第209話 トリアングロの元幹部
「ハロー! トリアングロ敗者の皆さまご機嫌いか──顔面ぞ死ぬ!!!!」
自分の部屋なのに入った瞬間私の顔面がアイアンクローという驚異に晒されることになった。
時はほんのちょっと進み、宿に国からの遣いがやってきて言ったのは『奴隷の準備が出来た』という事だった。
通常の奴隷と違って国家間の尋問やら色々後処理があったから半月も経たないなら早い方だと思う。ぶっちゃけ早さはどうでもいいからしっかり取り調べして欲しい感じだよね。報奨金の中にはこの多い奴隷を引き取る準備費用も入っていたに違いない。
さて、そんな連絡をもらった私は辺境伯王都邸に急いで向かって馬車の手配をし、奴隷商で奴隷を移して貰った。ちなみにここまで私の顔は見せてない。シュランゲとオベハさんに頼んだから。
そしてついに感動の再会である。
「よぉ姫さん、本日もたいっへん、麗しい限りだなぁ?」
「クラップ、クラップ、あの、そういうお世辞は私の顔面ぞ解放すてから言うすてくれまいだだだだだだ! トリアングロの顔面掴み文化は撲滅するべきと思うですけどっ!」
「あ? 悲鳴で聞こえねぇな」
「王様、王様ーーー!!! この怪力ピュアおじさんどうにかす握力増加不可っっっっ!」
「あー、悪いな。今天井のシミ数える仕事してるから暇がねぇんだわ。他当たってくれ」
ミシミシ言っちゃってるから! 人体から鳴らしちゃならない音が響き渡ってるから!
「ちょっ、クラップさん落ち着いてください! リィンちゃんも無駄に煽るからそうなるんですよ!」
そう言いながら間に割って入ったのはあのクライシスとは似ても似つかぬグルージャ。
改めて部屋の中を見回すと、今回の無事(笑)私の奴隷となったトリアングロの元幹部達がいた。
入った瞬間アイアンクロー決めてきたのはクラップ。
その姿をソファでニヤニヤニコニコ眺めているのはアダラとべナード。
こちらのことなど無関心に部屋と窓の外を観察しているのがシアン。
慌てて止めに入ったのはグルージャで。
シミひとつ無い部屋の天井のシミを数えているのが王様。
特に王様、お前しばき倒すぞ。
「あいたたた……。図星刺突されるすたからって暴力に出な──蝋燭!」
私は痛む顔を擦りながらぶつくさ文句を言えば燭台が顔面に向かって吹っ飛んできた。間一髪、間一髪!
「ちょいとクラップ、煽り耐性低過ぎん?」
「この中で姫さんシバキ倒すなら俺だと直感的に思ったから実行してるだけだ」
「ざまぁないですねリィン様!」
べナードの満面の笑みに中指立てる。
「はっ、残念ながらもう既にあなた達の所有権は私のもの。奴隷は主人ぞ殺す事は不可能! 故に命の危機は……──え、何故黙るすてる? ねぇ、何故黙るすてる? え、殺せぬよね私の事。ねぇ?」
「悪いな、奴隷は嘘がつけないもんで」
「ねぇええ!? ちょ、え、殺害可能? 嘘でしょ!?」
トリアングロ勢は私のあたふたしている所を無言で見守るくらいしかしてくれない。いや嘘、なんかありますよみたいな笑みを浮かべて私の不安を煽ってくる。
嘘だと言ってよ。嘘は言えないの分かっているけど。
ちなみにこの人達、既に背中に奴隷契約魔法の紋を刻まれているので、正式に私の奴隷だ。
「ぐぬぬぬ……これだからトリアングロは」
天井のシミを数えるのが飽きたのか、それとも終わったのか。王様が地面に胡座をかいて座った。
「んで、ここは何処だ?」
「貴族の屋敷」
「大雑把過ぎるだろ。どの貴族だよ」
「それ、あなた達が知る必要ぞ存在するです?」
会話の主導権をトリアングロの王が握ろうとしている。
それは察することが出来たので私は即座に切り返した。
「……知る必要、存在する?」
「…………はぁ、ねぇな」
「よろしい」
王様は両手をあげて降参の仕草をした。私は満足気に頷く。
「やっぱり王様とっても良きですね! どこぞの士官指南書読み込むすてるマニュアル野郎とは大違いで──それは机っ!」
「……学べよ」
呆れたような王様の一言。
それは机をぶん投げようとしたクラップに言ってるのか、この結果が分かってて煽った私に言ってるのか。うん、きっと10割クラップだな!
