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第205話 情より利用価値だと思っている


「……条件、か。良い。許す。飲もう」

「へぁ!?」


 切り込んだ割に速攻出鼻をくじかれた。


「な、内容を聞くすてから飲みません……?」

「リィン、先に言っておこう。我が国は此度の戦争、負けるつもりだったのだ」

「……っ!?」


 それ、私に漏らしたらまずいやつ!

 負けなかったとはいえ、弱気になった国の方針というものを知られるのは、非常に、大変に、まずい。


「ふ、今『それを言ったら拙い』と考えたな? そこだ。私が条件を飲む、と言ったのはそれが分かるからだ」


 私の驚く顔に国王陛下が言葉を繋げた。


「我々は国への被害を最小限に抑える様に戦うことを選んだ。そこのルナールが王宮に現れ、組んでいたコンビでさえ容赦なく殺しにかかる姿を見て、私は悟った。──トリアングロは、全力でかかってきた」

「……!」

「ただトリアングロに白旗を上げるだけでは国は納得しない。魔法という力を得て、驕る者は尚更。……国民は戦争をするという事に納得しなかったかもしれない。負けるつもりだったのなら早く降伏をしろと、そう考えるかもしれない」


 それはそうだ。

 犠牲者は少なからず出る。百戦百勝は善の善なる者にあらず、戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。

 戦争をした時点で、例え宣戦布告を受けた側だろうと善では無い。悪だ。国民は、知ったこっちゃない。国の目論見も迷いも英断も何も分からない。


「私は、それでも戦争をするという選択肢を選ばなければならなかった。恨んでくれても良い、騎士を無駄死にさせる人でなしだと思われても良い。だが私は、その先の未来まで、国民を守らなければならない。例え国が滅んでも、クアドラードの国民を私が守るのだと」


 クアドラード国王が見た未来はきっと内乱だ。

 納得出来なかった戦闘能力のある優れた者が起こす、クーデター。


 なぜ戦いもせず負けたのだ、魔法に優れた我らからなぜ魔法を奪ったのだ、魔法さえあれば。


 その未来を回避したかったんだろう。


「だから、リィン。私は君に感謝をしている。私が選んだ敗北の未来より、戦争の犠牲者はぐっと少ない。君が望むのなら出来うる限りの援助をしたいと思っているんだよ」


 あぁ、この人は間違いなく、私のパパ上の兄だ。

 人を慈しむ時に浮かべる瞳は、色こそ違うもののそっくり。


「……では、条件を述べます。私の条件は一つ、今回の戦争の英雄を、女狐に仕立て上げて欲しきです」

「女狐、とな」

「はい。既にご存知だと思うですが、女狐はスタンピードを収めますた功績ぞあるです。誰でもない、謎の冒険者を、作り上げるすて欲しきです」


「……なるほど。そうすれば、君達に厄介な話は降ってこない」

「はい」


 噂は所詮噂のままで。

 実在しない英雄を作り出せば、噂が勝手に広がる。責任を全て押し付けることが出来る。


 私は出来れば目立ちたくない!

 悠々自適な怠惰ライフを送りたいんだ……!


 そして噂を広めた王宮が、国が、女狐の責任を取る事になる。


 言質は既に取った後、女狐の噂は操作できるんだし、断るなんて言わないよね?


「グロリアス」

「では、そのように処理を」


 よ、良かった。

 あくまでも女狐は私だけど、Fランク冒険者リィンに降り掛かっては来ない! それだけでも平穏感が違う! だって、街中でクラップとかに会っても所有者所有物じゃなくて『あっおじさん!』って言えちゃうんだよ? もう、胃痛が減る。


 ということは、私三つの仮面を使い分ける事になるのか……。リアスティーン・ファルシュ、リィン、女狐。ううん、ややこしい。


「では次、ライアルディ・ルナールについて」


 大臣さんがその発言をした途端、緊張感がぶり返した。


「何か望みはあるか?」


 大臣さん、分かりやすい区別だな。

 私に対しては敬語使う割に、ライアーに関しては威圧感満載だ。あくまでも、敵対組織の人間を相手にしてるんだよなぁ。


「……私は、クアドラード王国に牙を向きました。トリアングロ王国の、幹部です。リィンが大事だと気付いたのは、最後の最後。気付くのは遅すぎました。自分がもっと早く気付けていたら戦争は起こることなど無かった。だが、正直……──どうでもいい」


 その発言にぎょっとするのは私。

 いやいやいやいや、正直にとはいったけどバカ正直にとは言ってないが!?


