そこでいちゃついてればいいのに私に話を振られた……!

 仕方ない。付き合ってやるか。


 ペインに抱きついてる物質を見る。

 肌はつやつやしているが、視力弱い人みたいに目は焦点が合わず、髪の毛はボサボサでキシキシ。多分水でガシガシ適当にしているだけだろう。目の下にはクマが生息している。顔色に血の気は無く、唇も血色が悪い。

 うーん。お世辞を使っても10点。


「悪夢に出るしそう」

「つまりお前さんが見せる夢ってコトネ!」

「誰が性格最悪ぞ!」

「……誰もンなこと言ってねぇだろ」


 いーや言ったね!

 なんでか分かんないけどこの男の副音声は聞こえるんだよね!


「まぁ言い得て妙だな」


 ライアーがため息吐きながら続ける。


「冒険者には社会不適合者と夢を見る馬鹿がいるが、お前は夢を見せる側の人間だ。悪夢をな」

「喧嘩売ってる???????」


 するとペインが訝しげな顔をした。

 スン、と鼻がなる。


「……クライシス、お前怪我してる?」


 その疑問に、めちゃくちゃ嬉しそうに笑った。


「あっはぁ……。流石ドロドロよろしく複雑な家庭環境抱いて血みどろの生活送ってきた坊ちゃん」

「おい待て酷い冤罪を連ねるな」

「正解はー! 正解でーす!」


 左手の服を捲りあげると、腕には赤いリボンが巻かれていた。

 ……ん?


 リボンの端の方に着目してみる。


 これ、元の色、白くない?

 待って、ならこの赤って、血液……?


「オラね、考えたのです。お腹がすいたカワイソーーな魔物ちゃん達。可哀想だよねぇ? めっちゃ可哀想だよね?」


 このガンギマリ野郎が幌馬車で座っていた位置は……最後尾。

 私はバッと来た道を振り返った。


 道印になるような、赤い点線が続いている。馬車の車輪跡に沿って真ん中に。


「だから餌はここだぜーーー。ってぇ、呼び寄せちゃった☆」


 そして赤い線の向こうに。土埃が。

 うーーーーーーん胃がキリキリしてきたぞう。


 この感じ、既視感。


「ッ、リーヴルサーチ! 急いで離れるぞ! このネジ飛び野郎がやらかした!」

「オレサマの脳みそは木組み建築で出来ているのでネジは出ませーん」

「頭のいい戦闘狂は手に負えないんだよ!!!!!!」


 とってもとってもとってもとっても、スタンピードに似ているなぁ。


「ゴフッ」


 限界を迎えた胃がトマト色の悲鳴を上げた。

 機嫌が良くてこの災厄度合いかよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 語彙力ないから上手く言えないけどォ…… リィンちゃんの周りは『普通』な人も普通でいられることが異常だし『異常』な人はやっぱり異常なんだよな……。 最近のライアーさんはリィンちゃんをお膝の…
[良い点] プレゼントフォーミー(はあと) 王道って感じのパーティーって眺めてたらラッピングリボンで捕縛!!? ガンギマリイカレ野郎戦闘もイカれてた! トリアングロではこういう戦い方が普通なのかな……
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