第251話 エルフって異世界詐欺なんだよ
エリィが領主の娘だということがわかったので、クソ意地悪DV無駄骨いじめっ子ジジイの、魔法を使えば楽に終わるのに手作業を強制してきた農作業に別れを告げた。
あばよ!農作業!
中途半端に放り出した土嚢作りですが、フェヒ爺がたった一言『大地』と呟くだけで土嚢が出来ました。やってられるか。
さて、エリィと雑談しながら向かった先は木々に囲まれた家だった。ちなみにエルフだから自然な家、みたいなのは一切ないです。異世界詐欺だよね。普通に貴族の家って感じ。
ただ人間と違う所といえば、被雇用者が全く見えないって所かな。エルフ族は魔法が優れているし、魔法で何とかできるのだろう。
「──貴女がフェフィア様の異種族の弟子か」
エルフの領主様にお目見えすることができた。
緑の髪をした切れ長の目の男性だった。
心無しかエティフォールさんに似ているけど、彼より華やかだと思った。
「御機嫌よう。初めまして」
「リィンさんは私のお友達なの!この前も一緒にトリアングロを旅したのよ、お父様!」
バブちゃんがキャッキャと喜びながら挨拶をぶった切る。
困ったように笑えば、視線だけで『ごめん、この子まだ赤ちゃんだから』って謝られた。すごく、分かります。
コホン、と軽く咳をして『貴方の娘じゃなくて私の咳払いのせいで挨拶が止まってただけなんです』というフォローを加え、カテーシーをした。
「リアスティーン・ファルシュと申します」
「……! というと、辺境伯の末娘の」
「えぇ」
冒険者の格好ではあるけれど、優雅に笑っていれば、エリィが首を傾げた。
「リィンさん、名前が違うの……?」
「リィン、というのは……」
「冒険者名です。名前、使用を分ける、す、して。故に、今回はエリィの友としてと言う、より、ファルシュ家の末娘とす、して、参る、り、ました」
あ、ダメだぁ。ぜんぜん喋れねぇや標準語。
「……フェヒ爺ぃ」
助けて。
「ったく。すまんな、実はロークが末娘を表に出さなかったのに理由があって。会話の言語能力が本当に低いんだ」
「あぁ、なるほど。それで。いや、娘から『不思議な言葉を喋る友達が出来た』と言われていたので不思議には思っていたのですよ。そういう事か……」
「すみませぬ。きちんとお話ぞ希望故に、少し言葉がおかしくなりますがよろしきですか?」
「少しじゃねぇだろ」
「むっ」
フェヒ爺に恨みの視線を向ければ、エルフの領主様はうっすらと微笑みを浮かべた。
「構わないよ、リアスティーン嬢」
「ありがとうございます。リアスティーンで、構うません」
「じゃあリアスティーン。紅茶はいかがかな? グリーン産もあるけど、アッザム産も珍しいんじゃないかな」
「お心遣いありがとうございます。ではアッザムでお願いするです」
「そうしよう」
領主様が魔法を使ったのか、ティーセットがふよふよと浮き私の前に降りてくる。そして領主様は自分の手で紅茶を入れて注いだ。
お礼を言って軽く口をつける。うーん、美味しい。実家で出るやつより美味しいかも。
「さて、私はエリィの父であり、魔の森に住むエルフの代表しているエディルファジーと言う。要件は何かな?」
「エディりゅひゃジー様」
「……小娘、発音」
適度な椅子にドカッと座ったフェヒ爺が私に文句を漏らす。
し、仕方ないじゃん! この世界の命名規則が悪い!
