第204話 胃痛案件が複数とか聞いてない
クアドラード王国王都、王城。
私とライアー、そしてリックさんとグレンさんとエリィは王都グリーン子爵邸で身なりを整えた後、国王陛下に謁見する事になった。
子爵邸から一歩も外に出る暇が無いほどスピーディーな謁見。そりゃそう。戦後処理も全て、真実から決まるのだ。
「り、領主様に会うだけでも馬鹿ほど緊張したのに……国王陛下に謁見……」
「リィン、俺、絶対ずっと黙っておくから。黙っておくからぁ!」
「流石にちょっと緊張しますわね。私はエルフですから人間社会に関係ないとは言え、エルフも一応クアドラード国民ですから」
吐きそうなほど真っ青な顔しているグレンさんと、ガッチガチに緊張しているリックさんと、ゴクリと息を飲むエリィ。
「…………お前らやめろよ、こっちにまで緊張移るんだよ」
「ラックルの馬鹿野郎!」
「誰だよ」
「元はと言えばお前が、お前がーーーっ!」
「ハイハイ悪かったよ」
「絶対思ってないだろお前ー!」
「お前らに構ってる暇ねぇんだよこっちは。で、リィン、いけるのか」
「無理みがアッパー……」
「なんて????」
そして余裕な顔をしているライアーと、胃痛に苦しんでいる私。
ここは王宮の控え室。
国王に謁見しても良いような格好をしているが、所詮は庶民といった格好。グリーン子爵、あんたナイスチョイスだよ。ここでバリバリ貴族の格好しても衣装に着られるだけだし見栄晴だけだし、後私が貴族だってのも隠せる……!
ここでは力を見せつけるんじゃ無い、国王陛下が手に負えないと判断する様な危険人物になる訳にはいかない。
私は置いておき、ただの冒険者の枠を出るにはちょっと後ろ盾が足りないかな。
私を置いておくのは、本来の身分があることに加えグリーン子爵の後ろ盾があるから。同じ後ろ盾があってもライアーは裏切り者だし、他の3人に至っては後ろ盾も無い。
「交渉は、まじでお前に任せるしかねぇんだからな」
「プレッシャーっっっ!」
それはそう。
お話し合い(胃痛)するとなるなら私かライアー。だけどライアーは今回の事件というか戦争の首謀者だから発言の余地なし。
「良きですか……ここでは建前とか探り合いとか、なしです……。ここでは偽り無しです……。でないとこじれる」
「そういうもんか」
「そういうもんです。これは正式な謁見では無きですし、秘密裏に王城に、特に王宮の方に入るすたって事は、正式な謁見のための打ち合わせ、みたいなものです」
王城と言ってもいつも政治やら何やらをやるお城ではなくて、その後方、王の住まいもある王宮に連れこられたんだ。
うう、胃が痛い。痛すぎて吐き気がする。
「良きですかライアー!」
「な、なんだよ」
私は痛みに涙を浮かべてライアーを指さした。
「グリーン子爵が先手ぞ打つすて、表立ってはお前が処罰されることは無きでしょう。というか、そうなったら私の行動全部意味ぞ無くなる故にそうはさせないのですが!」
リアスティーン・ファルシュがローク・ファルシュと元宮廷相談役ルフェフィアを動かす、以上。
ただ、Fランク冒険者である私にそんな権力はない。
「ライアー、お前は今から私に依存するですっ!」
「……は?」
「クソデカクソ重感情ぞ抱くすて、絶対私なしじゃ生きてけぬ、あーゆーおーけー!?」
私とライアー、ぶっちゃけ一番危ない。ライアーだけじゃなくて私も。
貴族の屋敷抜け出したって前科あるし。
お互い、個人個人で立っている場合、『クアドラードを裏切る』とか『国の不都合になる』とかそういう疑惑は晴れないし警戒はどうしても最大レベルになるだろう。それぞれに足枷が付けられる。処刑する方が話は早い。
ただしお互い依存していたら?
『リィンはライアー無しでは無理』で『ライアーはリィン無しでは無理』という状況。私達はお互いがセット扱いになる。そうすれば自然と、国にとらえつける足枷は一つで良くなる。私達は互いに弱点になる。国が制御できる存在になる。
ライアーが重要視されれば私の安全は自然に確保できるし、ライアーが警戒されるなら私の存在が防波堤になる。一蓮托生、逃がしはしねぇぞ相棒様。
つまり国の判断はこうなる。『あぁ、こいつらはこいつらが居れば大人しいから離さなければ放って置いても問題ない』って! 私の、自由が、確保される!
