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第215話 しがない冒険者の筈です



 宿に戻れば元トリアングロ連中が屯ってました。


「……これなんだよ」


 クラップがため息を吐くと、宿から追い出そうとしていたライアーが私に気付いた。


「リィン! おいこいつらお前の! ……っあ゛ー! お前のなんだよ!」


 恐らく『お前の奴隷だろ何とかしろ』って言いたかったんだろうけど、トリアングロを滅ぼしたのは女狐。Fランク冒険者ではないことを思い出して汚い唸り声を上げた。


「ライアーのお友達のお兄さんお姉さんおはよう!」

「おひぃさんおはようやで。ちょい、髪の毛崩れてはるよ?」

「おはようと言っても朝というより昼の鐘寄りですけどね」

「おはようございます。今日も幸せそうですね」


 揶揄うのがアダラとべナード。そしてナチュラルに違和感をぶん投げてくるのがグルージャ。

 比較的社交的な3人だけど、めちゃくちゃ怖いよなぁ。クラップやシアンの方が軍及び騎士団出身でわかりやすい。


「んで、何事?」

「裏切り者の面見に行って遊んでやるって聞かなくてよ」


 クラップに問いかければ素直に答えてくれた。奴隷は私にだけは嘘をつくことが出来ない。だからこの説明に嘘はないのだ。


 ま、嘘はつけないけど真実を隠すことは出来る。


「うちらのお友達の様子が気になってなぁ〜?」

「誰が友達だ」

「あらあらあらあら、おひぃさんの言う事やで? 否定しはるん?」

「するに決まってるだろ」


 見るからに嫌そうな顔をしてライアーが距離を取った。


「本当は、冒険者登録する為にリィンちゃんの所に来たんです。アダラさんとべナードさんがライアーさんで遊びたいのは本当でしょうけど」


 物の見事に真実を隠されてましたね。


「冒険者登録ですか」


 グルージャの説明で奴隷制度について思い返す。

 そういえば奴隷は人権は無く所有物となる為決定権が無い。よって、自分で冒険者登録などは出来なかったな。


「自由にしてもいいっておっしゃってたでしょう? まぁ、私の場合は一番最初に冒険者登録して………他の身分証が入った瞬間捨てたんですけどね」


 地位を築きあげるための身分証として冒険者登録したってことかぁ。


「べナードは再発行、うちらは新規登録、しといた方が何かと便利やて思うてなぁ」

「クラップも?」

「俺は……。いや、姫さんに任せる」

「ならして。最低Cランクまで上げるすて」

「あぁ」


 アダラの追加説明に私の迎え役にしていたクラップにも投げかけた。

 私は地位が無いのに奴隷に自由にさせているから、奴隷単体で見た場合の身分証明が全く無かったのは気になったんだよね。


 そして、この3人は比較的自由にするだろうと予想していた分、やはり一番手を焼くのがクラップだと言うことが判明した。

 こいつは、命令が無いと動けない。根っからの軍人。


「…………王様も読むすてたな」


 学園から庶民街への転移先を誰にするか話し合った時、クラップを間髪入れずに推薦したのは王様だ。


「はぁ、負けられぬな」