「ご主人様、当主様が参られましたよ」
部屋の外からシュランゲが声を掛けてきた。
ピリッと部屋の中の空気が変わる。
「シュランゲ、通すすて」
「はい、どうぞ当主様」
「邪魔するよ」
そして入って来たのは──パパ上。
見慣れた童顔。ただし服装は貴族当主としてのカチッとした式典服だ。この後誰かと会う予定でもあるのだろうか、それともトリアングロの幹部への威嚇だろうか。
その姿を見て、真っ先に反応したのはクラップ。
「……! ローク・ファルシュ! ってことは、ファルシュ辺境伯邸か」
「隠す気ないじゃないか」
私の身分を知っている上に先程会話の主導権の握り合いをした王様が脱力感に身を委ねて頭を項垂れた。
うん、教えないとは言ってないからね。
「やあクライム・クラップ。久しぶりだね。戦時中ではよくも。怪我の具合はどうかな。結構な深手を負わせたと思っていたんだけど……」
「はっ、そりゃこっちのセリフだな。捨て身で噛み付いたつもりでいたが、ピンピンしてやがる」
「仕留め損なってんじゃねぇぞこの童顔野郎……」
「聞こえてるよ」
「ってクラップさんが言うすてますた!」
「姫さんそろそろ殴り倒そうか?」
パパ上とクラップが言い合いしてるのを聞いて本音が零れてしまった。四面楚歌って言うじゃん、それ、今の状況ね。
私は急いでシアンの後ろに隠れたよね。
「なぜ私なんだ……」
「シアン、顔面対抗するなれば1番向いてるから。よっ、色男」
「……はぁ」
シアンは無言でため息を吐くと、私の首根っこを持ち上げて他の人に身柄を渡した。
よりにもよってクラップに。
「んで、姫さん。なんでこうなった?」
クラップが私を片手で軽々持ち上げ、肩に乗せる。
おお、流石上半身の筋肉がお化けなだけある。あ、今心の中を読まないでくださいあんたの筋肉でアイアンクローはまじ死ぬんだって。
「奴隷商からファルシュ領主様のお屋敷にあなた達を連れてくるすた理由はひとつ」
私は辺りを見回して、視線を逸らしている王様もいるけどそんなこと気にせず言い放った。
「ここが私の別荘故?」
「は?」
「正確に言うとろくに使うことぞすてなかった実家の王都邸の、私の部屋だから?」
「…………は?」
「私、リアスティーン・ファルシュって言うです! こっちは私のクソ親──」
「リアスティーン」
「──美形で魔法も強くて体力も凄くて愛情タップリ育てるすてくれたパパ上ぞ」
シュランゲは硬直したトリアングロの幹部を見て一人一番先に真実に辿り着いた者として楽しそうに観察していらっしゃる。いい趣味してるわ。
さて、怒り散らすかな、なんて考えでクラップを覗き込めば。彼の様子は私の予想と打って変わっていた。
「で、本当は?」
「いやこれが誠ですけど?」
「リアスティーン、君本当にトリアングロで何やらかしたんだい?」
まず私の発言を疑ってかかるのやめよう?
「いやいやリィン様リィン様、流石にそれは無理がありますって。まだ異世界人と言われた方が納得出来る」
「金髪は確かに、クアドラードで言うとこのおえらいさん家やけどぉ……。流石に無理があるんとちゃうかな?」
「一応、元クアドラード貴族として言わせてもらうが、無理がある、下手な嘘はつかない方がいい」
「しばいたろか貴様ら」
怒りで思わず体が震えますわ。
今だけこいつらを一撃で殺せる魔法を授けてください。神様。土下座するから。
「皆さん疑いかかるのは分かりますけどちょっと落ち着いてください。自分はリィンちゃんの事信じますよ」
「グルージャ……!」
「隠し子的なあれですよね!」
「……クライシス弟」
「そういう呼び分け方勘弁して貰えませんかね!?」
上げて落とすなナチュラルクライシス。黒に擬態したって貴様がクライシス族なことは割れてんだよ!
