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第221話 災厄賭けのガチンコ勝負



「──と、言うわけで、梟アーベント・ぐーほ、猫トール・コーシカ、亀じゃんしるれるれんて」

「ザン・シルトクレーテ」

「それですた。コホン、その三名の居場所、キリキリ吐くしろトリアングロ共」


 私リィン。相棒が叙爵式にて爵位を賜り、その終わりに正体暴露し、王子であるヴォルペールに『残党幹部の捜査』『麻薬中毒事件の捜査及び解決』を依頼された悲しき従属者だよ。

 国の英雄がやることかよこれが。


 それは英雄(おうじ)が麻薬飲ませた上で調査させる行為のことも、英雄(わたし)がめちゃくちゃ難しい依頼内容の任務を弱点握られながら熟すってこともだ。



 そしてここは宿『安眠民』

 普段冒険者として拠点代わりに使っている宿屋だ。

 そこに私の奴隷である元トリアングロ王国幹部連中を呼び出して聞き取り調査をするのだった。



「それよか主よ。ルナール……っと、シンクロ子爵だっけか、婚約したんだってなおめでとう」

「ありがとう爆笑しながら言うされてもおめでたさ何も感じませぬがね」


 文面からすれば真面目に言ってるようにも見えるが、実際は『婚約wwwwwしたんwwだってなwwぐっ、おめwwでとぁふっうwww』というような感じで明らかバカにしてるんだよなぁこの元王様。


 こんなのがトリアングロの国王であってたまるか。


「そりゃ笑うに決まってるでしょうご主人様」


 そういったのは梟、亀、猿、白蛇、そして相棒の狐と共に潜入をし、カジノで経営者をしていた鹿のレヒト・べナードである。


「結婚式にはぜひ呼んでくださいね。我等一同全力で笑顔を浮かべてお祝いしますので」


 ……こいつ怨念というか復讐相手がひとかたまりになったことに喜んでやがるな。


「で、情報」

「黙秘権を行使するぜ」

「拒否しまーす」

「知ってても言う理由がねぇだろ」

「すいません何も言えません」


 上から王様、べナード、クラップ、グルージャである。比較的友好関係を築けてる感じの部類の人。

 シアンとアダラは無言である。


 あ、ちなみにシュランゲはリアスティーンの部屋に待機している。瞬間移動魔法では遠距離となると奴隷の手が必要だからね。


「グルージャ」

「よりにもよって自分を指名しますかっっ!」


 涙目で悲鳴を上げられた。

 悲鳴あげたいのはこっちなんだわ。


「ま、確実に知ってるだろうな。俺の連絡役は犬だが、梟の連絡役は鶴だし」


 ライアーが手助けと言わんばかりに情報を追加した。グルージャは声のない悲鳴をあげて頭を抱え込んだ。悪ぃな、お前らの裏切り者、私の味方なんだわ。私の裏切り者でもあるけど。


「亀の連絡役は?」

「海蛇」

「あきまへんなぁ、ほんっっっに……余計なことしか言わん口やなぁ」


 アダラがライアーに向けて毒を吐いた。


「ま、筋通さへん輩はうちがわざわざ庇う必要も無いやろ。主はん、亀は北の街道を封鎖させるために動いとったんやえ」

「北の街道……。なるほど、軍事進行の場所を1箇所に固めるが為ですか」

「せや。んで、亀は計画をおじゃんにしてしもうた。理由が知りたいやろ? 特別に教えてあげるさかい、よぉく耳すませとき」


 ごくり。これは唾を飲む音。


「『──女に酔って間違えて道具粉砕しました』」


 ずっこけた。


「え、ぇ、なにそれ……」


 トリアングロ海軍幹部、ザン・シルトクレーテ。こいつ『絶対面倒だから会いたくねぇ選手権』の圧倒的に1位に躍り出たわ。2位? 2位はあれです、シンミア。こいつもトリアングロ幹部。


「それから音信不通。あの亀はな……Sっ気のあるべっぴんさんがおったらそらもう、たいっっっ(溜め)っっっそう喜んで甲羅を……と、まぁええわ。というわけでうちらは亀の行方は知らへんで?」

