第227話 幹部との悪縁はさよならしたい
潜入していた幹部、梟のアーベント・グーフォと、グルージャの血縁であろうミセリア・パスト嬢を補足した。
「言語が、聞き取れなくて……!」
「クソ言語……っっ!!」
足を引っ張るのはこの言語。
人生嫌になってきた。
「ところで、聞くですけど」
「はい……」
「麻薬について何事かご存知ですぞり?」
私は国に頼まれていることが2つある。
ひとつは残党探し。
もうひとつは麻薬事件だ。
王都を中心に学園内外問わず、発生場所も不明。バイヤーの特徴も1部は把握しているが麻薬を売り買いしているという情報があった、私はこれをトリアングロ仕業ではないのかと睨んでいるが。
というか、貴族の塊である学園内に早くの取引があるということ自体、大問題なのだが。
「いえ、特に何も。まあ教員側で議題に上がる事が多々ありますが、それが王宮からの命令であれば、私が握っている情報よりもあなたが握っている情報の方が精度は正確で量も多いでしょう」
「私も特に聞いたことがありませんわ」
「ふーん」
真偽のほどはどうであれ、これで何も知りませんでした、ということは無くなる。
警戒されるという意味では意味がないのかもしれないのだけども、警戒はいつかボロが出る。戦争が終わってしまっている以上、トリアングロの戦争の作戦として麻薬を取り扱うことはもう意味がなくなってしまった訳だし、放置されるより警戒されて何かしらの手を打ってくれる方が動きがあってわかりやすい。
私は少し考えた後にふうとため息を吐いた。
「リアスティーン……さん?」
「ひとまず先生は、バラされたく無ければ言うことに従うことぞり」
「……。リアスティーン……さん、あなたは私たちをよくわかっていない。私はお国のために兵士をやっていたわけじゃないのですよ」
「ご存知ですぞ。あなた達トリアングロに普通の脅し文句は効かぬことなんて。でも、いいのですか?」
「何が……」
「──先生がガチホモでハッテン場を練り歩いている性癖異常者だと国ぐるみで解雇にならぬ程度のダメージで噂を広げることぞ可能です」
「マイロード……!」
とっさに騎士の礼を取った。変わり身の早さだけで生きていけるよ、きっと。
「パスト嬢はね」
「(びくっ!)」
「白髪イカレ頭をぶつける」
「貴女様こそが私の女神です……!」
トリアングロは変わり身の早さを必須スキルとして身につけなきゃいけないのかな。リィン不思議。
「ひとまずまぁ、幹部が釣れるすたのはラッキーですた」
パストという名前を聞いて、これは絶対にグルージャたちと関係があるなと思っていたから、こういう釣り竿を仕掛けたのだったのだが、幹部がつれたのは本当にラッキー。
まぁもちろん青の騎士団に所属していると鶴が漏らした情報で把握していたので、釣れる可能性は高いとは考えていたけど。
というかライアーは先生と会ったことがあるけど、どうやら2人とも会ったことがなさそう。潜入中の兵士達も全員は顔合わせしてないみたいだね。
「それじゃあ、これからよろしくお願いしますぞ♡」
「「ひっ!」」
外に出たふたりが元トリアングロ勢から同情の目を向けられていたのは勘違いではないだろう。
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「お前のよろしくお願いします、ってさ、脅しなんだよ」
「失敬ぞり」
「もうさ、副音声が『逃がしゃしねぇぞ』って。実際トリアングロの幹部の大半を殺さずに敗北を味あわせて奴隷にしてるし」
「言い方に悪意ぞある」
はい、到着しました。
シュテーグリッツ領の領主屋敷。
学年交流会とは、毎年シュテーグリッツ領主の屋敷で学生が宿泊出来るように用意しているのだ。
各領主の中で1番多くの客室数を誇っているらしい。
私はペインと隣の部屋にしてもらった。誰にって、下僕ゴホン先生に。
「これであと行方知れずなのは亀だけか」
「今トントン拍子に上手に行き過ぎて正直怖いですぞ。まぁこんな調子、続かぬと想定すてますが」
「どうだかな」
ペインは私の推測に鼻で笑うような勢いで否定した。
むっ、馬鹿にされた気配を察知。
「リィンさ、自分の巻き込まれ体質舐めてるだろ」
「えっ」
「冒険者活動初のコンビが幹部。貴族の屋敷でも幹部。カジノに行けば幹部。敵国に乗り込めば速攻幹部2人。街を移動しても幹部に目をつけられ。誰かの果てには敵国をまるごと掌握するかの如く奴隷化。担任も幹部で同級生も幹部の身内」
「…………。」
「な?お前、多分前世でなんかしたんだと思うよ。はっきり言って運勢最悪」
「災厄くん…………」
いやだ、客観視すると何か仕組まれてるかのごとく幹部とばっか縁がある。神様、私何かしましたか?いいかげんにしろよ。
「ま、国としてはそんな災厄染み染みのお前を利用すればいい釣りが出来るから」
「私は煮物の具ぞり!?それとも疑似餌!?」
いいように使われすぎでは無いでしょうか。
はっきり言って、勘弁してください。
あーあ、気の合う冒険者が第四王子で無ければ良かったのに。
「リィン、お前の災厄ならいける。幹部全員引っつかまえることもおびき出すことも、楽勝だ」
「やだぁ!そんな負の信頼要らぬぞ〜!!」
頭を抱えた。
逃げ出したい、この現実から。
麻薬の件は情報が足りてないからまだ情報整理自体が必要だと思うけど、残りの幹部は実は外見まできちんと把握している。
海蛇さん曰く『亀は赤毛のロングで外ハネの美男子やったで』と。
外見が派手で髪色もトリアングロらしからぬ人だったからこそ潜入に選ばれた様だった。
そういや、猿もここシュテーグリッツに潜っていた幹部で青髪という派手さを持ってたな。
「今日の交流会は夕食時に立食って形になる。それまでは街を見回るのもいいけど、歓楽街だから治安の格差があって、貴族が近寄りやすい場所と近寄らない方がいい場所があるから……」
私はいい事を思い付いたのでバサッと制服のブレザーを脱いだ。
「……おいリィンさん。従兄とはいえ俺も男なんだけど」
「ペイン、あとはよろしくぞり」
「………………お前まさか!」
「冒険者すてきまーす!」
いやぁ、サポートしてくれる従兄がいて私ったらラッキーだなぁ!逃げ出します!!