第252話 通商破壊は破壊出来れば良し
「さーて! エルフ族の協力ぞ得るすた故に!次は通商破壊です!」
「急に物騒だな」
「やだー! ……麻薬の売人以上に物騒な存在ぞいると思うすてる? なぁトリアングロ」
「(目を背ける)」
「トリアングロ幹部君?」
「(顔を背ける)」
王都に戻ってきました。
と言っても、エルフの領地から瞬間移動魔法でポンと戻って来たので手間はかかってない。
ちなみに王様の上に転移したので二人分の体重を支えた王様は潰れたよ。
「私の目的も、復讐です。トリアングロなんぞに唆すされて国内を麻薬で犯すすたうんこ売国奴に私の手駒ぞ勝手に傷つけるすたですよ?」
「……ん? 今手駒って聞こえたが」
「グルージャの身内だなんて最高に使い勝手ぞいい手駒を良くも……!」
「誤魔化しようもなく手駒と言ったな?」
麻薬がまだ抜けず、耐性はあれど未だに体調を崩している。このままじゃ深窓の令嬢ポジションが入れ替わっちゃうよ! 病弱な儚いお嬢様の立場が被ってるんだ。
「キャラ被りは殺さなきゃ……!」
「お前みたいなとんでも言語聞き取り難易度MAX腹黒主人が同じ次元に何人もいてたまるか」
「悪口が長きぞり!」
プンプン。
さて、私の狙いはシアンの実家の『エンガス家』と麻薬売買をしている組織とその裏側にいる『モザブーコ家』という金だけ持ってる家の二つだ。
エンガス家は子爵。魔法に優れている家で宮廷魔法士を二人も排出した。両親共に騎士団の魔法士で、魔法を使うことに誇りを持っている。
資金面は潤沢という訳では無いが、お堅い仕事に就いているため収入を崩すのはそう簡単には行かないだろう。
モザブーコ家は男爵。商人上がりの貴族で、主に胡椒などの香辛料や植物の輸出入を行っており、島外の国と船で交易を行っている。
資金面は潤沢で、男爵ながら王都の様々な所に香辛料を降ろしてあるが、男爵という地位から分かる通り規模はそこまで大きくない。
クアドラード王国のメインの香辛料の取引商会は…………。
「ここです」
「…………ここ?」
「ファルシュです」
「ローク・ファルシュ?」
実は、モザブーコ家はファルシュ家のお零れにあやかって勢力を伸ばしているだけなのだ。
「ふむ、なるほど」
「何がぞり?」
「いや。ローク・ファルシュは王家の血を引く者だろう?」
「王弟ぞ!」
「国外とやり取りはそれなりに位が高くなければくにが舐められて終わりだ。交渉は常に、優位に立たなければならない。その点ローク・ファルシュは『王弟地位』であり『威圧感』も『武力面』も備わっている、国の重要品を交易する地位に相応しいというわけだ」
「なるほど?」
「それに加え辺境伯という国境の砦役。先代の国王が割とクソだったから兄弟間の結束は高いだろうし、現在のクアドラード国王がポスト役として指名してもおかしくない」
「はぇ……」
言われてみればそうだ。
国境は維持費が高い上に領地経営より手っ取り早く稼げる手立てが必要不可欠。
「パパ上、多分交渉とか好きではなきですぞ?」
「代わりの人間が居たのだろう。後ろに王弟殿下の名前があれば、基本問題は起こるまい」
うちの収入源は知っていたけど、ちょっと予想外な所に着地した。まぁ、王弟だって言うのは割りと最近知ったことだし、ようやく合点が行った、って感じかな。
「あー、なるほど。なるほどなるほど」
私はひとつの仮説に思い至った。
「トリアングロは徹底的にうち、いやパパ上をペちゃんと潰すすたかった様ですね……」
大前提、麻薬をクアドラードに広めたのはそのモザブーコ家とグルージャの組織。
モザブーコ家の主収入とファルシュの収入源の一部は同じく『交易による香辛料』だ。
もし、麻薬が香辛料に混ぜられていると分かれば疑われるのはモザブーコ家とファルシュ家。ファルシュ家にも大なり小なりダメージは与えられたことだろう。
「悪評ぞ煽るすれば、より一層長期化する戦での収入源は無くなるですねぇ。嗜好品ですし」
長引けば長引くほど、戦争中にはバレればバレるほど、ファルシュ家の立ち位置は危うくなっていたし疑いの目が飛んできただろう。
「誰? この性悪作戦考えるすた人」
「──俺だな」
先程、クッション代わりにした人物が部屋に入って来た。
「王様さぁ、本当に悪趣味」
「誇れ。それだけローク・ファルシュを警戒してたんだ。幹部の半分はローク・ファルシュ対策だぜ?」
元トリアングロ国王がニヤリと笑う。うーん、腹立つな。
「たんたか嘔吐ぞすてくれ」
「なんて?」
「さっさと情報吐け、だそうです」
母国語に翻訳を挟むな。
「で、お前はどう通商破壊をするつもりだ?」
「え、簡単ぞり」
私はぐっと手を握りしめた。
「船と倉庫、ぶち壊す」
香辛料に紛れて売ってんだから、香辛料の大元絶っちゃえばいいよね。
「通商ではなくて物理破壊だろ」
「そうとも言う」