第232話 馬鹿と馬鹿のマリアージュ
「全くあんた達馬鹿夫婦は何回もギルドカード無くして再発行してを繰り返して! 一体いつになったらその足りない頭で学ぶんだい!?」
「め、面目ない……。俺が多彩なばかりに」
「流石ダーリン、そういうところも大好き!」
「黙りな馬鹿共! 大体、意欲は認めるけど依頼失敗もあんたらの馬鹿みたいなミスで……!」
うだうだと言い訳を連ねている二人組。
しばらく経つとケレスさんが一息で鬱憤とか妬みとか吐き出しながらやってきた。
「ライアーにリィン。こいつら引っ捕まえてきてくれて助かったよ」
「いや、こちらこそ?」
「聞けばカエンネペンテスの袋の中にいたんだって?」
経緯をかくしかで話せばケレスさんは再びため息。お疲れ様です。
「馬鹿で命知らずでどうしようも無い奴らだけど、悪巧みが出来ない様な、いわば善政の貴重な冒険者なんだよ」
「分かるます。いくら有能だろうと裏切るとかそういうのをやらかさないって言う信頼、大事ですもんね」
「リィンみたいな歳でもわかるんだねぇ。昔この支部は『実力はあるけど信用出来ないタイプ』の冒険者にどえらい裏切りにあって滅びかけたくらいだから、ギルドとしてもひととなりはしっかり確認するようにしてるんだよ」
「裏切りが?」
「まぁ要は資金横領。バックスに冤罪擦り付けて一時期牢屋に入れられたくらいだったからねぇ」
「確かに、裏切りとか許せねぇな」
足の間を蹴り上げた。
それにしてもバックスさんまた資金横領に遭ってるんだ。金運が全体的に無さすぎる。
「リィン? ライアーの事はいいのか? めっちゃゴンって音がしたけど」
「知りませぬ」
あ、そうだ。
私はアイテムボックスから魔石を取り出して買取をお願いする。
「そのカエンネペンテスの遺骸ですぞり」
「ん? あれ、あんたらFランク冒険者だよね? あぁそうか……ランク上げをしない冒険者だったね」
「ライアー一切倒すすてません! ぜーんぶ私の手柄!」
むしろ敵対行動取りました。
これは明確な私への殺害行為です! 不敬罪!
「魔石が十七……。って、群生地でもあった?」
「燃やすますた」
「察したわ。初心者の魔法職あるあるだねぇ」
「うぐっ、し、仕方なきです。ま、まだ冒険者歴一年ですし、その間戦争ありますたし」
「ま、確かにね。国境辺りは戦火が酷かったみたいだし、ダクアの冒険者なら……」
「ちわーっす! リィンちゃん来てる?」
ケレスさんの雑談の途中で扉が開いた。
私の名前だったので振り返ると、リックさんとグレンさんが他の月組を連れてやってきていた。
「あ、いたいた。外出て行った目撃情報があったから、どうせここに戻ってくるだろうと踏んでた。俺たち宿に荷物運んだけど、リィンのはどうする?」
「私は手荷物すくなき故に大丈夫ですぞり!」
「言うと思った。部屋201な」
グレンさんが鍵を渡してくれたのでにっこり笑顔でお礼を言うと、リックさんが反対側に来た。
「なぁリィン、相棒潰れてるけど何したんだ? こいつが」
「『裏切りなんて許せねぇな!』発言にイラッとすた」
「「……。」」
ゴス! ゴス!
