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第201話 山椒は小粒だけど存在感は大粒




 最終戦争。

 それは『これが最後であれ』と願い、掲げた人間達が名付けた名である。



 そんな最後の戦争の終わりは、呆気ないものであった。


 諦めないと足掻きいつまでも続くと誰もが思った戦争だ。もしくはクアドラードが折れる方が早いとトリアングロだけではなくクアドラード自身もそう思った。





 トリアングロ王国、王城。

 何故か突然魔法が使える様になった前線の騎士達は王子ヴォルペールの指示により王都へ急ぎ足で攻める事となった。理由は簡単、王都に行商人として潜り込んでいたスパイが『王城がなんかもうめっちゃ爆発されました!』と駆け込んできたからだ。


 え? となるだろう。

 爆発の規模も小規模なものだと思っていたが、蓋を開ければ壁やら塀やら庭やら全てがボッコボコなのだ。


 『捕虜扱いで構わないから流石に聞き逃せないわアタシも一緒に連れて行きなさいよ』と切羽詰まった様な顔でヴァッカが言い無理矢理くっついてきたが、そんな幹部でさえも呆然としていた。


 爆発があろうと無かろうと関係なく血だらけで大立ち回りをしていたグルージャとクライシスを引き剥がしたラウトは冒険者という立場上ヴォルペール王子に付いて行けなかったが、その城は散々な形をしていた。


 王城の大広間、互いの主要人物が睨み合う形で邂逅した。


 トリアングロより、国王フーガ・トリアングロ。陸軍幹部コン・サーペント、レヒト・べナード、メランポス・シアン。そしてエンバーゲール。空軍と海軍の姿は無い。

 クアドラードより、王子ヴォルペール・クアドラード。黄の騎士団団長ノゼル・レニティヴ、赤の騎士団副団長ファンテ。


「王様! 無事なのねん!?」

「……ヴァッカ、まさかとは思うがそれを確認する為だけに捕虜にでもなったのか」

「そのまさかよ」

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさかそこまで馬鹿だとはな。流石馬鹿だ」

「おいサーペント、言い過ぎるな」

「事実です」


 イライラを隠しきれてない様子でサーペントがヴァッカに噛みつき、それを王が諌める。そんな王はクアドラードの面々を一通り見回した。

 それぞれが武器を構え、いつでも魔法を打てれる様に詠唱まで終わらせて。


「宣言する。トリアングロ国王フーガ・トリアングロは、敗北した。おめでとうクアドラード、戦争はお前達の勝ちだ」


 呆然。


「それは、一体……」

「言葉通りの意味だ。停戦と再戦の切っ掛け失い、油断は無かったがハンデありとはいえ俺は殺される寸前まで墜ちた」


 国王は喉元を擦り、引き攣った笑いを浮かべる。


「魔法は有限な筈だろ……。なぁシアン」

「えぇ、有限ですよ。使う魔法により魔力消費の差はありますが、魔法は好機好転の一撃に使うものです。魔力量がクソ」

「ありゃ自覚無しだな。あのまま氷を生やされてりゃ俺は確実にこの世に居まい。あぁくそったれ。肺が軋む」


 2人は同じ人物を思い浮かべている。元とは言えクアドラードで魔法に触れてきたシアンの常識上にある魔力量と比べて、空間魔法をポンポン使う魔力をクソと言わずになんと言う。


 なお、この場の誰も分からないことであるが、リィンのウォーターボールが体内で氷化した際、小さな氷の破片は肺に入り込んで炎症を引き起こす事となった。

 誤嚥性肺炎(ゴリ押し)である。


「別に、この場のクアドラード人全てあの世に送っても体力的に何も問題は無いんだが」


 トリアングロ国王の発言に一気にクアドラードが警戒心を強めた。それほどにまで恐怖を感じる声色だった。

 威圧や威厳たっぷりの、思わず震える程の。


「…………とは言え、俺は騙し討ちとは言え敗北を口にした。実際、敗北を脳裏に浮かべた」


 殺気が塵のように消えていった。

 思わず息を止めて居たヴォルペールはバレない様に深く息をする。


「依頼には報酬を、借りには恩を、裏切りには罰を。勝者に栄光を、敗者に死を。天秤ばかりを平衡にする様に俺たちの自由には己の突き通した決め事を守らねばならん。それが人間としての絶対条件。俺たちは神使の名前を勝手に借りている。こんな俺たちを創り出した神様とやらがご覧になっている俺たち『人間』の行く末、それを誰にも知られていないからと曲げる事は出来ん」


 トリアングロは強さこそが絶対。

 そこに悪も正義も無くて、何をしても自由となる。どれだけ好きに屋敷を作っても、民を酷使させても。──だが、己の貫き通す意志がある。信念がある。それは空から神が監視している様に、決して曲げてはならない事が。

