第233話 お忍び貴族が多いわけ
「ひーー!!! やめ、やめて。そんな面白いことしないで……。オウジサマの仮面が壊れる……ぶぶーーっ!」
「ペイン!」
宿に向かって動物パーティーに行き場のない怒りをぶつけ、アダラ、グルージャ、べナード、クラップに哀れみのヨシヨシをしてもらった後、なぜか敗北を感じたので『忠義の狐と革新の女狐』みたいな噂を流したであろう王族を代表して己の従兄に抗議しに行ったら大爆笑された。
解せぬ。
「クロロス! お前の主! なんとかすて!」
「無理です」
「ヴィー、ヴィシー。あいつなんとかすて」
「金の血なので無理です」
この金の血オタク共!
己の従者にまで裏切られて私は布団にぼふりと頭を突っ込む。
ここシュテーグリッツ伯爵邸。
学生貴族達の寝泊まりは伯爵の屋敷で用意されている客室を利用するためだ。
「ところでリアスティーン、立食はしなくて良かったのか?」
「うん。下で食べるすてきたぞり」
「つーか、屋敷をどうやって出入りしたんだ? 貴族としてじゃなくて冒険者として出入りしてただろ?」
「客室って、警備甘きですぞねぇ」
普通に窓から出て、普通に窓から入ったし。塀は箒で飛び越えたよ。
あ、そうそう。
戦争開幕直後、ライアーにぶち壊された箒なんだけど、王都にいる間にライアーに弁償させたので無事新たな箒(飛行用)をゲットしたのだ。
魔石とかはついてないんだけどねぇ。今度月組に頼むかな。
「ヴィシー。夕食は食べるすた?」
「はい。リアスティーン様は体調不良の為自室でお休みされています、と説明はしておきました。先生とパスト嬢は苦々しい顔をしておりましたが、デレッタ嬢は見るからにガッカリされてましたよ」
「ツンデレ子楽しいぞね」
「分かるわ〜」
ペインが私の隣に座って楽しそうに笑っている。
「交流会何すた?」
「……ずっと挨拶繰り返してた。死ぬ。殺す」
「突然私に殺意向けるのやめませぬ!? 全部トリアングロが悪き」
最近話題の第四王子、ペインは項垂れて深く深くため息を吐いた。
「俺も逃げ出してぇ」
「諦めるすて」
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翌日。
「やっほー! 来ちゃった♡」
「ペイン!?」
冒険者ギルドにヤンチャなCランク冒険者が来訪してきて、わりと混乱した。
「……なんでいるんだ?」
「リィンばっかズリーもん! 俺だって皆と遊びてーし」
「私と、ペインじゃ! 違うでしょ!」
ライアーの困惑も無視してペインは純粋な少年みたいに頬を膨らませる。やめろやめろ、そんな無垢な表情をするな。冒険者の素のペインはもっと柄が悪くてナイフとか舐めるタイプでしょ。
というか、本当に私とペインじゃ冒険者の難易度が違うんだよ。
私は動物パーティーにもペインパーティーにも月組の二人にも貴族だってバレてる。夜中も問題無く屋敷に戻れる。
でもペインは動物パーティー以外にバレてないしバラしたらまずい立場じゃん!? 貴族に戻らなきゃいけない時どうするの!?
「それに家のこととか……」
王族が交流から抜けたらまずいじゃん? と思ってボカして聞いた。
「頑張ってくれるって!(クロロスが!)」
あ、これ無許可だな。
はち切れそうな笑顔で告げられた『俺はなんもしないけどクロロスが上手くいいわけてくれるから』という内容に涙が止まらない。
頑張れクロロス。私は手伝わないけど。
「あぁ、姫さん居たな」
朝から軽く鍛錬をしていた動物パーティーが宿に戻ってきた。
「……ん? このボウズ、王都にいた時の」
「おっちゃん久しぶり! リィンになんか用?」
「まぁ、な。一応姫さんの依頼達成したし、これから何か用事はねぇのか聞いときたくて」
「無きですけど。クラップさん何か用事あるです?」
「ランク上げしとこうかと思ってよ。おれはまだEランクだし。月組連れて行こうかと」
「リックさんとグレンさんが付いてるなら問題無きですね。おっけーですぞ! 他の三人は?」
監視の意味合いもあるのでそこまで単独行動はさせてあげられない。普段月組のクラン拠点によく居るクラップ(冒険者パーティー唯一のEランク)が月組と動くのも何ら不思議は無い。
「おひぃさんが良かったらなんやけど。ショッピングがしたいわぁ。私物という私物がちょっともの足りひんねん」
「確かに?」
一応奴隷だから、世話は所有者の私がしないといけない。
アダラの発言は他の二人、べナードとグルージャにとって反対が無かったのか頷いたりしていた。
「えっおもろそう。俺も着いてっていい?」
「あんさんには自分のパーティーがあるやろ?(意訳:嫌です)」
「ラウトの許可取ってくる。おーいラウトー!!」
ペインは元気よくラウトさんの部屋を探しに行った。そんなペインの姿をみてアダラは思わず天を仰ぐ。
「アダラは結構、勢いと善性を振り回してくるタイプの人間に弱いな」
「猫かぶるすてるだけで善性と真逆ですけどね」
べナードの冷静な分析。あいつ本当に残虐で悪性の塊ですけど?
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「おおー!繁華街って……なんか昼間見るとしょぼいな」
結局ラウトさんを説得し、クライシスを連れてやってきたペインと動物三人とライアーと一緒に街に出る。お酒の飲める店が多いからか、昼間からやってる店は少なく、人も何となく少ない。
というか潰れて寝てる人が多い。
「でも昨日より多いですね?」
グルージャが純粋な気持ちを口にする。確かに若者が騎士を連れ添って歩いている姿がちらほらと。
「あぁ、それ知ってる。なんか、第四王子? が市政を視察するからって言ってたらしいよ。だからそれに習って貴族が多く出歩いてるって」
ペインの回答にそれぞれが第四王子に思いを馳せる。
「第四王子かぁ……(お前じゃん)」
「第四王子なぁ……(お前じゃねぇか)」
「第四王子はん……(戦争の)」
「第四王子ねぇ……(妾の子の)」
「第四王子ですか……(兄に絡まれてたやつ)」
戦争終わりに一度。行き道に一度。計二度見たことがある幹部達が苦虫みたいな顔をしている。
ペインの度胸どうなってんだろ。
「よく知ってるなぁ?ペイン」
「なんだよォライアー。お前、オレがエルドラードって貴族に雇われてんの知ってんだろ〜?」
主従逆転ごっこだよね、分かります。
ウンウン頷いていたら何かを察した運命アタックが私の腹にぶつかった。遠慮なく肘鉄するのやめてペイン。こちとら深窓の令嬢なんだけど。
「アダラさん、何買いに行くです?もう私と二人で行くしましょうか」
「せやねぇ。可愛ええ服でも一緒に買いに行こか?」