第239話 幹部の悪運には恵まれている
亀じゃん。
アレックス・シュテーグリッツの挨拶に一瞬呆然としたものの、貴族の礼をして敬意を表した。
「この度はこの様に歓迎いただきありがとうございます。アリストクラット学園1年を代表をして感謝致します」
「あ、うん。王子様に褒められて感激だなァー。ところでリアスティーン嬢、鞭とか興味無い?それか鉄扇とか。鉄扇で優雅に微笑みながらビシィって叩いたり」
亀じゃん。
「お前ほんとこういうのばっか」
「ゴホン」
やめてよ。そういう呪いかけるの。
私の代わりにヴォルペールが伯爵と話している。どうやらこの交流会の会場についての話のようだ。
するとツンディ・デレッタがやってきた。
「ご歓談中失礼します、リアスティーン様!」
「あら、御機嫌よう」
「ひゃ!お、お返事を頂いてしまったわ……!はわわわわわ大変、身嗜みはちゃんとしてるかしら……。あ、いや違う違う。あの、リアスティーン様、ミセリアが明日お話したいと言っていますがご調子の方はいかがですか?」
「パスト嬢が?」
キョロキョロと周囲を見回してもミセリア・パストはいない。その視線に気付いたのかツンデレ子は気まずそうに口を開いた。
「その……実はミセリアが体調を崩しておりまして」
「……! そう」
病欠(偽装)常連の私から言わせてもらうと、パストが何か企んでいる可能性もある。
一応相談してから向かうようにしようかな。
「リアスティーン様を呼びつけるだなんて恐れ多い事ではございますが、リアスティーン様のお慈悲を頂けませんか?」
「えぇ、大丈夫ですわ」
「ありがとうございます……!」
ツンデレ子は余分な話をせずにサッと頭を下げて距離を置いた。
ツンデレ子は私ことリアスティーンのことが大好きなのに距離感を弁えているからいいよね。視線はちょっと感じるけど。
「あら、お話は終わったかしら?」
「えぇ。申し訳ございませんわ」
「そうね。とりあえず、別室に向かいましょうか」
エレオノーラさんが腹の中が読めない笑顔で微笑んだ。
ヴィシニスとクロロスも一緒に引き連れ、私とヴォルペールは客室にやってきていた。一国の重鎮を招くにふさわしい豪華な内装に、色々観察したい気持ちもあったがエレオノーラさんの視線が油断ならなさすぎて怖い。
ボロが出ないか心配〜〜〜!
「さて、リアスティーン。貴女達の従者も室内に入れたということはある程度情報は共有出来ると認識してもいいのね?」
「はい。………………というかえりぇおのーらさんの態度砕けすぎではなきですか?え?私の血筋とは」
「お黙りなさい。社交界デビューもしてないような小娘に尊敬の念を抱くわけが無いわ。ご自分の手で同じ舞台に立ってからお言いなさい」
「あっ……、もしかしてまだ『おばさん』って言うすたこと根に持って……」
「リーアースーティーーーンーー??」
「お姉様美形、美しき、麗しき!よ、世界一!だから私のほっぺらつまみゅのやめるふてぞりーー!」
頬っぺたが伸びるー!
じゃれてるだけなのがわかっているのか、血が出ないから問題無いのかは分からないがヴィシニスもクロロスも私に対して保護をちっともしようとしない。
「リー、少しは貴族としての仮面を被ろうとか思わないのですか?」
「正体バレぞすてる人に被るすても!公じゃ無きですし」
呆れたヴォルペールに文句を言いつつ、解放されたほっぺたを優しく包む。あぁ、冒険者生活で荒れていた肌がようやく元のうる艶プルプル肌に戻ったと言うのに。
「さて、こちらの本題に入らせていただきましょう。早速ですがシュテーグリッツ伯爵」
「ん?なんだい王子様?」
「──貴方はトリアングロ海軍幹部〝亀〟ザン・シルトクレーテですか?」
伯爵はニヤリと笑ったあと、ひとつ問いかけた。
「そういうってことは、根拠があるって事だよな?」
根拠らしい根拠は無いから思わず口を噤むヴォルペールに変わって私が伯爵に顔を近づけた。
「アダラの話と貴方の特徴が一致すたからですよ。鞭でぶたれたいですか?」
「もちろん!」
変態的な返事だった。
「御託はやめましょうか。殿下、リアスティーン。両方正解よ」
「まぁそうだな。俺様こそが幹部だ」
シュテーグリッツ伯爵が足を組んでドヤ顔をした。伯爵とは言え普通に腹立つ顔だ。
「非常に残念なことに我が国からの最初の潜入者として任命されたのが夫なのよ」
「ところでリアスティーン嬢。何故アダラ様の名前を知ってるんだい?」
「何故って、私がアダラの奴隷権持つすてる故に」
私がその発言をすれば、何も知らなかったのかシュテーグリッツ伯爵はポカンと口を開いた。
「……え?もしかして女狐って」
3人揃って頷けば、シュテーグリッツ伯爵は頭を抱えてしまった。