「…………それ、わざとだったりしませぬ?」

「わざとならもっとわかりにくい嘘吐くだろ。んな信じられねぇ様な理由をわざわざ使うリスクがねぇ。それに裏切るにしたってタイミングは早すぎる、実際対処も出来たしな」


 王様が付け加えた。

 なーるほど、手の付け加えようの無いタイミングでの裏切りだったら結構追い詰められるもんね。


 あ、これは裏切られた側だからこそ言える豆知識ね。裏切りはタイミングが重要。


「細かき話は後で聞くとすて、じゃあグルージャ」

「…………梟さんは騎士団に潜り込んでいました。青の騎士団です。青の騎士団は大半の騎士が死亡しましたし、正直今生きているか死んでいるか分かりません」

「会うすたことは?」

「あります」

「グルージャと梟は青の騎士団の壊滅に関わるすた?」

「自分には判断が着きませんね」


 グルージャがそう言った途端王様がため息を吐いた。そう、ヘタこいた瞬間だ。


「なぁるほど、壊滅に関わるすたのですね」

「……は、え」

「話を露骨に誤魔化すのはですね、『イエス』と言うすてるのと同意ですぞ」


 私は壊滅作戦に気が付いた。そしてそのことを悟った王様は呆れちゃったのだろう。

 これ以上は無言貫かれそうだなぁ。


 これは王様ただ1人の印象なんだけど、残党幹部を仲間だから庇う、っていうよりは……なんというか……『もうこれ以上厄介なもん抱えんなよ大ボケ』って私に訴えているような気が……。

