第279話 ゴリ押しで行く、旅行の方法
「あっ、私しばらく元トリアングロの方に行くですから、夏の間おらぬものと思うすてください」
王都で仲良くしてくれている冒険者。まぁ月組にそう挨拶すれば、白髪で片耳の冒険者が元気よく手を上げた。
「俺!俺も行っていい!?」
リックさんだった。
彼は戦争時も共にトリアングロに向かった人で、アダラとの戦いの末に片耳を失った。あまり気にしては無いようだけど、私が原因では無いけれど(念押)、アダラが悪いせいだけど(さらに念押)、ちょこっとだけ罪悪感はなくもない。
それはさておき、私に絶大的な信頼を寄せてくれるの。信者のような立場にある。ありがたく使わせて頂きます。
「グレン、リックが行くって」
「えー、俺ギルドの研修があるんだけど」
奥から現れて嫌そうな顔をしたのはグレンさん。リックさんの腐れ縁で、よく振り回されている。そのため、リックさんとニコイチ扱い。
同じく戦争時来てくれて、共に戦ってくれた人だ。
このふたりは実家、ファルシュ家から騎士爵に任命された私の護衛でもある。
まぁ護衛とは名ばかりで、他の貴族に取り込まれるのを防ぐために紐付けたような感じだ。
「というかそもそも、なんでリックが付いてくんだよ。護衛なら多分充分だろ?」
そう、護衛はいま特に必要ない。
ライアーもいるし、特別必要としてないのだけど。
「俺、ギルドカード忘れた!」
「!!??」
想像してなかった言葉に全員が驚く。
「お前、身分証だぞ!?」
「第2?都市の、あの、俺、バイトしてたんだけど。あそこできれーな姉ちゃんにギルドカード預けてから、なんやかんや逃げたから回収忘れてさあ」
第二都市の鎮魂の鐘かな。
そういえばリックさんとエリィとカナエさんがバイトして金銭集めてたっていう置き手紙を見て、グレンさんと一緒に膝から削れ落ちてたっけ。
「……ごめんリィン、リックも連れてってくれ」
「良きですけど」
別にそれはいいんだけど、お世話係が居ないのはなぁ。別の手綱握る可能性を考えたら、月組から一人くらい欲しいや。
「グレンさんは研修ですたっけ?」
そんなものあるんだ、って顔をしたらグレンさんが察したのか説明をしてくれた。
「冒険者ギルドではその近辺の薬草や生息域の魔物の教育をしてくれるんだ。俺たち、ダクアから王都に移動したけど、逆に言うと王都での周辺知識は少ないから」
「グレンだけじゃなくて、王都での滞在経験者以外は皆行ってるぜ」
「そーそー。無料で受けられるんなら儲けものだからさ。ちなみに1日じゃなくて、月毎にあるんだ」
「……て訳で、うちのクランでは交代で行ってる。リックはリーダーで、俺が副リーダーだから一応お互いバラけてな」
なるほど、大人数ならではの利点だね。
それで日中なのに人が居たんだ。オフ日みたいな感じなのかな。
「リックが抜けるのは別にいいんだけど、つーかギルドカードなら最優先だし。一人で抜けさせるのはちょっと…………」
グレンさんが手を当てて考えている。
「ヒラファ、ストッパー」
「俺かよぉ!」
私の古馴染みの人が選ばれた。グレンさんより若干濁った赤褐色の髪の槍使い。
ヒラファお兄ちゃんはやれやれと言いたげに肩を竦めた。
「て訳で、よろしくな、リィン。それからライアー」
「じゃあ早速なのですが、荷物の準備ぞお願いするです。着替えとか、まぁ、こちらが必要経費とすて持ちますぞ。着の身着のまま、戦闘道具のみでどうぞ」
リックさんは素直に頷き、ちょっとそこのコンビニまで出るような荷物と双剣を腰に携えた。
そんな姿を見て、ヒラファお兄ちゃんは困惑した様子だった。
「リィン、すぐ出るのか?」
「ほぼすぐ出ます。他の人の準備は完了すてるゆえに」
「よーし、じゃあ行くぞ〜〜!ひ、ヒラカタ!」
「惜しい、惜しいんだけど。ちょっと待てリック!俺、また武器しか持ってないって……!?」
私はライアーを見上げて言った。
「宣言すておきますね、今日、ライアー私を抱えるすてて」
「……は?」
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場所はモザブーコの館。
時はペインの連絡から1週間。
ここには、必要な人物が集結していた。
「さーーーーーて、いっちょ頑張りますか……」
コンディションは最良。
アフターケアも人員も揃った。
「えっと、ここって、貴族の屋敷……? だよな……?」
「元貴族ですぞ、お兄ちゃん」
月組からリックさんとヒラファお兄ちゃん。
「ご主人様、十三名の準備は終わっております」
サンバンさんを含めた十三人の元モザブーコ奴隷。
「呼んでいただき助かります」
「こちらこそ」
ヴィシニス・エルドラード。
この人員を全て馬車の上に乗せた。
「お、おいリィン……? 何を、何をするつもりか兄ちゃんにしーっかり説明してくれないか??」
「お兄ちゃんうるさい」
「うるっ…、そんな子に育てた覚えはありません!」
私は全員に宣言した。
「えー、このアトラクションは、急発進、急降下、急停止や、あと何ですたっけ。あー、魔力酔い。以上の可能性がござります。必ずお手元の手すりを持ち、腰ぞ下ろすすて衝撃を分散すてください」
「リィンーーー!?? 聞いて! 俺の話を聞いて! 何が起こるんだ!? なーに怪しいこと言ってんだ!?」
ライアーに視線を向ける。
「ライアー、優先順はご説明の通りですぞ」
「あー。おう。あとは鶴が着いてたらいいんだが」
「もし到着すてなければ、あいつに運ばせるすて」
まだ混乱している様子の人達の説明は全部ライアーに丸投げするんだ。
この場で分かっているのはライアーとリックさんとヴィシニスくらいだろう。
「それでは参ります! ──瞬間移動の旅。〝瞬間移動魔法〟!」
詠唱も無しに放たれた、馬車丸ごとの転移魔法。
私の魔法でグルージャの場所まで飛んだのだった。
え、魔力?
切れるに決まってるでしょ。後はよろしく、ライアー。




