第241話 トリアングロの爪痕
伯爵との話し合いというか顔合わせも特別な問題なく終わりを迎えていた。
「──てなわけで、超絶ドMの俺様に問って冷たく罵ってくれそうなリアスティーン様には是非ともこの国をもっと好きになってもらい、この国から離れねーようにしてもらいたいたいってわけ〜」
「殿下がいる限りおっけーぞり」
「足枷をさりげなく俺へ移さないでくださいね?リー?聞いてる?おーい?」
我ながら弱点らしい大きな弱点は無いからこそ国も扱いに困ってるんだろうなーっていうのはわかっている。けどまぁ、それで私が何か出来るって言ったって無理な話だよね。私から動けば『私がそう望み通り操作した』ってだけだもんねぇ。
「ところで、リアスティーン様も殿下も後ろの二人には隠し事しなくていいのか?」
「「はい」」
間髪入れずに答えた。
後ろの二人というのはヴィシニスとクロロスの事。こちらとしても、エルドラードは管理系オタクなだけなので抱き込めるならずっと抱き込んでおきたいよね。
エルドラード家の弱点って知らないところで遺伝子撒き散らすことだし。
この世界の医療技術で可能かどうか分からないんだけど、輸血とかしたらエルドラード一族ってどういう反応をするんだろう
「信頼されてるねぇ」
「行く先々をこまめに報告しないと怒られますけども」
「私そんなことされぬです……」
信頼度とかでは無く、男か女かの違いだろうな。遺伝子をばらまくって意味で。
「あ、そうそうリアスティーン様」
「はい」
伯爵は私に注意を促した。
「幹部にゃ気を付けろよ」
「んー、どれに?」
「全部♡……って言いたいところだが、そうだな。特に気を付けるべきは」
少し考えたあと、二本指を出した。
「犬と白蛇」
あくまでも私が所有しているメンツの中で、と言いたいのだろう。冒険者組は扱いやすいと思っていたので、納得の範囲内だ。
「この二人は魔法や世界の作りではなく、クアドラード王国自体を恨んでいるし憎んでいる。早めに殺すこったな」
元クアドラード貴族に、元クアドラード貴族の部下。並々ならない確執があるのは察していたから、シアンには屋敷待機、シュランゲには寮待機を命じていた。
「殺しはしませぬけど」
「…………ふぅん」
「忠告ありがとうござります。注視すておくですね」
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──コンコン
「はい…………?」
「ご機嫌よう」
扉を開けばミセリア・パスト嬢が出迎えた。顔色も悪く、汗が流れている。目の焦点が微妙に合わないが、私を見た瞬間目を見開いて頭を下げた。
「ツンディには明日と伝えていたのですが」
「でも気になって」
入ってもいいかな?
そう首を傾げるとミセリアは中に招き入れてくれた。
ツンデレ子に『明日ミセリアのところを訪ねて欲しい』とお願いされて、動けない状態なのかと思えば想像より酷い状態。
さて、どうしたことか。
「お呼び出しして申し訳ございません」
「ひとまずベッドに」
「いえ、このまま」
ミセリアは地面に膝をつき頭を下げた。
「大変申し訳ございません!」
「…………それは、貴女の状態と関係ぞある謝罪です?」
「これは、オカインと言われる麻薬による中毒の症状です。と言っても、私は耐性があるため拒否反応でこうなっているのですが……」
大きな手がかりだ。
「へぇ……?」
耐性があるのもそうだし、バイヤーとやり取りをしたのか仕込まれたのか分からないが麻薬を摂取した状態にある。
こんな餌、見逃せないよね。
「実は……戦時中クアドラードに麻薬を売っていたのは私なのです」
「はい!?」
「ウチは幹部の家ですから、身内も打倒クアドラードの為にいくつかの作戦を立てました。……それが麻薬による中毒での内部分裂でした」
ん?内部分裂?
ミセリア達が直接売っている訳じゃないのか?
私の疑問に思う節があったのかミセリアは続けて説明を加えた。
「私が売人に売り、売人が他の貴族に売る。我々は取引の証拠を残さずに売人が謎のルートで仕入れて国内に広めるという流れの作戦でした。もちろん途中までは上手くいっていました、が」
ミセリアは視線を逸らしながら言葉を続ける。
「劣勢のはずのクアドラードは戦争に勝利し、手を引かざるを得なくなりました。……今日の日中、オカインの残りが少なくなり焦った売人にせっつかれてしまいました。生産も手を引いたと言えば、無理矢理麻薬を私に」
なるほど。
己が中毒になれば無理矢理生産するだろう、と。そして今まで通り取引をして己の多幸感と金稼ぎ、売った人からの復讐を避けたかった。
だからこんなバカみたいな行動に踏み込んだのね。うーん、馬鹿。
「なので、大変申し訳ございませんでした」
そしてミセリアも馬鹿。
さーて、どうしようかな。