私達が起こした戦争の始まりと終わりは、国とか目論見とかそういうのは無く、ただ共依存を引き剥がされたが故の癇癪、で終わる!
わたし、何も怪しいこと企んでないですよー。国を裏切るつもりなんて全くないですよー。……今のところ。
国が私に都合のいい限り、私は国を裏切りません。
今までこの国で出来た縁を捨てるのは勿体ないし。
「……今更お前は何を言ってんだ」
ライアーは呆れたような表情で私の鼻を摘んだ。
「むぎゃ!」
「いいか、よーーーく聞け」
あっ、視界の端でグレンさんがエリィの耳を塞いだ。
ライアーは私に顔をずいっと近付けて、わかりやすいように、はっきり口に出した。
「お前が、俺の、全てで、唯一だ。この俺が今まで得た全てを捨てて、お前だけを欲したんだよ」
要するし今までの苦労や努力の割合で一番ライアーを理解出来るのが私だってことですね。
その時、扉が叩かれた。
「失礼します、皆様、国王陛下の元へご案内します」
有無を言わさない様に案内の人が決定事項を述べた。キリキリ痛む胃。
皆立ち上がって、私を確認する。
「っ、行くです」
私はライアーの服を小さく握りしめてそう言った。
あぁそういえば、ライアーが私にくっっそ重たくてくっっそでかい感情を抱いてることくらい分かるよ。
それを口に出させたのは、それを出すように企てたのはね。
こういう控え室って大概監視されてるからなんだよ。貴族ってのは、席に着く前から既に勝負は始まってるんだ。
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グリーン子爵は私たちにこう言った。
『いいかい、国王陛下は優しい方だ。まず冒険者という立場から礼儀作法でとやかく言ったりはしないだろう』『とにかく謙虚に、素直に行きなさい』『報告ならともかく、何かを決める時は全てリィンに任せない』『勘違いしないように、国王陛下はお優しい方だが、優しさで国を治められる訳では無い』
私、まだ社交界に出たことがない深窓の令嬢なんですけどね!?
「面を上げよ」
入室して、頭を下げたまま現実逃避していた私に声がかけられた。
「まず、ここには私と彼しか居らん。無理に畏まる必要は無い、ということを伝えておこう」
国王陛下は優しい言葉でそう言った。
無理に畏まる必要は無いけど、庶民が出来る必要最低限の礼儀は忘れるなよ、って事だよね。
「では冒険者諸君は着席を」
国王陛下の斜めに座った大臣が着席を促す。
私が先陣をきり、それに習う様に他の4人が座った。……ふぅん、ライアーは礼儀作法知ってるんだ。流石幹部って所かな。
「クアドラード国王、ロブレイク・クアドラードだ」
「大臣のグロリアス・エルドラードです」
「えっ、エルドラーもがっ」
エリィが速攻で口を開いた所をライアーが勢いよく口を閉ざさせた。ナイス、相棒。
「代表の、Fランク冒険者リィンです。えっと、その、大臣さんはご存知だと思うですけど、私言語に関して、非常に、もうほんと泣く程に拙い故にご勘弁願うです」
「……聞いてはいたが予想以上だな」
さすがにこの場で不思議語を誤魔化しながらの説明は無理。見知った顔もあるし、私は誤魔化すことを諦めたよね。
「左から紹介を。Cランク冒険者リック」
「こんにちは」
「同じくCランク冒険者グレン」
「本日はよろしくお願いします」
「それと右が王都ギルドサブマスターの妹、エリィ」
「エリィです、よろしくお願いしますわ」
「それと隣にいるのが」
困った、発音が出来ない。
私は苦渋の顔をして口を開こうとした。
「既にご挨拶はすませましたが改めまして。トリアングロ陸軍が幹部、ライアルディ・ルナールです」
私が不思議語を晒す前にライアーが自分で名乗った。
ありがとう、でもその発言はどこからどう見ても喧嘩売ってるからやめて。
「まずは本題の前に謝罪の機会ぞ頂きたいです」
「それは、いったいどれの事を言っているのだ?」
「無断で王城に入り込むすたことやエルドラード様の御屋敷を抜け出したこと、と。相棒の件です。私の、相棒が大変ご迷惑をお掛けしますた」
私の謝罪に合わせてルナールが頭を下げる。それを制したのは国王陛下だ。
「良い。謝罪は必要ない。……それを言うなら私も謝罪をせねばならなくなる」
「ありがとうござります」
国王陛下はため息を吐いた。
謝罪、というのはきっと冤罪の事だろう。未だに誰がそう決定させたのか分からないけど、ルナールの再戦宣言と私への冤罪被害を相殺されると、流石に冤罪の黒幕は殴れないなぁ。
「そこまで語っ苦しくしなくとも良い。と、言っても緊張もするし警戒するのも尤もだ。我々は、君達に感謝をしているんだ。悪いようにはしないし、今後君達が困ったことがあれば力になると誓おう」
「…………はぇ」
は、え、えぇ!? 国王が自らそんな事誓っていいの!?
