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第202話 その沼はきっと底なしである


「そういうすれば!」

「……いきなりなんだ?」


 ガタガタ揺れる馬車。


 トリアングロ城が爆発したその後。とりあえず逃げようという事で私はライアーとエリィと月組の2人を回収してクアドラードへ戻る所だ。なお馬車の提供はノッテ商会だし御者もノッテ商会です。寄生? 好きに言ってろ、楽したもん勝ち。こちとら体力ボロボロで歩く気力も無いんじゃい。


 そんな馬車の中、声を上げた私にライアーが疑問を口にする。


「思うしたのですけど、ぶっちゃけライアー自覚症状は無きですが王都で既に私と離れ難き感じだったのでは?」

「…………は?」


 私は腕を組んで思い返す。


「トリアングロの作戦の佳境とは言えど、あの時のライアーはあまりにも違和感ぞ存在しますた。ここ、私が開戦に上手く気付かぬすたポイント」

「人のせいにするな」

「再戦はお前のせいですぞね?」

「……………………」

「顔ぞ背けるなかれ」


 ライアーがクアドラードの王都出身だと思っていたこともあって、流石に血縁が亡くなった土地では情緒も不安定になるだろうな〜って流してしまったんだけど。

 よくよく考えたら縁もゆかりも無い土地。そして考え直してみたら答えが見えた。


「ライアーは調査とか私にぶん投げるして、裏で戦争準備着々する質だってのが、ダクアでしみじみと分かるすますたから。だから、監視のあるなしに関わらず私にベッタリだった王都での状況が違和感で」


 実はダクアでは別行動が多かったりする。一番分かりやすいのは盗賊の取得物一覧を作る時ね、こいつ私に面倒な書類押し付けて逃げやがったから。裏で何してたのか、今なら容易に想像出来るけど。

 そんな感じで面倒な冒険者としての活動を全て私にぶん投げていたライアーが、王都では一変して疑いようのないほど私とずっっっっっと一緒に居た。別行動だったのは夜くらい。


 そのことから導き出される結論。


「……私と、一秒でも長く一緒に居たかった?」


 私はライアーを見上げて首を傾げる。

 自意識過剰にも程があるけど、祖国裏切って爆発させるくらいまで私に終着してるみたいだから、ありよりのありだよね。


「………………黙秘」

「図星じゃなきですか」

「黙秘だって言ってんだろうが!」


 もうそれ肯定してるようなもんじゃん。

 ケラケラと私が笑っていると頭にチョップが降ってきた。これ以上チビになったらどうしてくれるんだ。


「そういう相棒様は? どうやら癇癪起こして? わざわざ敵国になんの伝手も無く乗り込んだ挙句、命を危険に晒して戦争ぶち壊してまで俺と一緒に居たかったんだろうな?」


 私の顎を持ち上げると視線を無理矢理会わせてライアーはニヤニヤと笑った。揶揄いおる、こいつ。


 ぶぅー、落ち着け私。

 ここで煽りに乗っかったら同じ土俵に下がることになる。


 私は笑顔を浮かべてライアーの頬に手を当てた。


「ばぁか、今更気付くすたの?」


 ライアーはその言葉に表情を変えた。ムッとした様な、煽り負けた表情。ふっふっふっ、最強モード私ちゃんに煽りで勝てると思うなよ?

