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第258話 仮面を被った末路がこれですよ


 王妃様とのうっかりドキドキおしゃべりお茶会の後日。

 私は気分転換として久しぶりに学園に来ていた。……はずだった。


「は〜〜〜〜〜〜」

「死んでる?」


 ペインが顔を出したのは医務室。

 はい、ぶっ倒れました。というか眠気が限界過ぎて、居眠りをしてそのまま椅子から転げ落ちた感じです。もちろん起きたんだけど、普通に恥ずかしくて気絶したフリして狸寝入りかましましたよ。


「死んでるです」

「元気そうだな」


 ペインがベッドの縁に腰掛けて私の顔色を見た。


「お恥ずかしきすぎる……しかも居眠り……」

「教室は『病弱なリアスティーンさま!おかわいそう!』『なんて儚げなんだ』って感じの空気になってたぜ」

「やっててよかった、病弱ムーブ」


 ここ最近デビュタントの裏工作と、シアンの魔法の指南と、宮廷相談役としての作業。魔法に魔法に交渉に事務に魔法。もう、頭がおかしくなりそう。


 腹たったからライアーには夏になれば始まるであろう領地の情報や事業をまとめてもらっているよ。腹立つからね。働け。


「なぁリィン、何を企んでるんだ?」

「まぁまぁ。大丈夫、ペイン(の権力)も巻き込むぞり」

「断っていい?」

「王妃様のせいで私はペインの味方にならねばならぬというのに!!??」

「ごめん王妃様と何があった!?」


 ヴォルペールをよろしくね(意訳)されてたのに? なんて薄情な従兄なんだよ。


「……そういえば、ペインって誕生日いつ?」

「ん? 夏だけど。八月二十八日」

「ぐぅ……負けたすた……」

「ああ、年上か年下かってこと? 同い年なんだから誤差だろ……って言いたいとこだけど。リィンの誕生日、三月だろ?」

「うん」

「誕生日遅い方が珍しくね?」


 ……正論嫌い。


 ちなみにこの世界は、私の感覚からすれば異世界なのに、月の名前や暦の区切りがほぼ日本基準。

 一年は十二か月で、一か月は三十日前後。三月が年度末で、四月から新しい年が始まるという……。


 めんどくさい数字文化だなぁ、と思う。


 つまり、三月十二日生まれの私は、同い年の中ではわりと誕生日が遅い方なのだった。



「──おい、起きたか伯爵令嬢」


 医務室の主である先生が帰ってきた。


「学園外から客が来てるぞ」

「客、ですか?」


 無愛想な男の先生。おそらく貴族なのだろうが、不健康な見た目のせいで生徒は寄り付かない。

 おかげで私は心置きなく休めるのでいいのだけど。


 純粋な貴族達はライアー然り乱雑な人には寄り付かないのだ。私とペインの下町育ちといってもおかしくない慣れの方がおかしい。


 ほら見ろ、先生お菓子食べ始めたし。酒とかタバコじゃないだけいいけども。


「起きたんなら、やんごとない方だからさっさと行けよ」


 先生は、きちんとした先生ではあるので私の体調不良がふりだというのはわかっている。今回は寝不足や疲労もあったのでチクチクいわれなかったけどね。


「はぁい」


 同じく気だるげに返事をし、立ち振る舞いを軽く直したあと廊下に出ると、そこで待っていたのは金髪の男性だった。碧眼の瞳が私をとらえる。


 ……あれ? どこかで見たことが。


「エンバーゲール様?」

「ヴォルペール? なんだ、君も居たのか」

「えぇ、彼女の見舞いに」


 第二王子じゃん!!!!

 そりゃ見覚えあるよ!!!!


 ペインがウォルペールの仮面を被ってエンバーゲール殿下と話している。


 そういえば殿下って呼んでもいいのかな?

 まだ表立って処分されてないから、王子として扱った方がいいよね。きっと、一般的な令嬢は知らないだろうし。


「まぁ……ちょうどいいか。君がリアスティーン嬢だよね?」

「……。エンバーゲール殿下にご挨拶申し上げます。リアスティーン・ファルシュですわ、御機嫌よう」

「丁寧な挨拶をありがとう。いやなに、すこし聞きたいことがあっただけだからそこまで緊張しないで欲しいかな」


 しますがな。

 エンバーゲール殿下がいるから戦争に大打撃あったんだけどね?