「私にとって国がどうなろうが民がどうなろうが、どれだけなくなろうが、どうでも良いのです。私が望むことはただ一つです。リィンが、健やかであれば。私は死んでもいい」

「ライアーっ!」


 私は胸ぐらを掴みあげた。


「貴様が、私の努力を無駄にするかルナール!」


 無駄になることを嫌ったお前が、効率の良さで生きてきたお前が。私の、トリアングロで被った苦労や努力を、無意味にするのか。


 私はライアーをぶん殴りたくてトリアングロに乗り込んだんだよ。ライアーを、取り戻したくて! 殴り込んだんだよ!


「何勝手に諦めるすてる! 私の相棒という座は、易々と手放せるほど安くはねぇんですぞ! その名誉を、幸福を、与えてやるから生きろって話ぞしてんだ馬鹿!」

「裏切りには罰を、それがトリアングロのルールで、俺のルールだ」

「知るかボケ! お前が、そんなに裁かれる事ぞ望むなれば、私がお前を殺す! そして私も一緒に死んでやるぞ! 貴様の望みなど、無意味にすてやる!」

「なんだと!?」


──パンッ!


 私たちを現実に引き戻したのは大臣さんの拍手だ。


「陛下の前だ」

「も、申し訳ございませんです」

「失礼致しました……」


 私とライアーは格好を戻して座り直す。

 チラリと横目で相棒を確認した。


「(こんなもんでいいだろ)」

「(上等ですぞ)」


 はい、共依存コンビの出来上がり。

 あながち嘘という訳では無いけど、多少過剰表現しました。


 そう、これはアピールですアピール。

 ベッタベタとかは勘弁願いたいけど、私に価値があればあるだけ国はライアーを殺せなくなる。

 私が女狐というものを持ち出したのは、これだ。

 国で女狐は作り上げる事が出来るけど、この国は私の存在を無視するほど『恩知らず』では無い。


「ではこちらで決めた処遇で問題無いようなので告げます。ライアルディ・ルナール。貴方は国王陛下の密命によりトリアングロに潜り込んでいた、という処理にします」

「はっ」

「そしてこの戦争の終結者、として」


 大臣は書類をライアーに渡した。

 私も見てもいいか、という様に視線で訴えると頷かれたので目を通した。


「…………あぁー、なるほど」

「それで納得出来るお前もお前だよ」



 ライアルディ・シンクロ子爵、叙爵


「……まじかぁ」

「おめでとうライアー、いや、シンクロ子爵?」

「やめろ」


 ライアー、貴族社会への仲間入りである。

 そりゃそうだ、クアドラードで栄誉と言えば貴族位。


 つまりライアーは、国に枷を嵌められたってことね。


「正式な授爵式は後日。それと領地が与えられる事となる。場所は旧トリアングロ。細かい内容は追って説明をする」

「はい」

「あくまでもライアルディという男が就任する為、Fランク冒険者のライアーは好きにしてもいい」

「……!」

「あぁ、ただし貴族としては監視役も付く。今はまだ決まってないが、こちらも追って決定する。貴族としての活動で困ることがあれば協力する形でいてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 ……。その監視役、貴族ってことだよねぇ。

 うーん、エルドラード? いやでもエルドラードって金の血以外に傅くのかなぁ。


 予想がつかない。

 まぁ国自身も監視役が決まってないから予想付かなくても仕方ないんだけど。

 従者か婚約者かって所だろうね。



「春先に正式な発表をしよう。この時期はどうしてもごちゃつく。その頃には監視役も決まるだろう。今は、監視は付けない。ただし授爵式が行われるまで必ず王都に居るように。一歩足りとも外壁の外を彷徨くことは許さない」