 それとほんと今更なので、あの、ちょっと黙ろうか。黙れ、私はお前を殴るために来たんだ。



 そんなやり取りをしていると、とある男は叫んだ。



「──そういうやり取りは! 未熟児がいる中で! やらないで貰えますでしょうか! あとナチュラルにイチャイチャすんな年齢イコール彼女なしの俺への当て付けか!」


 グレンさんである。

 グレンさんは胡座をかき、膝の上に瀕死のリックさんを抱え、傷だらけの手でエリィの視線を塞いでいた。


 ……忙しそうだなぁ。


「してねぇが?」

「してなきぞ?」

「ライアーは膝にいるリィンを下ろしてからその口を開け!!」


 現状を説明しよう。

 ライアーの膝の上に私が乗っている、以上である。


 言い訳させてもらうと、私乗り物酔い激しいんだよ。

 クッショ……人の体温に触れてると安心するって言うかね、人を下に敷……人の鼓動を聴いてると安心するって言うかね。


 いやー相棒様々だよ。


「リック、生きてるか?」

「おー……あー、うー。…………リィンについて行くの決めたのは俺だしリィンを責める気は毛ほどもないんだけどやっぱり俺もお前殴りたい」

「それな」

「分かる」


 グレンさんが同意して、私も同意する。

 リックさんが巻き込みにかかった原因は私だけどね、根本はライアーなんですよ。責任転嫁なら得意だ。というか元から責任はこいつにある。


「口を揃えるなお前ら。というか、リックは誰にやられたんだ」

「いい女」

「……(そんなやつ居たか、って顔)」

「うっっっわぁ、俺今すっげえ嫌な事に気付いた。ライアーお前、女好きとか嘘だろ」

「はっ、よく分かったな。微塵も興味がねぇ」

「それでも男か!?」

「未熟児の前ではなんだったかな、グレン君?」

「リィン泣かせた癖に腹立つなこいつ」


 グレンさん今度はエリィの耳を塞いでいた。保護者大変そう。


 言ったれ言ったれ! 負けるなグレンさん!


「第一、いい女ならここに居るだろ」

「ぐぅ」


 負けるなグレンさん……。いやここは負けてもいい。

 私の頭をべしべし叩きながらライアーはドヤ顔を披露した。その顔面、完膚無きまで、殴りたい。字余り。


「事実ぞさておき」

「……お前のそういうとこちょっとどうかと思う」

「さておき!」


 悪かったな照れたりしなくって、当たり前の事だと受け止めてしまって!


「リックさんとやり合うしたはいーでら、いー、いうでる、……海蛇ですたよね」

「イードゥラ」

「イードラ」

「ドゥ」

「ドゥ」

「ドゥラ」

「ドゥラ」

「はい復唱、イードゥラ」

「インデュラ」

「なんでだよ」


 話を脱線させるな。あと何ちょっと念を入れて発音練習させるんだよ。


「で、グレンは?」

「シンミア」

「あー、あのアイドルか……」

「あの子だけは絶対俺が相手しないとって思ってたから。はー、初めて人を殺した」


 あっ死んだんだ。

 その割には晴れやかというか、グレンさんに悲壮感がない。


「人殺しなんてすぐ慣れるぜ」

「慣れたかねぇよリィン頼むからこいつ見ててくれよ!?」

「私が殺すされたら原因はこいつです」

「おい」


 実感してなかったわけじゃないんだけど、ライアーってやっぱりルナールなんだなぁ。Fランク冒険者としての姿は結構ハリボテだったって感じ。


「エリィは」

「べナードですぞ」

「へぇ、あいつ相手か。流石にエルフだな」


 なんかすっごいヤバいの召喚してたことは黙っとこう。

 どうやって決着つけたのか気になる所ではあるけど、生きてるのかなあべナード。死んでるといいなぁ。


「んで、リィンは?」

「…………グルージャと」

「クライシスの弟か。俺はまだ顔合わせ程度の交流だからどんな奴か知らないな」

「──クラップとシアンと中庭エルフと危うくコーシカと王様」

「まてまてまてまて」


 名前の羅列にストップが掛けられた。


「え、多くないか」

「フロッシュやサーペントとぶつかるすてないだけ幸運ですた。コーシカは戦闘ぞ回避出来ますたけど、中庭エルフは正直めちゃくちゃしんどき……魔法対戦ですからね……手の内がほぼほぼ知られてると言うですか」


 フェヒ爺、ありがとう。本当にありがとう。


「ライアーはもう少し私を労るすべきです。本気のクラップ相手に逃亡生活と戦闘は本当に、ほんっっとうにしつこきですし大変で。その後続く連戦は魔法慣れすてるシアン。どないせぇっちゅうねん。挙句アダラは待ち伏せすてますたし、王様はもうめっちゃくちゃでデタラメで、魔法の才能というハンデぞ無ければ勝率は無きですたよほんと」

「…………リィン、なんで生きてんだ?」

「私が聞くすたい」


 ちゃんと冷静になった今、正気じゃないよね。

 馬鹿正直に真正面から向かったのも本当に周りが見えてない。


「シンミアたった一人に手間取ってた俺って」

「普通の魔法職が戦闘職に噛み付いただけ凄いと思うけどな、俺は……」


 まるで『リィンが異常』って言われてるような視線とやり取りに思わず座ってる椅子をひねりあげた。唸り声が聞こえた気がしたけど気のせいだろう。


「ところで」


 エリィがふと手を上げて発言した。


「エリアさんとカナエさんはよろしかったの?」

「……? 誰だ?」


 エリィとライアーの視線が私に説明を求める様に向けられた。


「カナエさんは元々この国の人ですし、エリアさんは貴族故に本部隊とも繋ぎぞあるでしょう。ほっとくしても大丈夫です。それよりトリアングロでの後ろ盾が薄き私達はすぐにでもグリーン領に戻るべきです」


