第248話 楽しい復讐のプロローグ
トリアングロの幹部は現在、大まかに3つのグループに別れている。
1.個人所属の奴隷
2.クアドラードに隷属
3.自由
自由、というのは難を逃れた運のいいヤツら。ライアー(狐)や、シュテーグリッツ伯爵(亀)、そしてコーシカ(猫)。大小監視はあれど自由に過ごせる人物だ。
クアドラードに隷属してる組は置いておき、個人所属の奴隷でも2パターンある。
端的に言えば外にいるか家に居るか。
外に出る人達は冒険者登録をしてせっせとランク上げをしている。そして家に居る人は私の瞬間移動魔法用の転移スポットになってくれているのだ。
「シアンーー!」
王都のファルシュ邸で素振りをしていたシアンに手を振ってニコニコで近付いた。
ちなみに、元クアドラードの騎士であるトリアングロ幹部、というややこしい経歴の持ち主のシアン(イヌ)は、少なからず魔法に対する知識や気配の察知能力があるためか、瞬間移動魔法で飛んでいくともれなく命が危ない。
うん。不意打ちでシアンの上空に試しに飛んだ時は、反射的に剣を構えたシアンのせいで命の危機に瀕したよね。
ファルシュ辺境伯の私兵、要はパパ上の部下がシアンの剣を弾き飛ばさなきゃ危なかったかも。
「お前……」
「はいはいお前お前。シアン、最近の様子はどうぞり?」
「特に何も」
ぶっきらぼうに答える警戒した男。
クアドラード出身だからこそ、他の幹部と比べて鬱蒼としているんだろう。
「そんな貴方に、名誉をあげるすましょう」
「要らん」
「いらん?? え、私なのに?」
「お前の自己肯定感の高さはどこから来てるんだ? その言語で?」
「前世からぞ」
訝しげな視線を向けてくるので覚えてもない前世に思いを馳せる。
「前世が懐かしきなァ、世界中の人間に膝を付かせて革命前夜まで豪華絢爛なパーテーぞすて、世界最後の帝王として輝かしき最期を迎え後の世では悪逆非道の美しき……」
「その話いつまで続く?」
「ノリぞ悪き!」
全く、少しくらい付き合ってくれてもいいじゃん。かー、これだから童貞は。
「…………で、何の用だ」
さっさと本題に入れ、と言いたげな目を向けて来るシアンに私は肩を竦めた。
仕方ないなぁ。
「社交界への招待です」
「要らん」
「まぁまぁそういうせずに」
私は、まだ相手方に送っていない招待状をアイテムボックスから取りだした。
「──エンガス家への招待状です」
「…………なんだと?」
騎士団の家系であるエンガス家。どちらかと言うと騎士団系の宮廷魔法士を排出した家。
「ご存知?私、宮廷相談役にこの度なったです」
リィンもリアスティーンも両方。
「故に、その繋がりもありますて私のデビューパーティーに色んな家に招待状ぞ送る必要があるのですけど。その目的のひとつに『婚約者探し』を隠すていまして」
「……だが、お前はルナールと婚約しただろう」
「そうなのです! でも、婚約発表はパーティーの後半にする予定なので、パーティーのエスコート役が居らぬのです……」
デビュタントの娘が婚約者以外の男性をパートナーとして携えて出るのは外聞的に少し悪い。
「だからシアン、私をエスコートすてくれぬ?」
私と一緒に社交界へ返り咲こうじゃない。
元騎士団所属であり、配偶者を持ってはならない敗戦国の幹部ならパートナーになったとしても特別な問題は起こらないだろう。
「シアン、私の専属の護衛とすての地位を得ませぬか? 奴隷のくせして、宮廷相談役でありエルフの弟子である魔法職として羨ましがられる私の護衛ポジション。もちろん、きちんと護衛ぞすなければ評価は得られぬですけど」
今から私は割と危険な目に遭う予定なので。
「そんじょそこらの騎士や魔法士より、ずっとずっと価値を作るです。任せて、この国には私に大きな貸しがある故」
「……戦争のことか」
「もちろん」
何が言いたいかって言うと。
シアンにはエンガス子爵より大きな立場で上から見下ろして欲しいんですよ。
「エンガス家が、ご実家ですたよね?」
シアンとは交渉して負けてもらった。
その条件は『復讐』だ。
「約束すたでしょ? 復讐劇は最高の娯楽です、って。貴方を無能だと罵るすた醜い家へ美しき我らが見下してやりましょう?」
大雑把な復讐に具体的な道筋を作ってあげるから、蹴り捨てて来なよ。
偽物の忠誠心でいいから私の部下として社交界についてきてくれると助かるなぁ。
「……いいな」
シアンはここに来てようやく笑みを浮かべた。
「楽しみだ。せっかくだから、惨めな目に合わせてやりたいな」
顔がいい方だというのは知っていたけれど、幸せそうに他人の不幸を願う笑顔は美しく見えた。
「うーん、惨め、か」
私はシアンの過去を知らない。
だからどこまでどんなことをされたのかを把握するところから始めないとシアンとの契約を満足させられないかもしれないな。
「…………シアン、経済に興味無き?」
私は軽く齧ってるけど、経済センスはそんなに無いから他人にまかせたい仕事があるんだよね。
ひとまず、時間のかかるものから始めよう。