第53話 Mr.クレイジー
「おはよーさ……。なんでこんな空気なん?」
私とライアーの何も知らない2人が固まってしまいしばらく経ってしまったのだろう。ふと正気に戻ればサーチさんが仮眠から起きていた。
「クライシスの話を触りだけしてた」
「あぁーーそらあかんわ」
サーチさんの呆れた声に、このパーティーの最大の爆弾が判明した瞬間だった。
なんで、知り合ってそこそこ時間たってるけど、なんで空気に擬態してられたんだろう。
「トリアングロの、って、どう言うことジョリ!?」
「新しい語尾を生み出したなあ」
「は、え、じゃあシュランゲのことも知って!?」
「そもそも黙るすてたは何故ーーー!?」
私とライアーの疑問にペインは苦笑いで答える。
「あー、まず、こいつが黙ってたつーか。気配消してたのは」
「呼んだっちゃ?」
「……街中でこの調子出されると非常に困るから俺が命令してた」
それはとても納得してしまった。
なんか、実力以外はまともなパーティーだと思っていたけど、どんなにまともに見えてもよく知らない内に判断下しちゃダメだね。
「クライシス、まともな自己紹介くらいできるだろ」
ペインは年下キャラだと思っていたし、多分彼もそのキャラという仮面は使っているんだろう。それでもペインがこの変人を相手にする時だけは実年齢より上に見える。
精神年齢アッパラパーだとそうなるのか。
「おっすオラクライシス」
「ングふっ!?」
「あらまー。お嬢さんこのネタおちにいり? シャチョーさんあんたも好きねぇー?」
だから! 濃い!
むせかえるような濃さってこういうことを言うんだね!
「あーあー。オレサマの名はクライシスちなみに2回目! 年齢は22、好きな食べ物は人間の悲鳴でござる! チャームポイントはおしりのホクロ。アハーン?」
「何も理解ぞ出来ない」
「今のを意訳すると、『教える義理はない。殺されたくなかったら俺に近付くな』ってことな」
「なにゆえ分かるですぞ!?」
「お前の不思議語と同じだろ」
狂人の言葉に付け足したペイン。何故かライアーが納得したような顔になった。全くもって解せない。
「んで、お前はシュランゲのこと知ってたのか?」
「シュランゲ、って。誰ぞソレ」
「リィンの真似をするな」
「えっ私の真似っ子ですたの!?」
「むしろそれ以外あるか?」
「ないな」
「ないだろ」
「ないわね」
「ないやん」
パーティーまとも勢まで口を揃えた!
「白蛇の事だよ」
「あーうん。白蛇ね。ウンウン。そう言われて見ればー。あー。見覚えがあるような無いような……あると思います」
チャキ、とペインが剣を構えたら飄々としていたイカレポンチは素直に答えた。
「こいつ、1年ちょい前まで俺とずっと殺し合いしてたんだよ」
突然の物騒な回想。
「何がこいつの琴線に触れたのか分からねーけど」
「パーティーでいる時ならともかく、クライちゃんは個人の時も狙っていたからお馬鹿ちゃんの生傷が絶えなかったわ」
「そりゃ、俺の玩具サマはおもしれーモン」
ふんぞり返ってドヤ顔している。ペインはめちゃくちゃ深いため息を履いた。
「こいつが鶴だってのは直接教えられて知ってたから──引き込んだ」
「そこで引き込むんがリーダーが馬鹿言われるとこなんやねん」
サーチさんの言葉にめちゃくちゃ同意する。
ライアーなんて完全に個人主義だから嫌そうな顔をしていた。考えられない。少なくとも自分を殺しにきた人間を普通パーティーに入れれる?