 あとリックさんの怪我もどうにかしなきゃだしね。

 縛って止血はちょっと厳しいからグレンさんが魔法で傷口焼いたみたいだけど、血液が失われているのに違いは無いしきちんと治療を受けるべきだ。


「なんで俺より戦闘多かったリィンが無傷なんだ?」


 リックさんが寝転んだまま私に問いかける。


 私は、遠くを見ながら言った。


「……一撃でも当たるすれば、死ぬから、ですかね」

「あぁ……」


 納得して貰えたようで何より。リックさんみたいに体格が大人であれば防御って姿勢も取れたんだけど、私の体格だと受けると力を流しきれずに吹っ飛ぶんだよね。回避に振るしか無い。


 まぁ、その分肉体疲労が凄くって、正直筋肉痛で身体中痛くて動かせない。足首が激しく痛いから疲労骨折の可能性はある。


 回復するまでライアーのお世話になるしかないよね。基本的に全てライアーのせいだし。


「ライアー、お腹すきた」

「はいはい」


 口を開ければドライフルーツが放り込まれた。


「雛鳥と親鳥か?」

「いや、飼育員と動物」

「私には親子に見えますわね。もしくは赤ん坊と保母さん」


 黙らっしゃい。

 動物と裏切り者は顎で使えって言うじゃん。許してないからな。ずっと、死ぬまで許さないからな。


「疑問なのですけど、ライアーよくとトリアングロでの立場ぞ捨てようと思うすたですよね」


 もぐもぐと咀嚼しながら疑問を口に出す。

 王様が言ってた評価とか努力とかそういうの云々があるにも関わらず、それら全てを捨ててまでって事だし。


 クアドラードでの立場は『Fランク冒険者』ってものだけだ。


「トリアングロでやってきた実績を考えると、そりゃ捨てるなんて選択肢は浮かばねぇ。クアドラードでの生活は、総じて全て再戦宣言実行って言う実績に変わった。クアドラードでの苦労は報われた。報うようにした」


 利益が無きゃ活動なんてするわけがない、って事か。

 なるほどねー。王様が言ってた意味が分かった気がする。でも、納得すればするほど疑問が湧く。

 そんなに実績を重要視するなら尚更たった半年一緒にコンビを組んでた小娘相手と価値の釣り合いが取れるものか。




 するとライアーはするりと私の髪を掬った。


「嘘がもっと上手かったら、俺は自分ですら騙し通せた」


 困った様に笑って私を見下ろす。その瞳は雄弁で、熱っぽさは無いものの『大事だ』って強く伝えてくる。

 


「んぐ……」

「へぇ、照れたりするもんなのか」

「黙れおっさん」

「うるせぇ小娘」


 遊ぶ様に私の髪をいじって、リボンを触る。

 うぐ、うぐぐ、視線が、視線が鬱陶しい。私はあくまでも裏切られた自分の敵討ちとしてトリアングロに乗り込んだだけで、結果的にライアーを引きずり込んだけど、あくまでもこの手で殴り殺すためであって。



「良く考えてみろよ」

「んえ?」

「クアドラードには『己のコンビですら騙し通した策士の幹部』って実績評価があるだろ。月組のツートップがここにいるって事は、噂大好きな月組からダクアでは間違いなく話が広がる筈だ。『ライアーがトリアングロ幹部ルナールだった』って事が。そうれば自然とルナールとして築き上げた畏怖っつーか、評価でさえクアドラードに持ち込める。大体リックとグレンがいるって時点で俺ァその利点を考えてだな……って、なんだその顔は」



 私と月組2人は思わす視線を逸らしていた。

 馬車は刻一刻とクアドラードへ向かっていく。ごめんライアー、その考えは期待しない方がいい。





「あとライアー、私ならともかく月組2人が話ぞ広める根拠は多分なき状態だと推理すたですけど、その点はどうですぞ?」


 ライアーは視線を逸らした。

 すぐバレる嘘はつかない方がいいよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 帰路に着く馬車…… のどかかよ……カッポカッポお馬さんの蹄の音が聞こえるよ…… うぇうぇ!?うぇうぇうぇい!!? リィンちゃん血反吐はかせる程蹴り飛ばした男が何でこんないちゃコラ出来るの…
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