第27話 企む者と隠す者
「お疲れ様です! それでは今回の討伐の報酬の受け渡しと、諸々の説明を受けていただきます。ので、こちらの応接室にどうぞ!」
ニッコー! と笑顔を浮かべたリリーフィアさんの様子に嫌な予感がするので帰ろうかな。
踵を返すとおっさんにガッツリ襟首掴まれた。チィッ。
「よォリリーフィアちゃん。今日も相変わらず綺麗だなァ。今度休みの時間教えてよ、俺とディナーにでも行こうぜェ?」
そういえば初対面の時もリリーフィアさんの事口説いてたな。確か、ケツがどうとかって。
「あっ、ライアー今度ディナーに行くしたきとリーベさ」
「冗談はさておき俺はディナーの時間も普通に仕事してるかな! さて真面目な話と行こうぜ!」
手のひらの返し方が超高速過ぎて水の中でもスピーディーだよきっと。
「席、外すして大丈夫なのです?」
「知ってます? あなた達が来る時間帯って、依頼が早く終わった冒険者と、時間のかかる依頼かフリー活動している冒険者が帰ってくる間なんですよ」
はい、冒険者としてまともに働いてませんどうも。
背を向けて案内するリリーフィアさんからそっと目を逸らした。ゴソッと服の擦れる音もしたので多分おっさんも逸らしたと思う。
「何か用があればカウンターのベルを鳴らすと思いますし、いつも居なくても良いんですよ。それがダクア支部を1人で回す秘訣です」
なんて返せばいいのか分からなくなるじゃん。
1人なの? 孤独ちゃんなの?
というかいつもギルド嬢がリリーフィアさんだけだなって思ってたし、グレンさんからサブギルドマスターって聞いた時は人手不足か、たまたま人の居ない時間帯なのかって思ったけど。どうやらあれが通常営業らしい。異世界の人事部どこ。
「別に職員がいないわけでもないんですよ。納品物を整理する者や配達する者、王都と首都、はたまた他のギルド支部を行き来して連絡を取る者、解体をメインで行う者、薬草の判別をする者。表に出ないだけでギルドに在中する職員は沢山いますから」
そりゃそうだよね。
言い訳みたいにツラツラと続けられる言葉に頷いて聞き流す。なんだか正気を必死に保っている様に聞こえてならない。
受付の中、職員が普段通る様な通路に入り進んでいくと『あっ絶対応接室ってここや』と言いたくなる重厚な両開きの扉が現れた。
T字路の丁度重なる部分に部屋はあり、廊下の右を見れば建物の大きさ的に冒険者ギルドの側面。恐らく裏口と思われる扉があった。んじゃ左がギルド職員が作業する諸々の部屋があるってわけね。
完全に感覚でしかないが、激務と予想がつく。絶対ギルド職員にだけはなりたくないな。
「どうぞ」
リリーフィアさんが扉を開けると、貴族も迎え入れる事が出来る程度には高価な家具を置いた、比較的シンプルな部屋だった。比較したのは貴族の応接室だけど。
部屋の中には扉が2つ。入口から最も遠い左右にある。
光が差し込む応接室には、窓側のソファに座った男が居た。
素人目で見ても強いと確信出来る前衛職。多分前衛職。リーベさんで騙されたけど、これで前衛職じゃなかったら私はもう何も信じられない。
「よく来たな、ライアー。それと初めまして、お前さんがリィンだな。俺ァここのギルドマスターをやらされて……」
「ゴホンッ」
「──ギルドマスターやっているバックスだ。ま、座ってくれや」
リリーフィアさんの咳き込みに邪魔されたけど今絶対やらされてるって言おうとしたよね。
ギルドのパワーバランスが判明した瞬間だ。
「さて、早速本題に入ろうか。リリィ、事件の説明を」
「スタンピードの件もあり、後回しにしてしまって大変遅くなりましたがギルドと騎士団の合同調査が入り、あなた達の捉えた人間が盗賊であるという裏付けが取れました」