「だから、元鶴」
「白蛇のじっちゃーん、は。オレサマ見てもわかんねーよ。なんてったってぇ? オレサマアイドルだ、か」
「戯言はさておきクライシスは若いだろ。子爵邸で潜伏していた白蛇が分かるとも思えない」
なるほど。
しかも1年くらい前ってことは結構最近だ。幹部がそうコロコロ変わるわけじゃないしペインがクアドラード王国に味方するなら中々……有利だ。
「いやんいけず」
うそ不利かもしれない。こんなイカレ野郎は手綱握れない。
「奴隷契約とか」
「してないのよこのお馬鹿ちゃんは」
してないの!?
捕虜とかの扱いで奴隷にしていた方が身の安全もとれるからいいと思うんだけどな!?
「姉御、マットー。獲物、おバカ。はっきりわかんだね」
「「「お前が言うな!」」」
「エー! 姉御ならともかくまな板娘に言われんのは癪だわー」
「……なるほどまな板──い゛ってぇ!」
サーチさんを見ていたがチラッと私の方を見てぼそっと呟いたライアーを思いっきり蹴り飛ばす。逃げ足で付いた脚力を舐めるなよ。
しかし、トリアングロの幹部か。
関わりのある幹部なんて白蛇しか……。
あ。
「じゃあ狐もご存知?」
なんで数ある幹部の中で狐を選んだのか。
狐の面が盗賊の所持品であったこと、が理由なんだけど。
多分ペインには女狐が誰なのかバレている、ような気がする。女狐に関して隠し事しているのは分かっているから必然的に分かるだろう。
まぁ、そこまで頭回らなかったら仕方ないけど。
「狐チャン? 俺知ってる、思い出すほどでもねぇでござる」
「……」
地面に腰を下ろしている男にグイッと私が詰めよればなんてことない顔して答える。
が。そこで口を閉じた。
「んー。オレサマの口、割りたきゃ対価差し出しな」
「例えば?」
男はしばらく悩んだ姿を見せる。
「あっ」
すると思い浮かぶものが出てきたのかニコォとぶっ飛んだ笑みを浮かべた。
「く、ち、び、るぅ!」
「なぁっ!」
「は、」
「あら」
「へぇ?」
グイッ、と腕を引っ張られ顔が近くに。顔がぶつかる前にピタリと止まった。ニヤニヤと笑う隈のある瞳が私を興味深そうに観察している。
あぁ、ここからは自分でやれってことか。
それにしても、様子からみてペインしか興味無さそうに見えたんだけど。
仕方ない。
〝サイコキネシス〟
「は……」
選手、魔法を使いました。勢いよく呼び寄せたのはライアー! 手近なところに引き寄せました! ガッ! そのまま後頭部を掴んでぇー!
超! エキサイティング!!!
「ーーーーーーー!?!?」
そう、1秒にも満たない間に起こった出来事に為す術もない。男達は驚きの表情をうかべる。
「アッハッハッハッハッ!」
「ひぃーー! アハハハハ!」
ペインとサーチさんが笑い転げる。
「誰、とは言うて無きですぞね?」
ライアーを犠牲にして、要求を飲んでみせた私はドヤ顔で見下ろした。
鳥肌を立てながら唇をマッハで擦っているライアー。
一瞬目を丸くするも、ニヤニヤと楽しそうに笑い始めた変態。
「こんな情熱的なチッス、オラ、は、じ、め、て」
「なんっっで俺! こんなんばっか!」
ケラケラ笑っている男を眺めながら愉快だと見下ろしていると、笑いの渦から復活したペインが私と肩を組んだ。
「よく分かったな、あいつの攻略方法」
リーベさんに引き続き男運が全くないライアーが悶絶しているの軽く笑って言うペインの言葉に、顔を見合わせる。
「攻略方法?」
「あー、無意識? あいつさぁ」
キュッと細められた青い瞳。
「予想外の出来事が大好物なんだよ」
あぁ、それで殺し合いをしていた奴の提案に乗ったってわけね。
「教えてやるともクアドラードの国民共。トリアングロの、小動物ちゃんをさぁ!」
これを聞いたら絶対トリアングロには関わらないでおこうと思いながら、紡がれる言葉を待った。