リックさんとグレンさんが追撃と言わんばかりに丸まったライアーの背中を蹴りつけた。ざまぁ。
「リィン、これ買い取り代。魔石十七で銀貨八枚と銅貨五枚。……あれ、リック。あんた片耳どこやったんだ?」
「いい女にくれてやった!」
「びっくりするくらいなんの説明にもなってないね?」
アダラに切り落とされたんだったね。
リックさんが耳につけていたピアスって水と風の魔石だった。それって合わせると回復系の魔法の補助に使えたりするらしいから、きっとそのおかげで命をつなぎとめれたのだろう。
「まあ戦争でちょっとな」
グレンさんがぐりぃ、とライアーを踏みねじればケレスさんは不思議な顔をした。
「そんな怪我するところに送られたのか?」
「最前線だったなぁ」
「うん、めっちゃ最前線だった。むしろ最前線を飛び越していた」
「ふぅん……? まぁ何にせよ、半年くらいで呆気なく終わって良かったよ。戦争が始まったって聞いて十年は覚悟してたからねぇ」
『呆気なく』であっているのか、当事者として微妙な感じ所。でも停戦でも降伏でも無く勝敗を決しての決着だから半年はびっくりするほど速い。
「リックとグレンがくたびれの死にかけで帰ってきたときは流石に度肝を抜いたな」
「あの時はありがとなー、リィンちゃん」
「いいえの〜!」
振り回した自覚があるので。
「俺たちも改めて礼を言わせてくれ。リィンありがとう」
「そうそう! まーじでいろいろ助かった」
「……こちらこそですぞ」
二人がいた事による精神的な支えと、戦力的な支え。両方無くてはならなかった。
いやー。野垂れ死にはしないだろうけど、王道に頑張ろうとしてくれる二人が居なきゃ割と勝算なくてトリアングロに寝返ってた可能性があるからね!
本当に感謝してる。
そこで野垂れ死んでるライアーの数億倍。
「なぁグレン。戦争って確か『女狐』が関与してたって国が発表したとかって連絡あったよな?」
「おれ、せいじ、くわしいこと、わかんない」
グレンさんが溶けてしまった。
下手に真実を知っている以上何も言えない哀れな人間って感じ。
「──狐!?」
「──女狐さん!?」
その単語に急に反応して元気のいい表情を浮かべたのは先程までケレスさんにめちゃくちゃ説教されていたアジオさんとホープさんだ。
「女狐さんと言えば! ダクアで起きたスタンピードを食い止めたあの伝説の!?」
ホープさんのキラキラした顔にリックさんや月組は釣られてキラキラした表情を浮かべた。
「分かる!?」
「あったり前よ! スタンピードを滅し、戦争中に起きた大きな流星群! 敵の兵士をバッタバッタとなぎ倒し、戦争を集結させた大英雄! 魔法職の憧れ中の憧れじゃない」
「しかもしかもしかも! クアドラードからトリアングロに潜り込んでたスパイが狐だって言うだろ!? くぅ! 偶然とは思えないよな!」
スっと立ち上がったライアーに視線を向けるとそっと逸らされた。偶然とは思えないよなぁ。
「狐はどうでもいいけど、女狐が魔法使ってる姿! 俺! 見たんだよ! スタンピードで!」
「いっ、いいないいないいないいな! 弟子にして欲しい! どんな人なのかなぁ。歴戦の魔法職なんだろうなぁ。得意魔法は何かなぁ!」
「おいおいおいおい! 狐がどうでもいいってなんだよ! スパイ、秘密裏に国王陛下を守るべく、腹心の部下。敵幹部まで上り詰める。くああ! これぞ男のロマンだろ!」
「いや狐はどうでもいい。それより女狐ってさぁ、あんな大規模な魔物の群れを隕石みたいなグアーってなる魔法で片付けちまったんだぜ!?」
「す、すごーーーい!!!」
「どうでもよくないだろ!」
リックさんがホープさんと、あとついでにアジオさんが一緒に盛り上がっている。テンションとノリが合いすぎて周りが引いてるのに気付いてないっぽい。シュテーグリッツ代表馬鹿とダクア代表馬鹿はウマが合うらしい。馬鹿だけに。
「いい弟子一号!」
「えっ、はい」
急に話を振られてビクリと飛び跳ねたけどホープさんに向き直った。
「カエンネペンテス程度でヒーヒー言ってるようじゃ、あの女狐さんみたいに優秀な魔法職になれないからね! 頑張るのよ!」
カエンネペンテスに喰われてた人がなんか言ってるや。
「「ブホッ」」
「く……っ! ブ、クク、ふふ、だってよ、あいぼ、っふふ。カエンネペンテス程度、女狐、ぶくく……!いででででで捻るな」
「はぁ……会ってみたいなぁ。ねぇダーリン」
「そうだねハニー」
恍惚な表情を浮かべる馬鹿夫婦は口を揃えて言った。
「「──クアドラードの夫婦狐に!」」
「私宿戻るすてますね!」※女狐
「俺も」※狐
歴戦のポーカーフェイスで言い放った。
誰に殺意を向ければいいのか分からない。
世界?