 だからこそ、トリアングロの幹部は敗北に厳しい。己に対してが誰よりも厳しいのだ。

 いや、厳しい者こそが生き残る為幹部の座に就く、と言った方が正しい。


「(さて、混乱してる様子のクアドラード連中にどう説明しようか)」


 王が悩むのはただ一つ。


「(貴族の女に負けたというか、冒険者の女に負けたと言うべきか)」


 どちらも真実でどちらも事実。




「……そうですか」


 真っ先に剣をしまったのは王子であるヴォルペールだ。罠という考えもあっただろうに、誰よりも早く。


「(…………ほう?)」

「おやまぁ、第4王子殿下は随分物分りが良いご様子ですね? 弟君が素直ですとさぞかし苦労したでしょう、第2王子殿下?」

「レヒト・べナード、その口を閉じろ」

「おや失敬」


 クスクスと馬鹿にしたような笑顔でべナードがエンバーゲールで遊ぶ。今はそんな雰囲気じゃないだろ、と言いたげな碧眼がべナードを捉えた。

 幹部が王を差し置いて口を開く辺り、お国柄が出る。騎士は無言だ。


 べナードに降り注いだ碧眼はそれだけでは無かった。歳若い王子も、じぃっと見つめていた。


「……?」


 おや、なんでしょう。そう言いたげにニコリと微笑んだべナードに、ヴォルペールは目元に手をやりつつ口を開いた。同じく笑顔で。


「(こいつらにリィンと繋いでいたリンク魔法のことを言ってもいいが、そうなると第4王子=Cランク冒険者が繋がっちまうんだよな。流石にマズイか)いいえ、お気になさらず」


 べナードの背筋にぞわりと悪寒が走った。気の所為だととても嬉しい。

 ヴォルペールの脳裏に浮かんでいた『リンク魔法解除しないとリィン殺しちゃうぞ』的な脅しの文書、忘れたとは言わさない。


「時に、幹部がこれだけ、というわけが無いでしょう。確か鯉や蛙、狐もいるはずですが」

「……! 小賢しい所に目がつくのは庶民の血か、ヴォルペールオウジ?」


 特に狐。

 王はどんだけうちのルナールモテるんだよとか思いながら胡座をかいた。


「この城の爆発は、ルナールの仕業だ。あの裏切り者が手土産とばかりに全部やってった。ほんっっと、大したもんだよあの女は」


 従順に自首するフリしてちゃっかり自分の安全確保と同時にトリアングロに打撃を与えて行きやがった。手酷い手土産だ。そしてこの事実を知ったクアドラード側に、どうやったって評価として残る。戦争の英雄、とまでは行かずとも。不器用なうつけと見せかけて実に効率的に事を運びやがった。腹が立つと同時に、安堵した。

 そして何よりも恐ろしいのは──あの女。


 そう、それはたった一人の女に、この戦争は全てを覆された。


 勝つ為の布石を壊された段階で、トリアングロは今後の計画か全てを崩れてもあの女を始末すべきだった。



 ルナールにいい意味で影響を与え、見事手中に陥れた。幹部の何人か、この場にいないグルージャやクラップすらも。べナードの報告曰く、だが。

 こんな調子で幹部の大半を食われ、王自身もしてやられた。


 全ての元凶は、たった一人。幼い面して、天使の様な可憐な見た目をした自己犠牲と程遠い女狐。


「(女狐、言い得て妙だな……)」


 女という性を、色無しに使いこなす奴だな。



「…………女」


 その言葉に反応したのはヴォルペールだ。


 なるほど、なるほど。

 現状と予想を噛み締めて、ヴォルペールは思わずお腹を押さえてふるふると震えた。


「ヴォルペール王子!?」

「ヴォル!?」


 思わずといった様子で駆け寄ろうとした人物達をヴォルペールは手で制止させた。


「あぁ……ほんっっと、大したもんですよね。あのFランク冒険者は」


 同意を求める様にヴォルペールはフーガを見やって、そしてフーガは事実を噛み締めるように苦〜〜〜〜〜い顔をして、叫んだ。



「誰かあのFランク冒険者の脅威度を上げろッッ!」

「Fランク冒険者とか詐欺だよな」


 分かる。

 共感は時に、絆を生む。


 なんの絆って、こう、理不尽に頭蓋骨かち割りたい気持ちを押さえ込むための絆である。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ほとんど皆リィンの被害者では? [一言] 戦争...終わったんだな...
[良い点] 戦争は、終わりだァ~! 両国に多くの犠牲者が出たってのになんだこの晴れやかな(?)光景は! 昨日の敵は今日の友ってか!?※全然友にはなってない この戦争を吹っ掛けた側であるトリアングロに…
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