 自国の主だった王様が生きている状態って、支配権を握りづらい。彼らの、奴隷達の頭がいるから。

 今はまだ未熟だけど、主人として王様に勝ってやる。


「というわけで! リィン様よろしいですか?」

「うん、じゃあ、今日はもう予定なきですし行くますか」


 べナードの催促に私は頷いた。


「ライアー、どうする?」


 一緒に行く? そんな気持ちを込めて首を傾げると、ライアーはキレ気味の状態で私に言葉を返した。


「行くに決まってんだろ!」

「あらやだ嫉妬? 男の嫉妬は可愛ないで?」

「クラップ、是非ともリィン様とお近付きになっといてくださいね、この状況は楽しすぎる」

「わぁ、性格悪い」

「へぇ? なるほどなるほど、つまり姫さんの、相棒枠を奪えば良いってわけが」

「ふざけるなお前ら!! 俺で、遊ぶな!」

「遊んでるんじゃねぇ、正当な報復だ」


 トリアングロ、国に囚われなくなった途端にはっちゃけるな。



 ==========




「と、言う事で」

「いやどう言う事だよ」


 王都、冒険者ギルド。


「新規登録と再発行、お願いするです」


 アダラと私が女である、というせいで自然と視線を集めている所だったので、ギルマスのゼウスさんを呼び出して個室を用意させた。

 何故かサブマスターのエティフォールさんも来たけど。


「……はぁ、魔力のラインから考えて。その4人はまさかリィンの奴隷か」

「です」

「まずは再発行から行くか。登録名は」

「…………リィン様、私の偽名覚えてます?」

「忘れるなかれ! レヒト・へれてっ、へれちっく!」

「あぁ思い出しました。レヒト・ヘレティックです」


 2人、ドン引きである。

 ゼウスさんが『堂々と偽名って言うな』と文句を言いながら手続き用紙を魔法で書いている。

 物質浮遊、便利だなぁ。サイコキネシスとはまたちょっと違う感じに思う。


 まぁ、私も偽名ですけど!


「新規登録の用紙を渡します。名前と、年齢と、出身地。それと戦闘可能な場合は下の欄にわかりやすい記入をお願いします。それと奴隷でしたら名前の横に主人の名前を」


 グルージャが私に顔を向けた。


「これ、戦闘欄って書いてもいいんですか?」

「大雑把で良きですぞ。私も過小記入すてますし」


 ゼウスさんが『堂々とギルドの前で言うな』って顔してる気がするけどきっと気のせいだろう。


「名前……。なぁ主はん、うちらアダラって名乗っても、かまへんのやろか」

「特に禁止されてませぬね。まあ、良きでしょう。第一名前まで知られるすてる可能性は低きです」


 それより奴隷の主名だよ。


「ゼウスさん、冒険者カードに奴隷の主人名ってかくされるですか?」

「ちょっと待て、どっちだ今の」

「へ?」

「筆記されるかの『書く』か、隠匿の『隠される』か。リィンのヘンテコ言語は今どっちの疑問を口にした」

「それ、使い分け必要です? 結局内容同じじゃなきですか!」

「こう、こういう時、くっっそ理不尽な屁理屈だな! どう考えてもリィンの言語のせいだろ何俺の理解力が乏しいせいみたいな面してんだ、けつ揉みしだくぞ」


 屁理屈だって理屈の内だってどこかの誰かが言ってたしはよ質問に答えてもらってもいい?


