第231話 振り回されるのは好きじゃない
「いやー!悪い悪い!」
「助かったわ!」
カエンネペンテスの中から出てきた二人組の冒険者はなんと生きていて、でろでろの液体にまみれながら笑っていた。
「カエンネペンテスに丸呑みされる経験は一度や二度ではないけど、今回ばかりは死んだかと思ったわ!」
「そうだねハニー! 普段なら敵じゃないんだけど、今回はコンディションが最悪だったよ!」
あっはっは! と死にかけだったとは思えないほど底知れない明るさで笑う姿に思わず呆然とする。あの、お二人今魔物の胃の中から出てきたのではないのでしょうか。
「それにしても燃えてるな」
「燃えてるわね」
「カエンネペンテスに炎だなんて、シーサーペントに水を与えるようなものだと言うのにさ!」
「どういうことです?」
「……カエンネペンテスは弱いが、弱った獲物を探し出す事や数の暴力で襲ってくることから危険視されてる魔物だ。んで、こいつらの攻撃方法は丸呑みか燃やす。炎系の魔法を使う魔物だな」
「なるほど?」
「獲物を絡めとった蔦ごと燃やしてしまうから、蔦やそれに血が混ざって燃える匂いは仲間に『弱った獲物がここにいるぞ』って知らせる匂いになるんだ」
「すごくすごく嫌な予感ぞする」
「カエンネペンテスの親戚である薬草、カエン草は同じ匂いを放つからな。血の混ざったカエン草が燃える匂いは、さぞかし格好の餌食になっただろう」
そこまで聞いて私はライアーをボコボコと殴り始めた。
「このうんこ野郎!」
「いてててててて」
「何故そんな事ぞすた!? というかよくご存知ぞね!?」
魔物が居ない国、トリアングロの国民の癖に。
「おいおいリィン忘れるなよ? ダクアのスタンピード、誰が起こしたと思ってるんだ? 魔物を興奮させたりおびき寄せる技術はあの動物の中じゃ俺が一番で……おいちょっと待てファイアボールはダメだろ!」
刺し違えても殺した方が世のため人のためになると思うんだ、私!
ライアーはこの手で殺す!
「あー。んで、君達の名前は?」
「あっ、ごめんなさい。私リィンって言うです。こっちのうんこ髪はライアー」
「リィンにライアーな」
「リィンにライアーね」
二人組は仲がいいのか息を揃えて返事をした。
顔つきから兄妹ではないし、ハニーとダーリンって言い合ってたことから夫婦かな?
「俺はアジオで、こっちのハニーはホープ」
「よろしくね!」
ニッコニコ笑顔で話した二人の名前に聞き覚えがあった。
「Dランク冒険者のアジオさんとホープさん?」
私の問いかけに二人は鼻高々と言った表情で笑顔を浮かべていた。対照的にライアーゲームは訝しげな顔をしてこちらを見ており、何かを訴えているようだ。
「いやはや。こーんな幼い女の子にまで俺たちの名前が広まっているとは、さすがは俺たちの人望だな!」
「最高ねダーリン! 私たちの名前が世界に轟かせる未来も近いわね!」
「わーっはっはっはっ!」
「あーっはっはっはっ!」
「帰ろうぜリィン。こいつらは多分リックと同じジャンルの馬鹿だ」
ライアーの訴えはごもっとも。私も同じ気がしてきた。なんかリックさんにナルシストを加えて錬成してバカを加えたみたいな感じが。嘘、やっぱりバカは引いておこう。同じぐらいのレベルな気がする。
「俺たちに憧れるとは、君もお目が高い。この偉大なる俺たちに、どんなことを聞きたいんだ?特別に値段は取らないであげよう」
「さすがダーリン、優しいわ! そういうところも大好き!」
「いや別に全然憧れてないですけど」
「……! なるほどそういう意味か、申し訳ない……。俺は君の気持ちには答えられない。何せ世界一美しくて可愛くて愛しいハニーがいるからね」
「ダーリン♡♡」
ドタマかち割ってやろうか。
「ライアーこいつら殺すて良き?」
「まぁまぁ落ち着けよ」
笑ってんのわかってんだよ。
ライアーは笑いを堪えたように口から空気を漏らしながら、私の頭をポンポンと落ち着かせるように叩いた。ぐぬぬ子供扱いは子供扱いで腹立つな。
「もしかして君もパーティーに入りたいとか? 弟子を取るのは初めてだ。記念すべき目の弟子にしてくれてもいいんだよ。とっても名誉な事だろう!」
「いや、そういうのは別に必要なきぞり。ライアーが相棒ですし」
相棒と言いながらライアーを見たせいか、アジオさんは少し思案した後、ホープさんと顔を付き合わせ納得したようで手を叩いた。
「あなたもしかしてロリで始まってコンで終わる? あの?」
「リィンこいつら殺していいか?」
「まぁまぁまぁまぁ」
気持ちは大いにわかるが、一旦落ち着こうしう。
決して面白がっているとか、そういうのはない。ないったらない。
公私共に死ぬまで相棒なんだから、私が幼いうちはそれを言われるっていうのは、覚悟しておいてもらわないと。ぶくく。面白くて、肩腹痛い。
いやー、残念だったね。私があまりにも美少女なばかりに。唯一の相棒、唯一のコンビ、そのライアーが変態の目で見られるのは致し方ないことだよ。
宿に戻ったら、動物さんたちに話しておこう。
「私たちがあなたを知るすていたのは、ギルドカードを拾うすた故なのです」
「なんてえ?」
「ライアー! ごー!」
殺していいよ!
「それはお前の言語が悪いだろ」
「正論不要ぞり」
私の言語が常人の耳に聞き取りづらいってのは生まれてこの方十五年、わかっておいたけど、それはそれとして他人に言われるのはすごく腹立つ。
ライアー代弁して。
視線で訴えるとライヤは軽く笑い、やれやれと言わんばかりに肩を竦めて二人に向き直った。
「どうやらこいつがお前たち二人のギルドカードを拾ったらしいんだ」
「ギルドカード?」
「割と数時間前ですぞ」
その言葉にサァッと顔を悪くした二人は、慌てて懐をガサゴソ探る。
「ない! ない! ほんとに無い!?」
「やだぁ! また怒られる!」
半泣きの二人は頭を抱えて、絶望していますという表情を浮かべていた。
ギルドマスターのケレスさん曰く、何度もギルドカードを無くしていたらしいし毎回しこたま怒られた経験があるのだろう。あの人、怒ったらめちゃくちゃ怖そうな人だったし。
「というかそんなことあったのか……?」
「合流前にありますた」
ライアーの確認に頷きながら何が起こっていたのか簡単に説明する。
と言ってもライアーと再会するまでにあった出来事なんて一時間にも満たない。端折った説明だけですんなりと納得したライアーは呆れたような目で二人組を見た。
「馬鹿なんだなぁ」
「馬鹿なのですぞ」
流石にギルドカードを無くす事なんて、ねぇ。
「俺たちのギルドカードはどこに!?」
「ケレスさんに預けるしますた」
「終わったわダーリン」
「終わったねハニー」
絶望に明け暮れるとはこの事だろう。
自業自得とはいえ、あまりにも可哀想になった為助力を申し出た。
「あの、一緒について行くすてあげましょうか?」
「ありがとう弟子一号!」
「やっっっ………ぱやめようかな」