「何故信じるすてくれぬ!?」
「姫さん、クアドラードの姫だったり異世界人だったりエルフだったりと、身分詐称しまくりなんだよ。基本的に信じねぇぜ?」
「信じろ! 仮にも! 主人ぞ! 我主人ぞ!」
おい、シュランゲ。パパ上の影に隠れてこっそり笑うんじゃない。おいやめろ。
「「「「だって口調が貴族じゃ」」」」
「ぱぁぱぁ!」
「……リアスティーン、だから、私は、その口調を、どうにかしろと、言ってるんだよ!」
「べナードのカジノの時より味方ぞ居ねぇ!」
「おいやめろ」
四面楚歌疑惑に裏切りが追加されましたので正真正銘四面楚歌です。何を言ってるのか分からないけど涙が出てきたことに変わりは無い。
「ともかく! 私は正真正銘、ファルシュ家の末っ子! 生まれもファルシュ、育ちもファルシュ! 隠し子でも異世界人でも無く」
「……いつ君が隠し子じゃないって言った?」
「………………え?」
「ジョーダンだよジョーダン」
クラップなんでこの性格悪いやつ仕留めなかったの?
「パパ上仕留めるすてくれたら……! トリアングロに着くすてたのに! クラップの力不足……!」
「姫さん?」
クラップは無言で手を構えた。アイアンクローの気配を察知。
私はシュランゲを盾にした。動物と裏切り者は顎で使えって言うからね。
「ということで、お前達は、国境で苦渋ぞ飲ますされ、王都で敗北ぞ期すたファルシュ家の監視下に存在するこ──いだだだだだだだたアイアンクロー!!!」
目で追えるか追えないかの本気スピードで駆けつけて顔面掴まないで欲しい切実に。
まだ完全に魔力回復しきってないんだからさぁ! 対抗出来る手段が無いの!!
というかシュランゲもパパ上も私を守ってくれない!
味方が! 居ない!
うっ、ライアーとかペインだったら守ってくれただろうに……。冒険者生活に戻りたいでござる。幸い報奨のおかげでプチ贅沢してもまあ大丈夫な金貨手に入ったし相談所みたいなのを設立してお話するだけでお金貰えるようにしたら生活出来るんじゃないかな……!
魔物退治?
あっ、無理です。魔物は勉強が必要だから。
どこが弱点で耐性がどれかっていうの、わかりにくいんだよね……。その点人間は自分が一番分かってるし。まぁ、人間も魔物も死ぬまで殺せば死ぬけど。
「で、女。ルナールはこの事知ってんのか?」
ギクッ。
私は視線をぐるりと巡らせた後、小さく呟きた。
「……言うすてなき」
「はぁ?」
王様は私の解答がお気に召さなかったのか不満そうな声を上げた。
「俺の大事な狐誑かした女狐が、何抜かしてやがる。俺らに告げておきながら命掛けた相方には黙りか」
「だっ、いや、言うつもりはあるですけど。……ライアー貴族嫌いですし」
私、一応貴族だし。
基本的にライアーが私を嫌う事は無いと思うんだけど、万が一、ね、もし嫌いになってしまったら。
「……このままの方が安牌かなぁって」
「呆れた……」
ただ嫌いになられるだけならまぁいいんだけど、好きの反対は無関心って言うくらいだし。コンビ解消して、無関係になるよりは……。
「いや、ファルシュ、か。……まぁ、好きにすればいい」
急に手のひら返されるととんでもなく不安なんだけど。
「ん? ちょいと待ってもらえへん?」
アダラが首を傾げた。
「ねぇ、主はん? ちぃと聞きたいことあるんやけど」
「はい、いーでらアダラさん」
「言えてへんよ。あんた、うちの自白剤ちゃあんとたらふく飲みはったよね?」
「はいもちろん」
アダラはなんと私の元気なお返事にいやぁな顔をしたの。
「……あんた、もしかして自白剤……効かへんのんやない?」
「効くですぞ! ちょびっとは!」
「ちょびっと」
「そのローク・ファルシュっていう一生童が」
「……」
「ハンサムで街中歩くすればキャーキャー赤黒い悲鳴ぞ上げるされるパパ上が」
無言で剣を構えるな。娘に剣を構えるな。
こう、いざとなった時に守ってくれなさそうなんだよこの奴隷達。
「そのパパ上が?」
「毒薬耐性訓練(強制)を」
「「「「「…………」」」」」
ドン引きである。