「ギルマス、それ今の時代はセクハラですよ」

「こいつに手を出してもやり返されるだけだから自己保身の為にやめておいた方がいいぜ……?」


 エティフォールさんが淡々と切り捨てるが、同情を寄せるのがライアーである。

 そこ、おい、相棒の貞操の危機なんですけど。何手出しする側の援護をしてんだよ。


「ライアー……お前同じ女好きとは思えねぇな……。女の食いでがあったら飛びつくのが男だろ」

「そりゃ女好きじゃねぇからな」

「どういうことだよ????」


 国同士のやり取りだから特性上中立組織には情報が入りづらいのだろう。

 トリアングロの幹部が誰だ、とか。女狐、とか。そういった情報は入ってないらしい。


「奴隷の主人名は隠されますよ。安心して書いても、巻き込まれないですね。まぁ、何か奴隷に問題があれば、報告がギルド経由でリィンさんの所へ向かいます」

「管理上ってだけですね。分かるますた」


 軽く雑談をしていたら3人は冒険者登録の記入を終えたらしい。

 ゼウスさん達と一緒に覗き込む。



 名前:アダラ

 年齢:42

 出身地:トリアングロ王国第3都市

 戦闘:超接近前衛


 名前:ブレイブ・パスト

 年齢:21

 出身地:トリアングロ王国第2都市

 戦闘:前衛〜中衛、火器使用有


 名前:クライム・クラップ

 年齢:50

 出身地:トリアングロ王国王都

 戦闘:メインウェポン、大剣。サブウェポン、槍。



 名前の書き方に性格出るなぁ。

 偽名を持たせてもいいけど、私が覚えるの大変だし、私が既に幹部名で呼んでるから。


 面倒なんだよ。


「見事に前衛ばっかだな。魔法は……まぁ、出身地から考えてねぇか」


 幹部的にも無いよ。


「あ、それと。魔法は厳禁です。基本的に魔法職と組ませぬようにすてください。要するに、私の奴隷同士かソロ」


 知ってるか、ここ私とギルド以外トリアングロ王国出身者しかいないの。8分の5だよ。


「ま、これで作っとく。主人名はリィンで構わないな」

「はいです」


 ゼウスさんは奴隷4人をジロジロ見た後、私に向き直った。


「リィンがまさか奴隷を買う質だとは思わなかったが。奴隷の扱いは分かるのか?」

「あーはい、扱いは一応」

「ま、リリーフィアの報告でトリアングロ王国の幹部を一人所有してるらしいし。扱いに困ったらまず相談しろよ」


 全員思わず視線を逸らした。


「あのですね、ゼウスさん。ふたつ訂正を」

「ん?」

「まずこいつら、買うすてませぬ。犯罪者奴隷です」


「………………ってことはリィンが戦って勝ったのか」


 こいつらに? みたいな視線が、特にクラップに注がれる。本人は非常に嫌そうな顔だ。


 普通に戦ったら負けるよ。でもあの時はアドレナリンと薬品っていう味方が居たから。


「あら、うちはこの子に負けてへんで? うちを負かした男が所有権を譲渡しはったんよ」

「私もその口ですね。奴隷権譲渡、普通なら出来ない筈なのですけど。叶えてしまうのがリィン様の恐ろしい所で」


 アダラとべナードが訂正する。

 べナード、お前を負かしたバブフの兄がそのエティフォールさんだよ。


「それともうひとつ訂正。私が所有すてるトリアングロ幹部、シュランゲだけじゃなきです」


 私は両手を広げて、2人に情報共有した。


「──こいつら全員。トリアングロ幹部です」



 すぅ。これは息を溜め込む音。


「それでFランク冒険者は絶対詐欺だろっっっ!!!」




 ==========




「あ、やっぱりリィンが居た」


 ギルドホールに戻ると、依頼ボードの前にとあるパーティーが居た。


「ペイン!」

「よっ、リィン!」


 ペインのそばにはラウトさんと頭ポンチ。女勢は居ない様だ。ギルマス対策ってところかな。

 私が駆け寄ってペインに抱きつくと簡単に受け止めてくれる。


 やっほーペイン、さっきぶり。一時間程度しか経ってないね。


「……豪華なの引き連れてんな」

「……顔合わせるすたのは?」

「……全員」


 ヴォルペールとして全員と出会ってたって事か。バレるかな。


「ま、平気だって。詐称歴舐めるなよ」


 ペインはそう言って私から離れてトリアングロ勢に頭を下げた。


「こんにちはー! オレ、ペイン。リィンと仲良くさせてもらってんだー」

「………………。」

「…………ふぅん」

「青い瞳、綺麗ね」

「だろ! ッて言っても、魔法が目にドカーンと直撃したせいで変異したんだけどな〜」


 その言葉に、警戒していた3人は警戒をやや解いた。

 流石に碧眼から『王族かも』って疑惑はあったらしい。


「げ……っ!」


 するとグルージャが小さく悲鳴を上げ、スススと私の背後に隠れた。主人を盾にするな。


「どうしたんですか?」

「……クライシスがいます」

「「「げ……」」」


 全員に嫌がられるクライシスって本当に何なの?


