第249話 エルフの住処で農作業
「……なんでこんなことしてるんだ?」
「エンガス家にダメージ与えるため、です」
私とシアンは現在、魔の森です。
その魔の森のエルフ領にて、農作業をしています。
そう。思い立ったが吉日という言葉もあるしシアンの協力を得られた直後、私は彼を連れてすぐさま魔の森へと旅立った。
魔の森と言われる森は、旧クアドラード王国の中央に位置する深い森のことで、深ければ深いほど魔物の危険度が増すという冒険者にとって一種のダンジョンでもあり、まともな感性なら避ける森だ。
故に、この森を避ける様に街道が設けられている。
そんな魔の森にはエルフが住んでおり、どういう仕組みなのかは分からないが緊急時には通れるようになるらしい。
戦争中がそうだ。
開戦宣言を受け、国王軍は魔の森を通って急行した。エルフと魔の森は頼れる国民でもありながら、危険な独立国家でもあり、魔法の隣人なのだ。
さて、そんなエルフ族には割と馴染み深い存在がいる。
一人目はフェヒ爺。本名ルフェフィア。私の魔法の師匠であり元宮廷相談役。
二人目はエリィ。王都冒険者ギルド副ギルドマスターのエティフォールさんの妹で、戦争時一緒に行動した。
エルフといえば魔法職の憧れ中の憧れ。一般的にはね。
だから一応、私の師匠は人間のなかで格が高い。多分爵位持ってる。
そんな師匠に私は会いに来たのだった。
「ほら働けよ。肉体労働は好きじゃねぇんだ」
そう、このクソジジイにね。
「くたばれこのクソジジイ!!!」
「罵倒だけ流暢にすな」
フェヒ爺がいるかどうかは賭けだったけど、無事会えたのだった。
魔の森に入って早々、フェヒ爺が迎えに来てくれるとは思わなかったけど。このエルフ本当に出来ないことないんじゃない? 広範囲の索敵魔法使ってるってことでしょ?
「お願いごと、があるんだろ?」
私のエンガス家のプライドをボコボコに叩き潰すには魔法の知識と技術は必須。なのでエルフを頼りに来たのだけど、私をこき使ってやろうってフェヒ爺の悪意ある理不尽で畑仕事させられることになったのだった。
「このエルフがお前の師匠?」
「リィン様。またはお嬢様。もしくは全世界虜可能な麗しきレディ」
「ガキ」
「主に向かうすて何ですーー!」
「実家ではエルフとの繋がりを如何にして得るか、が成功の鍵になると言っていた。宮廷相談役ルフェフィアなんて、王族でもない限り得ようと思っても得られない繋がりだ」
「流石元クアドラード。私フェヒ爺がそんな偉い人だとご存知無かったですけど、有名なのですね」
「お前本当に伯爵令嬢か?」
土を耕しながらブツブツ文句と共にシアンと会話をする。
フェヒ爺? あいつならパラソル作り出してその下でパリピなサングラスかけてオシャンティなお酒飲んでるよ。手違いで殺してやりたい。
「でまぁ、ちょっと前にペ……………ットの」
「ペットの???」
「そう、ペットの王宮関係者にエンガス子爵が行うすてる『魔法士の業務』を調べるすてもらってましてね」
危うくペインと言いそうになった所を寸前で躱す。危ない、ペインがヴォルペールだとほとんどの人間は知らないんだった。
「まず、エンガス子爵家の特徴ですが。ゴリッゴリの魔法職家系です。騎士団に所属する魔法士故に騎士団とは深い繋がりぞあります」
シアンの実家のエンガス家。
構成は騎士団の魔法士である夫婦と、宮廷魔法士の兄弟。今のところ妻は一人。愛人も無し。
収入はそれぞれの所属からの給料。
「経済に興味があるか聞いた意味はあったのか?」
「あ、それ別件です。でも連動させる故に、間接的にダメージ与えますぞり」
「で、具体的にはどうしようと?」
「まずは……恨みは無きですが仕事を奪うすてしまいましょう!大丈夫、貧困のみぞり」
だからエルフの力が必要なんだよね。
特に、魔法家系だと分かったのだから魔法でマウント取るのが一番分かりやすい。
「シアンは奪われるのが嫌なのでしょ。故に、奪う側の国についた」
「まぁ、否定はしないが」
「フェヒ爺ーーー!」
「あ?」
私は寛いでいるクソジジイに呼びかけた。
「シアン、魔法が使えぬのですけど原因分かるです? 魔力は?」
「今までこいつは使えないと思ってたんだろ。小娘、なんで使えると思った?」
「んっと、国との関係性ですかね。シアン、見るからに重要視されてなきですから」
シアンは魔法が使えないからトリアングロに来た。元々騎士団所属で、搾取される側なのに嫌気がさして奪う側になりたがった。
そして、復讐を望んでいる。
私は……虐待を受けたように思ってるんだよね。魔法家系で魔法が使えない男の子。
細かい過去を教えてくれないのでなんとも言えないけれど。
そしてトリアングロにもオレンジ髪のエルフが居た。『魔法が使えない真の人間』を求めてる両国から特別視されてないシアン。彼には多分、魔石に魔力自体はあるんだと思う。
「トリアングロのエルフも『魔力を持つ人間が嫌い』って性格だったじゃなきですか」
「まぁ、ルシアはそうだったな。あいつらの一族は人間が魔法を使うことに毛嫌いしてる」
「故に、魔法を使わぬ選択したトリアングロに居た。でも、異世界人カナエさん以外特別視はされていなかった。つまりシアンも有象無象と変わらぬ素質だと判断すたのではないかと」
「つまり、魔法が本当に使えないなら特別視されている筈だった、と。……確かに私も他の幹部と何ら変わりない扱いだったな」
求められているのは魔法を使えない人材。魔法家系にとっては邪魔だっただろうけど。
「そう。シアンは普通に魔法の行使ぞ下手くそな人間」
「……刺し違えてでもお前を処刑しようか?」
「主人に嘘ぞつけない契約が嘘じゃなきって訴えてくる……やめるすて……」
唐突な処刑人ムーブやめろ。
「ごほん。よって、シアンは鍛えれば魔法ぞ使用可。フェヒ爺〜〜、何故使えぬ?」
きゃぴ、と媚びをうれば地面を這うスライムを見るみたいな目で見られた。おい、愛弟子だぞ。
「……シアンって言ったか。元クアドラードの人間だったな」
「…………はい」
「クアドラードにいる時、エルフとの関わりはあったか?」
「いえ、全く」
「なら分からねぇだろうな。小娘、お前が教えた方がいい」
「はい?」
フェヒ爺はシアンを指さして言った。
「こいつ、素質がエルフの魔法の方だ。空間魔法」
「えっ!!??」
つまりアイテムボックスとか瞬間移動魔法とか、使えるようになるって事!?
「むしろそれだけだな。人間の教師には教えられねぇだろ」
「逆にレア…………?」
「素質が不器用」
「そしつがぶきよう」
生まれてから一番の衝撃の事実だったのかシアンは呆然とした顔をした。
エルフ、便利だな……。そりゃ宮廷相談役にもなるよ。