「分かりました」


 まぁ分かるもんね。魔力で入退出の記録が取られるようだし。


「出来れば私の屋敷かグリーン子爵の屋敷にいて欲しい所だが……。冒険者としての活動もあるだろう、宿は変えずに。安眠民で構わないな?」

「はい、問題はありません」

「では何か連絡事項があれば倅をそちらに向かわせる」


 主にライアーの話が続いていく。必要な連絡事項、決定事項、ライアーは貴族当主として授爵され、春には正式に貴族の仲間入り。

 春まで役ひと月って所かぁ。

 ライアーと気兼ねなく冒険者活動が出来るのも1ヶ月ぽっきり……。




 ………………ん? 待てよ?



 春先になれば。

 私 も 貴 族 デ ビ ュ ー じ ゃ ん !



 そうだよ忘れていた!

 入学準備! え、今からファルシュ領に戻る!? いやでも待て戦争終結者として、冒険者としてまだやることはあるだろうしトリアングロ奴隷幹部の処理もあるし。


 後、盛大な問題点。


 ……喋り方、どうにもなっていませんね?


 あかん殺される。トリアングロ国王なんか目じゃない、身近な驚異に消される……!


「──と、言うことで後はこちらが……。リィン? どうしましたか? 顔が青い様ですが」

「あ、は、はは。あの、なんでも無きです。強いて言うするなれば……いざとなったら匿うすてください……いや無理かな……無理だろうな……」

「今の一瞬の間に一体何に追い詰められたんですか!?」


 私のパパ上で、国王陛下の弟です。

 私達、多分ローク被害者の会を設立できる気がする。


 この2人、というかグロリアス・エルドラードさんに関しては今後も付き合っていくだろうし、身分バラしておいた方がいい、よなぁ。


 私まで貴族に囲われたらまずい。そうなったらグリーン子爵の所で全力で匿ってもらうが。


「さて、それでは最後に報酬の件について」

「えっ、報酬があるのか!?」

「そりゃありますよ。冒険者の依頼としては流石に処理が出来ませんが、報酬……と言うよりは報奨ですね。報奨額は、金貨3万枚」


 その金額に衝撃が走った。


「………………3万、枚?」

「やばい、規模が大きすぎて何言ってるのか分からねぇ!」

「ええっと、一人頭、5000枚?」

「いやでも俺ら殆どやってねぇよ。リィンと同額はおかしい」

「それもそうですわね」


 日本円の価値観に換算すると、3億。

 混乱している冒険者組。


 私はその金額にすっと頭が冷えていくのを実感した。


「へぇ……?」


 思わず感嘆の声が漏れてしまう。


たった(・・・)、3万……」


 いやぁ、驚いた。驚いたよ。

 まさかこんなにも少ないとは。


 私の威嚇に、びびったのは冒険者。


「…………。」


 私の前世と、私の今世。金銭感覚はおよそ十分の一だろう。4人家族が暮らしていく生活費は金貨2枚程度。2万円程度で生活出来る様な感じ。


 だから価値観として金貨3万枚を言うと30億なんだけど……。


「まさか、軍事費が、そこまで安きとは」

「…………。」

「そう……」


 それ、貴族の一家族なら簡単に消費できる金額なんだよね。

 ファルシュ領の税収って月2万位じゃなかっただろうか……。


 失うはずだった命は、そんなに安いか。


「…………はぁ、そうですか。そういうタイプですね」


 大臣さんは書類を私たちにそれぞれ置いた。


「まとめて3万枚、だなんて誰が言いました?」


 その書類には、各個人に与えられる報奨額が書かれてあった。


「え、個人で3万枚!?」

「……まじかよ」


 驚く彼らを尻目に私も文章を確認する。

 詳細や受け渡し方法が分割であることなどにしっかり目を通した後、額を確認した。


 私に書かれてあるのは、30万枚。

 随分、奮発したなぁ……。


 リックさん達の反応から見て、10倍という額は功績によるものだと実感した。


「ちなみに騎士爵位でしたら、あなた達ですと金貨1万枚払えば購入出来ますよ」

「お断りしますぅ!」