「へぇ、盗賊じゃなかったらどうなるんだ?」
「殺していたら殺人罪で奴隷刑期2年という所でしょう。まぁ、この場合ギルドを通してなかったら、ですけど。今回はギルドを経由してあるので例え盗賊じゃなくても罰金が少し発生するくらいですね」
ギルドを経由していたとしても罰金なのね。
ま、ほぼほぼ有り得ない確率だろう。今回の件は、被害者でもあるリーベさんの証言もあり、依頼の確認でギルドに報告、獣人娘が後回しにだが依頼を出し、緊急性も高かった。
実際『盗賊だと思って殺したけど盗賊じゃなかった……!』なんて事件は起こるのだろうか。
「大小様々な犯罪行為が発覚しました。偶然も絡み被害が見つからなかったみたいですが、特別な奉仕活動がない限り生涯労働奴隷でしょう」
リリーフィアさんは『ちなみに』と口を開いた。
「盗賊の決定権は現在ライアーさんとリィンさんのお2人にあります」
「あー……? どういうことだ?」
「罪人は捕縛すた者の所有物になるです。それを、奴隷商に貸すという形になるです。そして労働奴隷として無賃金で働くが事になるですぞ」
正確に言うと、犯罪者を得た私達が、『レンタル料(討伐報酬)』を騎士団から渡される形で盗賊を『貸し(引渡し)』て、騎士団が奴隷商に『売り(預け)』て、奴隷紋を刻んだ奴隷を騎士団に『レンタル(返し)』。
その奴隷を労働奴隷として騎士団が使っているというわけだ。
今回の件で言う私達は騎士団を経由して奴隷商と契約を結んでいるという形になる。
つまり奴隷を解放するもしないも実は所有権のある私達にかかっている、というわけだ。
盗賊を高く売りたい。というのは、高くレンタルに出したい。と同じ意味ってこと。
「お前なんで報酬もそうだけど奴隷とか黒寄りの白い部分詳しいんだ……?」
「はい。では今回の報酬です。討伐基礎報酬は一体に付き金貨1枚。更に、五体満足の盗賊は1人頭金貨1枚と銀貨3枚。今回の盗賊数は16人で、全て五体満足ということなので……」
リリーフィアさんがジャラッと麻袋をひっくり返して硬貨を見せた。
「金貨20枚と銀貨8枚です」
「割ぞいい!」
素敵!
倒しやすければ戦いやすい。正義は我にあって、その上これから上乗せ報酬もある!
お得な稼ぎ方だ。最高だね。
「……お前多分魔物相手にするより人間相手にする方が絶対稼げるな」
隣でライアーがボソリと呟いたので肘を思いっきり横腹に喰らわせた。
「そういえばグレンさんから伝言を預かってます。『俺たちは途中で離脱してしまったし、今回は2人で山分けしてくれ』だ、そうです。一応念の為リーベさんにも聞いたんですけど……。彼……彼女……。あの人は『助けてくれた王子様のモンよ』と仰ってました」
「おぇ」
嘔吐くな。
はー、でも良かった。4人分けだと盗賊報酬だけでも金貨5枚にしかならないしね。ある意味都合がいいかも。
「取得物一覧は1ヶ月掲載します。早速ですけど3日後、商会から香辛料の買い取り交渉の申請が来てますよ」
「うわァ、俺交渉とかホント無理。学がねェもんで」
グレンさんが報酬の受け取りを辞退したって事は私がライアーのどちらかが交渉の席にでないといけないってわけか。
うーん。むしれるだけむしり取りたい。
「あァ、でも流石に盗賊討伐した冒険者がFランクのまま、というのは外聞的にちょっと悪いので」
なんだろう。
リリーフィアさんとバックスさんの目がギラリと光った気がする。
「おう、お前ら外出るぞ。本来なら依頼達成ってところだからな。……俺の監修の下、ゴブリン退治と行こうぜェ?」
盗賊よりも盗賊顔してんな、このギルマス。