皆様、ご覧下さい。これがトリアングロが最大限警戒したファルシュ家の実態です。
「とにかく、ライアーには言う気持ちは存在するです。ただ、現在はそこまでの余裕ぞねぇです。……この不思議語抱えるすたまま人の名前は無理! 今後の付き合いぞなる貴族社会入門編でこの語彙力!? 人の事気にすてる暇ぞねぇんですぞ! 第一印象最悪中の最悪では無きですか! ねぇ、自覚あるでしょう!?」
「あぁ……」
「私が今1番必要なのは! コンビ仲では無い! っ言語能力!!」
握り拳。
そう、入学を明日に控えた私。必要最低限の、要するに私より身分が上の同級生の難読名前を発音出来るようにひたすら頑張っている真っ最中。
作法も使ってなかった分記憶から抜け落ちてるしそれの追い込みもあったよね。やー、貴族って覚えることが沢山。ただ贅沢してればいいってわけじゃないのよね。
あと、王弟の娘っていう評価を知った以上、ミスは許されないというプライド。何様クライシス様のせいで王家の姫が現時点居ないのだから……──
「──この国の女性の頂点、私なのですぞね……」
血統主義クアドラード王国。優れた家庭で生まれた子はその身分に合う教育を施される為自然と優れた子になる。
つまり私は、優れなくちゃいけない。
「こんなんでクアドラード頂点とか、世も末だな」
「んぐぅ……」
王様の発言にぐうの音も出ないけどそれはそれで腹が立つのでぐうの音を発した。
「あ、そう言うすればパパ上。他の幹部ってどうなるすたかご存知?」
「ほかの幹部は全員生きている限り捕虜だよ。……と言っても3人しか居ないようだけど」
「少なき…!」
「君が多すぎるんだよバカ娘」
どの3人だろうか。蛇は確定として残りの2人……。
ま、いっか。国の捕虜ならまず関わることは無い。というか幹部側の死者も思いっきり少ないんだなぁ。殺しきれなかったというか。
「それで、えぇっと。私の幹部の方の処理ですけど」
私は幹部達をちらりと確認する。
「……姫さんよぉ」
「えっ、何事?」
「お前、ひょっとして誰かを従えるの得意なタイプか?」
「さぁ?」
「さぁって」
「少なくとも、私個人のメイドや従者というのは存在せぬです。つまり、お前達が初めて」
クラップは顔を片手で覆った。
「姫さんほんと人たらしだな」
──何故か私の顔面を!
「おかしく無き!? 何故私の!?」
抗議するも手に込められる握力が強くなるだけだった。良い子、黙りまーす。
いや奴隷の立場に主人を操作されるのはちょっとまずいな。良い子、動きます。
「それっで! 処理ですけど、Fランク冒険者ではなく女狐という謎の冒険者が今回の戦争の英雄です」
「ほう」
「あと奴隷としての基本なのですけど、シュランゲと同じく犯罪者奴隷って扱う事になるです。……大丈夫ぞ?」
いくら犯罪を犯してなくとも戦争を起こした。それを罪というにはちょっと曖昧なんだよね。
シュランゲみたいに子爵家の情報改竄、とかだったら分かりやすく犯罪なんだけど。戦争敗者国の幹部をなんの枷もなく野放しには出来まい。
かと言って処刑はされないだろう。一般的に言うと処刑がセオリーなんだけどね。
「……ただの犯罪者奴隷と一緒かよ」
「はいです。主人に嘘ぞつくな。犯罪行為の一切禁止。犯罪行為の責任は主人に。ってやつです」
「ぬるい、ぬるすぎる。甘いのはお国柄か? まさかそんな簡単で穴だらけのルールで俺らを縛ったつもりか」
「まさか!」
私は歩いて王様に近寄った。
「私はね、縛るつもり無きです。私が与えるのは敗北者への罰じゃなき。奪うのは自由じゃなき。──私は、お前達に名誉ぞ与えるのです。未練を奪うのです」
「……どういうことだ」
「私結構自分本位です。私が縛るんじゃなき、お前達が、自分で服従の鎖を喜んでその首に巻き付けるのです」
命令で縛って、反発心を産んだって意味が無い。
だってそんなの、つまらない。
「私、誰かのものになるとか可愛いプライド持ち合わせるすてないの、言ったでしょ。お前が私のものになるんだよ」
根っからの軍人であるクラップに向けてそう言う。
「主はん、ひょっとしてクラップがお気に入り?」