 ほかの人はそうでは無いようだけど。


「リィン、教えてやる」


 ライアーが苦い顔をして口を開いた。


「基本的に、トリアングロは自分主義。仲間のせいで自分が不利益になるくらいなら仲間を売る。──が、目的を果たすためなら死ぬまで口を開かねぇ様な連中ばっかりだ」

「めんど」

「一筋縄じゃいかねぇのは確かだな。まず関わり合いたくないのが俺としての本音だ」


 同じ砂穴のワームがなんか言ってやがる。



「ひとまず青の騎士団の残党を漁るますかぁ……」


 騎士団には伝手が無い。黄の騎士団の小隊長達なら検問が縁で多少は知ってるけど。




 ==========






 ところ変わってここは闘技場。



「ははっ、それじゃあ覚悟しろよ、小娘」

「でかい口ぞぶっ叩くしてんじゃねぇですぞ、おっさん」



 去年準優勝をした冒険者大会の会場を使って、私とライアーはガチンコバトルをすることになったのだった。





 回想。



 トリアングロ幹部の細かい聞き込みで分かった事を頭の中で思い返しながら歩く冒険者ギルドへの道のり。


「何するつもりだリィン」

「んー、ひとまず、目ぞつけるされます」

「……は?」


 ライアーが横を歩きながら問いかけた。


「残党幹部に関すては、遅くはなるでしょうが全員とかち合わせるでしょう」

「根拠は?」

「私の災厄君の事件吸収能力ぞり」

「……あぁ」


 哀れみを込めた目で見られた。

 そう、私の運の良さは尋常じゃ無い。悪い意味でね。


 運任せとか、最も信用出来ない。


 だからこそ私は鉢合わせるだろうという謎の確信がもてている。この世界に神がいるなら絶対私の事嫌いだと思う。私には分かるね。


「で、問題はお薬の方。まぁ、私たち素人です故に、沢山人と関わる機会ぞ得るすて、沢山食べる! 以上!」


 素人に調査はできても解決は出来ない。

 足がつかないという意味で平民で冒険者のリィンが動くにはうってつけ。学園内でも流行っているからリアスティーンにだって動けるけど……。


 とにかく目をつけられる為には何かしら起こさないと。



「きゃあ!」

「ぴぎゃっ!」


 ドン、と体にぶつかる衝撃。考え事をしながらだったから人にぶつかったのだった。ちなみに可愛げのないぴぎゃって悲鳴が私の方ね。


 相手を見る。尻もちをついているのはアリストクラット学園……要するに私の通っている学園の女子生徒だった。


「だ、大丈夫です!?」


 こちとら身分を持ち合わせていない庶民ということなので慌てて手を伸ばす。

 すると女子生徒は私をキッと見上げた。


「このっ、たかが庶民がこの私を地面につかせるだなんて! 無礼よ!」


 あっあ〜〜そういうパターンね。オケオケ把握した。


「私を誰だと思っていて!? 庶民が目を合わせる様な……!」

「──ツンディ・デレッタだな」


 ライアーが名乗りより先にその女子生徒の名前を呼んだ。

 思わずびっくりしてライアーを見上げると女子生徒も同じタイミングで見上げたようで。ツンディ・デレッタという女の子は。


「ぎゃああああ!??!??」


 本気の悲鳴をあげた。


「え、Fランク冒険者の教師!? ど、どうしてここにっ!」

「冒険者だからだろうが」


 ここで納得した。

 そういえばライアーはつい先日まで私の学年の短期講師をしてたんだから知ってるか。

 というか私より詳しいかもしれない。


「わ、わたくしのとらうまが……空高く舞って……弾き飛ばされ……うっ、頭が」

「あー」


 思わず同情してしまった。

 私に対して特別スパルタだったけど、他の生徒にも貴族とか関係なくガッツリ指導してたもんね。

 ライアーは貴族相手の指導が下手だから軍人式の叩き上げ死にものぐるいコースに見えたなぁ。



 ひらり。

 見慣れた羊皮紙が足元まで風に乗って運ばれた。


 それは冒険者ギルドの依頼書、どうやら彼女が悲鳴を上げたタイミングで落ちたみたいだ。



 種類:模擬戦

 推奨ランク:問わず(ただし2人以上)

 依頼主:ツンディ・デレッタ

 報酬:金貨五枚

 詳細:冒険者大会の様に冒険者同士本気の戦闘を行う。場所は王都闘技場。武器魔法使用あり。腕輪を使用する場合は1割負担(1人金貨2枚)



 ライアーは私を見た。


 ウンウンわかってるよ相棒。


「──普通に考えるすて負担でかきですぞね」

「ちげーわどあほ」


 冒険者ギルドのチートアイテムである致命傷を防ぐ魔導具、あれの値段がいくらかかるか分からないけどひとつで屋敷が建つと教わったことがある。

 報酬5枚のうち、その腕輪を使うことによって必要経費が金貨4枚。つまり儲けは1枚しかない。


 湿気てんなぁ。


「な、私に向かってその目は何!?」

「一応言っとくがなぁリィン。命の危険もなしで金貨1枚は冒険者として破格だぞ」

「庶民の生活って金貨何枚ぞ?」

「(お前も一応庶民設定だろうがって顔)金貨3枚で1家が暮らせるな」


 ひゅう、さっすがライアー!

 Fランク冒険者として冴えない貧乏冒険者してただけあるぅ! ちゃんと相場が頭に入ってるねぇ! さっすがエージェント!


「ふんっ」

「ぷぎゃあっ!? え、暴力……」


 脳天に遠慮の欠けらも無い拳が降ってきた。唖然とした。


「ひぃ……やはり冒険者教師は常日頃から……女の子に暴力を……。私にした所業も……やはり趣味……これだから庶民は……!」


 女子生徒は恐れ戦きながら数歩下がった。


幹部(あっち)と比べるすると端金でしょ!?」

「…………。」


 おおい、そっと視線を逸らすな。


「ツンディ・デレッタ、この依頼、俺たちが受けてもいいか?」

「は、はい!? え、Fランクの貴方が……っ! いやFランクとは言えど実力は確か……あの方達以外勝てなかったし……うぅん……。今日しかないから依頼成立が……う、うぅ……」


