第242話 正座は尋問兵器
「──グルージャ♡」
宿に出向いた。早朝のことである。むしろ太陽も上がっていないような朝、夜中と言っても過言では無い。
私には瞬間移動魔法という魔法を使える。
移動したい地点を目で認識して転移箇所をしっかり把握しなければならない為、目の届く範囲という縛りがあった。
しかし、先の戦争で無理をやらかして魔力量が増えたせいか、奴隷という魔力の繋がりを元に移動出来るようになったのだ。
まぁ要するに、奴隷の所へ瞬間移動、ってわけ。
「う、うわああああ!!!??」
これはグルージャの上空に現れた私がのしかかった勢いで上げた悲鳴。
「何事だ!?」
「敵か……!」
同室だったべナードとクラップが各々の武器を構え。
「………………急に来んな」
監視役のライアーが眉間に皺を寄せた。
「──おめでとうグルージャ。ミセリアが麻薬、吐いたぞり!」
これだからトリアングロは。
いくら奴隷になったとは言えど欠片も信用出来ないこの感じ。シュランゲを思い出すわ。
「終わった…………」
説明を飲み込めたグルージャは天を仰いだ。まぁ元から横になっていたので天を仰いでいたんですけどね。
さて、女部屋からアダラも呼び出して報告である。
ちなみに宿の組み分けは
・女部屋
・ペインパーティ(ラウトさん・クライシス)
・元トリアングロ
・月組
以上の四部屋だ。
私は女部屋に居てペインはペインパーティ部屋に居る設定である。
「ねぇグルージャ、クアドラードで流行る中の麻薬について、ご存じですぞね?」
「はい……」
「あぁ、もう少し細かく言うしましょうか。戦争が決着する前から、ご存じですたね?」
「………………はい」
観念したかのようにさめざめと泣き出すグルージャ。
正座をさせた足の上に私は思いっきりヒールを乗せた。
「うぐっ! ま、待ってくださ、この座り方、足が、しびれ……!」
「ぐるぅーじゃあ? 私、隠し事、だーいっきらい。そこのうんこ髪に裏切るされてからもっっっともね」
「(無言を貫きますって顔)」
「ひぃ! うわああ! 待ってください待ってください足の芯ががちで本当にやば」
「ご安心ください。この空間、防音済みぞり。……いくら声ぞ上がるすても誰も気付きませぬぞ」
「ひぇ…………!」
わざと声を上げてるのは知ってんだよ。
この部屋の中の音は外にもれないから、思う存分叫んでくださいね。
「…………あぁそうだぁ」
グリン、と他の幹部の目とも合わせた。
「トリアングロ幹部、全員捕縛済み故に」
「えっ」
「はぁ!?」
「はい?」
「早くねぇか!?」
終戦直後に奴隷になってなかった人数を頭の中で数えているのだろう。1人あたり1ヶ月も掛かってなくてよ。
まぁもちろん、普通逃亡者なんてもっと時間がかかるはずだろうけど。
「猫もか?」
「はい!」
「蛙も?」
「それは死亡確認済みぞり」
「梟はともかく、亀もですか?」
「えぇ!」
むしろ亀なんて採れたてホヤホヤだ。
ライアーが私を見ながらあぐらをかいた。
「お前、なんか持ってんだろ」
「生まれてこの方災厄くんとはどうやって縁切りしようかと悩むすてるぞり」
結局ペインの災厄しみしみ釣り餌がきちんと機能しちゃったんだよ。
奴の予想通りになったのがなんだか不服なので今度クライシスと手を組んでみようか。
「ライアー、姫さんの手綱握れよ」
「ふざけんな無理に決まってるだろ」
クラップの文句にライアーが異議を唱える。
「で。グルージャ」
「はい……」
「麻薬の売人、どこ?」
ミセリアが日中に麻薬を無理矢理摂取させられたとの説明はしているが、流石というかなんというか、超個人主義のトリアングロでは血縁関係の身内は別に過保護になったりはしないようであっけらかんとしていた。
「売人は、その、」
「うん??」
ペインの嘘を見抜ける魔法では無いけれど、奴隷契約において主人に嘘はつけない。
欠片の言葉も取り逃さないからな。
「お空の上です…………」
「……。日中にグルージャに襲いかかるすた方の?」
「はい……」
あっちゃあ。これ証拠隠滅にも走られていたのか。幹部狙いなのは嘘では無いだろうけど、繋がりがバレない為に口封じとして殺していた、ってことかな。
「他の拠点はご存じ?」
「………………くっ、存じ上げています」
「そう。場所は?」
「……………………王都です」
観念したのか吐き出すグルージャ。
細かい場所まで聞き出せたので私はひとつ頷く。
「先ずは」
拳を握りしめた。
「歯、食いしばれ!」
バコーン。
これは私の蹴りが腹に入った音。
え? こぶし? 拳より蹴りの方が威力は強いでしょ?