「はい!」
「えっ」
アダラの疑問に私は笑顔で答える。驚いた声をクラップが上げた。何を驚いているのやら、当たり前じゃない。
「──単純で扱うやすきで!」
「姫さんっ!」
「あだだだだだだだ私の小顔が進むぞ!!!!」
あ、こいつただの馬鹿かもしれない。そんな雰囲気が漂う。
はい馬鹿ですよ。馬鹿じゃなければルナールを敵国に乗り込んで殴ろうとなんかしない。馬鹿でいいよ。そんな馬鹿げた行動の先にある結末が、こんなもんなら。
「これは善意での忠告なんだけどね、トリアングロ」
パパ上が口を開いた。
「この娘を、あまり舐めない方がいいよ。人たらしは母親譲りだけど、人を服従させるのは私譲りだ」
「タチが悪いな」
「ママ上って人たらしなの????」
「そりゃね。君のママ上ときたら、なんせこの私を誑かした張本人だから」
パパ上は恐れられているみたいだけど、ぶっちゃけ私にそういう面を見せたことがないから分からない。終始穏やかというか。まあそこが底知れない恐ろしさを感じる時もあるけど。
「──で、主? 俺たちは何をすればいい」
王様が首を傾げながら問いかけた。
「……未定です」
「はぁ!?」
「だって普通こんなに奴隷ぞぽんぽこ増えると思うです!? なんっっっも考えるすてねーーーよ! ルナールだけで! 手一杯! 国は面倒くさきで私に押し付けるすた説、あると思う!」
「……。」
「今否定出来ないなって顔ぞすた弟主従、ふざけるなぞ」
国王陛下の弟と大臣の弟がそろい踏みで否定しないこんな世界ポイズン。具体的に言うと私の手料理。くっ、泣いた。
「とにかく、お前たちの想像する奴隷扱いは無きと思うすてください。シュランゲを私の執事にすた時点で察すて。本格的にお前たちに働くすてもらうのは今のところ私が学園卒業すてから!」
ビシっ、と指をさす。
「今は適当に、ファルシュ家の私兵とでも訓練すといてくださいです! あ、あと魔法の勉強ね」
「俺は魔法は使わねぇぞ」
「敵ぞ知れ。お前たちの敗北した理由を教えるしましょうか。魔法ですぞ。己の弱点を見つめ直さず克服しない停滞した輩に、……私は興味ぞ無き」
私と王様の間にピリピリとした緊張感が流れる。
王様が魔法を使いたくないのであればそれでいいんだ。だって魔法無しで強くなった人だから。でも魔法の知識は別、魔法に関しては無知も同然。
敵を知り己を知れば百戦危うからずとも言うし、魔法が蔓延する世界で生き延びるなら魔法の知識は得ないと。
「………………はぁ、分かった」
諦めたのは王様。
私は小さく息を吐いた。
「さて、話は終わったかなリアスティーン」
「まぁ一応は」
「私も君に話があるんだけど、いいかな」
パパ上が私に?
疑問を浮かべながらも頷く。
ついておいで、と言わんばかりにパパ上が踵を返すので私もそれにしたがって部屋を出ようとする。
「あっ、そうだトリアングロ」
忘れていた。私は部屋を出る前に彼らへと向き直った。
「私の部屋ぞ使うか、どこか部屋ぞ借りるか、宿生活か。好きなの選ぶすて。文句言うやつは私が潰す故、自由にすでいいですぞ」
シュランゲにあとはよろしくと伝えると、私は急ぎ足でパパ上を追いかけた。
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部屋に残された幹部達は互いに顔を見合わせる。
「……卑怯だな」
「卑怯やね」
「卑怯ですねぇ」
「卑怯だな」
ため息を吐いたのは誰だったか。
「奴隷生活なんてつまらないだろうと思ってましたが、これはこれは楽しそうな気配ですね」
べナードが上機嫌にそういう。
あれを出し抜いても面白そうだ。
「彼女の優しさは罰ですよ。本当に、酷いものです」
シュランゲは経験を元にそう口に出す。苦々しい顔をして。
「……はぁ。一瞬でも、ルナールが羨ましいと考えた」
フーガは苦悩する様に深く深く、ため息を吐いた。
「いいかお前ら。あの、不甲斐なくって頼りになって、馬鹿で最高な主──。」
奴隷達は誓う。
「支えるぞ。死ぬまで」
敗北した時点で、我らにはそれ以外の道は残されてないのだから。