第226話 頭は回るが口は回らない
「はーい解散解散。おら、クライシス行くぞ」
「ええー。オイラもうちょっと遊びたい、あーそーびーたーいー」
駄々を捏ねるクライシスをライアーが力づくで引っ張る。いやん、とクライシスが悲鳴を上げたが、本気では無いもののCランク相手に物理で押さえ込める実力を持っていたのか、なんてペインは考えていた。曲がりなみにもトリアングロ幹部であった。
「あー、っと。シンク……ライ……あー、冒険者の」
青の騎士団長、アルディ・エフォートはライアーの爵位を知っている人間だ。元スパイであるという認識も。……元、トリアングロというのは知らないが。
団長のアルディは呼び方に口ごもる。その様子を見てライアーは笑顔を作った。
「どうぞ騎士様。ライアーと」
「ブホッ」
「……王子ぃ?」
流石にその胡散臭笑顔と騎士様は無理。
思わず吹き出したペインを、変わらぬ笑顔で咎めるようにライアー。無理だった。吹き出しかけた息を思わず飲み込む。王子的にもうちょっと頑張って我慢せねば。
月組の反応。
「うわ……ライアー気持ち悪くね?」
「やーい、リィンちゃんとコンビ組んだダクア冒険者の裏切り者ー」
「よっ気持ち悪ーい!」
ペインパーティーの反応。
「……月組、(ライアーが元トリアングロとか、ペインが王子とか、リィンがお嬢さまとか)なんも知らんってすごいなぁ」
「平凡な彼らのことだ、この場にいるのが貴族のご子息ご令嬢だと言うのも気付いて無さそうだが」
「まぁ中でもリック君とグレン君は色々分かってそうね」
元トリアングロの反応。
「あらまぁ……してやられてしもうたやない」
「うっ、気持ち悪い……振り回されたせいで気持ちが……終わった……」
「それにしても月組でしたっけ?誰か教えて差し上げないんですか?」
「あいつらは別にあれでいいと思うぜ?」
失礼だな。
背後から聞こえる声にライアーが小さくキレた。
「こういう時は責任者であるコシュマール、先生が問うべきなんだろうが、倒れた生徒の介抱に行ったみたいだから俺が聞かせてもらおうか」
「いやはやご迷惑をお掛けしました。こんなタイミングとはいえ、多少なりともしご……教えた生徒たちに会えたのは僥倖ですね」
「ヒィッ」
「悪夢が……」
Fランク冒険者に教わった記憶は新しい。
悲鳴が小さく上がった。
「あのなぁ、ライアーとやら。後ろを引き連れているんならきちんと手綱を握っておいて貰わねぇと……」
後ろ、というのは元トリアングロ幹部の事だ。騎士団長という立場上顔も知っている。
陛下からお目付け役として任されているというのに振り回されている状況では国として困る──
「手綱は握っていますよ、騎士様」
ライアーの敬語に違和感を抱いているのは恐らくクアドラード側だけなのだろう。ペインは心の中で苦い顔を浮かべた。
ライアーの言葉に怪訝な顔をしたのはアルディだ。
「は?いやさっきの白髪の冒険者が王子を……」
つい先程の事件なのにもう忘れたのか。我が国の第四王子を襲った犯人がすぐそこで口笛を吹いてるじゃないか。
アルディのそのわかりやすい考えを、ライアーは笑顔で潰した。
「えぇ、ですから。──手綱は握れている、と」
「……。あぁー、そういう……」
アルディがちらりと王子を確認すると、特に動揺もなくヴォルペール王子が立っている事から察した。なるほど。
「(あの冒険者が王子を襲うのは、王子含めシナリオ通りって訳か)」
目的は分からないにしろ、このシナリオを描いた者に得体の知れない恐怖を抱いた。
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「ヴィシー、誰も入れるなかれ」←シナリオを描いた者
「はい」
「えっ」←得体の知れない恐怖をもっと抱いてる者
「……リアスティーン様?」←同上
冷や汗が止まらないレイジ・コシュマール先生とミセリア・パスト嬢。
貧血出倒れた私を運んでくれた優しい二人(逃がさねぇと服はがっちり掴んでたけど)には申し訳無いと思ってるよ。えぇ、すっごく思ってるよ。
ここまで綺麗にハマってくれたんだからさ。
「トリアングロの残党調査で不明の幹部は残り二人。亀、名称略。そして梟、アーベント・グーフォ」
二人とも潜入組だってのはライアーから聞いた。亀は確か作戦の途中でトンズラした、とアダラが言っていた。
「鶴、いえ、この場はもっと分かりやすく言うしましょう。ブレイブ・〝パスト〟・グルージャに行うすた尋問曰く。梟は『青の騎士団に潜伏し、壊滅に関わった』です」
足を組んで、ウォーターボールを発動させた。手前に座る一人の教師と一人の生徒に向かって微笑みを浮かべる。
「一つ。青の騎士団壊滅作戦にて自分絶対主義トリアングロの幹部ともあろう人間が死亡すてるとは思えない。よって、生き残っていると仮定する」
私は教師を見た。特定するには情報が足りないから、これだけじゃ足りない。
「一つ。幹部は動物の名を冠すているが、家名が存在する者もいる。グルージャ、そしてクライシスの家名はパストである」
私は生徒を見た。貴族としての名前、私が忘れるわけが無い。
……そして決定打と、確信を持つための一手。
「一つ。クライシスを見て悲鳴をあげるは、彼の凶暴な性格とネジの外れた思考回路をご存知済みの人間である」
さらに笑みを深める。
「──ようこそクアドラードへ。……逃がしゃしねぇぞ。アーベント・グーフォ、ミセリア・パスト」
二人に狙いを確定して定めた時、幹部連中は天を仰いでいたのでまぁ間違いない。
「すみません、バレたのは分かるんですけど言語のせいで内容が頭に入ってこないんですが」
「クソッタレー!!!!!」




