第266話 父の冒険者パーティー
聞いてないよお……。
私はなんかごちゃごちゃと騒がしい広場へ登場した。
片手にはシアン。騎士がエスコートするなんて普通考えたら有り得ないことではあるんだけど、今回は私の『病弱!深窓の令嬢!』っていう印象を強める意味もあって、エスコートを受けながら階段を降りていった。
王城の控え室から招待客の多さを聞いて度肝を抜かされ、王妃様に詰め寄ったのに。
『婚約発表や新領地統治も兼ねてるんだから、手っ取り早いでしょ?』
手っ取り早さのせいで私の胃が犠牲になりました!!
「ご機嫌ようリアスティーン様。お体は大丈夫ですの?」
「えぇ、ご機嫌よう」
「此度はこのように素晴らしいパーティーに招いていただけて、とても光栄ですわ」
「まあ……そのお姿、まるで絵画から抜け出されたようですわ」
「ふふ、ありがとう」
「やはり噂通りの美しさでございますのね。王都中が羨むことでしょう」
「そう……ありがとう」
リアスティーン式九つテンプレートでお返事をしながら招待客と挨拶を交わしていく。まだまだ元気はいっぱいなのだけど、休憩も兼ねて親戚のところへ向かった。
「や、リア」
「お父様」
「騒がしくなる前に紹介しておきたい人が居てね」
パパ上の後ろには筋骨隆々のハゲ頭のおじさんが居た。
「ベンケイ・ファルシオンだ」
「……弁慶」
「Aランク冒険者でね、国外に居たんだけど、戦争の知らせで急ぎ戻ってきた男だ」
「まぁ、もう終わっておったがな!」
ガハハ、と大口開けて笑うベンケイさんに少し圧倒されてたじろぐ。
「ベンケイだ。ロークとはかつて同じパーティーで暴れ回っておった。まぁ、今はこうして爵位を貰っているが、元は庶民の出だ、あまり固くならず接して欲しいがな!」
「爵位を……?」
パパ上に視線を向ければ、パパ上は心得ていると言いたげに頷いた。
「侯爵だよ」
「侯……っ!?こほん。……まぁ」
すごい、と言う気持ちと混乱でベンケイさんを見上げれば、パパ上が知識を追加するように口を開いた。
「庶民上がりの冒険者ならせいぜい男爵程度なんだろうけどね、ベンケイは肉体も強く武に秀でている上に、軍事についてはこの国でも目を見張る……要するに戦に関してのみ頭が働く脳筋ってやつ。ベンケイの子孫にも期待してるから侯爵地位でガッチガチに固めてるんだよ」
侯爵って、爵位だけで言えばファルシュ家より高いんですけど。
「はぁ……」
「ちなみに、武器が特に好きでね。今回の放浪はドワーフの国に言ってたんだっけ?」
「うむ。ちなみに、嫁探しもだ」
「嫁探し……」
「我より強い嫁が欲しい」
「……つまり最終的に一代限りになりそうな家なんだよ」
武力特化すぎて人間関係が終わってて、国に爵位で縛られて一代限りの冒険者。
……似てる立場だなぁ。
「リアスティーン様」
「なあに?」
シアンが私に声をかけてきたので、私が近寄るとシアンも顔をわたしの耳に近付けてきた。
おっと、エンガス家の皆様の視線がめちゃくちゃ突き刺さってるな。煽っとこ。
「……トリアングロはこの男がいないタイミングを狙って仕掛けました」
「あ〜〜〜〜」
そりゃそうだよねぇ。
いたら終わってるよ、戦争。トリアングロでは魔法が使えない、ってことがクアドラードへの利点なのに、明らか武力行使の強いやつがいたら、避けるよね。
それで戦争は色々速攻でケリが付くように作戦立ててたのか。
「だからお前みたいな、若くて未知数の敵に翻弄されたんだ。子供は眼中に無かったからな」
主に向かってなんたる言い方。
「こんにゃろ」
ほっぺたをグイッて押した。
「お父様、冒険者というのは、えっと、お父様の、過去のパーティー……」
「……あぁ、私の昔のパーティーの編成?」
「えぇ」
パパ上がそもそも冒険者してたの自体初耳なんだよ。まぁ、冒険者生活分かってなかったら私を冒険者として放り投げないかぁ。
「私のパーティーは五人でね、前衛二人、中衛一人、後衛魔法職二人の組み合わせだったよ」
へぇ、組み合わせはペインのパーティーと似てるかも。
すると、ベンケイさんが無言で首を振った。
「全員前衛の超攻撃パーティーだった」
「お父様……?」
「我が前衛職なのは想像付くだろうが、前衛のタンク役の魔法職、中衛の魔物使いに見せかけた攻撃特化前衛職、ゼロ距離で体内に魔法を作成する前衛型魔法職、武器に魔法を付与して戦う魔法職。もう、全員我より前に出る」
ば、バランス悪い……。
私ははわわ、と口元を手で押さえた。
私とライアーは後衛と前衛で、互いにスピードタイプだからバランスはまぁまだいい。
ペインパーティーも、ラウトさんがタンクの前衛でペインが魔法の使える前衛で、クライシスが変わり種の中衛で、リーヴルさんがガッツリ後衛でサーチさんが先頭ではなく冒険者生活のサポートだから、バランスがいい。
だというのに、だというのに……!
全員バランス良い皮を被った前衛……っ!
「お父様は?」
「……武器に魔法付与。勘違いしないで欲しいけど、私はちゃんと後衛を保っていたよ」
ごめんだけど、隣国の首都目掛けて魔法飛ばせる人間がまともな魔力と技術と常識を持ってるとは思ってないから。
「──リー」
私の名前を呼ぶ声が聞こえて振り返れば、ペインもといヴォルペールと、エンバーゲール様がいた。
「ごきげんよう」
「リアスティーン、元気そうで良かっ……っ!!??」
エンバーゲール様は私の背後に仕える人物であるシアンを見て驚いていた。