それって、完全に後ろ盾ってことになりますけどそれでいいの!?
「自覚が無いようなので言っておきますが、あなた達は戦争終結の英雄です。そこのルナール殿も含め。こちらで潜り込ませていたノッテから既に話は聞き出しています。両手で終わるほどの人数で、よくもまあ武装国家トリアングロを滅ぼしましたね」
「グロリアスの言う通り、被害は最小。感謝こそすれ、恨み罰するのはお門違いだ。我々を恩知らずにしてくれるな」
私はその言葉に、ずるりと力が抜けた。
「っ、はぁぁぁあぁぁ良かったぁあ」
国王陛下の前でこんな態度取るのはどうかと思いますが、今は安堵の方が強い。
そして余裕などないFランク冒険者は、警戒心を抱かれないだろう。
「さて、トリアングロに向かうまでの様子は既に報告に上がっている。トリアングロに入国してからの行動と、やらかした事に関して話を聞きたいのだが」
「あ、はい。もちろんです」
そして私は説明をした。
まず国境基地で常識を集める為に4人で潜ったこと。クラップとフロッシュに出会い、私はクラップの世話係(金の血疑惑で監視だった事は言わない)をして、第2王子と鉢合わせたこと。クアドラードアドベンチャートーナメントで姿を知られていた為、スパイだと思われて国境基地を逃げ出すと、異世界人と偶然出会い共に脱出したこと。
ここまでの話でカナエさんが手に入れた地雷とか視界リンク魔法云々の話は省いておく。ペイン、クロロス、貴族間での報告がどんな風になってるのか知らないからね。
そして第二都市に逃げ込み、コーシカと出会って、ノッテさんと出会って、リックさん達が鎮魂の鐘で路銀集め、私とグレンさんがコーシカとの交渉でグルージャ邸に潜ったこと。そして最終的にグルージャ邸にてグルージャとべナードとの交戦。殺しはしてないもののグルージャを撃破し、べナードと交戦というところでコーシカが現れクラップと再会し、慌てて逃げだした。そしてノッテ商会に匿って貰い都市を脱出したこと。
グレンさんの魔法に関しては言わなくてもいいだろう。
あ、そういえば。
「グルージャとの戦いの際、魔石に関しての話ぞ聞くしますた。鎮魂の鐘が隠す、生きた魔石の話」
「……! なんだと」
「話を戻すます」
続いては集落での話だ。同じくノッテ商会を隠れ蓑にしていたエリア・エルドラード男爵との出会い。集落でシンミアと鉢合わせして、間一髪で戦闘を回避したこと。ここら辺のタイミングで2回、隕石魔法が振り落ちたことも話しておく。
ノッテさんが不自然に私達と離れた時、恐らくクアドラードと確認を取っていたのだろう。
そして問題の要塞都市。トリアングロ王都。
まずはシアンにわざと負け、地下牢に入ったこと。3回目の隕石に合わせて脱出し、グレンさんがシンミア、リックさんがアダラ。そしてエリアさんと行動を別にして、私とエリィが中庭へ。中庭でエルフと対戦していたらフェヒ爺という知り合いのエルフが現れ助けてくれたこと。エリィと分断され、クラップの撃破。べナードとの対戦はエリイが。その後私はシアンと対戦、交渉の末に勝利。
あとはもう、ご存知の通り。魔法という名前の手の内はあまり晒したくないので王様との戦いもショートカット版でお送りした。
「王城爆破の件は?」
そう問われて答えたのはライアーだ。
王都では部屋に軟禁状態だったが、抜け出してノッテ商会から火薬を幹部権限で奪って爆弾を作成。
なるほど、火薬の入手経路ってそこだったんだ。
確かにあの時一番火薬を持っていたのは彼だった。
