第237話 引退冒険者の実力
「り、リィンさま? ちょっと、依頼こなしてきてもいいですか?」
「待ってくださいべナードさん、タイムリミットの方を伸ばす手もありますよ」
「笑えへん……うちらとんでもないとこおるわ……」
三者三様の反応をしながらバタバタと動物パーティが依頼をかすめとって街の外へ飛び出していく。
「そういうすれば」
「そういえば」
「そう!いえ、ば!」
ライアーの言語添削を掻い潜ってウヴァンさんに向き直る。
「Aランクになる条件ぞ中に貴族とありますたが、ウヴァンさんは貴族の指名依頼ぞ受けるすたですか?」
「……………………………………非常にずるいやり方だったがな」
うちは貴族に膨大なツテがあるため困らないのだけど、貴族の『こいつならAランクにしてもいいやろ』って思わせるのが一番苦戦するはず。
それこそ後見人と取られてもおかしくない状態だからまともな貴族なら渋る筈。一度や二度の指名依頼で人となりを把握出来るわけないし。
そう思って問いかけたらウヴァンさんは苦い顔をした。
「参考にしたいのなら辞めておけ。参考にならん」
「何故ぞり?」
「端的に言えばパーティーメンバーが貴族だった」
「「「…………。」」」
貴族2人と王族1人が黙っちゃった。
「パーティーは4人パーティーだったんだが、魔力馬鹿が貴族の、しかも当主になってな。他の資格をクリアした瞬間強制的にAランク行きだ」
「うわぁ……」
「子供もいたし大怪我を負う前に冒険者は引退したんだが、あの馬鹿のせいで休めれん」
魔力って所が貴族っぽそ〜。
基本的に貴族は魔法に対して接する鍛錬の時間が平民と比べて倍以上あるから魔力量が多くなることがあるみたいなんだよね。
実際、私も魔法の鍛錬の時間は1日10時間くらいある時あったし。使い切るまで絞り出して使って総量を増やす。これに尽きる。
私と真反対の魔法職は今のところグレンさんかな。あの人は少ない魔力をどうにかするために式神って魔力の貯蓄をしてる人だから。
「狼のおっちゃんは今何をしてんだ?」
「ん?後進の育成だ。というか、息子達の教育だな」
そういえば背中の豪胆な赤子はお孫さんだっけ。
ウヴァンさんは厄介者を思い出すかのように眉間に皺を寄せた。
「……そうだ、お前たち余所から来ただろう」
「え、うん。そだけど」
「依頼はいいのか?」
「なんて言うか、イマ依頼中?」
「ソウゾネー」
金貨一枚の依頼ですまんね。
他のグループを入れたくなかったのと、幹部あぶり出しの成功報酬を国からぶんどってくるから後で動物パーティー以外に分配しようね。
なんせ未だに騎士団に潜っていた超危険人物の特定なんだもの。
「クライちゃんのお手柄ぞり……」
「(おれー?)」
私の独り言に反応したクライシスが首を傾げた。こいつ街の中じゃ本当に気配消すよなぁ。
クライシスがトリアングロの災厄的存在として顔が知られてて本当に良かった。
「……暇があり、お前たちが良ければ、指南をつけてやろう」
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「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「はぁ…………はぁ…………」
「うえっ、げほっ、ゲホゲホ」
「んんーーえくすたしぃ!!」
ペインとクライシス、ライアーと私。
そう、四人がかりでウヴァンさんにかかっていったが普通にぼろ負けした。世界、広っ。
「魔法ありだと子供2人の戦闘力は底知れなくなるな」
「あはーん。オイラ楽しくって仕方ないよネ!ほら見てダーリン頭から血が噴水のごとく!」
「うるっせぇクライシス!」
ペインがキレ散らかした目で町の外のクライシスに叫んだ。
「ライア、おまぅ、え、かんぶじゃ」
幹部の実力がそれか!?
息も絶え絶えに言い連ねればライアーもイラッとしているのか感情を隠さずウヴァンさんを睨みつけた。
「うるせぇ……俺ぁ、下から数える方が、はえーん
だよ」
「けっ!」
動物パーティーに相手させるんだった。
Aランク冒険者の実力舐めてたー。戦争の英雄に担ぎ上げられてもおかしくないポジションとしてそれなりに強いつもりだったけど、魔法ありでさえここまで敵わないとは。
「むしろおまえは、っ、よく、あいつらに勝てたな」
「魔法慣れしてなきやつにっ、トリッキーで、勝つすたから、ぞり……!」
荒れた息が中々整えられない。
ウヴァンさんは魔法に慣れている。それもパーティーにバカみたいな魔法職が居たみたいだし。
トリアングロは魔法を排除していたからこそ魔法での対処方法が頭に入っていなかった。知らない武器って強い。だからトリアングロに勝てたと言っても過言ではない。
魔法無しで勝てるトリアングロ幹部なんてほとんどいねーーーーーんだよ!
「あっはぁ、もういっかい〜!ほらそこの愚民ども、イキマスワヨ」
「ふざけんな戦闘狂!」
「ペインお前のぱーちー!」
「街の中でこれを出さない躾でもう躾しんどかった!無理です!」
諦めるなよ飼い主だろ!
クライシスはリボンを取りだして楽しそうにウヴァンさんに襲いかかっている。
「……魔力でごり押すか」
「賛成……」
我ら従兄妹。考えることは同じってね。
「「──クライシスの方を!」」
「そっちかよ」
だってこれ以上戦いたくないんだもんー!このバーサーカー早めに無力化して休みたい!私たちこれから貴族的な仕事も残ってるのに!晩餐会というか交流会!
「今夜はペイン任せるぞり」
「悪いけど今夜宿のおばちゃんに呼ばれてるから一緒に行こーぜ」
うん?ライアー達が泊まってる宿って確か店主はおじさんだったような。
「あえ!?」
もしかして貴族のお宿の方!?
シュテーグリッツ伯爵夫人の方!?
「くたばれクライシス!」
「八つ当たりぞりー!!!」
「えぇ?最年少ズ酷くなくなくない?」
もうこれ以上疲れさせないで欲しい……!