「エンバーゲール様……。リアスティーンは病み上がりですので手短にお願いします」

「あぁ、もちろん」


 『もう少し親しくしてくれてもいいのに』という顔でエンバーゲール殿下がペインのことを見たが、私に向き直った。


「リアスティーン嬢、婚約者はいるかな?」

「「………………。」」


 思わずペインと目線を合わせてしまった。


 この人、本当に今、国のあれやこれから排除されてるんだ。本当に他の王子たちを守るための盾役にしかなってないんだ……。


 だって、でなければ『私』にそんな質問しない。ルナールの処理も、私の立ち位置も。


「…………居ます」


「……っ、そうか、そうだよね。リアスティーン嬢みたいに美しく賢い子にいないわけが無いよな」


 想像はしていたのだろう。

 秘密、と指を立てながら言ったのでおそらく秘密にしてくれるのだろうけど。


「時に殿下、おひとりですか?」


 お供(かんし)無しで?


「いや、エルドラードがいる」

「「あぁ……」」


 思わず遠い目をしてしまった。


「その、俺はやんちゃをしてしまったからか。エルドラードが、いっぱいついてる」


 その言葉に反応して、なんにもない所から魔力の反応がして三人くらいのエルドラードがギョロっと顔を出した。ホラーじゃん。




 ==========




「おー、おかえり」

「ただいまライアー」


 宿に戻ってバタリと布団に倒れる。

 ベッドの上で武器の手入れをしていたライアーが私に視線を向けた。


「今日は学園行ってたんだったか」

「うん。久々」

「学び舎に行け学生」


 叱られてしまった。


「あ、そうそう。今日ね、第二王子が来ますて……」

「エンバーゲール王子か?」

「そう」

「なんて用事だったんだ?」

「そこで共有事項があるのですが、どうやら──」


──ギシギシ……


 階段を上る足音が聞こえてきてライアーが一瞬にして警戒する。


 足音は、少しずつこの部屋に近付き、ノックの音が響いた。


「はーい」


 扉を開けると、そこには昼間とおなじ人物がそこに居た。



「──お前ら、また同じ部屋で寝泊まりしてるのか(ドン引きの顔)」

「うるせぇぞ!」


 エンバーゲール殿下が、マントに隠れてやってきていた。後ろには二人ほど、同じくマントを被った人物がいる。


 あれ、なんかデジャブ感じちゃう。



「それで、何の用だ?」


 中に招き入れたライアーが腕を組みながら乱雑に扱うも、エンバーゲール殿下は気にしない様子で私に向き直った。


「リィンに用事があるんだがな」

「私にです?」


 対リアスティーンの時と比べて少し崩した口調でエンバーゲール殿下は質問をした。


「婚約者とかいないよな?」

「……。何企むすてるです?」


 取っかえ引っ変え年頃の女に似たような言葉投げかけんじゃねぇーーーーよ売国奴!


「いや、ほら、お姫様とか興味無いか?」

「まっ、まさか」


 私は己の体をだきしめた。


「──殿下がロリコンだったとは……! モテ期!?」

「俺だとちょっっっとキツイな」


 一瞬にしてフラれた。


「……では何です」

「リィンって優秀な魔法職だろう? それに色々と立場も複雑」

「そうですね」

「……だから、変なやつが湧く前に俺の弟を紹介したいなと思ってさ」

「…………弟」

「弟、な」

「あ、身分とかは気にするな。まぁ言っちゃ悪いが、うちの弟の一人はいわゆる婚外子ってやつで。まだ婚約者が居ないんだよ、それに正当な王子はいるから特にプレッシャーにはならないと思う! 同い年だし」


 ヴォルペールじゃねーか。

 私とライアーは思わず互いに目を合わせてしまった。


「いや、流石に貴族ならともかく王子は普通に無理です嫌です。王族? 真っ平御免です」

「そっ、か……。なら、あれか? 仲良い冒険者いただろ? ペインって冒険者とかオススメだな」

「「…………………。」」


 ライアーが私の前にスっと立った。私はおもわず顔を覆う。


「殿下、お出口はあちらです」

「帰らそうとするなルナール!」

「バイバイエンバーゲールさま!」

「リィンまで!!」


 腐っても王族なんだな、この人。

 王妃様と似たような提案をしてくる。国を大事にするのは分かりますがね、同じ人なの分かってますからね。


「ちょっ、リィン!」

「アー痛むぞりー! どっかの王子のせいでクラップに殺されかけた傷ぞ痛むぞりー! 拷問も耐えるすたのになー」

「うぐっ」

「お前それは無傷だったろ……」

「(心の)傷があったです」


 バタン。

 どんどんと扉を叩く音が聞こえるけど、めっちゃ塞いだ。


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― 新着の感想 ―
この世界の年度のくくりは日本と同じなんですね! 日本で生活している殆どの読者が受け入れやすい設定!() エルドラード怖っ!!! 従者としては優秀なのかも知れないけどもはやストーカーをも超えた密偵………
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