第240話 幹部フルコンボだドン
「ん?もしかしてこれ幹部コンプリートすた?」
トリアングロの幹部は陸海空の3種類で分けられている。
鷲 アヴァール・アクイラ→国所有奴隷
梟 アーベント・グーフォ→教師
鶴 ブレイブ・パスト・グルージャ→私所有奴隷
烏 ビシャク・クロウ→スパイ、死亡
牛 カマー・バッカ→国所有奴隷
鹿 レヒト・べナード→私所有奴隷(譲渡)
猿 ティザー・シンミア→死亡
猫 トール・コーシカ→戦争不参加、解放
犬 メランポス・シアン→私所有奴隷(交渉)
蛇 コン・サーペント→国所有奴隷
狐 ライアルディ・ルナール→叙爵
白蛇 ヴィズダム・シュランゲ→私所有奴隷
海蛇 イードゥラ・アダラ→私所有奴隷(譲渡)
鯉 クライム・クラップ→私所有奴隷
蛙 カルロソ・フロッシュ→死亡
亀 ザン・シルトクレーテ→スパイ、生存
リストアップするとこんな感じか。
陸軍が他の2倍居るというのは覚えていたけれど、結構な化け物揃いだ。この中でも弱いのが鶴、猿、そして狐なのだから世の中って理不尽だ。ちなみに最強格は鷲、鹿、猫、鯉らしい。
クラップと同格にべナードが!? って思った時もあったのだけど、真面目に無駄を削ぎ落として戦えば陸軍の中では上位だそうだ。
「16人中……。クアドラードからは2名。内1名死亡。潜り込むすたことを褒めるべきか、両者ともに途中離脱すたことを訝しむべきか」
「対してトリアングロからのスパイは……白蛇、狐、鹿、猿、梟?5人も居たのか……」
「でも殿下、クアドラードの幹部相応に居るすたはほぼ1人ぞり。他は無名にひとしきです」
「国の背景の問題か、それとも実力……?」
「単純ぞり。魔法なしのクアドラード人が幹部と同等の腕ぞ持つすていなき事。そして魔法ありの国でトリアングロは活躍出来ぬ。そういうことぞ」
さもありなん。
世の中はこんなこともあるって。
「でもこれで所在コンプリート?」
「コンプリート」
「ちゅかれた…………」
やりきった!
そしてどちらかと言うとあちらさん側から舞い込んで来た感が否めないけど、私の魂にガッツリ重曹みたいにこびりついた災厄くんのせいかな。本気を出すなよ。
「お待ちになって」
「はい?」
「コンプリート……といいますけど、梟がまだ居ないのでは無くて?」
あ、そういえば2日前くらいに把握したばかりだからまだ報告してなかったっけ。
「「担任が……」」
「ん!?」
かくかくしかじか。
クライシスを利用した発見方法で正体が露見した哀れな最後の幹部のことを説明すると、エレオノーラさんは一気に慌ただしくなってしまった。
どうやら報告なり確認なりするらしい。
「殿下、失礼ながらよ、ちゃーんと報告はした方がいいと思うぜ?」
「調査していることを把握しているシュテーグリッツ伯爵家が、幹部であったことを私に教えなかった時点でその警告は無意味かと」
「違いない!」
伯爵がワッハッハーと笑う。
「本当は俺はヒント係だったんだよ。まさか最後とは思わなかったけど」
「最後ですねぇ」
「最後ですたねぇ」
「第4王子殿下もそんな堅苦しい喋り方じゃなくて崩していいんだぜ?公の場じゃねーし」
「では多少崩しますね」
あ、これ崩さないやつだ。
その姿を見て察したのか伯爵もわざとらしいため息を吐く。
そして私の方へ向き直った。
「さて、女狐。あんたは今この国1番の戦力を抱えていることになる」
「はい」
「騎士団を所有している王族より、な?もちろん魔法って観点でトリアングロはクアドラードには負ける。が、それにしてはあんたの立場が問題だ」
トントンと机を叩いて伯爵はさらに言葉を続けた。
