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第255話 結果は既に出ているも同然


 新たに任命された宮廷相談役が、ふたりいる──という話は、今のところごく一部にしか知られていない。

 一人は庶民の出、もう一人は貴族階級からの抜擢。


 そのバランスをとるための人選、という建前だけが曖昧に広がっている。


『なぜ庶民が?』

『どうやら腕利きの冒険者らしい』

『貴族と言っても、どこの家柄だ?』

『王家に縁があるとか、ないとか……』


 名前すら定かでないふたりの人物をめぐって、憶測ばかりが先行している。


 フェヒ爺が広げた新聞には、両相談役の正体について、例によって根拠のないそれっぽい話が踊っていた。

 冒険者の少女リィン。

 貴族令嬢リアスティーン。

 それぞれ異なる経歴。異なる立場。のはずだった。


「──まぁ、どれも私なのですけどねぇ!」


 私はフェヒ爺にそう言った。

 はい、リィン(庶民)もリアスティーン(貴族)も完全に同一人物です。




 ここは王宮。

 本来であれば、フェヒ爺の使っていたものは重要文化財として国が管理し、代わりに新品の研究室と私室を与えられる予定だったのだが。フェヒ爺の弟子という名目で資料ごとまるっとそのままぽんと譲り受けた。


 私はフェヒ爺から学んでいる内容をざっくり一言でまとめるなら。


 ──ぶっちゃけ、宮廷魔法士の仕事を奪おう! これである。


 もちろん表向きは『学び』です。ええ、建前は大事だよね。



 さて、敵さんである宮廷魔法士の主な仕事は三つ。


 一つ、戦争や魔物災害への備えとしての武力提供。

 二つ、王都全域や王宮に張り巡らされた結界魔法維持と再構築。

 三つ、魔法体系および魔具の改良・最適化の研究。



 で、今回私が手をつけようとしているのは、二と三。結界魔法の見直しと、魔法の改良だ。



 まず、王都には「魔力感知結界」が張り巡らされている。

 これは、城門や結界を通過する人間の魔力を記録するシステムだ。

 魔法が使えない者でも大小魔力を帯びているため、その個体差を利用して通行履歴を記録する。……という仕組み。



 簡単に言えば、魔力が一種の通行タグになっていて、王宮のどこかにある魔法具で記録されているというわけ。

 王都を出入りした時間、それにその人物の魔力の傾向まで──重要人物は魔力と名前がひも付けされているため、動きはほぼ丸裸である。



 王子でもあるペインに、それの維持にかかるコストを調べてもらったところ。うん、まぁ、とんでもないよね。もちろん魔法士に出る給料も、大きい。


 しかも、魔法士たちに払われてる給料のうち、結界の維持に携わってるってだけで上乗せされてる部分もある。

 いやいや、そもそもこのシステム、そこまでの人員要る? 本当に全員、必要?


 って話よね。


「フェヒ爺は水の都作る時にどうしたですか?」

「あ? そんなの、適当にポンってやってごいっといれて、自然現象にしちまったら早かったんだよ」

「ごめん、全然分からぬです!」


 擬音語での説明やめてくれないかなぁ!?

 自然現象にしちまうって何!?



「で、改良ってのが……」

「はいです。エンガス家の主な研究内容ですぞり」

「お前それ既にやってるよな?」


 例えば、触れたものを浮かせるサイコキネシス。それを触れたことがある物という条件に変更させたりとか。

 瞬間移動魔法を目視範囲だけではなく、魔力が繋がっている奴隷の位置、まで改良したり。


「歴史上、魔法の改良ってのは成し遂げられてないんだがな」

「なにゆえでしょうね〜〜」


 個人的には、転移者が魔法を使えれば、意外と簡単にできてたんじゃないかと思う。

 魔法への先入観がないし、ルールの枠組みが曖昧な分、柔軟にいじれるのかもしれない。


 まあ、私も前世の記憶はほぼないとはいえ転生者。そこはちょっと得してるのかな。


「私の得意分野って空間魔法なのですぞ」

「知ってる、誰だと思ってんだ」

「尊敬してるです♡」

「皮肉に聞こえるからやめろ」

「でも、エンガス家って空間魔法使えぬらしきでしょ?」

「使える人間の方が珍しいんだよ」

「何故、魔法の改良がエンガス家の研究内容なのでしょう」


 私が首を傾げると、フェヒ爺はニヤリとあくどく笑った。


「そりゃ、歴代誰も成果を挙げられてないんだから、『名誉職』だろ?」

「成程、がってん、窓際族」

「なんだそりゃ」


 成果が出る可能性はゼロ、けれどやってますアピールだけは欲しい。

 なるほど、貴族の研究って研究ごっこが本業なんだね。


「要は、失敗することが前提の名誉職だよ。だからこそ、無能でも潰れない」

「つまり、誰も結果を出せないポストに座るすて『出せなかったこと』を名誉にしてきた、と」

「上等な椅子だろ? 座ってるだけで給料も名声も保証される」

「それ、もう研究ではなくて、特等席ですぞね」

「ま、エンガス家は代々、その席でふんぞり返ってるってわけだ」


 だからまぁ、既存で改良した空間魔法だけではなく、地水火風の攻撃魔法を改良して『謎の魔法使い』がジリジリ仕事と収入源と削って無能の烙印を押したいの。



「──おら、さっさと理論叩き込め。まず結界、その次は既存の魔法を全部覚えろ」

「くっそぉ! 鬼畜! 鬼! ばーーか!」


 机に突っ伏しながら叫ぶ私の横で、フェヒ爺がケラケラ笑っていた。

 ああもう、こうなったら意地でもやってやる。エンガス家の特等席、引きずり下ろしてやるとも。


 名誉? 収入? 椅子の高さ?

 ふふん、全部、地べたに並べてやる。


「まずは結界魔法の基礎、千行分、丸暗記な」

「なんか増えるすてない!?」


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― 新着の感想 ―
リィン(庶民)とリアスティーン(貴族)… 奴はいつだって複数の顔を使い分ける! ふたり同時に呼び出されたりしたらどうするんだ? ふぇふぃ爺が水の都作った時はあれだな! 龍脈(水脈)を読み、それが活性…
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