そうした諸々の説明をした私達に、国王陛下は一言。
「………よく生きておったな」
全く、その通りで。
「どうだグロリアス」
「想像以上でしたが、尋問と変わりありませんね」
「……尋問?」
私の疑問の言葉に大臣さんが笑顔を浮かべた。
「あちらの幹部は、そこのルナールと控えているシュランゲ以外は全て護送済みだ」
「ひょえ」
仕事が早い、と言うか、なんというか。
これ虚偽報告したらまずかったやつ。
「ところで、魔法が使えた、という報告が上がっているのだが」
「えっと、それに関すては」
そういえば2パターンあったな、と思いながらグレンさんに目を向ける。
「まずは俺から説明をさせていただきます。俺は元から魔力が少なく、日頃から魔力を貯蓄することで魔力の無い状態でも魔法行使が出来るように備えてあります」
これが現物です、と取り出した。
誰に渡したらいいんだろう、と言いたげに視線をうろつかせたから大臣さんに視線を向けるとグレンさんは素直に渡した。
現物とはいえ、危険物には変わりないから本来持ち込むべきじゃないんだけど、魔法が封じられてないんだから危険度的に言えば同じだよね。
「ほう、珍しいな。陰陽術か」
「はい、そう呼ばれています。俺は正式な継承者では無いため、ほとんど独学ですので基礎しか出来ませんが」
緊張しっぱなしのグレンさんだったけど、大臣さんが特に気にした様子を見せないので力が抜けてきたみたいだ。
私? 未だに極限に胃痛と頭痛に苦しめられて緊張していますが?
グリーン子爵がわざわざ『優しいだけじゃない』って警告したんだから。
「私は禁忌魔法です」
「なんだと!?」
「リミットクラッシュ。魔力の限度ぞ越え、魔封じの状況でも使用が可能な様にしますた」
「なぜそれが禁忌とされているのか分かっているのか!?」
大臣さんが慌てて立ち上がった。
「死ぬから、ですかね」
私の発言に驚いたのは全員。大臣や国王は『なぜそれが分かっておきながら』って顔してるし、冒険者側は『聞いてないんだが』って顔してる。
魔石の秘密を知ったのなら、容易に想像が出来る。
一度、リリーフィアさんにこの魔法がどれだけ危険なのか教わったことがある。
『本当に無茶しましたね……。これ普通の魔力切れとは違いますよね。無理矢理魔力の器を削って魔力を生み出しているというか……』
『これ、出来れば二度としないでください。寿命削るだけですよ。さっきまでのリィンさんの状態は……。そうですね、例えるなら』
『──ヒビの入ったすっからかんの魔石みたいなものです』
魔物は魔石を壊せば死ぬ。人間も魔石があるのならば、魔石が壊れれば死ぬだろう。
リリーフィアさんの例え話は、例えなんかじゃなくて事実だったんだ。
「スタンピードの時も、私は使用しますた。そして今回も、私は躊躇いなどありませんですた。何故か、分かるますか?」
私は国王陛下を見た。
「スタンピードは、彼らがいた。戦争には、彼がいた。私はこの禁忌魔法を、大事な人の為にしか使いませぬ。自分の限界を越え無理矢理引き出すしてでも、私は譲れなかったです」
これは、脅し。
スタンピードは脅威だっただろう。戦争も脅威だっただろう。
その驚異を解決したのは、一体誰だったかな。
私はこの場の誰か一人でもあなた達が脅威を与えるなら、禁忌魔法を使うことも厭わない。
「……君は、禁忌魔法を他にも使えるのか?」
私はその質問に笑顔を浮かべた。
無言は肯定。
「……そうですか」
だけど否定も肯定もしてないんだよねこの場合ー!
