第35話 金の流れは悪意の流れ
「お前ら忙しそーだし、暇になったらダクア案内してよ」
そう言いながらペイン一行は宿を探すために街に消えていった。
田舎と侮ることなかれ、農作物の生産地は入荷しに来た商売人が多いのだ。宿はすぐ埋まる。
今私が泊まっている宿も、埋まるのが早いみたいなので先払いで1週間泊まれるようにした。……手持ち金、あるだけ使っちゃうし。
「ギルド内で汚職する人は確定すてますし、内部調査ぞ優先するです?」
横並びで街を眺めながら隣に居るライアーに話しかける。
「そうだな。貴族の方は取り掛かりになんか手続きとか要りそうだし」
どうやら意見は賛成ということでギルドに戻る。
あーあ。どっからとっかかろう。
確実にギルドで汚職している、けどそれが何人なのか分からない。
ただ、何人かいなきゃいけない受付が居らず、サブギルドマスターのリリーフィアさんが表に立っていること自体が異常なのだ。
内部、絶対腐っているな。
「どこから調べる?」
「んー。金貨ですかね」
お金の流れから見えてくるものがある。
というか不正や汚職をする人間の殆どがお金に関係すると思うんだ。
「とりあえず盗賊とスタンピードと汚職は別として考えるか」
こういう汚職とかの炙り出しは畑違いなんだけどな。監察や家長じゃあるまいし。
「……グリーン子爵の執事借りれませぬかね」
「……おっと、お前目の付け所が突拍子も無い所に行くな」
「あの人あの場にも付属すたってことは」
「着いてきた、な。もしくは従事している」
「ってことは、子爵の右腕。信頼ぞあるということ。スムーズに進む気ぞする」
執事だけではなく従者も兼ねている気がする。たかが執事じゃ、機密の多い応接室での会話に参加出来るわけが無い。ある程度の発言権もあるだろう。
まあ、子爵の脇を固めていた2人の私兵にも言えることだが。
使用人にはいくつか位がある。
男性の執事と、女性の家政婦長。
この2人が屋敷をまとめる使用人であり、最上級の権限を持つ。その下に第1下僕やメイドが続いていくのだが。
そしてその使用人達と一線を引いている存在がある。
従者と侍女だ。
この場合は主人と夫人のお付き。
グリーン子爵の執事は格好を見れば完全に執事なのだが、行動や位置付けを見ると従者にしか見えない。
多分グリーン子爵のお気に入りだろう。
つ、ま、り!
──彼が子爵邸に最も詳しい、ということになる。
「……うーん」
そんな優秀な存在を一時とは言え離すことはとても拙いことだと分かっているが、お金の書かれた表をパラパラ見ても分からない私達が地道にやるよりは余っ程速く済む。特に子爵の私兵団に関しては。
「ま、彼でも見抜けぬ事柄、が今回の依頼なのですけどね」
優秀な人がまとめているなら一介の冒険者に依頼なんざ頼まねーよ。って話。
「どっから始める?」
「解体、とかどうです?」
依頼の中抜きを誤魔化している輩は確実にいるだろうけど、スタンピードの予兆がもしかしたらあったかもしれない。
そんな一石二鳥を狙って提案してみると、ライアーは少し考え込んだあと顔を上げた。
「ちょっとあの魔導具が気になるから別行動取るな」
「えっ、私1人でやるしろと!?」
「──俺に書類がどーとか出来ると思ってんのか」
体良く逃げ出したな!?
そう思って引っ捕まえようとするも逃走準備をしていたのかライアーはスルっと逃げ出した。
「おっさんのロリコーーーーーーンッッ!」
非力な美少女の叫びに風評被害を被ると良いわ。
なんか、盗賊の取得物一覧を作る時も逃げられた気がするな……!
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チラホラと他の冒険者が戻ってき始めたのでリリーフィアさんに『ギルド内で事務のお手伝いありませんか!』と聞いたら案の定察してくれたのか仕事を振り分けるフリをしてくれ、私は解体場の方で数字の羅列と格闘していた。
「毎月一定数解体費ぞ下がるすていた……?」
かろうじて分かるのは、詳細抜きに考えてだけど解体から得られるギルドの利益が減少傾向にある、ということ。
「お嬢ちゃん仕分け終わった?」
「はい、スッキリ完了ですぞ!」
解体を専門にしている人だろう。エプロンを血に染めたクマみたいな毛むくじゃらの男が私の様子を確認しに来た。
ちなみに目の下にクマが出来ている。
…………クマさん。
「お嬢ちゃんは計算とかは出来るのか?」
「んー。街でお買い物ぞする時は出来るですけどォ……」
もちろん嘘である。
今月の分は今日までの計算も終わらせたし、ここ1年の解体費の低下が分かるくらいには数字は出来る。
とりあえず現段階での数字はリリーフィアさんに提出して、担当者が出す今月の収益の差額を見てもらおう。
「クマさん解体って難しきです?」
「クマ? 俺の事か?」
「私、名前知らぬです。あっ、私Fランク冒険者のリィン、です!」
私の自己紹介におじさんは目を背けた。
「…………グーマだ」
「クマさんだ……!!」
クマだ! 名前からクマさんだ!
この男、自分がクマだという自覚があるな!
後、沢山からかわれて来たのだろう。
「えぇっとなんの話だったか」
「解体難易度!」
「あ、それだ。ダクアに来る魔物や獣はそこまで難しいもんじゃ無い。……まぁ、今は高ランク推奨の魔物がスタンピードで解体に回されたから、俺も手が回らなくなっているが」
それに関しては大変申し訳ない!
討伐だけで力尽きたし、なんだったら兎の解体すら出来ない。解体新書もってこい。やらないけど。
「スタンピードの前は?」
「難しくはないが、数は多かったな。もう1人解体職員がいるんだが……そいつがやらないおかげで捌く数は増えたんだが」
あっはー。なるほど。
このギルド、薄々分かっていたけどサボり魔多いな。
「お掃除とか、雑用仕事ありますたら手伝うですね!」
今ここで思い至った3つのパターンがある。
『片方がサボるおかげで手が足りなくなり収益が減った』
『サボりで気付かなかったが全体作業量自体は変わらないにも関わらず収益が減っている不正』
『クマさんが普通にちょろまかしている』
……1番最後はクマさんの反応を見る限り違うだろうけど。可能性が少しでもある限り、疑ってかかった方がいいだろう。
「お嬢ちゃん……。えっと、リィンちゃんだったか」
「はーい、リィンちゃんです!」
「報酬はちゃんと払うから暇な時こっちおいで。解体の仕方も教えてあげるし、それが無理なら他にも手が足りない所があるから」
こういうのは依頼として出せないんだよ。
情けなさそうに頭をかきながらクマさんが言い訳をこぼした。
「任せるしてじょ!」
ギルド内部の過労死仕事なんてぜっっったいお断りだけどね!!!!