「本来であれば、戦争で決着がつき、その幹部も国が管理。または処刑するはずだった」
「でも、私個人……しかも地位も無い身分での勝利故に私的な奴隷にすてしまった、と」
「おう、そこが大問題。ただまぁ、まだそれだけなら何とかなったぜ?なんせ、俺様みたいに魔法が使える相手にはとことん弱いからよ」
逆も然り
魔法が使えなくなった瞬間クアドラードはトリアングロに弱い。
トリアングロ国内では魔法が封じられていた。私はそこを敗れたからトリアングロの幹部に勝ったと言っても過言ではない。相性の問題だよね。
だから魔法を詠唱する前に殺されたら、または魔法が再び封じられたら。クアドラードは一気に負ける。
「さて、ここで問題なのはあんたのもうひとつ。現在の立場だ」
「現在の……?」
「貴族としての立場と言った方がいいか。魔法のないトリアングロの危険度はそこそこ。だがあんたには……とってもつよーーい、魔法使いのパパがいる、そうだろ?」
「………………いるです」
鬼みたいな、人間じゃないようなやつがね。
「魔法の武器も武力の武器も同時に行使出来るあんたのことをこの国は恐ろしくて恐ろしくて仕方ないんだよ…………。て、馬鹿な貴族は思うだろう」
私はその事に首を傾げた。
「まぁこのことを知っているのは国の本当に中枢。俺様みたいにスパイをやってたらようなやつや、大臣ぐらいにならなきゃ知らねー」
「そう、ですね」
「身の振り方には最大限気をつけた方がいいぜ、レディ。大臣補佐達はあんたの一挙一動を観察してる。あんたに少しでも反乱の芽やパワーバランスを乱すようなことをし始めたら、はてサてどうなる事やら」
予想はしていたけれど、我が身の立場の危うさにビビってきた。
はい、気をつけます。もうちょっとこまめに報告します……。
「ま、せいぜい人質をこの国に大量に作ってくれや。リアスティーンサマがこの国を傷つけないと思えるくらい」
「……あぁ、海外に逃げるすて海外で戦力集めすてクアドラードと戦争を起こさぬように?」
「なんでそんな言葉の裏を読める??」
監視の目も厳しくなってやりたいことをやれないのであれば海外に逃げてもいいけど、国内で大事な人を沢山作って『リィンならこの人達が暮らす国を傷付けないだろう!』という安全性を作ってから逃げろって事ね。把握把握。
「……まぁ、裏切られぬ限りは裏切るつもりも無きですし」
「リー?」
「私とルナールの関係性は私に足枷ぞはめるだけでいいですもんねぇ」
ライアーは私に執着してるし、奴隷の主は私。私の首根っこを、国はしっかり掴んでおきたいのが本音だろう。
「まあ私が女狐であるという事ぞ隠すてくれてる、って事は私にとって最大の弱点でもあるですが」
「だがそれを公表すれば、最終的にあんたが利益を得る」
「そうなのです!本当にそれ!」
目立ちたくないし知られたくない。でも、バレたとしても私は『戦争の英雄』という名声が手に入るだけだから。窮屈にはなるけど。
国が私を脅すには弱いカードなんだよね。
「私がこんなにも完璧な超人すぎるばかり……」
「初めて会ったけど、リアスティーン様のそゆとこ好き」
「本気の冗談はさておき、『国に借りを作れ』って言いたきですね?」
「国側から言うと『借りを返させろ』ですけどね」
ペインの言葉に苦い顔をする。
そうだね、特大の貸しをしてるもんね、私。
「国民として当然のことですから」
「お前……国とか関係ない俺はお前をぶん殴るパンチの心意気でおっさんの所行ったじゃんか!今更そんな綺麗事持ち出すなよ!」
ペインの化けの皮が剥がれかかってるの笑えてくるわ。