 貴族に取り入れようって気満々じゃない。


 速攻で断ったら大臣さんは心証を悟られ無い様ににニコリと私に向けて微笑んだ。……私が裏を読めるのは想定済み、ってか。

 私が個人で爵位をもらうわけにはいかないんだよ。それと同時にこの人達、取り込ませねぇぞ。


「この戦争が激化して、何年も何年も流通が疎かになり税収が下がり、そして戦死者の家族に払う金貨の数を考えれば、この程度端金よ。遠慮なく受け取ってくれ。我々に出来る1番形になる感謝だ」


 私は証明書類を手に取って、頭を下げた。


「有難く、頂戴いたすます」

「それではこれにて、終わりとさせていただきます。冒険者の皆さん、お疲れ様でした」



 ==========






 呆然とした空気のまま、帰路に着く。


「はぁー……」


 深いため息を吐いたのはライアー。


「俺が貴族かぁ……」

「囲うにはちょうど良きですからねぇ」


 その可能性がなかった訳では無い。

 ただ、Fランク冒険者として遠くに行っちゃうことには違いない。


 きっと貴族社会で暮らすとなると、ライアーの世界には私以外の人が増えていく。

 なんだか気に入らないような、でも誇らしいような。微妙な気持ちだ。


「……ん、なんだよリィン。心配すんな」


 ライアーが私の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜる。



 リックさんが、クランの拠点を王都に移せるし、皆の武器や防具も新調出来るし、美味いもん食えるし、村に仕送りも出来るし』なんて大金の平和な使い方を考え、グレンさんが『もっと自分のことに使えよ』なんて苦言を漏らしている。でも彼だって誰かの為に使うのが分かりきっている。

 エリィは兄に報告するんだろう、頑張りましたわ、なんてエティフォールさんに窓から突撃するのは目に見えて分かるし見なくても分かる。



「貴族になったって、変わらねぇよ」


 夕陽が王都を照らしている。

 王都は、戦争に勝利したクアドラードの騎士達を迎える準備で彩られていた。




「リィン、俺はさ」


 凱旋パレードが準備されている慌ただしい音に紛れて、ライアーは小さく呟いた。


「この戦争を起こしたことに後悔はしてねぇよ」

「ん」


 時々乱雑に頭を撫でられる。


「俺が戦争を起こしたのは、俺の仕事だったからだ。如何に成果を上げるか、そして如何に効率よくするか。……ただ純粋に再戦宣言するんじゃなくて、リィンを利用したらクアドラードは降伏の割合が高くなると思ってお前を使った」


 ライアーは悪びれもせず言葉を続けた。


「トリアングロ王国はやりやすい。クアドラードに潜入して、より一層そう思った。強ければ生き残って、生き残るやつはそれだけの努力をしている。……ま、強いやつに媚び売って生き残るのもそれはそれで俺には出来ない強さだと思うから」

「うん……」

「だから俺は誰にでも理解される幹部の席に座った。そこから上に行く道が王座で、下に行く道が死。王座に座るつもりは端からなかったから、幹部の席は俺の人生をかけて得た努力の結晶。幹部ルナールっていうのは、俺の全てだ」

「死の、危険が増えるのに?」

「ルナールの先代は従弟だった。俺は幹部の移り変わりを、幹部としての生き方を幹部の席の一歩手前で観測した。時に幹部の奴らに手合わせを願って、俺が分かりやすく強くなるための努力を見せつけて利用した」


 ライアーは面白そうに笑った。


「だからサーペントは、俺をよく見てくれる。生き残る為の術を教えてくれた。早々に死なないように、な」


 人の好意を利用するな。私はするけど。


「死は、それまでだ。だがこれまでが無駄になることは無い。なんせ俺が居ないんだから。死後まで気にしてられるか。……だから俺は幹部だった。死ぬまで、敗北するまで。──だと言うのに」

「ぴぎゃあ!」


 ワシワシと思いっきり頭を掻き回されて思わず悲鳴が上がる。いくら寝る前とは言え乙女の髪をぐちゃぐちゃにしていい理由なんてないんですけどー!