他の禁忌魔法? そんなの私が覚えると思うか? 怠惰だぞ、私の根源にあるのは基本的に怠惰だぞ。
勝手に勘違いしててください。私は使えるとも言ってませんから。その可能性だけ抱えててください。
「んぐぅ、俺たちの太陽がかっこいい」
「リック……!」
余計な口を開くなとばかりにグレンさんがリックさんの頭をしばき倒した。
「予想以上の話でしたが確認は以上にしましょう。では続いては今後の事についてです」
大臣さんが新しく紙を捲った。
「まずは、そうですね。先に所有権についての話をしておきましょうか」
「所有権」
「分かりやすく言うなら、トリアングロの幹部の身柄は奴隷化、ということになります。そして討伐した場合、奴隷所有権が討伐者に与えられ……」
「んん? どういうことだ?」
「えぇっと、つまり……」
「あ、大臣さん、私は理解出来る故に結論だけ先でもよろしきですか。あの人には後で説明するです、グレンさんが」
「(俺かよ、って顔)」
というか、誰が誰の者になるんだろうか。判断がつかない。
クアドラード的には戦争犯罪者の区切りがどうなるのか。
疑問が浮かんでライアーをチラリと見る。
「えー、まずはCランク冒険者リック、あなたにはイードゥラ・アダラの所有権が与えられます」
「おー……?」
「それとFランク冒険者のエリィ、あなたにはレヒト・べナードの所有権が」
なるほど。
基本的に敗北した人達は奴隷扱いになるのか。
「それと……Fランク冒険者リィン」
「おっす!」
大臣さんが覚悟を決めた顔で私を読んだので、私も気合いを入れる。
「あなたは、ブレイブ・グルージャ。メランポス・シアン。クライム・クラップ。フーガ・トリアングロ。それと改めてですがヴィズダム・シュランゲ」
だろうと思った!!!!!
多い、多いよ……。ひたすらに多いよ……。
「あなた達がクアドラード国として動いていればこういう処理は無かったんですけどね、どうやったって個人なので個人へと所有権が、責任が偏って……」
なるほど、私達がクアドラードの冒険者として国の肩書きを背負い行動したのなら、手柄は無くなるけど所有権とか責任を全て国が背負ってくれる事になってたのか。
「……。えっ!? フーガ・トリアングロ!? 王様!? 何故!?」
なんで王様まで!?
私一応見逃してもらった立場だと思うんだけど!
「それに関しては、なんとも。ですが、本人は、自分の所有権は敗北を認めた女にしかやらん、と頑として譲らず。まぁ実際問題、我が国では何も手を下してない為、必然的に」
「国家間の戦争として国のトップが一冒険者の身に委ねるされるのは些か不用意では無きですか!? 頭足りてます!?」
「リィン」
おっとやばい。本音が。
「だからこちらとしても参ってるんですよ……!」
嫌だよ私、そんな問題案件抱え込むの。
百歩譲って、他の幹部はまぁいいよ? グルージャは倫理観イッちゃってるけど感性はまともだし、クラップは多少なりとも知ってるし、シアンに関しては復讐のお手伝いってことで元々覚悟はしてた。
だけど流石に王様は違うんじゃない!?
「あのさ、その所有権? ってやつ、俺要らないんだけど……ですけど。誰かにあげることって出来ますか?」
リックさんは仕組みに理解が追いついて無いものの、アダラの身柄が自分の所有物となる事は理解出来たのだろう。
「出来なくは無いですよ」
「良かった、俺誰かの所有物になるのならともかく、誰かを所有するとか流石に無理! そういうの、俺のポジションじゃない!」
「えっ、じゃあ王様の所有権も放棄すて」
「貴女は無理です」
なんてこったい。
私は無言で頭を項垂れた。
そもそもシュランゲ一人まともに扱えない私がトリアングロの頭脳たる男を支配出来ると思うなよ……。
「じゃあ、俺の所有権はリィンに!」
「そういう方法もあるのですね、では私もリィンさんに」
「……と、言うわけで」
「どういうわけぞ!!????」
大臣さんに噛み付けば、面白いものを見るように笑った。
「これでも我々は貴女の頭の回転速度には舌を巻いているんですよ。何が拙い事か、何が利益となる事か、どれが真実でどれが嘘で、何が倫理的に正しく間違いか」
グロリアス・エルドラードは、エリアさんを彷彿とさせる瞳で私を見ていた。
「Fランク冒険者リィン。私も、君には期待しておるよ」
国王陛下にもそう言われてしまった。
要するに、覚悟を決めろってことか。
「……ですたら、ひとつ、条件ぞあります」
私の快適な、冒険者生活の為に。国相手に交渉を始めた。