 ボソボソと考え込んでいる様だったけど、女子生徒はふんぞり返って私達を見やった。


「分かりました、交渉成立ね。ところで、Fランク冒険者教師、2人以上と書きましたけど対戦相手はいるのかしら」

「言っただろお嬢ちゃん。俺たち(・・・)って」


 ライアーが私の頭をポンと叩いた。


 ノリノリだなぁ。何が彼をそこまで突き動かしているのだろうか。


「始めますて、貴族のお姉さん!」

「(同級生なんだよなぁって顔)」

「私この人とコンビぞ組むすてます、Fランク冒険者のリィンですぞ! 世間知らずで、言語ぞ不自由ですけど、後衛です! 頑張るます!」


「………………まさか、ロから始まってンで終わるやつ」

「違ぇよ!!!!」


 想像の5倍大きい声出るじゃん……、そんなに嫌か。


「というか貴方もFランク。最近の庶民は程度が低いのね。まぁ冒険者なんて所詮は烏合だしその程度かしら」


 ツンディ・デレッタはそのまま依頼書を提出する為に私たちに何も言わず冒険者ギルドへ向かっていった。


「ここまで大きなやり取りすりゃメディアも増えるだろうが……。そもそも目立つって、必要か?」

「名声という意味ではもう不必要ですぞ」


 去年の冒険者大会準優勝者だしねぇ。


 でもその話を持ち出すのは今更なんだよ。


 それとねライアー。

 今、目立つのはね、口実が必要なんだよ。


 麻薬の件に加えて、もうひとつ。

 彼らが私に接触するための、口実が。






 回想終了。






「手加減無しだ。致命傷と顔だけは避けてやるよ」

「何ぞ宣うすてるぞ。貴様程度けっちょんべっちゃんぞり」

「何語だ」


 私たちは腕輪無しで闘技場に立っている。

 観客はそこそこ。冒険者大会の時に比べれば人は少ないけどちらほらメディアがいる。

 なんせFランク冒険者のおっさんと美少女。映えるでしょ。


 ちなみに腕輪無しなのはライアーの提案。私的には腕輪使いたかったんだけど……。


「あの戦争から、ずっと考えてたんだよ」


 ライアーは右手で剣を抜いた。


「お互い実力を隠してんだから、噛み合うものも噛み合わねぇよなって」


 ぶらりと寒気が体に走った。

 これは、直接的に思いっきり隠すことなく向けられた、殺意。


 瞬間、ライアーは地面を蹴りつけ飛ぶように直進した。


「っ!」


 〝ファイアボール〟!


 進行方向直線距離に炎の壁の様に大きなファイアボールを作り出す。


──ザッ!


 瞬時に横に回られた。

 炎がライアーの動きに合わせて揺れる。


「このっ」


 〝瞬間移動魔法〟


 視界は一転。ライアーの背中に回りこんだ。


 〝ウォーターボール〟!


 勢い良く放ったウォーターボールは人を殺す威力は無いものの骨を折るくらいの威力はあるはず。骨くらいは折れろ!

 不意をつけた、とは思ってなかったけど、ライアーは私を見ずに数歩前に出て簡単に避けた。


 うぎぃいいい、こいつほんと、気配察知が上手いな。


「ライアーお願いね」


 避けてよ。


「……まじかよ……っ!」



 アレンジ水魔法〝レイニーバレット・ウォーターボール〟


──ドドドド!


 弾丸の様な雨が舞台に降り注ぐ。

 勢いよく! 多く! 避ける余地なんて無いほど!


 思わず目を見張った。


「まじ?」


 右手から左手に剣を持ち替えたライアーは剣を振り回し、極小のウォーターボール達を切り裂いていた。


「うちの化け物共もこれ出来たら泣くなぁ……」


 魔法職がもれなく泣く。

 ライアーは口元に笑みを浮かべて私を見た。目が合う。あ、来る。


 直感だった。


 一歩慌てて後ろに下がれば、ライアーは自らが傷つくのも厭わず駆け抜けた。目の前。

 ピリッ、痛みが腕に走る。


 痛みに集中力が途切れウォーターボールが消える。

 くっそぉ、避けきれなかった。


「避けろよ」


 近距離でそれをいうかなぁ!

 右手に剣を持ち替えたライアーが剣を振るう。


 〝アイテムボックス〟


 即座に剣を取り出して受けた。


「そうだよリィン。俺はそっちのお前を知らねぇ」

「ぐ、ぅう」


 おっっも。

 足が痛い。上から来た鍔迫り合いに耐えきれない。受け流そうとしても上手く受け流せなかった。

 この実力でトリアングロ幹部でも弱い方とか、ほんと真正面で戦うような相手じゃないな。


「良くもまぁ、隠してくれたな」

「は、そっち、こそ!」


 その左手の篭手に、仕込まれてる剣を隠していたくせに。

 本当は左利きなの隠していたくせに。


 ライアーは左手で私に殴りかかった。こいつ躊躇なく顔面狙うじゃん!!!!

 剣で防いだり攻めたり避けたり、接近戦が繰り広げられる。きっっっつ!


 これあんまり接近戦しない方がいい。だって向こうの得意分野だもん。


「ちっ、くたばるしろ!」


 〝ロックウォール〟!


 ライアーの足元の土をグンと伸ばすとライアーは距離を離された。

 だけどあいつ、伸びた土を走った。


 ライアーは速度と手数が多いけど攻撃に重さは無い。だからロックウォールを砕ける程の攻撃力がないからこの魔法は有効、だと思ったけど!


 足場として普通に利用してきやがる。


──ガンッ!


 所々私に辿り着かれて剣の打ち合いになる。

 魔法に対する適応力が高すぎて魔法が無力化される……! そんなことある普通!?


「魔法も、剣も、使えるとかっ、多方面に謝れ!」

「剣に関すては素人に毛ぞ生えるすた程度ですけどね!?」


 肉体訓練は絶対嫌なので!!!!!