「ふふ、呼びやすい呼び方でもいいよ。エディの方が呼びやすいかな?」
「エディル、甘やかすな」
「はい! ではお言葉に甘えるすて。エディ様」
代表と言ったが、まぁ領主ではある。エディ様は微笑んでそれを良しとした。
「それで、本題なのですが。現在私は宮廷相談役の任務ぞ賜るしますて」
「フェフィア様の勤めていた地位でしたね?」
「まぁな」
「その、宮廷魔法士の業務改善や簡略化、またはコストカットで『持続可能な独立した維持魔法』の伝授をお願いしたきと思いますて知恵ぞお借りしたくて」
宮廷魔法士(シアンの兄弟)の仕事を奪いたいから、魔法士が維持してる魔法を自動化させたいな! だから力を貸して欲しいかな! って言うお願いです。
まず大前提、宮廷魔法士の仕事は、王都に張られている出入りの結界や、盗み聞き等がされないように魔法をかけたり魔法の防犯面が主な内容だった。
既に完成されてある魔法に魔力を足したり維持したり、魔力が多くなければできない仕事だ。
「……それは不可能じゃないかな? 魔法は常にかけ直さなければ効果は切れてしまう」
「いいえ?」
私は首を傾げて、フェヒ爺を見た。
「私の師匠は、それを既に完成ぞさせてますよね? この国の水問題を、解決ぞしますた」
魔の森の外側に、常に雨が降り注ぐ湖がある。水の都と呼ばれるそこはこの国の水不足を解消している。と、ペインに教えてもらった。うん、私は己の師匠の業績なんて興味ないぞ。
「故に、エルフ族の技術では出来ると考えますた」
「……あー。まぁ技術的には出来るよ。そうかぁ、流石はフェフィアの弟子だ」
エディ様はどうしようかな、と決め手にかけるような顔をしていた。
「ねぇリィンさん、あ、いや、リアス?ティーン様?」
「どちらでも良きですぞエリィ」
「じゃあリィンさん、なんだかよく分からないのですけど。リィンさんってそんな人でしたっけ?」
「へ!?」
「なんと言ったらいいのか……えっと、リィンさんって『誰かのために動きたい』って願う人じゃなくて『自分のために動いたら周りのためになった』って人だと思っているの」
「んっ、んん?」
「だから私はリィンさんの行動が大好きだし信じたいなって思ってて。だから、えっと、改善? っていうのはリィンさんが望んでる事じゃないのかなって」
エリィ。
それはね、貴族の大義名分って言うんだぁ。
頭を抱えた。
「エリィ。この世にはね」
「はぁい?」
「──ツンデレって言葉ぞあるんですぞ」
「つんでれ?」
「ツンデレ。」
「ツンデレかよ」
「……ツンデレ」
そう、ツンデレって言葉があるんですよ(圧)
「本当は会えて嬉しいのに『べっ、別に嬉しくなんかないんだからね!』って言うすちゃうんですけど」
「どうして嬉しいって言わないの?」
「照れちゃうです。素直になるのが恥ずかしい人もいるですよ」
「なるほど?」
「つまり。思うすてる事と言う言葉が、バラバラになることがあるです。それがツンデレ」
「人間って不思議ですわね……」
そう、ツンデレは世界を救うんだよ。
「故にウソか嘘か、はたまた真実か嘘に見せかけた事実か、秘密か、それを意図して使い分けるぞすなければならぬのです」
「えっっと、嘘? と、嘘? ん? 訳が分からなくなってきましたわ……」
うん、適当に言って誤魔化そうとしてるから。分からなくさせてるんだよ。
「ツンデレぞり」
「ツンデレですのね」
ウンウン。ツンデレダヨ!
頷いていたらくすくすとエディ様が笑い始めた。
「リアスティーンが何を目的として居るのかは分からないけれど、私の知恵と技術で良ければ貸そう。せっかくここまで来てくれたし、エリィと仲良くしてくれているし」
「ありがとうございます!」
「それに……──君だろ? ついこの前の、戦争終結者」
エディ様は鋭い目で私を観察し始めた。
エリィを勝手に連れ回したから、怒ってたりするのかな。まさか貴族だとは思ってもみなかったし……。
「はい、事実です。エリィには、とても力ぞお借りしますた」
「エリィが急に大金を持ち帰って来てびっくりしたんだ。エリィはお金に頓着が無いから、全て私に渡してきて…………」
「心中お察しするです」
「でも、ル族以外はトリアングロで精霊を使役出来ない。魔法が使えないってことだから、リィン、君がエリィを守ってくれたんだろう?」
リアスティーンではなく、あえてリィンと呼んだ。貴族じゃなくてただの冒険者が英雄だったという事は分かっていたようだ。
話の流れからも推測は出来るだろうけどね。
「リアスティーンがエリィと仲良くしてくれると父としては嬉しいかな」
それはもちろん。立場も引けを取らないから、私とエリィは。……きっと。
「ずうーーっと! お友達なの!」
エリィが嬉しそうに微笑んだ。
「もうひとつ、お願いがありますて」
「ん? 何かな?」
「婚約発表も兼ねたデビュタントがあるので、エディ様とエリィを招待してもよろしきですか?」
社交界に魔法マウント、取らせていただきます。