「まさか俺がたった一人に人生ひっくり返されるとはなぁ……」


 抗議の為に見上げると、ライアーは笑顔を浮かべていた。

 困ってるような笑顔。私の方が困ってるわボケ。


「お前には価値がある。きっとお前の価値は年月を重ねていく度に大きくなる。そんないい女の相棒の座は、トリアングロの幹部の座より大きい。愛してるぜリィン、利用価値があるまでは」

「ド畜生か?」


 私にはこいつが分からないよバーニィ。

 でもとりあえず分かることは、どこまで行っても自分本位って事。

 要するに私は幹部の凄さを知ってて、幹部の席にいるライアーがどれだけ苦労したのか、下剋上を体験した私は想像出来る。そして現在、私は金の血狙いの貴族に勧誘されるし女狐なんて幻の超過大評価な魔法職というハリボテ評価を手に入れた。

 私の価値は確かに大きい。ライアーは知らないけど、ここにまたファルシュ辺境伯令嬢という結構大きめな価値が嵌め込まれる。


 私を欲する人は多いだろう。


 そんな価値のある私の、たったひとつの席。複数が手に入れれる仲間やパーティーなんて席じゃなくて、相棒というひとつの席。

 想像した結果、ライアーの中で価値が大きかっただけ。





「と、まぁ、ここまでは冷静になった俺による俺の行動のこじつけ」

「んえ?」


「リィンが俺を生かす保証もねぇしなんなら殺しに来たと思ってたし、現状で推理してトリアングロを裏切ったって利益なんて何もねぇって分かってたのに」

「まぁ実際私も絶対こいつ殺すてやる! って思うすてましたけどね」

「それなんだよ。復讐に乗り出すのは分かりきってたしプライド傷付けられてキレないわけが無いからトリアングロに来たって情報手に入れた瞬間浮かんだ言葉は完全敵対。どっちにつくかとかそんな天秤自体存在しなかった」


 ははは、と乾いた笑いを浮かべたライアーが視線を逸らしながら言い訳のように言葉を紡ぎ始めた。


「ま、行動の解明に時間をかけるなんてそれこそ無駄だな」

「情緒どうなるすてる?」

「もう起こったことをどうこう言ったって過去に戻れるわけじゃねぇんだから仕方ないだろ? それより今俺が考えるべきことは相棒様の魅力が残念すぎて俺がロリコンに間違われないかという危険性の回避だな」

「リックさん助けるすてーッ! おっさんに犯すされるーッ!」

「おい! やめろ! おいリィンやめろ洒落にならねぇ!」

「流石に未成年はどうかと思うぞー!」

「趣味じゃねぇのに変わりはねぇよクソバカリック!」


 隣から飛び出た大変失礼な叫び声のせいで私の耳が痛い。

 遊ばれてると分かったライアーはぎゃーぎゃー言いながら逃げる私を追う。


 足の長さというリーチの差、魔法が使えないというハンデ。諸々含めてあっという間に捕まったけど。


 ふと、ライアーは私の顔をじっと見た。


「ライアー?」

「……なんでもねー」


 小さく呟いて、ライアーは頭をかく。


「(…………健やかであれば死んでも、か。あながち嘘とも言えないな)」


 夕陽の中で、2つあった影はひとつに重なった。


「そういうすればライアー、嫌いな貴族になる気分はどう?」

「お前っ、そういう煽りだけは一丁前だな!」

「ふはは、舐めるなかれ! 今更子爵程度にビビるすると思うなぞ!」


 ただ、その影の本体、頬っぺた捻り回してるだけなんですけど。





 その日の夜、宿に一人の客人が現れた。

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