第228話 田舎者の観光客って上ばかり見るからわかりやすい
街に来ました!
貴族の交流会?知らん知らん、深窓の令嬢にそんなものを求めるんじゃない。
「さて、みんなは何処にいるかなー」
ペインに全てを投げ捨てて、私はリィンとして冒険者に戻った。
お堅い何も喋れない貴族より、こちらでいた方が気楽ってもの。
しかし、飛び出たはいいけど土地勘が無いから冒険者ギルドの場所も分からないんだよね。
……。
「ま!なんとかなるぞ!」
適当に歩いていれば目当ての場所にたどり着くだろうと信じて、街並み散策ついでに見学だ。治安が悪くてもある程度はまぁなんとかなるだろうし。
シュテーグリッツ領の首都ディザイアは歓楽街とも言われて、観光客の落とす金で経済を回しているクアドラードでもっとも栄えている街だ。
一次産業はしておらずほぼ全てを輸入で賄っているが、その分飲食店や遊戯施設が多いThe観光地。
そして珍しい事に、シュテーグリッツ領には首都しか無いため、『ディザイア』より『シュテーグリッツ』と呼ばれることが多いと聞いたことがある。
事前知識はこんなものだけれど、見る限り特に間違いは無さそう。
異世界観光、実は少し楽しみにしていたから、シュテーグリッツに滞在する3日間で色々楽しむぞ!
──と、意気込んだ私の目の前に災厄が飛び込んできた。
「「どいたどいたどいたーーーー!!!!」」
目の前に何かを咥えた狼と、それを追いかける男女が爆速で通り抜けていった。
「うおあ!??!」
思わぬ勢いだったので咄嗟に避けたのだけど、バランスを崩して思わず尻もちを着く。
「え、っ、えーー?」
何が起こったのか分からずにいると、手元にギルドカードが落ちているのが目に入った。
「さっきの爆走すてた人の……?」
情報を確認すればDランクのアジオと、発行元はここディザイアということ、そして依頼失敗マークが何度か付いていることが確認出来た。
どうしたらいいんだろう。
追いかける?と言ってももう砂粒くらい遠くまで駆け抜けて言っちゃったし、土地勘ない所で追いかけるのは流石に入れ違いになりそうだし。
「冒険者ギルドって、何処です?」
観光は後にして、先に冒険者ギルドに向かうことにした。
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「あぁ、あんたがギルドカード拾ってくれた冒険者?あたしはケレス、ここのギルドマスターさ」
冒険者ギルドに無事辿り着き、受付のお兄さんに声をかけた。すると報告をあげて5分後、すぐにギルドマスターの女の人が出てきた。
ケレスさんはいくつか書類を見ながらだったけど、拾い主の私をちらりと目指した後、書類に視線を戻した。
「ここディザイアはね、割と冒険者の治安が悪いもんでね。輩が多いんだよ。だから親切にする冒険者が少ないもんでねぇ」
「あー、歓楽街故にってことですぞね」
「アジオとホープは何度も再発行したことがあるでね、そうなると罰金も嵩むんだ。だから拾って届けてくれて助かったよ。ギルドとして礼を言うよ……っと、名前が………あぁそう、リィンって言うのか」
ケレスさんは少し固まったあと、顔を上げた。
「……リィン?」
「えっ、はい、そうですぞ……」
「……ダクアの冒険者の、Fランク冒険者の、ライアーとリィンのリィン?」
「……………………そうですた」
思い出したかのような顔のケレスさんに私は思わず天井を見上げる。
そうだ、ダクアのサブマスターのリリーフィアさんによってクアドラード全体のギルドに何かしらの忠告メッセージが届いていたんだった。
「ゼウスも言ってた、あの?」
「ゼウスさんまで!?」
王都のギルドマスターまで何やってんの!?
頭が痛すぎる……。
何も問題を起こしてはないんだけど、どうしてだよぉ。
「14歳だとは聞いていたけど、まさかこんなに可愛い子だったとはねぇ。あぁそうそう、ダクアと言えば、少し前はあたしがダクアの担当で、バックスがディザイアの担当ギルドマスターだったんだよ」
「へぇ、ご存知ありませぬですた」
「なんて……? まぁ、いいや。あんたら2人はあたしが移動した後に来たんだろうけど、ダクアの治安とは比べ物にならないから気を付けな」
「はいです!」
「よし、いい返事。まぁ言っても、治安は良いもののダクアにも変わり者の冒険者が居ただろうが──」
ケレスさんが仕事ついでに雑談をして子供を気遣ってくれていたのだろう。
貴重な未来ある冒険者、そして珍しい善人ときた。悪い印象を植え付けたくないのはすごくわかる。私の中身がこうでなければ。
厳密に言えば違うけれど、ダクア(出身)の話を織り交ぜた時、冒険者ギルドの扉が開いた。
「こんちゃー」
「お邪魔します」
「早いとこ宿を確保しておこう」
他所から来た冒険者が入ってきたのだ。
「あれ!?リィンちゃんだ!」
「うわっ」
「お前なんでこんなとこにいるんだよ」
はい、動物パーティーとペインパーティーと月組パーティーですね。
「ライアー、おかえり」
「ただい、ま…………か?これ」
「お疲れ様ぞ。わたし、その合同集約ぞすて行軍など一切合切1ミリ足らずともやりたく無きですた故に」
「……色々言いたいことはあるが、『合同パーティーまとめたくなかった』で簡単に言えるんだよ小娘。後押し付けんな」
ライアーが文句を垂れながら近付く。
するとケレスさんは目を見開いて月組を見た。
「ザ・ムーンの……リックとグレンと、ヒラファとオーウェンとラークス?あんたらが、なんでここに?」
「え、わ!元ギルド長じゃん!リックリック、覚えてるか?おまえバチくそにボコられてギルドの入り口で8時間耐久土下座させられてたじゃん!?」
「いやー、これが全く覚えてないんですよー、リィンちゃんの事以外」
「あぁダメだ、こいつはもう手遅れだ」
ケレスさんが言っていた変わり者の冒険者というのは十中八九月組の事らしい。
リックさんは一体何をやったんだよ……。
「やあリィン。ご苦労だったな。アイツはどうした?」
「留守番強制ルートですぞ!」
「……文句は言わないが、少し腹が立ってしまった」
ペインパーティーを臨時でまとめるラウトさんの疑問に即答してあげたってのに。プンプン。
「まぁいいやー。ギルド長ー、宿紹介して!10人くらいは楽に泊まれる空きがあるとこ!女は3〜4人!」
「オーウェンあんたねぇ……。まぁいいわ、安さ優先か治安優先か、どっちがいいんだい?」
「治安一択」
「もうメンツが治安悪いからどこでもいい……」
「グレンが投げやりになってるけど絶対治安優先でお願いします!」
月組に指名依頼を出した時誰が選ばれるのか知らなかったけど、どうやら幼なじみのヒラファお兄ちゃんも居るみたい。軽く手を振ってきたので振り返した。
「ライアー、動物さん達はどうだったぞり?」
「んー、特に問題ないぜ?それよりここのギルド長ってアレか?」
「いえーす」
「…………っぱいデケーな」
「スケコマシ発言辞めてくれませぬ!?中途半端な女好き髭面野郎がよぉ!」
演技だってわかってても腹が立つし演技する必要あるか!?この人間初心者が!
「ところで今リィン暇だろ?」
「んー、まぁ、それなりに」
「なら今からデートしようぜ。まだ夜には間に合う時間だろ?」
やる気があるような無いような分からない顔でライアーはそう言った。