 〝ロックウォール〟


 ライアーをまずは吹き飛ばす。


 〝瞬間移動魔法〟


 空中では身動き取れまいて! 私は空中に飛ばされたライアーの背後に回り触れようと手を伸ばし──


──ガンッ!! ズザッ…!


 空中で回し蹴りが飛んできた。

 咄嗟に腕で頭をガードできたけど、地面に蹴り落とされてしまった。


「背後に回るのは読めてんだよ、お嬢ちゃん」

 


 体で転がる前に軸足で地面を強く踏みしめると回転を殺す為片足でコンパスの様に半回転した。

 降ってくる。


「ははっ、ライアー」


 〝サイコキネシス〟


「誰が手のひら限定って言うすた?」


 サイコキネシス。触れたことのある無機物を浮かせることができる。

 手だけでは無い。

 私の皮膚(・・)が触れたことがある、無機物。


 ライアーは地面に着く前にブーツがグインと空に浮かび上がった。


「まさか……」

「空の旅行ぞようこそ!」


 行ってらっしゃ〜い♡


「Fランク詐欺師がああああ!」


 満面の笑みを浮かべたライアーを闘技場の外へ吹き飛ばした。

 お前も大概詐欺師だろうが。



 黙りこくった観客を一回り見る。

 一人残された闘技場でライアーが戻ってくるのを待ってみようか。


 手を握りしめて感覚を確かめる。


 空間魔法は魔力をかなり消費する。瞬間移動魔法なんて3回安定して使える程度だったけど……魔力量上がってるよね。余裕がまだある。感覚的にあと3回は使えるかも。


「……あ〜〜〜〜」


 口元に笑みが自然と集まる。


「たっっっっのし……」


 戦いなんて嫌いだった。

 でもライアーとやり合うのは、すごく楽しい。




 ふと依頼主の女子生徒と目が合った。


「満足すた?」

「ひぇ……」


 今のそれ怯えた方の声だったな?



 ==========




「あ、おかえりライアー」

「お前遠慮なく吹き飛ばしやがったな!?」

「うん」


 ピース。

 私は喜びに任せた指をライアーに向ける、しかしそのふたつの指は握りしめられた。


「ほんっっっとに実力隠してやがったんだなぁ?」

「冒険者活動では前衛職の実力は使わぬ予定ですたので……。それよりライアーも、速さ桁違いじゃなきですか」

「魔法さえなけりゃもうちょい速いな。最高速度まで乗れなかった」

「……速度上昇抑えきれますたか。ぐぅ、それでもきっつい」

「戦争前よりは対処出来てるじゃねぇか」

「私も色々ありますたのでー!」


 ライアーは剣をもう一度抜いた。右手だけで、左手は力を抜いている。


「今度はこっちだけで試してみるか?」

「はんっ、何それ、ハンデ有りって事? それとも負ける言い訳?」


 あわよくばもう1戦。

 そんな気持ちが滲んで居たその瞬間。太陽の光が遮られ、影が刺した。


──ズドン!


 ライアーの首元に剣が添えられた。


「狐野郎……お前」


 その声は呟くような声だったが、心臓が怯えるほどの圧力を帯びていた。


「……俺の獲物を取ってんじゃねぇよ」


 茶色の髪に、ぴくりと動くケモ耳。



 そう。こいつは。


「確保確保確保!!!!! ライアー確保!!!!!」

「言われなくても!!!!!」


 逃がさねぇぞとばかりに尻尾を捕まえた私、グッジョブ。


「………………は?」


 フラグ回収です。トリアングロ幹部の猫が望むまでもなくホイホイされました。これは災厄ホイホイ。そんな特殊能力欲しくなかった。



そういえばリィンの公認グッズが出たんですよ。めっちゃ可愛かったので仕事用のカバンにぶら下がってます。8/27現状の在庫はあるみたいなので欲しかったら探してね♡

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘能力相当高いと思われるライアーで遊べる(?)レベルになってるリィンちゃん! 言語能力を何とかする為に冒険に出されたような気がするけど普通に戦闘能力が鍛えられてしまったか…… そういえ…
[一言] 拝啓 恋音様 お久しぶりです。すき。物語の構成とかしっかりしてるとことか、リィンちゃんの性格とか、色んな掛け合いとか、全部好きです。恋音様が書く話全部好きです。 いや、あの、好きです。 これ…
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