「あ、もしかしてクライシスの知り合い? オレのパーティーメンバーなんだ! 兄ちゃん達、暇? 暇してるなら一緒に合同でなんか依頼受けよーよ!」

「ありがたいお誘い、やけ、ど。……ごめんね、遠慮させてもろうてもかまへん? うち、なんかここに入ってから体の調子がおかしくて」


 ペインはグイグイ攻めるけど、アダラは明らかに『クライシスがいるから嫌です』って顔して遠慮した。


 当の本人は、フードのしたからぎょろぎょろと私達を見て。……ニヤッと笑った。


「あぁ゛? 何が『愉快ヒマワリ無き』ぞ。なにゆえヒマワリ? 微妙なニュアンスで遊んでんじゃ無きぞり」

「なんで分かんの? リィン本当に何者?」


 ペインが私の正体を知ってるくせに疑問を投げかけてきた。それ、演技じゃなくて本気だったよね。

 正体バラすぞ。


「……って、まぁ、じょーだん。オレ、お前らのこと知ってるよ」


 ペインはちろりと舌を出した。


「そこのおっちゃんが、リィンと一緒に寝たやつで」

「おい!」

「そこの兄ちゃんが、ヘンテコな剣を使うやつで」

「…………。」

「そこの眼鏡が。リィンを人質にオレを脅したやつ」


 ペインは自分の目を指さした。


「ずっと見てたぜ。お前らのこと。お前らが、リィンに何をしたのかも。安全な場所で俺がずっと、視界を繋いで、お前らを殺してやりたいって思ったことか」


 性格悪くて王子がしたらアウトだろみたいな笑顔でペインは笑った。


「忘れんなよトリアングロ。俺は冒険者としてはCランクで、力も無いけど。──リィンはFランクなのに最悪」

「分かるな」

「理解してまうわ」

「未だに信じられません」

「準優勝者の実力とはまた別口ですよね、彼女」


 ねえ、オチに私を持っていくのやめてもらってもいい?


「他国にいるのに視界共有で酔い倒れてたオレに出来ることなんて仲間をけしかけてトリアングロにぶつけることくらい……。クライシスがお世話になりました。こいつをお前らにぶつけたのはリィンの采配だけどゴーサイン出してやる気出させたのはオレです。直接ぶん殴りに行きたかった!」


 ……まぁ、公務上無理だろうね。


「ライアー、報告の冒険者はこいつか」

「あぁ」

「ガキじゃねぇかよ」

「誰がガキだ! ガキって言った方がガキなんだぜ!」


 ベインはプンスコ怒っている。

 うーん、雰囲気的に気付かれては無い様子。ペインに変えたと言うよりは、ヴォルペールの時がめちゃくちゃ違うんだね。

 強いて言うなら同じ絵師が似たようなキャラを書いた感じ。絵柄は同じだけどキャラ名違うと似てるけど別人って思えるよね。





「……そういうすれば」


 ペインが王子ヴォルペールだと知った今、ひとつの真実に辿り着いたんだ。


「ラウトさんラウトさん」

「ん?」


 私はラウトさんの服を引っ張って背伸びをすると、ラウトさんは腰を曲げて私に近寄った。


 彼は、言った。『ペインの父から頼まれているのだ』と。


「お仕事頑張るすてね。王子様の……護衛兼監視役さん?」


 確信を持って首を傾げると、ラウトさんは顔を驚愕に染めた。誰が監視役か気になってたの。ラウトさんだよね。私が庶民だと思って油断してた?


「なっ! ……なぜ」

「ラウトどうした?」

「どうもしないわけではないが触れないでくれ!」


 嘘がつけないって分かってるからの返答。いやー。人の隠し事暴くの楽しいな。

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[良い点] >>行くに決まってんだろ!<< ツンデレだこれツンデレだ!!定義とはちょっと違うけどツンデレだ!!! 元幹部のお友達連中わちゃわちゃおかわいいですね、立場的にこれまで抑圧されてた分一気に…
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